5話 学園に行こう!
「それでは学園でこの子を?」
「ああ、まだ幼いがしっかりしてる。問題無いだろう」
「ですが……」
なんか知らないうちに保護先が変わりそうなジローです。僕はいつまでここに保護されるんですかね。でも学園に行けそうなのでこのまま静観した方が良いのかも。
「シャツと仮面……いや、これは魔道具!?」
あっ、仮面はソファの前に置かれたテーブルの上に置いてます。
「この子の親が持たせてくれたのでしょうね。せめてこれだけはと」
いや、僕の手作りですよ?
「しかし靴も無しにここまで来るとは」
「怪我はしてなかったので恐らくは……」
「シャツもサイズが……」
「ごくり。見た感じ、下は裸かしら」
今や十人以上が居る街道警備隊の事務所です。みんな真面目に考えてくれてます。ごめんなさい。
「ぜーはーぜーはー、み、見回り終わりました! ジローちゃんは? ジローちゃんはまだ居ますよね!」
事務所のドアが豪快に開いて女の人がそこに立って……膝に手をついてギラギラとした目で事務所を見渡してます。息切れてるのにすごいなぁ。おねーさんですよね。髪の毛がすごいことになってるけど、なんでそんなに必死なの?
「いるから落ち着け。本人の希望で学園に行くことになった。引き取るのは諦めろよ?」
「なっ!? ジローちゃんが学園に? いじめられたらどうするんですか!」
「いや、流石に平気だろう。特別クラスでもなかろうし。それよりも何か異常はあったか? その……色々と」
「はい、えーと、ジローちゃん、少し待っててね。お姉ちゃんはすぐに戻って来るから」
むぅ? なにかあったのか? 部長さんとおねーさんが事務所の奥に……なんだろう。
「この仮面……魔道具だが目と口が闇に覆われるだけだな。何かの儀式用か? こっちの白いたてがみは……まさか天使の髪の毛か!?」
「ふわっ!? こ、この子ノーパンっすよ!」
妻の髪の毛です。元妻になってしまいましたが。張り付けるの大変だったのよ、ほんと。毛先を整える為にちょこちょこ切ってたのを張り付けたから、たてがみっぽくなったのさ。
「おいおい、これはヤバくないか?」
「まさか貴族?」
「め、めくりたい」
「……あり得るか。男の子にしてはその、可憐すぎる。とても平民には見えん」
「肌も綺麗です。それにこの落ち着き、捲りたい」
いやいや、違うって。否定しないとまずいな。てか変態が混じってるよね。背筋がぞわってしたよ。
「貴族では無いのです。親は両方とも……」
なんだろう。変態? いや、ここでそんな暴露しても仕方無いし。
「田舎の人間です」
「……駆け落ちか」
違うって。……あ、でも都落ちではあるのか?
「この子の言葉使いからすると間違いないな」
ちゃうねん。これはクリスママの教育の賜物なのですよ。実はかなり緊張してるんです。だって村から出て沢山の人に囲まれるのは久し振りだから。知らない人と話すのってこんなにキツかったんだ。
あっ、山賊はノーカウントで。
「おい、何人か俺と来い。戦闘もあるかもしれん。特に女連中。お前らは確定だ」
部長さん? 魔物でも出たのかな。どうしよう。ここは黙ってた方が良いのかな。手伝った方が良いのかな。
「何が……いえ、了解です」
ん? なんで僕を見たの? 隊員のお姉さん達。警備隊って言っても女の人が半分ぐらい居るんだね。やっぱり魔法かー。
「ジローちゃんは私とお留守番で……」
「いや、お前は道案内だろうが。ほれ行くぞ」
「あっ、そんな! 折角ジローちゃんに会えたのに!」
「僕も行く?」
「……いや、ここで待っててくれ」
むー。なら待つかー。
事務所で待つこと一時間くらい。お留守番の隊員さんとお菓子を食べたりこのゼニタウルスの事を教えてもらったり、なかなか有意義な時間でした。部長さんたちが帰ってきたのはそんな時。
「ジローちゃん! ジローちゃんの仇は……えーと、もう大丈夫だからね」
「おい、開口一番に何言ってんだ」
またしても事務所のドアが豪快に開かれておねーさんが飛び込んできた。突っ込み役はお留守番のおじさんです。突っ込みの間に他の人達も帰ってきました。みんな無事みたいで良かった。
「部長、首尾の方は?」
「間違いねぇ。奴らだ。坊主、お前さん、ごく最近怖いおっさん達に会ってたりするか?」
「……ツナギの人達?」
「やっぱりそうか」
「では、やはり……」
「何に殺られたのか分からねぇがな。魔物なら、と子供の前でする話じゃねぇな。坊主、お前さんは前を見てお天道様に向かって生きていくんだ。きっと両親はそう願ってる」
マミーはお天道様に逆行してる気がするけど、まぁ子供に闇の世界で生きるよう望む親はいないよね。
「うん。ありがとう」
この部長さん、顔はヤクザだけど優しい人だ。
「ジローちゃん! お姉ちゃんがお洋服を用意しました! さっ、あっちで一緒にお着替えしましょうねー」
このおねーさん、顔はヤバイし、危ない人だ!
「待てこの変態! 下心が駄々漏れじゃねぇか!」
「お世話になった上に服までもらうことは出来ません。なので……せめて対価として何か出来ることはありませんか?」
割と何でもこなせるよ? ただでもらうのも気が引けるし。
「バカ野郎! 子供は大人しく受けとるもんだ。対価なんて言ったら……」
「めくらせて? ねぇ、お姉さんにめくらせて?」
「少しだけ、少しだけですから」
「あっ、あんたたち! そこは反則でしょ! せめて手を繋ぐくらいにしなさいよ!」
あー、こうなるのかー。
「お前ら、子供に手を出すんじゃない! 牢屋にぶちこむぞ!」
「「だってジローちゃんが……」」
うん、ごめん、とりあえず仮面被っとくよ。
「……もうじき学園から人が来る。その人についていけば学園で生活出来るだろう。勤労学生という事になるが」
「大丈夫です。働くのは慣れてます。放牧とか色々」
ベヒさん達の放牧は広くて大変なんだよね。侵入してくる魔物もいるし。
「学園で放牧の仕事はないと思うが……まぁなんとかなるだろう……で、その仮面は着けていくのか?」
「まずいですか?」
仮面を被った途端に女性陣は二歩下がった。男性陣も三歩下がった。そんなに怖いかな、これ。
「……やむ無し、か。学園の人が来たら外して挨拶するんだぞ?」
「ううー、ジローちゃんに触りたいのにー、あの目はヤバすぎるよぅ」
「可愛い顔が……折角の宝石が台無しです」
「くっ、顔さえ見なければ、そう、シャツから覗く太ももだけを!」
「仮面よりも服を着てくんねぇか?」
「はい、すいません」
こうして僕はノーパンから卒業したのだった。でも何で女物の服なのかね。フリフリのスカートにフリフリのシャツって。靴は赤いくつだし。……僕、売られちゃうの?
「……この服を用意したのは誰だ?」
「あたしです! 似合ってますよねー!」
「ド阿呆! 男の子だろうが! 何でこんな格好させてんだよ!」
ということでテイクツー。
「今度は半ズボンにサスペンダー。少年探偵?」
チェックのズボンに白いシャツ。そしてベストと。これでハンチング帽を頭に装備すれば完璧だね。今は仮面が乗ってるけど。
「むっ、趣味全開だがさっきよりはましか」
「男の子と言えば半ズボンにサスペンダー。鉄板です」
「……もう学園の人が来てるんだがな」
着替えを二回だもんね。時間も経つよ。
「大丈夫です。あっちで悶えてますから」
「お前らと同類かよ……渡すのが不安になってきたぞ」
「仮面被っとく?」
「「やめとけ!」」
ちぇー。
「ジロー、元気でな。学園でも頑張るんだぞ」
街道警備隊の人達にお見送りされて僕は学園へと旅立つ。
「ううっー、ジローぢゃーん! お姉ちゃんさびじいよー!」
学園へと旅立つ!
「はぁはぁはぁ、太ももの白さがブライティ! たまんないわ」
学園に……
「ジローちゃんの着てたシャツ……くんくんくんくん。ふへぇ」
旅立たせろや! あと人の着てたシャツの臭いを嗅ぐな! 服の対価として渡した(奪われた)けどせめて見えないとこでやってよ! あとヤバイ顔しないで!
「それでは行きましょうか、ジロー君」
学園から来たこの人、髪の毛が玉ねぎみたいな眼鏡の女性。まるで秘書みたいなかっちりスーツの美人さんだけど冷たい印象を与えるきつい目をしてる。さっきまではとろけた目をしてたから怖くないけど……いや、別の意味で怖いけど。
既に手を握られてます。ガッチリと。この世界、女性が積極的すぎない? 僕見た目は十歳だよ? 犯罪じゃないの?
「ジローちゃんがー!」
「うっさいわ! 同じ街にいるんだからまた会えるだろうが」
「はっ! そうですよ! 学園警備隊にいけば毎日会える! 部長! 転属願いを……」
「受理するわけねぇだろうがー!」
街道警備隊。いつかちゃんとお礼を言いに行かなくちゃ。学園から来た女性に手を引かれて僕はやっと学園へと……
「ジロー君、お腹減ってない? こっちのお店は甘いものがメインだけど軽いものもあるからどうかしら? そ、その、で、デートスポットでも有名だけど、そ、そんなつもりはありませんから!」
学園が遠いなー。いつになったら学園に着くんだよ。