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10/202

第9話『放課後デート-前編-』

 放課後。

 俺はバイトがなく、氷織は部活がない。なので、今日の放課後は笠ヶ谷駅周辺を散策し、氷織がよく行くお店や気に入っているお店に行く予定だ。昼休みにお弁当を食べているときに決めた。

 ただ、氷織は掃除当番。なので、掃除が終わるまでは廊下で待つことに。


「どうもッス、紙透君」


 スマホでパズルゲームをしようとしたら、葉月さんに声を掛けられた。俺と目が合うと、葉月さんは小さく手を振ってくる。


「葉月さん。今日もお疲れ様」

「お疲れッス。ここで待っているってことはひおりん待ちッスか? 放課後デートッスか?」

「氷織と一緒に、笠ヶ谷駅の周りにあるお店に行こうって話になってる。だから……放課後デートになるかな」


 いい響きだな、放課後デート。

 明日は休日だけどバイトがある。シフト希望を提出したときは、氷織とお試しの恋人になるとは予想もしなかったから。今さらシフトを変えることはできない。だから、今日の放課後デートをたっぷりと楽しみたい。


「そうッスか。デート楽しんできてッス。ただ、ひおりんと2人きりだからって、変なお店やいかがわしいお店に行ったらダメッスよぉ~」

「もちろんさ」


 さっき、火村さんにも同じようなことを言われたよ。2人とも、氷織の友人として忠告しているのだろう。ただ、火村さんの場合は、


「高校生が行ったらダメなところには行っちゃダメなんだからね! あと、氷織に厭らしいことをしたら許さないんだから!」


 って、警告のような感じだったけど。俺って変なお店やいかがわしいお店が大好きなイメージを持たれているのだろうか。あと、仮に駅周辺にそういったお店があったとしても、制服姿の高校生は入店不可だろう。


「じゃあ、あたしはこの後バイトがあるので。帰る前に、ひおりんの顔を一目見ようとここに来たッス」

「そうか。バイト頑張って。あと、昨日、ガールズラブの短編読んだよ。面白かった」

「どうもッス! 感謝ッス! モチベーション上がるッス!」


 葉月さんはうちの教室を覗き「ひおりん! また明日ッス!」と言って手を振る。すると、すぐに階段の方へと歩いていった。

 それからは氷織の掃除当番が終わるまで、スマホのパズルゲームをプレイする。今日は結構調子良くできているな。


「よし、いいスコアが出たぞ」

「かなり高いですね。私はここまでのスコアを出したことがありません」


 気づけば、氷織が俺のすぐ側に立っており、俺のスマホの画面を見ていた。氷織はスクールバッグを持っていて。ゲームに集中していたから全然気づかなかった。


「氷織。掃除終わったんだ」

「はい。つい先ほど。ですが、明斗さんがスマホに夢中でしたので。失礼は承知の上で画面を覗かせてもらいました。そうしたら、パズルゲームをしていたので、プレイが終わるまで待っていたんです」

「そうだったんだ。お気遣いありがとう。掃除お疲れ様、氷織。あと、このパズルゲームを氷織もやるんだね」

「ええ。勉強や執筆の気分転換に。あまり上手くないので、いいスコアは出せませんけど。楽しくやってます」

「楽しくやれているのはいいことだね」


 あと、氷織ってゲームとかはあまりやらないイメージがあったので意外だ。ゲームのことでも楽しく話せるかもしれないな。


「じゃあ、行こうか。放課後デートに」

「……確かに、これは放課後デートですね。行きましょう」


 俺達は学校を後にし、笠ヶ谷駅の方へ向かって歩いていく。燦々と降り注ぐ日光が温かく感じられる。


「氷織は駅の北側に住んでいるよね。ということは、よく行くお店や気に入っているお店も北口の方にあるの?」

「そうですね。これから行きたいと思っている場所は、全て北口の方にあります」

「そうなんだね。じゃあ、そっちに自転車を停めよう。駐輪場はどこかあったかな。これまで、駅周辺で友達と遊ぶときは、南口の近くの駐輪場に停めていたから分からなくて」

「そうなんですね。確か、北口の近くにも駐輪場があったと思います。2時間か3時間までは無料だったかと」

「じゃあ、そこがいいね」


 北口の方にも無料で停められる駐輪場があるんだ。いいことを聞いた。

 駅近くの交差点を曲がり、笠ヶ谷駅方面へ歩く。駅に近づいているのもあり、笠ヶ谷高校の生徒以外の人達がたくさんいる。そんな人達の中には、氷織に視線を向けている人が何人もいて。こんな美少女が視界に入ったら、そちらの方に視線を向けてしまうよな。


「それにしても、もうすぐ5月だからか、少し歩くだけでも暑くなってくるね」

「紺色のジャケットを着ていますからね。ポカポカしています。私が好きなお店は、今の明斗さんにはピッタリかもしれません」

「おぉ、そうなんだ。どんなお店か楽しみだな」


 暑いと感じる俺にピッタリってことは、冷たいものを楽しめるお店なのかな。

 それからすぐに笠ヶ谷駅の南口に到着。

 入り口にある看板には『自転車は押して通行してください』と描かれていた。なので、俺達は駅構内を通って、駅の北口へ出た。

 これまで、北口の方はあまり来たことがないので、景色が新鮮に感じられる。

 氷織がさっき言ったとおり、北口の近くには駐輪場が。案内板には『3時間まで無料』での文字。ここはいいな。覚えておこう。

 夕方なので駐輪している自転車が多いが、端の方に空きがあった。俺はそこに自転車を停めた。


「よし、これで大丈夫だ」

「停められて良かったです。では、お店に行きましょう。この近くにあります」

「うん」


 俺は氷織と手を繋ぎ、氷織の好きなお店に向かって歩き始める。

 制服姿で、しかも手を繋いで駅前を歩いていると、放課後デートをしていると実感する。意識し始めたら、ドキドキして体がより熱くなってきた。


「き、北口の方も結構いい雰囲気だよね。色んなお店もあるし」

「そうですね。なじみ深いので、そう言ってくれて嬉しいです。明斗さんの地元……萩窪駅周辺はどうですか? 私、萩窪の方はあまり行ったことがなくて」

「萩窪も駅周辺は似た雰囲気だね。きっと、氷織も気に入るんじゃないかな」

「そうですか。近いうちに明斗さんと一緒に歩いてみたいです」

「じゃあ、今度の連休までの間に萩窪駅の周りを散策しようか」

「はい」


 そう返事をすると氷織の声は、普段よりも元気さが感じられた。

 それからも氷織と駅北側を歩いていく。

 その中で、氷織も行ったことのあるゾソール笠ヶ谷北口店があった。窓から店内を見てみると、こっちも雰囲気のいい内装だ。ただ、俺がバイトしている萩窪北口店の方が広そうだ。


「ここです」


 駐輪場を歩き始めて数分ほど。

 氷織はそう言って立ち止まった。俺達のすぐ側にあったお店はタピオカドリンク店。店内には制服姿や大学生くらいの若い女性が多くいる。


「タピオカドリンク店か。確かに、今の俺にはピッタリのお店だね」

「でしょう? 3年くらい前にオープンしたタピオカ店で。ドリンクの種類も豊富で美味しいですよ。妹や沙綾さんと何度も来たことがあります。明斗さんはタピオカドリンクって飲みますか?」

「うん、飲むよ。こういうお店で買って飲むし、コンビニで買って家で飲むこともあるよ。あと、バイトしているゾソールでも売ってる」

「そうですか。良かったです。さっそく入りましょう」


 氷織と一緒にお店の中に入る。

 店内は爽やかで落ち着いた雰囲気も感じられる。カウンター席やテーブル席があるので、店内でもドリンクを楽しめるようだ。

 カウンターに行き、俺はタピオカコーヒー、氷織はタピオカ抹茶ラテを注文。

 2人用のテーブル席が空いていたので、俺達はそこに行き、向かい合う形で椅子に座った。

 椅子に座ると、氷織はブレザーのポケットからスマホを取り出す。


「明斗さんと初めてこのお店に来たので、記念に写真を撮っておこうかと」

「いいね。俺もスマホで撮ろうっと」


 それから少しの間は写真撮影会に。俺は自分の注文したタピオカドリンクはもちろん、ドリンクを2つ並べた写真や、抹茶ラテのコップを持った氷織の写真も撮影した。スマホに氷織関連の写真が増えることが嬉しい。


「いい写真が何枚も撮れたよ。俺の注文を聞いてくれてありがとう」

「いえいえ。私もいい写真が撮れました。では、いただきましょうか」

「うん。コーヒーいただきます」


 俺はタピオカコーヒーをストローで吸っていく。

 晴天の中10分ほど歩いたから、コーヒーの冷たさがいいなぁ。コーヒーはブラックなので甘さがないけど、タピオカが甘いので個人的には味のバランスがいいドリンクだ。


「コーヒー美味しいな」

「抹茶ラテも美味しいです」


 そう言うと、氷織は再び抹茶ラテをストローで飲んでいく。両手でコップを持ち、ちゅー……と吸っている姿がとても可愛らしい。普段は大人っぽいけど、今は幼い感じがして。ずっと見ていられる。


「明斗君、どうかしましたか? 私の顔に何かついていますか?」

「ううん。ただ、抹茶ラテを飲んでいる氷織が可愛いなって」

「可愛い……ですか。飲んでいる姿の感想を言われるのは初めてですね」

「ははっ、そうか」


 まあ、普通は味の感想を言うよな。


「私はてっきり、抹茶ラテが気になって見ているのかと思いました」

「……確かに、抹茶系のタピオカドリンクは飲んだことないから、どんな感じなのは気になるかな」

「そうですか。……では、一口飲んでみますか?」

「へっ?」


 一口飲んでみるかって言われるとは思わなかったので、変な声が出てしまった。だからか、氷織の目が見開く。驚かせちゃったかな。

 氷織の抹茶ラテを一口飲むってことは――。


「か、間接キスをすることになるけど、氷織はいいのか? 口と口でのキスはしないルールにしてあるけど」

「そ、そうですね……」


 氷織は頬を赤くして、視線をちらつかせている。今までで一番感情が顔に表れているな。

 口と口のキスはしないとルールで決めている。直接触れていないからよしとするのか。ストローを介してもキスだから禁止とするのか。ちなみに、俺は間接キスならいいと思っている。

 氷織の視線は少しの間迷子になった後、俺の目に辿り着く。


「間接ですからいいと思います。それに、女の子とは自分の飲み物を一口あげたり、交換したりすることをしています。男の子とは未経験ですが。でも、明斗さんであれば……私はしてもいいと思っています」

「……分かった。俺も間接ならいいと思ってる。後でメモ帳に書いておこうかな」

「私も書いておきましょう。ルール追加で『間接キスはOK』と」

「ああ。じゃあ、俺のタピオカコーヒーを一口交換しようか。氷織ってコーヒーは飲める?」

「はい。飲めますよ。そのタピオカコーヒーも飲んだことありますし。では……一口交換しましょうか」

「ああ」


 俺達は自分のドリンクの入ったコップを、相手の目の前まで差し出す。

 俺は氷織の抹茶ラテのコップを手に取る。さっきまで氷織が持っていたからか、氷織の温もりが若干感じられる。


「じゃあ、抹茶ラテ一口いただきます」

「私もコーヒーいただきますね」


 間接キスに緊張しながら、ストローで氷織の抹茶ラテを一口飲む。

 抹茶の苦味がしっかりしているけど、ミルクのコクもあって飲みやすい。砂糖の甘味はタピオカからしか感じられない。以前、自販機で買った抹茶ラテが甘かったから、これも甘いんじゃないかと思っていた。


「抹茶ラテ美味しいな。抹茶の苦さとタピオカの甘さの相性が抜群だ」

「気に入ってもらえて良かったです。コーヒーも美味しいです。以前よりも美味しく感じました」


 一口交換。そして、間接キスをしたからだろうか。氷織の頬がさっきより赤くなっていた。


「明斗さん。ありがとうございました」

「いえいえ。こちらこそありがとう」


 お互いにタピオカドリンクのコップを相手の目の前に戻した。

 再びタピオカコーヒーを飲む。抹茶ラテが口に残っているからだろうか。それとも、氷織が口を付けたからだろうか。さっきよりも味わい深く感じた。そういえば、氷織も前よりも美味しく感じたって言っていたな。

 間接キスもあり、冷たいタピオカコーヒーを飲んでも体の熱が和らがない。でも、歩いているときとは違って、この体の熱さが心地良く感じられた。

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