表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/20

第五話 おっさん軍師、傭兵団を退ける

奇襲により傭兵団を退けたおっさん軍師と護衛達は再び傭兵団に囲まれているリッケルト達を救援します。





奇襲により、待ち伏せる傭兵団の撃退に成功した俺たちは、リッケルトら男爵家一行が居る木陰へと向かった。


しかし、程なく異変に気付いた。


別れた時には周囲には敵が見えなかったにも関わらず、ミニマップで見ると馬車が敵に取り囲まれ、リッケルト達護衛が戦っていたのだ。



「まさかそんな…」


慢心していたつもりはなかった。しかし、便利そうに見えたマップの機能を完全に把握していた訳でもないのもまた事実だった。


十キロもの広範囲を映し出せるこのマップ機能を使えば、敵の存在に気づかない筈がない、と無意識に勝手に思い込んでいたのだ。


元のゲームの軍師の持つ地図機能にもそこまでの機能はないにも関わらずに、だ。


あくまでも敵が表示されるのはミニマップだけ、地図機能はただそれを重ねていただけに過ぎない。


そんな事にすら気づかなかったのか俺は…。


思わず口から漏れ出た言葉を聞いた護衛達の一人が、俺に声を掛けて来た。



「どうしましたか?」


「どうやら我々の留守を襲われたようだ」


俺の言葉に彼は驚きの表情を浮かべ、更に聞いてくる。


「なんと!姫様たちは無事なのでしょうか?」


「わからない。今のところは戦っている様だが…」



「ヴァイス殿、急ぎましょう!」



俺は自分のしでかした失態に一瞬頭が白くなりかけていたが、彼の強い言葉に我に返った。


「よし、急ごう」



俺は馬車のあるところまで走りながらマップで状況を見てみる。


どうやらリッケルトとハンスが馬車の周りで戦い、ヨハンが馬車の上からクロスボウを撃っているのが見えた。


敵は…、どうやら最初に撃退した野盗、いや傭兵団のようだった。


もしかすると俺たちはつけられていたのかもしれない。

俺達が分れたところで囲んで襲撃する。


起こり得た可能性に気づけなかった俺は、本当に名前だけの軍師だ。



だが、敵は奇襲に行った隊が直ぐに戻って来るとは思ってない可能性がある。

敵は四十名程。俺の隊は人数こそ少ないが、敵の背後から戦力を集中して攻撃することが出来る。


そこに勝機がある筈だ。



「よし、俺たちは正面の敵の背後から斬りかかる。

 今度は軍師の能力を使うから、さっきよりも更に戦えるだろう」

 

「「「はい!」」」



「では行くぞ!」


俺はウインドウを開いて馬車で戦っている三人を素早く配下に入れると、軍師の能力を使った。



致命傷は無いようだが、既に手傷を負っているリッケルトとハンス達の為に回復を行う。


「みんな、傷は浅いぞ!」



夢中で戦っている傭兵団とリッケルト達は俺の声に気づきもしなかったが、リッケルトとハンスの傷が直ちに全快した事で、二人は俺が戻って来た事に気づいたようだ。


奮戦のあまり疲れが見えていた二人の動きが俄然良くなる。


「奮え勇士よ!」


俺は剣を高々と掲げ、スキルを叫んだ。


直ちに、護衛達が淡い光に包まれ喊声を上げる。


「「「うぉー!」」」


目の前の護衛達のいきなりの変化に、傭兵団に動揺が走る。


「なんだ!?

 もしかして、もう帰ってきやがったのか!」

 

俺達は卑怯もクソも無く傭兵団の背後から斬りかかり、目の前の傭兵たちを斬り伏せていく。


いきなり後ろから斬りかかられて無事で済むわけもなく、攻撃を掛けた辺りが一気に崩れた。


「後ろだ!後ろから来やがった!」


後ろから斬りかかられて多くはパニックに陥ったが、何とか凌いだ傭兵の一人が声を張り上げた


「なんだと!

 ちぃっ、オスヴィン、ラウゴ、正面の敵は三人だ。

 お前たちの隊で押し包んで殺せ!」

 

「「おう!」」


「他は俺と後ろから来やがった奴の相手だ!

 敵はおれたちの半分以下だぞ!」



以前リッケルトと一騎打ちをした大斧使いの敵の頭目が、部下達を割るようにして前面に出て来た。


リーダーが前に出てくるのは褒められたものでは無いが、恐慌状態を治めて士気を高める方法としては古来より使われて来た手法だ。特にこの規模の傭兵団なら、自らの武勇で傭兵団を纏め上げている場合が殆どだからな。


前に戦った時にはこの傭兵団の頭目の能力はレベル位しか見て無かったから、今見れる範囲で見ておくか。



名前はグベルゲン。

レベルは18レベル、傭兵団「鉄斧団」の団長。

やはり傭兵団、それも団長以下斧に拘りがある傭兵団か。

クラスは兵士、元グーベック王国兵士長。

さっきの傭兵団の団長も元騎士だったが、元は仕える国があったというのか。

どちらの団長も傭兵になった経緯は分からんが、この辺りはそんなのが多いのか?


そしてあの業物の大斧は、あれも一応魔法武器か…。


戦斧『アカラグル』グーベック国王下賜の業物。

特殊能力は無いが命中と威力にボーナスがあり、名工ルムオガの手によるバランスの良い武器、か。

王様から褒美に武器を下賜される程の手柄を立てた男が、今は傭兵団の頭目とは何とも世知辛い。


今回は俺が相手をしなければ、他の護衛達ではいくらレベル補正があって装備が良くとも殺されるのがオチだ。


「敵の頭目の相手は俺がする。

 他の奴らの抑えは任せたぞ!」

 

「「はっ」」



俺はグベルゲンの方へと近づき、護衛達は左右に分かれてそれぞれが敵を抑えにかかる。


「またお前か、放浪の騎士さんよお。

 お前は行きずりに過ぎないのに、なぜここまで首を突っ込む。

 誰かに雇われたわけではないのだろう」

 

「袖振り合うも多生の縁、というからな。

 姫の危機を救うのは、放浪者とはいえ騎士の務めだろう」


「ぷっ、臭い事言いやがる。

 お前さえ出て来なければとっくに仕事を終えて、今頃は酒盛りしていたというのに。

 忌々しい奴め。

 仕方がない、どれ程の実力かはしらねえが、俺の斧の錆にしてやる」

 

そういうと、グベルゲンは斧を構え闘気を身体に纏わせる。


恐らくそれは兵士のスキルで身体能力が上がるなどの効果があるのだろう。


俺がやっていたゲームの戦士系クラスにも似た様なスキルがあった。



「止めておいた方が良いと思うが、そういう訳にもいかんのだろうな。

 では勝負だ、グベルゲン」


グベルゲンは驚きの表情を浮かべる。


「な、なぜおれの名前を」


「お前の経歴もみんな知ってるぞ」


明らかに動揺した表情を浮かべる。


「くっ、何か妙な能力を持ってやがるのか。

 畜生め、そんなの関係ねぇ!

 喰らえ!『大旋風』」


グベルゲンは動揺を振り払うと開幕大技を決めてくる。


大男の鎖骨にも届く程の大きな斧を豪快に踏み込みスイングする大技だ。


シンプルだが下手に受ければ武器ごと切断されかねない危険な技だ。

上手く受けきっても、完全に凌ぎきるか受け流さなければ、跳ね飛ばされてしまう程のパワーを持つ。


とはいえ前の世界の俺ならなすすべもなく真っ二つだが、この世界の俺ならばここまでレベル差があると斧の軌道や届く範囲が視覚的に見えてしまう。


熟練の斧の使い手であるグベルゲンの斧の軌道は美しい円を描くがそれ故に読みやすく、俺はその猛攻を難なくかわしていく。

そして、さしもの大男のグベルゲンも疲れが見えて来た。


俺がかわす事に専念していたのを圧倒していると勘違いしていたグベルゲンは、漸く俺の意図に気が付いた。


「くっ、俺が疲れるのを待っていたのか!」


「お前のようなタイプを相手にするには、一先ず往なした方が楽だからな。

 今度はこちらから行かせてもらうぞ」

 


俺は神速の間合いで素早く間合いを詰めると、グベルゲンの首筋に剣の腹を当てた。


既に疲労して動きが緩慢になって来ていたグベルゲンは、なすすべもなく昏倒する。



「お前たちの親玉は俺が捕虜にしたぞ!

 親玉を殺されたくなかったら降伏しろ!」


俺の声を聞いた傭兵たちの視線が横たわるグベルゲンへと釘付けになる。


これは一種の賭けだ。

グベルゲンが部下達の心を掴んでいれば見殺しにはしない。

しかし、そうでなければ部下達は蜘蛛の子を散らすように逃げていくだろう。


傭兵たちは暫し顔を見合わせると武器を捨てだした。


どうやらグベルゲン兵士長は、部下達をうまく掌握していた様だ。



リッケルト達が俺達の方へと合流してきた。


「ヴァイス殿、この者達を如何するのです」


「それはこの者に聞いてから決めます。


 グベルゲン、部下達に慕われて居て良かったな」


グベルゲンは敵意を込めて睨んでくる。


「くっ、なぜお前ほどの者がこんなところで放浪の騎士などしているんだ」


「さてな。国を失ったから…、とでも言っておこう」


厳密には異世界に飛ばされて、ギルドも所属陣営もそれ迄のゲーム内での付き合いや地位を全て失ったわけだが…。それを話すつもりはない。


俺の答えにグベルゲンが複雑な表情を浮かべる。



「そ、そうか…。

 それで、俺達を如何するつもりだ」


「この仕事から手を引いて速やかに退去するなら、見逃してやろう。

 いずれにせよ、お前たちともう一つの傭兵団は仕事をしくじった。

 戻ったところで、お前達の雇い主は良い顔をしないだろう。

 

 義理立てするのは自由だが、拒めば男爵家の姫の暗殺を企てた下手人として辺境伯に突き出す。

 

 この場でだけ取り繕っても、次に出会えば見逃す事はしない」


グベルゲンは項垂れている部下達の方を見ると答えた。


「…わかった。

 お前は俺を最初から殺す気が無かったんだろう。

 理由は分からないが、その気があればこの首を直ぐに落とせたはずだ」


俺は沈黙で返す。


「俺達は速やかに退去しこの国から出ていく。

 いずれにせよ、貴族から受けた仕事でしくじったんだ。

 この国ではもう仕事は出来ない」



グベルゲンとその傭兵団は、手負いや戦死者を纏めると速やかに退散していった。

この辺りの手際の良さは流石に傭兵団といった所か。


これで、全てだと良いんだがな。


俺のやる事を黙ってみていたリッケルトは、俺に対して姫への報告を求めてきた。



馬車に近づくと、使用人と姫が出て来た。


「ヴァイス様、この度の働き感謝致します。

 今は言葉をお掛けする事しか出来ませんが、必ずこの恩には報います。

 

 ところで、リッケルトから報告を受けたのですが、何故傭兵団を逃がしたのです?」


「彼らは仕事があればその武力で働き食べることが出来ますが、仕事が無くなればたちまち食い詰める。

 大きな戦が続いて居れば、彼らは食い詰める事は無いでしょう。

 しかし、戦が長らくなければ貴族などに私兵として雇われたりと、その場限りの仕事をするしかなくなります。

 仕事にしくじったり報酬を払ってもらえなかったりなどで十分に稼げなければ、たちまち食い詰めてしまうのです。

 そして、傭兵団は食い詰めれば野盗に鞍替えする場合が多い。


 それくらいしか、彼らも食べる道が無いからです」


アメリアの顔が曇る。


「傭兵団としてまとまっていてもその有様なのですから、頭目を殺せば傭兵たちは蜘蛛の子を散らすように逃げだすでしょう。

 今の私達では人数が余りに少なく、彼らが本気で逃げれば全てを取り押さえる事など出来ません。

 逃げた傭兵たちの多くは野盗となり、近隣の村々を襲ったりと害為す存在となるでしょう」


「わかりました。

 それで他国へ退去させたのですね」


「そういう事です」


実のところ、他にも当然理由はある。

本気で数で包まれれば、全員が無事では済まなかった可能性がある。

これで襲撃が終われば良いが、この先さらに別の傭兵団が待っていた場合、護衛を一人でも減らすのは得策ではない。

頭数そのものは俺のスキルで何とかならなくも無いが、今はそこまで手の内を晒す気はない。


そして俺は、傭兵団の団長を見逃す事で彼等に貸しを作り、傭兵団との伝手を作った。

以前のゲームであればゲーム内のシステムもあり、幾つも契約している傭兵団が居て大規模戦争の時に活用していたが、別世界であるこの世界では新たに傭兵団とのコネが必要だ。

勿論、以前の様に大規模戦争に参加するとは限らないから、あくまで今の段階では伝手が作れればそれでよかったのだ。



「それでは、ヴァイス様。

 あと少しで辺境伯領に入りますが領都までの護衛、引き続きよろしくお願いします」

 

「承りました」



こうして俺たちは再び辺境伯の元へ向け、馬車を進ませた。



傭兵団を二つ退け、辺境伯の元へと歩を進めます。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ