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輪廻カンカン2  作者: サーモン横山
おいでませ学園生活!
8/127

7話 流れ流れて、そんな感じ?


「ほう。その仮面は魔道具か」


「いやいや、まずは自己紹介が先では?」


 この人……見た目通りの年齢じゃないな? でもバーテンなのはなんで?


「おお、そうだな。私はここの学園長だよ。正式には院長だがね」


「なぬ? つまりここのトップ? クズのトップ?」


 若作りのバーテンダーが学園長?


「ああ、そうなる。済まんな、子供達を守ってくれてありがとう」


「園長!?」


「ほほう、そこの優男がクズの塊だな?」


 園長さんの謝罪で、慌てて出てきた感じだなぁ。てめぇのツラ、覚えたぜぇ? 見た目はそこそこ整ってるが……中身は腐ってやがるな。


「園長、危険です! 今すぐに待避を!」


「のう、お主は何者だ? 何故レオハルト殿を襲ったのだ?」


 バーテンの学園長さんが僕の目線に合わせて膝を着いてくれた。鉄格子越しに真っ直ぐ僕を見つめてくる。むぅ、大人だ。


「そのレオハルトの孫だよ? 人体実験とかされてるから、その復讐って感じだけど。どうせピンピンしてるでしょ? あのじじい」


「…………孫?」


「孫」


「ほんとに孫?」


「ほんとに孫」


「……そうか」


「そうなのよ」


 僕と学園長さんで首をフリフリです。分かってもらえて何よりだ。


「院長! 何を納得しているのですか! 嘘に決まってるでしょう!」


「そうなのか?」


「認めたくないけど本当に孫なんだよね。あっ、仮面取る?」


「むぅ、いや、取らない方が良いだろう。もし本当にレオハルト殿の孫ならば……我らの首が物理的に飛んでしまうからな」


「じじいはそんなことしないよ?」


 あのじじいはマッド野郎だけどそんなことは絶対にしない。いいとこ実験体になるくらいだし。


「いや、奥方がな」


「お母さんかー。確かにやるかも」


 僕を捕まえてる事じゃなくて子供を人質にしたことは絶対に許さないだろうなー。あー、多分もう知ってそう。


「お母さん? あの方をお母さんと呼んでおるのか?」


「……面と向かってババアと言えますか?」


 勇者でも死ぬよ?


「地面の染みになるのう」


 その反応。経験ありだね?


「始めはお姉さん呼びだったのが何故かお母さんになったんだ。僕も謎なんだよね」


「そうか。逆らえんな、それは」


「園長! 何をたぶらかされているのですか! 偽物に決まってるでしょう!」


「いや、偽物でも、あのレオハルト殿を襲撃できる人物だ。その気になればこの牢屋なんぞ、なんの意味もあるまい」


「いや、さすがに人質取られてるから大人しくする予定だったよ? でもそこの優男を始末すれば全て解決しそうだし」


 全開ならいけるか? 後が少し怖いけどここはやるしかないな。


「はっ! 英雄であるこの私を始末だと?」


 英雄だったんかい。そりゃクズなのも頷けるわ。


「ねぇ、なんであんなの雇ってるの?」


 問題だらけじゃん。


「大人には色々あるのだよ」


 ん? 疲れてる? 園長さんため息出てるよ。


「そっかー。……やっちゃう?」


「それも大人の事情がなぁ」


 むぅ、苦い顔ですなぁ。


「そっかー。でも手足を切り落とすぐらいなら良いよね。英雄だし」


「おぬしの英雄像はおかしくないか?」


「英雄ならそもそも切り落とせないよ。どんなに頑張っても骨折くらい? あの優男は楽勝で切れそうだけどね」


 不意打ちでパパンの小指を折るのがやっとなんだよね。そのあとバッサリやられたけど。パパンめ。ドエムなのはパパンだけだっつーのに。パパンに比べるとこの優男はねー。


「うん、やっぱり脆そう」


 見た目は立派に着飾ってるけど……薄っぺらい感じがする。


「なんだと!? このくそがきがぁ!」


「ねぇ、本当になんであんなの雇ってるの?」


 沸点も低いし。人としてアウトだよ。


「はぁ。色々とな」


 大人って大変だね。


「良いだろう、決闘だ。英雄というものを貴様に教えてやろう!」


「ねぇ、ここってトイレどうしてるの?」


「む? そういえば無いな。そもそもここは滅多に使われないから撤去されているのだろう」


「そうなんだ。まぁいいことだよね」


「まあな。というか何故おぬしが平気なのか疑問なんだが」


「私を無視するなぁぁー!」




 なんか英雄さんはお冠だった。バーテンな学園長さんがなだめたら邪悪な笑みを浮かべて消えていった。


 取り巻きを連れて、園長さんを残して。あれはなにかする気だな。チビッ子達が超心配。


 すぐに園長さんが牢から出してくれたけど牢屋番のお兄さんはすごく微妙な顔をしてた。まぁ冤罪だもんね。


 学園長さんと牢屋のある建物の外に出た所で奴がやって来た。日はすっかり暮れていて街灯が道を照らしてる。虫の音も実に夏っぽくて……いや、そんなことよりもだ。


 街灯に照らされた奴の顔がよく見えて……。


「おお、元気そうだな。ジローよ」


 ああ、笑顔で手を上げるダンディだね。思わず駆け寄ってしまうよ。


「おじーちゃーん! 死ねや!」


 飛び込みソバットじゃあ! いてまえおらぁ!


「ぬん! はっはっは! 魔力を封印されているのは本当のようだな」


 ちっ、正面からじゃ無理か。じじいにガードされるなんて弱体化しすぎだよ。蹴りの反動で距離を取るけど全く堪えてねぇな。くそ。


「どうしてここにいるのさ。またその『うきうきドキドキマッドパック』になにか仕込んで来やがったか?」


 じじいの背中にはバックパックがある。あれにはおぞましいものが沢山入ってる。本当に沢山入ってるの。


「なんと猜疑心の強い孫だ。まぁ今回も色々持ってきたが」


「止めろよ! ほんとに止めろよ! 孫で実験すんなよ!」


「いや、他人で実験するわけにもいくまい。身内ならセーフだろ?」


「アウトだよ! 何でセーフになるんだよ!」


「レオハルト殿? その、体は……大丈夫そうですな」


 学園長さんが心配そうにしてるけど、じじいにそんな気遣いは不要だよ。


「む、そうだな。いつものジローであれば一週間は寝込んでいたが今回はたんこぶで済んだな」 


「ちっ、首を折るべきだったか」


 頭を撫でるだけでダメージはほぼ無しか。地面にめり込ませてこの程度。やはり回転を加えて、かち割るべきだったか。


「はっはっは。それは流石に死ぬぞ?」


「……随分と仲良しですな」


「ほら見ろ! ドン引きしてんじゃん! なんで懲りないの!」


 バーテンダーのお兄さんが遠い目をしてんだぞ!

 

「はっはっは! この程度で私の好奇心は止められん!」


 もーやだー。このじじい、やー。なんなのよー。


「はぁ。それで今回はじじいだけなの?」


 いつも監視役でお母さんもセットなのに。側に居ないって事はそういう事なのか?


「いや? 妻も来てるぞ?」


「……本当に懲りねぇ人だな」


 あとで死ぬ目に遭うってのに。それでも『うきうきドキドキマッドパック』を背負ってきたのかよ。


「それがな? 今回は特に危険でな?」


 じじいの顔に陰りが見える……ような?


「あっ、子供を人質にしたのがバレたの?」


 お母さん、子供とか好きだから相当怒ってるだろうなぁ。


「ああ。ちょっと本気で不味い。なのでジローよ。あの腐った英雄を始末してこい」


「……まぁ、始末するつもりですけど人質がね? まだ取られてるから」


 チビッ子さえ何とかなれば安心して首を獲れるんですけどね。


「そっちは私が何とかしよう。というかあのクズはジローと決闘すると街中に宣伝してるぞ?」


 は?


「どゆこと?」


「あやつのよくやる手だ。逃げ道を塞いで戦わざるを得ない状況に持っていく。あれでも英雄。サシで勝てる人間はいないからな」


 学園長さんナイスフォロー! 


「ふむ。丁度いいな。今のジローならば問題にもなるまい」


「はぁ。まぁ良い勝負になるとは思うけど決闘なんでしょ? 殺すのはダメっぽいよ?」


 魔力を封印されてるから僕の戦闘力は並み、一般レベルに落ちてるだろう。それで生かさず殺さずは難しい気がする。


「いや、決闘故に命を落とすのは当然なのだが。事実あやつは決闘の度に相手を殺しておる」


 苦々しくも何処か悲しげに語る学園長。そうか、もう手遅れなのか。


「……それは負けを認めても、ですか?」


 知らず怒りが込み上げる。英雄は本当に度し難い。


「う、うむ」


「ジロー。お前もそろそろ表舞台へ出る頃だ。遠慮は要らん。全力を見せつけてやれ」


「……まずは目の前のマッドな科学者を消したいのですが」


「はっはっは! 祖父殺しは看板として微妙だぞ? 英雄殺しにしておけ」


 はぁ、殴りてぇ。このどや顔したじじいをマジ殴りてぇ。




 こうして何故か英雄対魔物というへんてこな決闘が翌日、街を挙げて開催されることになった。決闘の舞台は学園内の闘技場。


 ざっくり言うとコロシアム。


 魔法がメインだからか、とにかく広い。観客も既に入って来てる。マジで見せ物じゃん。殺し合いを見に来た奴等か。巻き添えで死んでも構わないって事だよな。ぷんぷん。


 そんなコロシアムのど真ん中。


 そこに僕は座ってる。相変わらず少年探偵のような格好で仮面を着けたまま、あぐらから片膝を立てた姿勢で。少しでも封印を解除するために頑張っていたんだけど……全然解けねぇ! 


 どんだけ本気で封印したのよ白さん。昨日の夜からここに監禁されてたから一晩頑張ったけどさ。いや、トイレとかは使わせてもらったよ?


 ……はぁ、仕方無い。今の状態でやるしかないか。


『これより決闘を開始します。英雄ジークフリート、そして名もなき悪魔の入場です』


 あり? 僕、名もなき悪魔なの? もう入場してるけど別物がいるの? うわぁ、スモーク! スモークが焚かれてる!? 


 え、決闘ってこんな感じなの? マジで? 見せ物感が……。


 熱狂する観客の歓声がコロシアムの地面を揺らしてる。英雄ってだけで中身はどうでも良いのか?


 よくよく見ると……観客は一般人みたいな感じで……学園の人間だけじゃねぇな。街からも来てるのか。ろくでもねえなこいつら。


 あっ! しかも何あれ、賭け事もしてんの!? コロシアム上空に投影された映像にオッズが書いてある。観客からよく見える位置に……あぁ? 僕のオッズが三つに別れてる?


 一分以内に死ぬ、倍率1・05 


 二分以内で死ぬ、倍率8・57


 五分以内に死ぬ、倍率12・43


 ……全部死んでるやん。しかも一分の倍率おかしくないか? まぁいいや、賭け事は嫌いだし。で、相手のオッズは……



 魔物に情けをかける、倍率300



 …………茶番か。これ賭け事って言うの?


「はーはっはっは! この英雄ジークフリートから逃げなかったことは褒めてやろう」


 おっ、あれは! あれはチアガールだと!? なんでコロシアムに、いや、そんなことはどうでも良い! す、すげぇ、ナイスバディのおねーさんたちが観客席で空を舞っている! アニメやゲームでしか見ないピンクの髪とか緑の髪とか……ファンタジーや、ファンタジー様が降臨なさっておるわー!


 ありがたや、ありがたや。


「だが醜い悪魔よ! この英雄が貴様を成敗してやろう!」


 パンチラに見えるけどあれってパンチラじゃないんだよね。そもそもチラでもないし。丸出し? もろだし? なんかチアガールが残念な感じになってきちゃった。美人だけど胸は……まぁ邪魔になるもんね。


『今回の決闘は相手が悪魔ということを考慮して英雄は何でもあり、という特別ルールとなっています』


 ん? 何でもありなの? チアガールは……いや、決闘の方か。


「はっはっは! さぁ我が騎士団よ! このゴミを取り囲め!」


 えー? なんか増えた? これ決闘ちゃうやん。いちにー……うん沢山。これみんな納得すんの? 多分百人越えてるし。これ好き勝手にやり過ぎじゃないの?


「この俺を侮辱した貴様はなぶり殺しにしてやる!」


『それでは』


 あっ、始まるの? マジで? 


『決闘開始!』



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