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第十九話 おっさん軍師、森を探索する。

森に到着したので、早速仕事を始めます。





キーラの所に戻ると、ファイヤーピットにくべられた薪の上で、鍋が良い匂いを漂わせていた。


ファイアーピットには手慣れた様子で枝を器用に組み合わせたトライポッドが組まれていて鍋が吊り下げられていた。


スープが煮えている鍋は銅だろうか、金属製の瓶みたいな形をした鍋だった。所々凹んでいて結構使い込んでる感じで、前世だと存在しなかった獣人であるキーラも人と同じように普通に生活してるんだな。


そう考えると、更にキーラが身近な存在に感じられる。


「ユートはそこに座るニャ」


キーラが指さした、ファイアーピットの周りに並べられた椅子代わりの大きな石の一つに腰を掛けると、早速と木のお椀にスープを盛ってくれた。


「ありがとうキーラ、頂くよ」


キーラが微笑んで匙を渡してくる。匙も木製だな。


早速と、手渡された匙でスープをかき混ぜてみる。


平たい小さい豆が沢山入っていて、これはレンズ豆みたいな物か。

それに、サイの目に刻まれたジャガイモと…。

これは刻まれた肉だろうか。


一掬い食べてみると、予想以上にしっかりと味が付いていて、スープに入っていた肉はどうやら豚か何かの塩漬け肉っぽいな。


塩漬け肉は干し肉ほどでは無いが日持ちするから、アウトドアにはもってこいの食糧だ。


多分、これはブラムデンで昼飯を食べた、あのキーラの従姉妹アデラの店で仕入れた物なんだろう。

だとするとこれはジャイアントボアの塩漬け肉か。


味付けは塩の他、ハーブが入っていて適度に肉の臭みが抑えられ、香り付けがされている様だな。


うん、普通に美味いな。


俺は小腹が空いていたのもあって、あっという間にお椀が空になった。

直ぐにキーラがお替わりを注いでくれて。


なんだかこういうのは久しく忘れてた感覚で、良い感じだな。

俺は前世では仕事仕事で死ぬまで結婚もしなかったし、ゲーム内では兎も角リアルではあまり他人との交友関係は無かったからな。


「キーラのスープ中々美味しいな」


俺が褒めるとキーラが照れる。


「そうかニャ?

 ユートみたいな料理の上手い人にそう言って貰えると嬉しいニャー」


キーラはそう言ってくれるが、俺は前世では学生時代は兎も角、働き出してからは殆ど三食外食で、料理なんてあまりする機会も無かったから、ズルしてる様な気分でちょっとむず痒いな。




腹ごしらえを終えた俺たちは、早速仕事に取りかかる事にした。


仕事はフォレストブラックウルフの間引き。


具体的には、群れを二つ程度狩る。群れの規模によって誤差があるが、数にすると群れ二つで十体程度らしい。

勿論、群れ二つだけ狩れば終わりという訳でも無くて、狩れるなら更に狩った分だけ追加報酬が得られるのだが、狩りというのはただ数を倒せば良いという訳でも無くて、フォレストブラックウルフの狩りの達成証明の品は皮であり、その皮のクオリティで割増し報酬の額が大きく変わる可能性がある事からも、この仕事は生産素材収集の側面もある訳だ。


当然、魔法の収納でも無ければ十体もの狼の死体を運んでいけるわけもなく、解体して運んだとしても十体が精々、多くても十五体、或いは二十体程度になるのが限度だろう。


そもそもこのフォレストブラックウルフの間引きの仕事は、一人で受ける事が推奨されていない仕事だそうで、かといって大人数で受けるほど割りが良い訳でも無く、基本的には狩人だが冒険者としても登録しているキーラの様な人が極少人数で受ける仕事だそうで、大人数でフォレストブラックウルフを大量に狩ってくるという事は想定されて居ない仕事のように見える。


キーラの話では、フォレストブラックウルフは個体ではそれなりに経験のある狩人や冒険者にとってはそれ程脅威という訳でも無く簡単に狩れるそうだが、基本群れで行動し連携をとって戦う機敏な動物の為、二体になればそれこそ三倍の脅威にもなりえるそうだ。

フォレストブラックウルフの群れの間引き仕事を一人でやる事が推奨されて居ないのは、これが理由らしい。


勿論ながら、前世で読んだラノベの様にチート無双でフォレストブラックウルフを大量に狩って大量に死体を持ち込むなんて事は、想定もされて居ないだろうな。


多分、今の俺にはそれが可能な気もしなくは無いが、そんな事をすれば悪目立ちするだけでなにも良い事が無いだろう。


それより、折角この世界に転生し新たな人生を生きているのだから、まずはこの世界の常識を学びながら、この世界のやり方で楽しむべきだと思う。



ちなみに、キーラは流石に狩人らしく解体はお手の物らしい。俺は当然ながら前世でも解体の経験なんてないし、ゲーム中ではスキルがあればクリック一つで死体が素材になってしまったので、実際に解体される現場が画面に表示されたわけじゃない。


或いは無限収納に死体を入れて解体コマンドを選択すれば、そのまま素材に分解されて収納されてしまう。恐らくクオリティもそれなりの物が出来上がるだろう。


しかし、ここは勿論やる気になってるキーラにお任せするのが一番だな。



「ユート、ウルフは群れで行動するから一匹見掛けたらその周囲に群れが居るニャ」


「わかった。

 それで、フォレストブラックウルフはどうやって見つけるんだ?」

 

「獣は動けば大抵は何か痕跡を残しているから、それを見つけて辿るニャ」


おお、なんだか本物の狩人みたいだぞ。


『エターナルファンタジー』のクラスにも弓士の上位クラスに『レンジャー』というのがあったんだが、その『レンジャー』の技能に〝探索〟というのがあった。

この技能は、ある意味チート級の便利スキルで、このスキルを使いたいが為に『レンジャー』を獲得し鍛えている人が居たほどだ。


探索スキルの便利な所は、レベルによって探索範囲が広がっていくのだが、探索範囲内で魔法やスキル等で隠蔽されて居ない動物や魔物全てをリストで表示する事が出来るところだ。

勿論、マスク機能等もあって、動物だけとか、魔物だけとか、どんな種類でも抽出出来るし、或いは特定のターゲットだけを探索する事も出来た。


この技能が素材狩りやレアモブ狩りに重宝しない訳はなく、出現地点で延々と待ち続けなくとも、居るかどうかがすぐわかるから、複数の狩場を巡回する事だって簡単だ。


お陰で、出現地点で沸き待ちをしていると、レアモブが出現した途端レンジャーが現れるなんて事は良くある光景だった。


本来ならそのクラスにならないと、そのクラス固有のスキルは使えないし、ダブルクラスにした場合は、サブクラスにしたクラスの能力が半減してしまうペナルティがあった。


しかし、この世界ではサブクラスなんてものは無く、どうやらクラス自体は軍師で固定されている様なのだが、全てのクラスの技能、装備がそのまま使えるというチート状態で、本来レンジャーしか使えない探索スキルもそのまま使えてしまうのだ。



そんなわけで、探索スキルがこの世界でも使用可能か、ちょっと試してみるとしよう。


俺は、もはや見慣れたメニュー画面から探索スキルを探し出すと、早速使ってみた。


すると、エターナルファンタジーそのままに探索ウインドウが表示されて、探索範囲内で引っかかった獣などがずらずらと表示された。


どの位の範囲が表示されているのかわからないが、人らしい名前も引っかかったので、キーラの話していたこの森で活動している木こりや狩人たちかもしれない。


この探索スキルは、具体的な距離までは流石に表示されない。

そのターゲットの方向とそれが遠いか近いか、更には特に脅威の高い対象は色違いで表示されるから、一人では手に負えなさそうな、ゲーム風に言えば〝名前付き〟に出くわすのを避ける事が出来る。逆に言えば、グループを組んでいる等で例え脅威度の高いターゲットであっても狩れそうな場合は、そういったターゲットばかりを狙って巡回するなんて事もやっていた。


勿論ゲームと現実は違うだろうから、一度倒せば再びそれが出現するなんて事は無いだろうし、そうそう脅威度の高いターゲットに出くわす事も無いだろう。多分…。


探索ウインドウには膨大な数の動物や人が表示されていて、動物を選択すればそれが何であるのか、ヘルプ機能から写真付きでデータを表示させる事も出来る。恐らく一般的な動物だけだろうとは思うが、これは有り難いな。


俺は探索ウインドウを操作すると、表示対象を絞り込んでいく。


ちなみにキーラはと言うと、狩人としてのスキルを発揮して、対象のフォレストブラックウルフの痕跡を探索中だ。


俺はキーラの邪魔にならない様に、周囲をミニマップで注意しつつ後をついて行っている。


探索ウインドウで対象を種類で絞り込み、更に距離で絞り込むと、フォレストブラックウルフの群れが一キロ範囲の中に、どうやら二つほど居るみたいだ。


ここで方向をキーラに教えるのは簡単だが、折角のキーラの見せ場に水を差すのは野暮と言うものだろう。


そんな事を考えていたら流石現役の狩人、程なくウルフの痕跡を見つけ出した。


俺なら注意して見ていないと見落としてしまいそうな、地面に残った足跡だった。


「ユート、見つけたニャ。

 この足跡はフォレストブラックウルフに間違いないニャ」


俺はキーラに言われた場所をしっかりと見てみると、確かに前世で見た事がある犬の足跡に似た足跡が残っていた。勿論、前世で見た事がある犬の足跡よりはずっと大きく、大型犬程の大きさがありそうだ。


ちなみに、このフォレストブラックウルフは子供の頃から飼えば人慣れするらしく、育てて狩りのお供にしている狩人もいるとの事だ。


そういえばレンジャーにも対象は限られているが、動物をテイムするスキルがあったな。


もっとも、レンジャーがテイム出来るのはあくまで動物だけで、最強の動物でも熊が上限だったから、ソロの時の狩りのお供には出来たが、本格的な魔物狩りのお供にするには物足りなかった。


本職のテイマー、別名魔物使いの能力は本格的で、自分のレベル以下ならば動物どころかモブであっても仲間にする事が出来て、こちらは流石にソロのお供では終わらなかったな。


但し、テイマーはレベルが低いうちはかなり厳しいクラスで、使えるスキルがテイムした対象に対するスキルが多く、自分の身を守るのも大変だった。


だからメインで先に別のクラスを育てて、二つ目のクラスとしてテイマーを選択するというパターンが多かった。


でも、ゲームにテイマークラスが導入された頃、テイマークラスでスタートした人の愚痴が掲示板を埋めていたのは覚えている。


勿論、俺はダブルクラスにしてテイマースキルを獲得したからそんな苦労はしていない。


「流石本職の狩人だな」


「当然ニャ」


キーラは鼻高々な感じだ。


「ここから痕跡を追って群れを見つけるんだな」


「そうニャ。

 ここからはできるだけ気配を消して進むから、ユートも注意するニャ」


「了解した」


俺は勿論その辺りのスキルも習得しているので、キーラの足を引っ張る事は多分無い筈。


キーラが足跡の他、枝先に付いた毛など様々な痕跡を辿っていく。


その方向は、俺の探索ウインドウに表示される群れの一つと方向が完全に合致しており、このまま注意して進んで行けば、必ず目標を見つける事が出来るだろう。


そして、俺がミニマップ上に目標を見つけたとほぼ同じタイミングでキーラが止まる様に合図した。


俺が止まってキーラの方を見ると、茂みの向こうを指さした。


そこには確かに狼の群れが居た。



キーラの狩人の技で無事対象を見つける事が出来ました。


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