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第十六話 おっさん軍師、キャンプする。

狩りの仕事を請け負った主人公とキーラは目的の森へ向かうために駅馬車に乗ります。





俺はキーラの案内で、ブラムデンから凡そ三十キロ程離れている目的地の森へと向かう駅馬車に乗り込んだ。


「キーラ、まずは森の近くにある駅に向かうんだな」


「そうニャ、この駅馬車に乗ってたらそのうち着くニャ。

 そして駅からは歩きニャ」

 

この世界は何処でも、という訳でも無いのだろうが、ここ辺境伯領では駅馬車網が発達していて、大抵の所には駅馬車を乗り継げばたどり着くことが出来るらしい。


駅馬車はブラムデンを始発に、各方面へ走る街道沿いにある駅、そして途中の街や砦を各駅停車のバスの様に停まりながら、終点の砦までを往復しているらしい。


とはいえ、前世の大都市の交通機関の様に数分おきに発着しているという訳もなく、多い路線で一日数便、少ないと数日に一便の場合もある、と言った感じらしいな。


自前の馬車や馬があれば駅馬車なんて利用する必要は無いから、駅馬車を利用するのは必然的に庶民や個人でやってる様な行商という感じになる。


実際この駅馬車に同乗しているのは、大きな背負い荷物を担いだ行商人風の若い男や、子供連れの家族といった感じだな。


キーラと並んで座って出発を待っていると、弓や槍を装備した護衛らしい男達がやって来て、ギシギシと音を立てて屋根や御者席へと陣取った。


「それでは出発しますよ」


御者が車内に声を掛けると、四頭立ての馬車がゆっくりと動き出した。


馬車と言っても、ファンタジー世界だから牽くのは前世の世界の馬とは違う動物なのかと思ったら、脚の太い頑丈そうな馬だった。

鑑定スキルで鑑定しても普通に『馬』と表示されたたから、多分馬なんだろう。


「キーラ、この国は馬の他に騎乗する動物ってどんなのがあるんだ?」


「この国では馬が一番よく使われて居るニャ。

 南の国では大きくて走るのが早い鳥が使われてるらしいけど、キーラはまだ見た事ないニャー。

 他には、飛竜とか大きな豹とか狼とかを飼い慣らして乗っている人も居るらしいニャ」


「ほう、飛竜か。豹や狼にも乗れるんだな」


「人がのれる位大きなやつじゃないと駄目ニャ。

 でも、そういう大きなやつは戦って乗り手と認められないと駄目だから簡単じゃないニャ」


「だろうな」


「あとは、運良く大きな獣を子供の時に手に入れられれば、戦わなくても飼い慣らす事が出来るニャ。

 だけど、子供を手に入れるのは余程運が良くないと駄目ニャ。

 親は子供を死に物狂いで守るから、手ごわいニャ」

 

「はは、そうだろうな」


後はテイミングのスキルを使ったり、魔法を使ったりとかかな。

この世界でテイミングのスキルが使えるかどうかはわからないが…。



途中幾つか駅を経て目的の駅へと到着したのは、もう日が暮れそうな頃だった。


幸い道中は特にトラブルもなく、何かと出くわす事も無かった。

ちょっと物足りなかったが、キーラから色々と話が聞けたのは良かったな。


駅は、ブラムデンへ向かう時にも寄ったが、簡易の砦の様になっていて、駐屯している兵士や職員の為の建物がある他、駅利用者の馬向けの水や飼葉なども用意されている。そして、ここで夜を明かす者向けにキャンプサイトの様な場所もあるのだ。


随分インフラが整備されているように思えるが、リッケルトの話だとここまで整備されているのは、大身である辺境伯の領内でも主要街道位だとか言ってたな。



「キーラ、そろそろ日暮れだが、今日はどうする?」


「今日はここで一泊して、明日は早朝から森へ行くニャ。

 キーラは夜目が利くけど、それでも夜は危ないニャ」


だろうな。

動物は夜行性が多いし、俺はまだこの世界では見ていないが、多分魔獣の類もそうなんだろう。



「じゃあ、キャンプの準備をするか。

 キーラはキャンプする時はどんな風にするんだ?」


「火を焚いて、今日みたいに雨で無い日は毛布で包まって寝るニャー」


「テントとかは作らないのか?」


「誰かと一緒の時は簡易テントを作るけど、一人の時はテントは危ないニャ」


ああ、そうか。

確かに、テントの中で寝てしまったら道具を使うなり魔法を掛けておくかしないと、外の気配が分らないからな。


「今日はキーラと二人だし、駅のキャンプサイトにテントでも作るか」


「ニャニャ、ユートがテント作ってくれるニャ?」


「ああ、任せてくれ」


「わかったニャ。じゃあキーラは晩御飯の準備するニャー」


「頼んだ」


「ニャー♪」


キーラはいそいそと背負い袋を解くと中から食材を出して飯の準備を始めた。


さてと、俺はじゃあテントを出すとするか。


長く運営されていたオープンワールドなMMORPGでは、最初はテントなんて無かったが、野外での回復拠点としてのテントが実装されてから、多くのテントの類が実装されたな。


まあ、最終的にはポータル付きの建物が実装されてアイテムや魔法の使用で簡単にいつでも戻れるようになったので、テントの類は廃れて初心者アイテムになっていったんだが。


それもあって、ある時期から新規開始ユーザー向けに初回ログインと同時に基本アイテムが与えられるようになった時、如何にも訴求要素の一つになりそうなお洒落なテントが、拡張されるたびに貰えるようになった。


最新の拡張のテントなんか見た目は兎も角、内装は殆どコテージみたいになっていたよな。


そんなわけで、β版からのヘビープレーヤーである俺も、例にもれず色々なテントをもって居る。


とはいえ、この人の目のあるキャンプサイトで前世のアウトドアショップで売っている様な鮮やかな色のテントなんて出したら目立ちすぎる。


俺は数あるテントの中から、ファンタジーな世界でも違和感の無い地味な色合いのテントを選んだ。


ゲーム中では実際にテントを組み立てる事なんて無いから、バラバラのテントキットが出てきたらどうしようかと内心ハラハラしていたがそれは杞憂で、配置する為の仮範囲が表示されてそれを地面に合わせて選択したら、その場所にいきなりテントが出現した。


焦って振り向いたがキーラは料理に夢中で、それに誰かが見ているという事も無かった。


ふう…。


前世での会社の職場旅行の時にキャンプを張った経験は一応あるが、出せばポンで固定するだけの簡単テントだったしな。この世界で人目を引くことも無く何とかなってよかった。


早速と中に入ってみると途端に視界が広がり、数人で寝泊り出来るようなそこそこの広さの空間が広がっていた。


このテントは見た目は兎も角、魔法のテントなので見た目より中が広くなっているのだ。


俺は持ち物からベッドなど寝具の類を設置して寝れるようにした。


準備が終わるとテントから外に出る。


「ユート、もうテント完成したのニャ」


「ああ、もう大丈夫だぞ」


「早いニャー。

 キーラも晩御飯の用意がそろそろ終わるニャ」

 

キーラはそう言ってキャンプサイトに置かれたテーブルに備え付けの椅子に座る様に指さすと、料理に戻った。

俺は勧められるままに椅子に座ると、飲み物にストックから果実酒を取り出した。


果実酒は俺が前世でクラフトスキルで作った自家製だが、味はどうかな。


一人で先にチビチビやる訳にもいかないから、料理をしているキーラのゆらゆらと動く尻尾を眺めていた。


あれは癒しになる。



「ユート、出来たニャ」


キーラが持って来たのは、串にささった大振りのブロック肉にハーブをパラつかせて焼いた物だ。


結構なボリュームだが、今日の飯はコレだけらしい。


とはいえ、この世界で野外で新鮮な野菜付きのディナーを期待する方がむしろおかしいのかもしれないな。


キーラから一本受け取るとブロック肉はずっしりと重みがあって、前世だとこんな大きなブロック肉を喰えば、完食したとしても胃もたれ確定だろう。


「これは…、ベーコン?」


「そうニャー。ジャイアントボアの燻製肉ニャ。

 お昼食べた時についでに買って置いたニャ」

 

「おお、あそこのやつか。

 それは期待できそうだ」


「絶対、美味しいニャー」



こういうのを見ると、前世で子供の頃見た野外でハムを焼くテレビCMを思い出すな。


俺は早速とばかりに豪快にかぶりつく。


ベーコンは良い感じに表面が焼けていてワシっと齧ると、肉汁がジュワっ。

口に広がる旨味に、俺は思わずウハっと声が出そうになる。


腹が減っているのも有るのだろうが、そのくらい美味かった。


美味しいものを食べると人は無口になるというが、俺が黙々と食べているのを見てキーラもつられたのか黙々と一心不乱に食べ、気が付けば大きく感じたベーコンのブロックを二人ですっかり平らげてしまっていた。


「ふぅー、美味かった。

 ご馳走様、キーラ」

 

「ユートに喜んでもらえてよかったニャ」


身内の飯屋のベーコンを褒められたこともあるのだろう、キーラは満面の笑みを浮かべて喜んだ。


「そうだ、出すのを忘れていた」


俺は、遅ればせながら果実酒を取り出して二つのグラスに注ぐと一つをキーラに渡す。

そして、俺も早速とグラスを傾ける。


うはっ、これは甘い…。

想像だともっとワインみたいな味を想像していたんだが。


まあ、でも十分美味い。

脂っこくなっていた口の中の脂が果実酒によって洗いながされ、清涼感で口の中が満たされて行く。


「ユート、このお酒甘くて美味しいニャー」


キーラも上機嫌だ。

やっぱり世界が違っても女の子は甘いのが好きなのかな。


「喜んで貰えて良かったよ。

 さて、お腹も膨れたし日も暮れた。

 寝るとするか。

 ここは寝ずの番はした方が良いのか?」


「どうかニャー。

 用心するなら番はしておいた方が良いニャ。

 商人なんかは夜通し番を立てるニャ」


「そうか。

 よし、じゃあこうしておくか」


俺は幻影の魔法の一種である、不寝番の魔法を使ってみる。

すると、火の側で佇む俺の姿が現れる。


「ニャニャ!」


キーラが驚いて尻尾を立てる。


俺はあわててキーラの口に手を当てる。


「しーっ…。落ち着いて。

 これは幻だから」


俺はキーラの目の前で俺の姿に手を入れてみる。

すると何も無いかのようにスルりと手を飲み込んでいく。


漸く察したのか、キーラが小声で聞いてくる。


「ユートの幻ニャ…」


「この魔法の良い所は、人と同じ様に適度に動く事だ。

 遠目には不寝番をしている様にしか見えない。

 そして、悪意を持った者が近づいて来れば知らせてくれる」


「ユートは色々魔法も使えるのニャ…」


キーラが俺に尊敬の眼差して向ける。


しかし実際この魔法は、ドッキリを仕掛ける場合によく使っていたパーティスペルなんだがな…。

そんな尊敬の目を向けられると、なんだかムズムズするぞ。



「さてキーラ、テントに入るか」


「わかったニャ」


俺に続いてキーラが中に入ってくると、キーラはまた驚きの声を上げる。


「ニャニャニャッ、ニャンらこれは!」


「はは、驚いたか?

 これは中が広くなっている魔法のテントだ」


「噂には聞いた事があるニャけど、実物を見るのは初めてニャ!」



マジックバックもある世界らしいから、ある様な気はしていたがやはりこの世界にもこう云うものがあるのか。


「ベッドも用意しておいたぞ。

 お湯を使いたいならいつでも用意するから言ってくれ」


「お湯が使えるニャ?」


「ああ、そういう魔法の道具がある」


「ニャニャっ、ユートは本当に凄いニャ…」


キーラが驚きすぎて呆れ顔。


「じゃあ、お湯があるなら欲しいニャ」


「わかった」


俺は一抱え程の大きさの盥を出すと、そこに適温のお湯を注ぎ込んだ。


実のところ、風呂でもシャワーでも出せるんだが、猫って確か風呂の類は苦手だった様な気がするからな。


キーラは上機嫌で桶に布を浸けると身体を拭きだした。


俺はシャワーでも出すとするか。


俺はボックスシャワーを無限収納から取り出すと、早速と身体を洗い流した。

キーラは自分の身体を念入りに拭くのに夢中でこっちの方の事は気づかない様子だったので、俺はさっさとシャワーを浴びると直ぐに片づけた。


ゲーム中だとこういうのはインテリア系アイテムというか、雰囲気を楽しむ程度のアイテムでしかなかったけど、現実に使ってみると本当に助かるアイテムだ。


俺は一足先にベッドに横になると、程なく身体を拭き終わったキーラがベッドに入って来た。


ベッドは一応二つ用意しておいたのだが、一つは要らなかったようだな。



明日は早朝から森迄ハイキングと洒落込むか。


森への経由地である駅で一泊、いよいよ狩りです。

夜は勿論アレです。

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