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第三話 おっさん軍師、鍛冶をする。

一先ず敵を撃退しましたが一行はボロボロです。





俺は、男爵家の姫の護衛任務を請け負ったわけだが、どうにもこの男爵家一行は訳ありな気がする。


と言うのも、一行を襲撃した野盗は、恐らく傭兵団である可能性が高い。


傭兵は戦争があれば兵士として雇われるが、戦争が終わり仕事が無くなれば野盗に変身する連中も多いから、野盗をしていても何の不思議もない。


しかし貴族等の所謂貴人を襲えば、たとえそれが弱小の男爵家だろうと寄り親の大貴族が黙っているわけがない。

身代金で一儲けどころか、討伐隊を差し向けられて報復に皆殺しに遭うのがオチだ。


実際、ゲームの中ですら討伐依頼が普通にあったからな。


つまり今回の野盗は全く割に合わないことをやっているという事からも、彼等が誰かから何らかの意図で仕事を依頼された傭兵団である可能性が非常に高いと思う。


野盗が傭兵である可能性を指摘した時の男爵家一行の表情からも、何か思い当たるところが有る様だしな。


だがいくら助けたとはいえ、たまたま出くわしたに過ぎない俺が男爵家の事情に立ち入るべきではないだろう。



それより、まずは依頼内容を達成する事を考えなければ。

襲撃があれ一回で終わり、という事は無いだろうからな。



だがしかし、既に一行は当初より護衛の数を減らしてしまい、全員が乱戦ですっかり疲弊しており、装備も傷んでしまっている。


心身の疲労は比較的簡単に回復することができる。


しかし、護衛たちが装備している板金鎧は防御力は高いが、革鎧と異なり大きなダメージを受ければ凹んでしまい修理しなければ元に戻ることはない。見れば、部位も所々が破損しているし脱落してしまっている箇所もある。


それに、隊長のリッケルトの剣はもうダメだ。

元は業物だったのだろうが、敵のリーダーの斧を受けてすっかり刃こぼれして芯が歪んでしまっている。


主戦力の武器がこれでは残りの道中心もとないことこの上ない。



「リッケルト、貴殿も含めて全員の装備が乱戦ですっかり傷んでしまっている様ですが、替えは無いのですか?」


「恥ずかしながら…。

 まさか男爵家の領内で、あれほどの人数の野盗の襲撃に遭うとは予想外で…」


どうやら、この辺りはバノック男爵家の領内で、普段ならあの護衛の人数でも問題が無い程度には治安が悪くないという事か。


だとすると益々これで済むとは思えないな。



幸い、俺はすべての生産スキルをカンストさせたクラフトマスターだ、ゲーム通りの性能なら装備は何とかなる。

だが、もし性能がゲームそのままの仕様だとチートすぎるぞ…。


「私は鍛冶も少々嗜んでいます。

 このままの装備の状態では心もとないでしょうから、私が何とかしましょうか?」

 

「ヴァイス殿は中々に多才なお方ですな。

 では、お言葉に甘えさせてください。

 正直剣もこの有様では、この先万が一何かあっても満足に戦えません」


支給品とはいえ討ち死にした者の装備を拝借というのはこの世界でもまた憚られる様だ。



「では、この場所ではまずいですから少し移動するとしましょう」


俺は地図を開くと街道沿いで小休止が取れそうな場所を探す。

そしてここから少し行ったところの森の中に、丁度馬車を隠せそうな窪地を見つけた。


「ここから少し先に進んで森の中に入ったところに、馬車を隠せそうな窪地があります。

 そこで小休止といきませんか」

 

「そんなところが有りましたか。

 では早速」

 

リッケルトが姫の乗った馬車に委細を説明すると、一行は移動を開始した。


俺は討ち死にした護衛が乗っていた馬を一頭借り受け、馬に揺られながらマップを開け目的地まで案内する。


馬は前の世界でも乗ったことがあったのが良かったのかはわからないが、特に苦労することもなく乗ることができた。

馬が良かったのか、あるいはこの身体が乗馬を覚えているのかそれはわからない。



三十分ほど街道を移動すると、一行は俺の指示で森の中に入っていく。


するとそこにはマップにあった通り丁度良い窪地があり、そこで小休止をすることにした。


俺はまずは無限収納からコンロを取り出して湯を沸かすと、体が温まり活力が湧いてくるハーブのお茶を作り、それを皆に振舞った。



「ヴァイス殿、そのコンロは魔法道具なのですか?

 まるで煙が出ない」


「ええ、これは携帯用の魔法道具。

 屋外では、出来ればあまり煙を出したくないですから」

 

「それは貴重なものを。

 確かに、特に今のような状況であれば薪を焚くのは危険ですからな。


 この頂いたお茶は木の根のような風味がしますね。

 ですが、とても美味しい。

 体が温まり疲れが内から癒されていく様です」

 

「ええ、そのお茶は魔法植物の根を加工したものなのです。

 味もまずまずだし、体の疲れを取り傷を癒す力を高め、活力が湧く効果があります」


「そんな貴重な物でしたか。

 そのような物があるとは知りませんでした。

 感謝いたします」

 

「いえ、気になさらず。

 では、早速仕事にかかることにします」



俺は無限収納から一メートル四方程の真っ黒な箱を取り出す。


これは、ゲーム内でクラフトマスター達成先着十名に記念品として配布されたアーティファクト『無限工房』だ。


この箱は究極の生産設備で、すべての生産品をこの工房で作ることができるのだ。

そればかりか『無限工房』のネーミングの元になっているチート能力である上位レシピ以外の素材が不要。

つまり上位のマジックアイテム以外、素材が無くとも好きなだけ生産可能という事だ。


こんな機能が付いていたらゲーム内経済が壊れると思ったが、実際はゲーム内経済にはほとんど影響がなかった。


元々所謂数打ち物的な量産品はスキル上げの為にクラフターが膨大な量を生産しており、殆ど原価か原価割れで販売していた。

それこそレベル制限の為に装備こそ出来ないものの、ゲームを始めたばかりの新人でも購入できる値段で売られて居たわけで。


そこに僅か十人のマスタークラフターが手数料だけで無料にして売ったところで市場には何の影響も無かった。


そもそもマスタークラフターになる程の廃人は、最上級生産品の製作の為にひたすらスキル上げに励んできたわけで、目標を達成したらそれこそギルドや仲間内の為にそのスキルを活用して最上級生産品の生産に没頭する。

無料で量産できる量産品なんて作る訳もなく、精々知り合いの新人君向けの新人セットを作る程度。


それはポーション類に関しても同じで、普通のポーションは例えば体力を回復するだけだが、上級ポーションともなると体力と魔力を同時回復とか、或いは解毒の上体力も全快させるとか。

明らかに特定のレイドボスを意識したような特別の品であり、それは当然ながらレイドともなると湯水のように使うが、特別な素材が必要で無料で作れるわけもない。


そんな訳でゲーム内では貰った十人にとっては、沢山の生産道具を持ち歩かなくても済むな程度の代物だし、殆どの人にとっては、そんなものがあるのか程度の代物でしかなかったのだ。


ところが、現実世界でもあるこの世界で『無限工房』がそのままの性能だったなら、それはチートその物。

この世界で自由に生きていく心算なら、余りおおっびらにはしたくない代物だ。



「黒い箱…、それも魔法の品か何かですか?」


リッケルトや護衛達が物珍しそうに俺の周りに寄ってくる。


「ええ、まあそんな物です。

 それでは、一人ずつ装備を私の前に置いてください。

 それを元に新しい装備を用意しますから」

 

「ああ、そうですね。

 では、お前から順に」


そう言うと、一人の護衛に指示する。


その護衛は俺の横で順番に装備を脱いでいく。

鎧の下はソフトレザーか何かのチュニックとズボンを着こんでいるのか。


鑑定スキルで順に見ていくが、剣は普通の鋼のロングソードで手入れはされて居るが量産品。盾も木枠に金属を張った一般的な物で鎧も普通の板金鎧。



この世界でレベル制限が働くかどうかは分からないが、レベル制限の無い装備を出しておくのが無難だろう。


ならばファインスチールで良いか。


『無限工房』を立ち上げると、多分周りには見えていないと思うが、ゲーム中で表示されていた生産画面が浮かび上がる。

そこから清算する装備を選んでキューに入れていくと、自動的に生産が始まる。


そして一分掛からず一人分の装備が取り出せた。


ファインスチールのロングソード、盾、板金鎧のセット。

戦士を選んだ新人に良くプレゼントしていた武器防具の一式だ。


しかも、俺はただカンストしただけではなく、最上級の装備すら生産可能なグランドマスター。量産品なら判定なく特級品の銘付きとなる。


店売りの低級品とは比較にならない性能で、負荷要素は無いがマジック装備並みの性能を誇る高性能品だ。


但し、量産品だから見る人が見ればわかる程度で見た目は実に地味。

この辺りはゲームっぽいよな。


新しい装備を手渡すと、早速装着して皆の前に立ってみる。


元の鎧が貴族の護衛らしく平兵士であっても意匠を凝らしたものだったが、俺の出した装備は何の意匠も無い。


周囲の護衛達の期待に満ちた表情が、たちまちガッカリな表情に…。


しかし、新装備を身に着けた兵士が地味な剣を抜いて使い心地を試したところで、彼の顔色が変わる。


「この剣…、素晴らしいバランスですね。

 今まで使っていた剣とは比べられない程で、まるで私の剣の腕が上がったように感じますよ。

 しかも、鎧もとても動きやすく軽く感じます。


 こんな素晴らしい装備を頂いて本当に良いのでしょうか…」


「ええ、気にしなくていいです。

 自分で作るので安く作れますから」


はっきり言うと無料だし…。


「ありがとうございます!」



それを聞くと他の護衛達も再び期待に満ちた表情に戻った。


半時間位でリッケルト以外の装備を交換し終えた頃には、めいめいが自由に装備を試していて、周囲はさながら練習場みたいな有様だった。


これで護衛の装備は最低限だが一先ず大丈夫だろう。



「リッケルト、貴殿の鎧は問題無さそうだが、剣はそのままでは駄目だ。

 一先ず見てみるから預かろうか」

 

「ああ、お願いします。

 もうダメかも知れないですが、これでも家に伝わる大事な剣なので…」


ほう、業物に見えたが家伝の剣か。


ちなみに、『無限工房』は修理も受け付けているから心配無用だ。


鑑定スキルで見てみると、確かに二百年ほど前に打たれた古い剣だな。

ほう、マジックでは無いがコバルトとクロムが使われた合金か。


これを作った鍛冶師は相当な腕だぞ。

前の世界のマスターまでは行かない迄も限りなくマスターに近い腕前の鍛冶師だ。


流石に家に伝わる程の剣は違うという事か。


勿論、この剣であれば何の問題も無く新品同然に修理可能だ。


但し長い年月が作り出したいぶし銀の渋みは、すっかり失われてしまうだろうけど…。


俺は『無限工房』に剣を入れると修理を選択する。

ここで指定を間違えると材料にしてしまうからな。


これが『無限工房』の恐ろしいところで、間違えて分解を選択するとマジックアイテムすら中間素材のレベルまで戻してしまうのだ…。

便利ではあるのだが、一度修理を頼まれたマジック武器を分解してしまって自分で取りに行く羽目になってしまった事がありトラウマになった。



程なくして修理が終わり、打たれたばかりの新品としてリッケルトの剣が出て来た。

鑑定スキルで調べても、何の問題も無く新品の状態だ。


俺はリッケルトに剣を戻す。


「こ、これは…。

 新品に見えるのだが、本当に私が渡した剣なのか?」


リッケルトはピカピカの剣を見て顔を引きつらせる。

それはそうだろう、家伝の品と言っていたからな。似た剣と交換などされてはたまらんだろう。


「心配するな、それは貴殿の剣だ。

 使ってみたらわかるだろう。家に伝わっていた剣だから、今迄数え切れない位振っているのだろう?」


半信半疑の表情で剣を振り、何度か風を切る。すると。


「確かに…、これは私の剣の様だ。

 だが、まさかここ迄新品同然になるとは…」


「魔法では無いが、魔法の様な物だと考えてもらえればそれでいい」


「そう考える事にします…。

 ヴァイス殿、感謝します。

 これで家伝の剣を失わずに済みました」


『無限工房』を手に入れる前に使っていた道具を出せば、以前のやり方で修理も出来たんだろうが、それだと炉が無ければ、ここで簡単に修理するのはそもそも無理だ。



「それでは、休憩も十分出来た事でしょう。

 そろそろ出発しましょうか」

 

「ええ、そうですね」


リッケルトは姫の馬車に出発を告げに行くと、全員に号令を掛け再び街道へと戻った。


地図で索敵をしながら街道を進んでいたが、一時間ほど走ったところで矢張りと言うか、五十名程が森で待ち伏せている場所を発見した。


しかもその場所は、目的地へ向かう為には迂回することが出来ず、必ずそこを通るしか無い場所であった。


馬車を止めて姫にどうするか指示を仰ぐことにした。


姫の馬車にリッケルトと乗り込むと、不安げな表情を姫が浮かべていた。


「リッケルトから聞きました。

 この先で賊が待ち伏せしている可能性が高いと」


「ええ、五十名程が森に隠れていると思います」


ちなみに、探索魔法というのがこの世界にもあり上位者になればかなりの範囲の存在を知ることが出来るそうで、俺の能力もそんな感じの能力だと勝手に判断してくれた。


それを聞き、姫が傍の使用人を見る。


「爺…」


「姫様…、お気を確かに。

 リッケルト、お前も知って居ようが、姫は辺境伯の元に行かねばならぬのだ」


「勿論、存じております。

 今行かねば男爵家は…」


「これ、ヴァイス殿の前で込み入った話をするでない。

 このような話に巻き込んで良い物では無い」


リッケルトがハッとして口をつぐむ。


つまりは貴族同士の何かで、姫が辺境伯の元に行かなければ男爵家はやばい事になると。

そんな感じの事なのだろうか。


とはいえ、今の護衛の人数ではいくら装備がマシになろうと、五十人も相手にするのは危険極まりない。相手のレベルもわからないしな。


暫く沈黙が続いた後、姫が俺に聞いてくる。


「ヴァイス殿、何か策はありませんか」


俺は軍師だ、と答えていたから、軍師として何か策を出せと言ったところか。


だがしかし、軍師とは言っても俺の場合チートバフ使いなだけで史実の名軍師の様に頭が特別切れるわけでも軍略に長けている訳でもない。


ただ、ギルドウォーや国家間戦争に何度も参加していたから多少は経験があるというだけだ。


「そうですね…。思いつく策が三つばかり。

 一つは、馬車で突っ切る、という手。

 但し、馬がやられると面倒な事になります。

 

 一つは、正々堂々と正面対決、と言う手。

 

 もう一つは、これは上手くいくかどうかは正直わかりませんが、逆に敵の背後から奇襲をかけて敵が気づいて対応してくるまでに可能な限り敵の数を減らす、と言う手です」


正々堂々と正面対決も実のところ、まったく勝算が無い訳では無い。

俺の軍師としてのスキルを使えば、何とかなる様な気がする。


俺としては、馬車で突っ込むのが一番楽だと思うんだがな。



三人は俺の策を聞いて一先ず考え込む。


チート無しで考えれば、三番目が一番可能性がありそうにも見えるが…。



先ず、姫が意見を述べる。


「馬車で突っ切るのは、万が一の時に取り返しがつかない事になる可能性がありそうですね」


次に爺が。


「正面対決は勇ましいが、敵は五十人も居るのだろう。

 先ほどもヴァイス殿が来なければ危なかったのだ。

 今はそのヴァイス殿が居られるが、矢張り正面対決は無謀ではないか?」


最後にリッケルトが。


「姫様たちをどこかに隠し、自分とヴァイス殿と数名の護衛で敵の背後から斬り込めばただでさえ視界の悪い森の中、敵に全力を出させず討ち果たす事が出来るのではないでしょうか」


やはり、三番目を選ぶか…。


「わかりました。

 それでは三番目の、敵に奇襲を掛ける策で行くことにしましょう」

 


こうして俺たちは姫と馬車を隠すために再び森へと移動した。




装備も整え、道を進みだせば敵の待ち伏せ。

一行は逆に敵に奇襲を掛ける事にしました。


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