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輪廻カンカン2  作者: サーモン横山
おいでませ学園生活!
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6話 学園到着


 玉ねぎさんに連れられてデート、うん、もう完璧にデートだね。デートを堪能したあとでようやく僕は学園に到着した。いや、ほんとに遠かった、もう夕方だよ。夕日が目に刺さるわー。ひぐらしがカナカナ鳴いている……いや、ひぐらしっぽい何かなんだけどさ。


「ジロー君、いいですか? 今日の事は内緒ですよ? いえ、別に何もやましい事はありませんが念のためですよ?」


「うん。でも楽しかったよ? ありがとうお姉ちゃん」


 実際楽しかったし。いろんな所に連れてってくれたし。でも呼び方をお姉ちゃんにさせたのはどうかと思うよ?


 あと学園の入り口でそんなことを言うのもアウトですよ? でも紳士的……女性だから淑女? すごく普通のお姉さんだった。お尻触らないし臭いも嗅がないし。


「ぐっ! ジロー君は仮面を着けてた方がいいかも知れません」 


「はい。では」


 すちゃ!


 この仮面、そんな意図で持ってきた訳じゃないんだけど役に立つなぁ。外すの忘れてただけなのに。


「ここが今日からあなたの家であり学舎となるマジカルザンギ魔導院です」


 ……ん?


「学園じゃないの?」


 てかマジカルザンギなの? マジで?


「それは世間一般の通称ですよ。元々は魔法の探究のために作られた場所ですから」


 玉ねぎお姉さんが苦笑しながら僕と入り口の門をくぐり抜けていく。でもこれちっちゃくね? 通用門とかじゃないの? 夕日で赤く染まる門は明らかにちっちゃいよ?


「ごめんなさい。正門は今、混んでるからまた今度一緒に入りましょうね」


「うん……ん? またデートするの?」


「でででデート違うです! 案内、そう、街の案内ですから!」


 すごく新鮮な反応です。手汗すごいよ? お姉さん。


「お祭りでもやってるの?」


「え? いえ、この国の偉い方が訪ねてくる事になったのでそのせいですよ。それにこの入り口の方が中央に近いの。そこで軽く面接をしたら宿舎の方に案内します。細かい話はまた明日になるでしょう」


 うん、デートしたもんね。すごい満足そうだねお姉さん。ここ建物の間を通る石畳の細い道だけど全然人の気配がない。お姉さんが淑女で良かったよ。村の巫女だったらチャンスとばかりに襲いかかって来る所だもん。日中でもやるな、あいつらなら。


 今は丁度夕日が差し込んでるから明るいけどね。


「面接するの? あっ、偉い人に会わないと……」


 一応来たことは伝えておかないと。何しに来たのか忘れるとこだった。


「大丈夫ですよ。連絡は既にしてありますから簡単な質問と課長の立ち会いぐらいです。緊張しなくても大丈夫」


 玉ねぎお姉さん……優しい。っていうか僕、めっちゃ甘やかされてる! 


 なぜ!? これがモテ期なのか!? 


 離婚したらモテ期が始まるってなにそれ!? どうしようこのまま黙っていれば、いや、でもそれはお姉さんを騙す事になる。それは人としてどうよ? でも、でも~!


「う~!」


「私も側にいますからね」


 ぐっ! 駄目だ。この人を騙したらアカン!


「おねーさん! お話があります! とっても大切なお話です! 僕の……僕の事情を聞いて欲しいの……あ」


 お姉さんに全てを話す決意をして話しかけたのに……お姉さん越しに天敵を見つけちまったよ。


 狭い通路のはるか先、ぽっかり開いた通路の先に人だかりが見えている。そして大通りとおぼしき場所で警備員らしき人にガードされながら、やたらダンディなおっさんが微笑みを振り撒いて手を振っている。


 ギリギリギリ! 僕の中の殺っちゃえカウンターが振りきれてるよ!


 ……護衛は四人か。……よし、殺れる! 殺らねばならぬ!


「じ、ジロー君? こ、ここでなの!?」


「お姉さん、少し待っててね。あれを成敗してくるから」


 何故か真っ赤になって動揺してるお姉さんだが今はそれどころではない。奴を見かけたら即殺がルールなのだ。


「え? ええ!? ちょっとジロー君!」


 繋いだ手をぬるりと抜いて狭い通路の先へと走り出す。ここは……空中から行くしかないな。人混みが邪魔すぎる。チャンスは恐らく一度のみ。だが……やれる! 殺ったるわ!


「ええ!? ジロー君、壁……」


 地を踏みしめて加速する。そしてその勢いのまま壁を蹴って空へと向かう。反対の壁も利用して高さを稼ぐのだ。あの人混みを越えるために。


 奴も護衛もまだ気付いてない。そろそろ通路を越える。壁の終わりが近い。三角飛びを繰り返してかなりの高さまで来た。スピードも十分奴に届く。最後の踏み込みで壁にヒビが入った気もするけど無視だ。そして眼下の群衆を飛び越えて……。


 あとは決めるのみ! 


「死ねや! 飛天かかと落とし!」


 空の上からフォーリンダウン! 脳天直撃や! 夕日と共に沈むがいい!


「ぬがっ!?」


 ズゴン!


「よし、埋まったな」


 道路がひび割れてクレーターみたいになってるけど……よくあることだ。問題無い。


 僕の足元には頭を地面にめり込ませた無様な格好で尻を突き出して固まっている。周りには静まり返る大勢の観衆達。まるでアイドルみたいな人気振りだな。このじじい。


 護衛の人は青い顔をしてるけど……まだ死んでないよ? 魔力が封印されてなければ殺れたのに。運の良いじじいだ。ぺっ!


「き、教授!? 教授が襲われた!」


「教授から離れろ! この……怪しいやつめ!」


 凍りついていた時間が動き出して護衛が慌て出した。言い淀んだね。でも……


「ふんぬ!」


 スタンピング! スタンピング! このじじいを地面に埋め尽くしてやる! 


「ああ!? 教授が地面に! 早くお助けしろ!」


「うおおおー!」


 なんかまた騒がしくなったな。よし、やったるよ? かかってこいや!


「おおー、うっ」


 ん? 何で直前で止まるの? そんなビクンって。護衛なのに。


「こ、こいつまともじゃねぇ。なんて闇をしてやがる」


 人の顔見てなんてことを言うんだお前!


「護衛なのに怖じ気つくなよ。これはただの仮面だよ。ほら、かかって来ないの?」


 カマンカマン! 


「むむー! むー!」


 埋まってるのに元気なじじいだな。足元で、もぞもぞしてるし。


「ちっ、しぶとい。やはり力が足りないか」


「賊を捕らえろー!」


 警備員ぽいのが増えてきた。ギャラリーも騒いでて喧しい事この上ない。なんだか……大混乱?


「……めんどいし、逃げるか」


 とりあえず埋めたし。ちょっとは気が晴れた……いや! まだまだ足らぬゥ! でもこれは……逃げとこう。人が多すぎる。


「逃がすと思ってるのか! 囲め!」 


「始めから囲んでるじゃん。じゃ、そういうことで」


 この世界、魔法があるから接近戦はいまいちなんだよね。だから囲まれてると魔法は飛んでこない。近すぎて危険だから。こんな時に役立つのがこれ!


 身体強化ー! 魔力で身体能力を上げる地味な魔法ー! 効果はこんな感じ。


「ぐあっ! この野郎、俺を踏み台にしやがった!」


「ぎゃあ!」


「ぐぺっ!」


 気分はゲームのキャラクターさ! てなわけでとんずらー!


「追え! 奴を逃がすなー!」


「医者を! 巫女を呼んでくれー!」 


 はっはっはー! 空は俺の物だー! わんさと追っかけてくる追手を振りきり僕は飛ぶぜー!




 しばらくして捕まりました。


 ……空は意外と狭かったのだ。ぐすん。



 だって土地勘無いんだもん。僕は今、牢屋にぶちこまれてます。


「だせー! 俺は無実だー! 冤罪だー!」


 ガチャンガチャンガチャンガチャン! 鉄格子って、ちめたいのね。夏なのにひんやりしてる。


「うるさい! この化け物め! 冤罪な訳ねぇだろ!」


「いや、はじめての牢屋経験なのでお約束を」


 学園の地下には牢屋がある。何であるんだろうね。


「くそっ! 何でそんなに元気なんだ。この牢屋は魔力を吸いとるっていうのに」


 牢屋番のお兄さんはなかなかに真面目だった。てか人質をとって僕を捕まえてる時点でそっちも悪なんだけどなぁ。 


「ねーねー、人質にされた子達は大丈夫なの? もし少しでも傷つけてたらこの国滅ぼすよ?」


 これでも僕は怒ってるのだ。ぷんぷん。


「なっ!? お前は魔王か! この国を滅ぼしたらあの子達も死ぬだろうが!」


「うん。それぐらい怒ってるってだけで実際はなかなか出来ないよね」


 逃げてる途中でチビッ子達に遭遇しちゃってさ。仲良くなったんだよね、すぐに。でもそこに容赦なく魔法をぶちこまれて……危うくチビッ子が死ぬとこだったよ。


 そのあともずっと僕が壁になってたけど……チビッ子を逃がそうとする度にチビッ子を狙って魔法が飛んでくるんだもん。


 ……ここの人間はクズばっかだな。


「あれは……俺も無いと思うが」


「あんなショボい魔法でも子供には耐えきれない。それがここのやり方なの? 犠牲を出して当然なやり方が」


 同じ陣営の側から攻撃されてた子供達はずっと泣いてた。奴らは僕が大人しく捕まる条件として正式にあの子達を人質にとった。言うことを聞かなければ子供を殺すと。


「っ、そもそもお前がお偉いさんを襲わなければ良かった話じゃないか!」


「あれは復讐だから問題ないよ。むしろ首を捻り切って無いだけ優しいもんだ」


「お前はなんなんだよ!」


「若いねぇ」


「お前の方が子供だろうが!」


 いやぁ、熱くて若い。何でそんな人が牢屋番なんだか。


「ところでさ、ご飯とか出るの?」


「~~っ! 出るわきゃねぇだろ!」


「ちぇー。けちー」


 牢屋番のお兄さんがなんか叫んでるけどまぁいいや。初めての牢屋暮らし。なんかワクワクするよね。どうしよう、脱獄も考えなきゃ。とりあえず床を掘る? 壁に穴を開ける? 仮面も服もそのままだけど掘る道具は持ってないな。


 でも牢屋なのにツボもベッドも無いなんて。トイレどうすんだろ。垂れ流し? うわぁ。


 牢屋はそんなに広くないけど狭くもない。独房じゃなくて二十人くらいなら詰め込めるんじゃないの? ってくらいの広さだ。床も石で出来ててコツコツと……ん? コツコツと音がするぞ?


 ん? 誰か来た? 人の気配が沢山する。まだお兄さんが騒いでるけど怒られるんじゃないかな?


「何を騒いでおるか!」


「ひぃ! す、すいません。こいつがうるさくて」


「うるさいのは貴様だ! 黙っていろ」 


 あー、怒られてるー。おっ? 結構な人数で来たじゃないか。足音が沢山。牢屋からは見えないけどガヤガヤしてる音が聞こえる。


「賊はこちらに捕らえておりますが、何分狂暴ですので……」

 

「賊ねぇ……子供を庇っていたという情報があるが?」


「子供を盾にしていた、の間違いでしょう」


「子供の安全と引き換えに大人しく投降したとの情報は?」


「ははは、そんな馬鹿な事が有るわけありません。さぁ早くお戻りになられませんと」


「なに、話を聞くだけだ。言葉を解す魔物と報告にあったが、それならば、なおさら話を聞かんとな」


 僕の居る牢屋から少し離れた所で話してるのは……どうやらあのクズどもを率いていた奴とお偉いさんかな? よし、見えたら殺るか。


「し、しかし……」


「もし人間であれば既に気絶しておろう。ほれさっさと道を空けんか」

 

「っ! 分かりました。ですがもし化け物が暴れだすような事があればすぐに処分いたします」


 聞こえてるよ? これでも怒ってるんだよ?


「おーい。出来ないことを言っちゃ駄目だよー!」


 それが出来ないから人質なんて取ったのに。マジ許さん。


「ふむ。これは面白そうであるな」


 そう言って牢屋の前に現れたのは蝶ネクタイをしたバーテンのような若い男性だった。


 あれ? イメージだとおじいさんだったのに。どゆこと?

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