1話 ダイゴロウ、ベヒーモス村に監査へ行く
やっと出せますぜ。では、輪廻をカンカン、スタートです!
ここは農耕国家モチスキー。
そのはずれに位置する田舎の村。
へと続く街道沿いに広がる大草原。
なんだけど……さ。
「「ぷひー!」」
「オウイェア!」
「「ぷふー!」」
「ヌゥエァ!」
…………あれはなに?
いえ、そう、なんだか空が青いわねー。こんな日はお昼寝してまったりしたいわー。あっ、夏だから海も良いわねー。
「お嬢様……現実逃避はその辺で。あれが目的の……何でしょうかな? あの生き物は」
「あたしが聞きたいよ」
今回のミッションはベヒーモスの調査って事で、それでこんなド田舎まで来たんだけど……帰って良いよね?
「ぬぅん!」
「「ぷひひー!」」
…………あれは。……あれは触れちゃいけないもの、だよ。うん、こんもりとした草の茂みから隠れて見てる自分がとても悲しく思えるよ。距離にして五十メートルくらい離れてるけど。
これ以上近付くのは断固断る! うん! 帰る! 調査完了! あんなのに近付きたくない!
「お嬢様。あの小さなカバはベヒーモスですぞ?」
お黙りセバヌ! あえて無視してたのに!
「あーうん。そうだねー。じゃ、帰ろっか。みんな元気そうだし」
小さなカバ達は空に浮かんだあれを中心に草原で円を描いて踊ってる。まるでアイドルを崇めるように。讃えるように……あれの掛け声に合いの手を入れながらチョコチョコ踊ってる。
そんな変な事する可愛い生き物をベヒーモスとは認めません!
「お嬢様、あれはおそらく人間ですぞ?」
「人間?……あれを人間として扱ったら他の人類が怒り狂うよ?」
邪神ですらもっとまともだよ。
「確かに……ブーメランパンツ一丁に仮面を着けた空飛ぶマッチョですが……」
「アウトじゃん! 完全に人間辞めてるもん、あれ! なんで空中でマッスルポーズとってんの!? しかもベヒーモス達が合いの手を入れてるってなんなの!?」
「なかなかの肉体美ですな。私も脱ぎますかな?」
「脱ぐなボケ!」
神の兄弟喧嘩から始まった争い。後に神魔大戦と呼ばれるこの馬鹿馬鹿しい兄弟喧嘩は天使と悪魔、この陣営をそれぞれが率いることで加速度的に被害を広げることになった。
天使と悪魔も兄弟喧嘩ごときで死にたくはなかった。だから身代わりを用意した。酷いとは思うが仕方無い。
魔物の召喚。自分達の代わりに殺し合いをさせるため喚ばれた大量の魔物たち。まぁ、神界だけで収まっていたら問題も無かったのだろうけど。
馬鹿な兄弟神達は他の神々の怒りに触れて……何を考えたのか、喧嘩の舞台を人間界に変えやがったのだ。
天使と悪魔は神のオモチャ。オモチャには反抗することも許されなかった。それで……人間界はめちゃめちゃになった。
流石に少しは悪いと思ってる。逆らえなかった事を加味しても。だから後始末。……してたんだけどねー。
「セバヌ……事前情報だとベヒーモスと人間が共生してるって話だったよね?」
「左様ですぞ。なんでもこの先の村ではレースも頻繁に開かれてるとか」
うん、それはいい。ベヒーモスは手を出されない限り温厚な種族だから。仲良く一緒に暮らすのも不可能じゃないし。でも……あれは違う。絶対に違う!
「あれの情報は?」
「……皆無ですな」
ちっ! 役に立たんセバヌめっ! 格好だけは執事のくせに!
「もう戦争から十五年だし、馴染んだよね。うん、ここはもう上手く回ってる。あたしのすることはもう……」
「お嬢様。残念ながら……囲まれましたな」
「なっ! いつのまに!」
ベヒーモス達に囲まれてる!? 繁みの周りにベヒーモス!? そんな……気配は消してたのに。
「……お嬢様。その手に持っている布はなんですかな?」
「ほえ?」
え? いやぁ、なんかいい匂いするんだよねこれ。なんかシャツみたい……いや、ズボンもあるけどそっちはちょっと恥ずかしくない? ズボンを鼻に当てるのって。
「ふむふむ。今回は観光客ではなくコソドロか。……大人しく返すならお仕置きで勘弁してやるが」
…………! やべぇ! 真上から声が! へ、へんたいがきたぁー!
「ど、どうするセバヌ! ここは一時撤退よ!」
「そのシャツは離さぬのですかな?」
え?
「お嬢様。先ほどから拝見しておりましたが……完全に変態ですぞ? 鼻と言わず顔にシャツを押し当てて。どうやらこの繁みは着替える場所、つまりそのシャツの持ち主は十中八九あれと思われますが」
は? いやいや、確かにズボンも靴もあるけど……。
「う、嘘よ……だってサイズ的にあれには着られないもん! どう見ても子供サイズじゃん!」
あたしのショタセンサーはこの持ち主のショタレベルをビンビンに感じてるんだから! これはかなりのショタよ? ショタショタしてるショタじゃなくてある程度成長してる熟したショタの匂い。あたしも若い頃はショタショタしか認められなかったけど、卒業間近のショタの魅力を知ってからは許容範囲がかなり広がったわ。
ショタを卒業して男の子から青年へと変わる無慈悲な時の流れ。でもその刹那にはショタショタにはない輝きが……
「コソドロじゃなくて変態かー。なんでここに来るのはおかしな人ばかりなんだろう」
「ぷしっ?」
「あ、魔力砲はまだ撃たないで。服が……いや、もろともに消した方が世界の為になるのか?」
「お嬢様。このままだと少々まずいですぞ?」
ふふっ、あのセバヌが狼狽えるなんて珍しい。でもこのお宝はすごいのよ?
このシャツから香るショタ香は十代半ば、男の子から男に移行するまさに黄金期! 本当は一桁のショタが大好きだけど、まぁ可愛いなら女の子でもいいんだけどね。でもやっぱショタよね~。くんかくんか。
「第一部隊、発射準備。第二、第三部隊も順次用意開始。斉射三秒前」
げっ、ベヒーモスの砲列!? マジか! でも!
「このシャツは絶対に渡さないよ!」
「いや、返してよ」
すぐにセバヌが茂みから出て変態に取りなした事で私達が撃たれる事は無かった。それで今は変態と面と向かって会話することになったんだけど……。
変態が目の前で腕を組んでる。すげー筋肉だー。今は草原にに裸足で立ってるけど。つーか存在感がすげー。身長も高いけどそれ以上に分厚いわよ、これ。まさしく巨漢?
「で、老執事さんと……変態チビッコさんは何しにここへ来たの?」
「誰が変態チビッコよ!」
何よこの変態! あたしの何処が変態なのよ! 確かに露出は際どいけど……太ももとかお腹とか丸見えで……あれ? すごく痴女っぽい?
「その手の服は、ぼ……俺のだ。いい加減返せよ」
「な、何を言ってるのかしら? この服は私が拾ったのよ、そう、だから私の物なのよ」
わ、渡さないんだから。これがあれば十年は戦えるのよ?
「お前はどこの蛮族なんだよ……」
「う、うるさーい! あんたの方がよっぽど蛮族じゃないの! なんで裸なのよ! なんでブーメランパンツなのよ! なんなのよ、そのへんてこな仮面は!」
白いたてがみのような髪が付いた木の仮面。頭をすっぽりと覆う仮面というかお面というかヘルメット? 目と口の位置に黒くて丸い穴が空いてるんだけど……目も口も見えないの。多分魔道具なんだろうけど……。
「怖いのよ! なんで目と口から闇が溢れてるのよ! 表情が無なのになんか出てるの! 怖いの!」
ぬぼぉーー、って感じなの! 目と口が闇なの! なんか闇色の煙が垂れ続けてるのよ! まるで涙みたいで怖すぎなの!
「いやぁ、なんか楽しくなっちゃって。自分からは見えないし、別にいいかなー、って」
お前の手作りかっ!?
「お嬢様、そろそろ自己紹介なさってはいかがですかな? どうやら話が通じるようですし」
セバヌぅぅー! なんでこんな変態に自己紹介なんてするのよー!
「一応聞くけどベヒーモス村に用がある。で、いいの? 目的も聞いておきたいけど」
くっ、見上げるほどのマッスルめ! なんでそんな見た目なのに声は高いのよ! まるで、そう、声変わりする前の男の子みたいな。
「村の方ですかな? 私はセバヌ。こちらの短パンタンクトップの痴女チビッコの執事をしております。以後よしなに」
「セバヌゥゥゥゥ! 何よその紹介は! 別に痴女じゃないでしょ! それにベストも着てるし!」
お腹丸だしだけど夏だし。べ、別に普通だもん。
「これはご丁寧に、ベヒーモス村のジローと申します。魔動車が見受けられませんが……まさか歩きですか? それとも故障?」
あたしを無視だと!?
「ほっほっほ。良い気候ですからな」
「今、夏だよ? まぁいいや。変態には慣れてるし」
くっ、こいつ……できる。セバヌが流したのを更に流すなんて。しかも変態認定してるし。
「で、そっちのお嬢様のご尊名をお聞きしてもよろしいですか?」
「ぐぬぬ! 馬鹿にしてるなー、お前! あたしがちっこいからって!」
「いい加減シャツを返せや、ちっこいのはどうでもいいから」
「ほっほっほ。お嬢様はダイゴロウと申しましてな。この辺りではベヒーモスが人間と共生している、と噂を聞いて本当か確かめに来たのですぞ?」
あっ、おいセバヌ。お前なにあたしの名前をこの変態にさらっと教えてんだよ!
「……ダイゴロウ? 大五郎、いや醍醐郎か? まさか……」
ん? なにぶつくさ言ってんの? 呟きでもあたし達には丸聞こえだけど……まさかあたしを知ってる……な訳ないか。今の姿じゃ絶対に分かるはずないし。
「どうなさいましたかな? ジロー殿」
「あっ、すいません。不思議な響きの名前なので」
「ふんっ! 名前で判断するなんて下衆よ下衆!」
バカにしたらすりつぶすぞ、この変態。
「……もしかして男の子ですか?」
「よし! 喧嘩売ってんな、この変態が! やってやんよ!」
ぶっ殺す! こんな可愛い女の子を男の子と間違えるなんて目ん玉くりぬいてやる! …………目玉あるよね? 今も闇を湛えているけど。
「あー、名前の感じだと男の子っぽく感じただけで他意は無いよ? でも今の服装だと男の子って言われても仕方無いと思うよ? なんてーか、少年?」
「むきー! ぶっころーす!」
ぶん殴って泣かしてやる! とりゃー! 人間如きにあたしの動きは捉えられないでしょ。泣かすくらいで勘弁してやんよ。
うらぁ!
「はいはい、危ないからねー。シャツを返してもらうよ」
「んな!? か、返せ! あたしのシャツ!」
ば、馬鹿な! あたしの攻撃に合わせて強奪したの? こ、こいつ何者なの!? 今のあたしが捉えられないなんて……。
「尻叩かないと分からない?」
「すいませんでしたー!」
……だってマッスルポーズとりながら言うんだもん。あの上腕二頭筋はヤバイ。あれで叩かれたら尻が割れる!
「ほぅ。ジロー殿は村の門番ですかな?」
ううっー。役立たずのセバヌめー。あたしを守れよー。お前なんでそんなに笑顔なんだよー。バカー。絶対楽しんでるよなお前。
「門番はベヒーモスさん達だよ? うわっ、よだれがついてる……はぁ。仕方無いか」
……てへ。
「うちのお嬢様が大変失礼しました。尻叩きならお好きなだけ……」
「セバヌぅー! あんた何言ってんのよ! あんなマッチョに尻叩かれたら割れるでしょ!?」
「……既に割れてる、いや、そんな趣味は無いので」
ぬ!? それはそれでなんか屈辱! まぁ、ロリコンじゃないなら少しは安心だけど。意外と普通ね、このマッチョ。見た目はぶっ飛んでるのに。
「んー、立ち話もなんなので村に行きますか」
これがあたしとジローの出会い。
最悪の初対面だったけど……まだこの時点で顔見てないからセーフセーフ。てかジローが百パーセント悪いよね。あたしは……無罪だもん。草原で空に浮かんでマッスルポーズしてるジローがおかしい。でもこの時からあたしはジローから目を離せなくなってた。
だって生ブーメランパンツなんだもん。女の子だから仕方無いんだもん。ジローが悪いんだもん。あたし普通だもん。
いやぁ、今回は書き貯めてから投稿する事にしたのですが……多分忘れられてますよね。一月からカキカキしてたんですけど色々ありましたし。世間もまだまだ収束しないみたいですからねー。でもサーモン書くよ! そして世界に笑いをばら蒔くのだ! 正直未来に不安しかねぇけど、それでも前に進んで行くんだもんよ。とりあえず読め! そして笑え! 明日を越えるためにな!