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第二十話 おっさん軍師、狩りをする。

いよいよ狼を狩ります。






そこには確かに狼の群れが居た。



フォレストブラックウルフは黒い艶やかな体毛の狼で、大きさはシェパード位だろうか。

全身黒ずくめという訳でも無く、下部は灰色のグラディエーションになっていて、この辺りは前世の地球の狼と大きく変わるところは無いな。


頭数は全部で六匹、恐らく群れのリーダーだろう一回り大きな狼を中心に周囲を警戒しているように見える。


あちらも狩りの途中と言ったところかもしれないな。


狩りの前の食事の際に打ち合わせた段取りはこうだ。


狼は群れのリーダーが倒れると最後まで踏みとどまったりする事は無く、蜘蛛の子を散らすように方々に逃げてしまうらしい。

こうなってしまうと、再度の捕捉は難しく、弓の有効射程の向こうまで逃げてしまうとお手上げだ。


だから、狩りの時は若い狼、つまりは小柄な狼から狩っていくらしい。


勿論、群れのリーダーは若い狼が狩られていくのを指を咥えてみている訳もなく、まっしぐらに反撃してくるから、これの相手をする必要がある。


つまり、弓でまずは狩れるだけ狩って、群れのリーダーを迎え撃つ段取りになる。


但し、群れのリーダーも馬鹿ではなく、群れが弓で全滅しそうになると一匹で突っ込んでくる事は無く、その場合は逃げてしまう。


もっとも狼は機敏で俊敏なので、不意打ちでも無ければ矢を避ける事も有るので、手慣れた狩人でも群れを綺麗に全部弓で狩れるわけではなく、その辺りの駆け引きは経験がものをいうのだろうな。


今回の場合、最初はキーラと俺で若い個体から弓で狩っていき、群れのリーダーが出て来たら俺が相手をする。群れのリーダーを俺が相手をしている間に、キーラは他の狼を弓で狩ってしまう。

狼は群れで連携して戦うが、基本的にはリーダーが狩っているターゲットを集中して倒す習性がある。まあこれは普段の狩りを考えれば当然と言えば当然だが。


だから、連携をとるべくリーダーが戦っている周囲でチャンスを狙っている狼を狩るのはそれほど難しくはないらしい。


つまりこれが、フォレストブラックウルフ狩りにはペア以上が推奨されている理由だ。



一人で狼狩りをする場合は、逆に群れのリーダーを真っ先にやってしまえば、群れの他の個体は散り散りになるから、確実に群れのリーダーは仕留めることが出来る。

ただ、これでは群れの内の一匹しか狩ることが出来ず、純粋に群れのリーダーだけを獲物とする狩りというなら兎も角、今回の様な間引き仕事には向かない狩り方だな。



閑話休題、キーラが背負っていた弓を手にすると矢筒から矢を数本取り出す。


そして、俺の方に目配せをすると、まず最初に狩る狼を指差しキーラと俺に割り振る。

キーラはまず二匹を狩るらしく、俺の担当は、今回が初めての狩りだから、一先ず一匹だけの様だ。

その代わり、リーダーがやってきたときは俺が迎え撃つ、というわけだな。


俺も無限収納から弓矢を取り出す。

如何にもファンタジーMMORPGと言わんばかりの、ギミックの凝った様なマジックボウも沢山持っているんだが、さすがにこの世界の実態がわかるまではあんまり派手な装備は使いたくない。

実際、キーラが使っている弓も如何にも実用性の高そうな動物由来の素材を使った複合弓で、アクセントに羽飾りが少し付いているくらいだ。

そんなわけで、俺が選んだのも無難なデザインの量産品の複合弓。

勿論俺が自分で作った弓で、生産品レシピを全て埋める時に作った物だ。


生産スキルを上げる時に、初めて作った生産品は経験値に大きなボーナスが付くシステムだったから、生産可能な生産品は全部作った。だから、こういうスキル上げの時に作った量産品も俺の拠点のクラフト部屋のアイテムボックスに無造作に突っ込んでいたやつが今役に立ったと言うわけだ。


俺は矢を番えて弓を構えると、キーラに頷き返した。


キーラも頷くと、矢を番えて弓を絞り出す。

キーラの弓は結構な剛弓なのか、弓を引き絞るとキリキリと音がする。


俺もキーラに合わせて弓を引き絞ると、こちらはキューッと音がして、同じ複合弓でも材質でやはり音が違うんだなと改めて再発見。

ゲームだと弓を引き絞る音なんて気にもとめてなかったからな。


狼までの距離は150m程だろうか。ちなみに、150mというのはドーム球場のコンサートの時のステージから一番後ろの席より更に遠い距離で、前世より格段によく見えるとはいえ裸眼で狙うのは正直厳しい距離に見える。


そもそも俺はゲーム内なら兎も角、実物の弓なんて遊びで触ったくらいで、まともに射たことがないのだ。


しかし、剣の時の経験からすると弓も恐らく弓系クラスマスターらしくそれなりの腕を発揮できるはずだ。


そんな事を考えていると、キーラが先に宣言していたターゲットに矢を射る。矢は狙い違わず群れでは一番小柄な狼を射抜く。途端、群れが警戒を強めるが、更に二射目をキーラが放ち今度も見事二匹目のターゲットに命中した。


群れのリーダーは直ぐに俺達に気付いたのか、猛然とこちらに向けて突進してくる。


その速度は俺が想像より遥かに速く、100mを5秒で走り抜けるというハウンド犬より速そうだ。


俺は覚悟を決めて、先ずはターゲットの狼に狙いを定めると、まるでFPSの様なレチクルが表示され、その中心に向けて矢が飛翔するだろう軌跡が表示された。そしてレチクルをターゲットに合わせると赤くハイライトされ、今だと思った瞬間シュッと矢が放たれた。

矢はそのままレチクルの軌跡を通りターゲットの狼に命中、射られた狼は前のめって転がり倒れた。


数を半数に減らした狼達は逃げるのかと一瞬思ったが、リーダーはそのまま俺に向かって躍り懸かってきた。

おれは直ぐに武器を剣に持ち替えると、狼の動きに合わせて体を反らせ、狼の喉に剣を突き立てた。


恐らく70キロ近い狼の体重が俺に圧し掛かり、下から突き立てた剣がそのまま狼の喉に沈み込む。

そして、狼はそのまま動かなくなった。


キーラは俺の動きにうまいこと合わせて、もう一匹を射抜き、更に逃げようとした最後の一匹も素早く射抜いて群れは全滅した。


俺は、覆い被さっている狼の身体をそろりと地面に下ろしてから剣を抜いた。

途端、喉の傷口から血がピュっと一吹きし、血溜まりを作っていった。


キーラに、毛皮が痛むから注意して狩るように言われていたので気をつけたつもりなのだが、果たしてこれで大丈夫だったのだろうか。


「キーラ、見事な腕前だったな」


「狩人だから当然だニャ。

 ユートも流石ニャ、まさか群れのリーダーを一刺しで倒してしまうとは思わなかったニャ」

 

そうだ、キーラは俺がリーダーと戦っている間に他の狼を狩るんだった。

群れのリーダーが俺の想像よりずっと早く迫ってきたから、思わず倒してしまった。


「済まなかった。段取りどおり行かなかったな」


「ニャハ、今回始めて一緒に狩りをしたんだし、しかも全部狩れたから問題ないニャ」


「はは、そうだな。

 じゃあ、狩った獲物は一先ず俺の収納に入れておくから、次の群れを探しに行こうか」

 

「頼むニャ。

 その収納があると随分狩りが楽になるニャー。

 キーラもほしいニャ」


まあ、そうだよなあ…。

でも、ゲームでも無限収納みたいなアイテムは無かったしなあ…。

この世界にも、そういうアイテム自体が存在しているようだから、そのうち手に入るのかな。


「はは、俺も随分助かってる。

 でも、これは一つしか無いんだ。

 済まないな」

 

キーラが驚いた表情を浮かべてフルフルと頭を振る。


「そんニャ希少なアイテムを貰おうなんて考えても無いニャよー。

 ユートと一緒に居れば預かって貰えるからそれで十分ニャ」

 

「うん、そうだな。

 持ってほしい物があれば遠慮なく言ってくれ」

 

「キーラは狩人だから身軽で居るように気をつけているから大丈夫ニャ。

 でも、狩った獲物の運搬はいつも頭を悩ましているから、凄く助かるニャ」


「ああ、確かに」


俺は一先ず六体の狼の骸を収納に放り込んだ。


このまま解体も出来るが、今回はこのまま後でキーラに渡そう。


「次の獲物探すにゃ。

 先にこの場所から少し離れるニャ」


どうやら、フォレストブラックウルフのテリトリーはある程度離れているらしく、また痕跡も狩りの後は荒らされてしまっているから、こうやって場所を移動していくものらしい。


俺はキーラに続いて更に森に分け入っていった。




一先ず初戦はあっさりと終わりました。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 150mが有効射程とか異世界のアーチャーは次元が違う。 届くか届かないかという話ならともかく、狙って当てる距離なんて常識的には100m以内だし。
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