-8 『譲れない苛立ち』
「撤回してください!」
「あ?」
悪態を漏らす男子生徒たちに、僕はほぼ反射的に彼らのほうへと歩み寄ってしまいました。
どうしても我慢がならなかったのです。
悪口というだけで気分が悪いのに、それが僕の尊敬するお嬢様へのものだということが。
「お前……あいつのおまけの」
突然やってきた僕に、男子生徒たちは不快そうに眉をひそめました。
「……おまけ。そうですね。僕は確かにお嬢様の付き人。なにもないおまけです。でもお嬢様は違います」
お嬢様は決して楽をしているわけではありません。
勉学だって家庭の成績はとても優秀で褒められるほどです。この学校に入学するときも、他の平民の生徒たちと同じように試験を受け、合格しています。
裏口で入学する不良生徒というわけではありません。
「お嬢様は決して貴族という地位に甘えたりしていません。勉学においても努力をあきらめない素敵な方です」
「なんだよお前。主人を悪く言われて腹が立ったのか?」
「悪く言わないでください」
「ははっ。イヤだね」
男子生徒はまるで反省の色も見せず、むしろ僕を煽ってくるようでした。
僕が女子生徒として見られているせいもあるでしょう。その上、彼らの嫌いな貴族の付き人ということもあります。
彼らの僕を蔑むような目は、まるでその先のお嬢様をも軽蔑しているようで不愉快でした。
「俺達は事実を言っただけだぜ。へたくそだってな」
「そうだそうだ。それともなんだ。お前の主人は絶対に褒めないといけないのか? どんだけ温室育ちなんだ」
「それは悪意のある言葉です。そんな言葉を使うなんてひどい」
「温室育ちのお嬢様は、付き人までヌルくなるのか?」と男子生徒はげらげら笑いました。
「……僕のことは好きに言ってもらってかまいません。でも、お嬢様のことだけはやめてください!」
僕はついかっとなって睨んでしまいました。
迫力なんてあるはあずもありません。しかしそうしてきたことが気にくわなかったのか、男子生徒は眉をひそめて舌打ちをしてきました。
「調子乗ってるんじゃねえぞ。貴族の袈裟を借りた腰巾着女のくせに」
凄んだ彼の声には、身が竦みそうになるほどの迫力がありました。
「俺たちに文句があるって?」
「いや、あの……ただやめてもらいたいだけで」
「それが文句だろ?」
男子生徒は僕の制服の首の後ろのセーラーカラーを引っ張ってきました。
「や、やめてくださいっ」
「うるせえな。お前から喧嘩を売ってきたんだろ?」
「ち、違いますっ」
僕が咄嗟にカラーを引っ張り返そうとすると、今度は他の男子生徒が掴んで反対側に翻してきました。僕の顔を覆うようにカラーが被さり、視界が塞がれます。
「やだっ、やめて」
されるがままでした。
闇雲に手を前後させてあらがおうにも、ただただ僕は翻弄されるばかり。
目尻に涙すら浮かんでいた頃です。
「いでっ」
ふと、そんな男子生徒の短い悲鳴が僕の耳に届いてきました。