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第十五話 おっさん軍師、試される。

ユートはギルドマスターに試されます。





俺は受付嬢イルマに促され、キーラと一緒にギルドマスターが入っていった扉へと続いた。

扉を出ると廊下になっていて、キーラはギルドの訓練所を利用した事があるらしく、廊下の突き当りの扉を指さした。


「突き当りの扉の向こうが訓練所ニャ」


「わかった」


廊下は前世の世界の様に蛍光灯に照らされている訳もなく、数か所に明かりが灯っているだけで薄暗かった。しかしその明かりをよく見れば、油を燃やしているランプという訳では無く魔法照明らしく、中世風の照明器具の中で宝石の様な石が輝いていた。


この辺りを見れば、やはりここは魔法が有る世界だという事が実感できるな。



突き当りの扉を抜けると、そこは中庭の様な吹き抜けになっているスペースだった。


訓練所らしく標的やダミーが並んでいたが他に人は居らず、あまり使われて居ないのだろうか?


「よし、来たな。

 早速だが、お前の今の時点の力を見てやろう。

 俺の査定でお前に与えられるランクが変わるからそのつもりでな。

 ランクが低ければ低いなりの依頼しか受けることが出来ない。

 冒険者として活動するつもりなら能力に応じたランクで始めた方が良いだろう。

 但し、新規加入時に獲れるランクは銀級迄だ」


冒険者として本格的に活動するかどうかはわからないが、今後の活動の幅を広げる為にはそれなりのランクを獲得しておくべきか。


「了解した」


「では、はじめるか。

 獲物は何を使うんだ?

 そこに訓練用の武器があるから、好きなのを選ぶと良い」


ギルドマスターが指さした先を見ると、訓練所の片隅に訓練用の木製武器が立てかけられているラックがあった。


短剣に長剣、槍に至るまで色んな種類があるな。

どの武器もそれなりに扱えるはずだが…。


ギルドマスターは長剣を使う様だから俺もここは長剣で行くか。


「ほう、長剣か。

 ルールは簡単だ、ここで俺と対戦する。それだけだ」


随分とシンプルだな…。


「心配しなくとも、お前の腕に合わせて戦ってやる」


「お手柔らかに」



俺とギルドマスターは訓練所の中ほどの開けた空間で向きあった。



ギルドマスターのステータスを一応見ておくか。


名前はシュルツ。

レベルは52レベル、ブラムデン冒険者ギルドのギルドマスターで金級冒険者。

クラスはソードマスター。

ソードマスターというとゲームだとファイターの上級職だった筈で、相当な実力者なのは間違いなさそうだ。

流石、この規模のギルドマスターを務めるだけある。


「よし、そちらから好きに打ち込んで来い」


やはり、実力に裏打ちされた自信というやつか。

その余裕ぶりは貫禄すら感じるな。


それに引き換え俺はついこの前までただのサラリーマンで、この身体のポテンシャルをフルに発揮出来るとはとても思えない。


「ユート頑張るニャ!」


キーラの声援が聞こえてきて、少し気持ちが楽になる。


よし、やろう…。やれる筈だ…。


「では」


俺は剣を正眼に構える。

すると、アメリア姫の護衛戦で傭兵団長とやり合った時の様に、瞬時に打ち込むイメージが思い浮かんだ。そして刹那によしと思った瞬間、そのイメージ通りに身体が動き、俺はギルドマスターに打ち込んでいた。


ギルドマスターは俺の打ち込み速度に一瞬顔色を変えたが、直ぐに真剣な表情になり、派手に後ろへと飛び退いて俺の打ち込みから逃れた。


「ほう…。

 どれ程の腕前かと思えば、流石貴族に身分保証されるだけの腕はあるという事か。

 では此方も本気で行くぞ。

 銀級に見合う腕を見せて見ろ!」


ギルドマスターがその身に纏っていた余裕を消失させると、剣を構え闘気を身体に纏わせる。その身に纏う闘気によって強化された身体能力は相当な物だな…。


しかしこの模擬戦、今の俺が身体能力強化を使わずにどれ程の実力があるのか。それを測るのに丁度良い機会だ。


俺は再び正眼に剣を構えると、瞬時に俺が撃ち込むイメージがまた思い浮かんだ。刹那にそれを実行し、以降は次々と脳裏に浮かぶイメージに身体を任せて打ち込む。


だがギルドマスターもさるもの、今度は打ち込まれるばかりではなく、俺の動きに合わせて積極的に打ち込み返してくるが、それすらも俺には織り込み済みで、それに対応するイメージが次々と脳裏に浮かび、俺の身体はそれをトレースしてギルドマスターの剣を躱していく。


やはり高レベルのソードマスターであるギルドマスターの剣技は相当な物で、その完成された剣技の数々はさながら剣舞を舞っている様にも見える。


しかし、打ち合いながらも客観的にそんな事を考えられる俺は、余裕があるというべきか、それとも、まるでディスプレイの向こうのキャラクターを操作しているというべきか。何とも不思議な感覚だった。


しかし、そんな白熱した剣技の応酬が永遠に続くわけもなく、訓練用の木剣が折れた事で唐突に終止符が打たれた。


激しい勝負を終えて肩で息をするギルドマスターは、驚いた表情を俺に向けた。


「ユート・ヴァイスと言ったか。

 俺と互角の剣の腕を持つとはな。久しぶりに本気を出したぞ」


「では?」


「ああ、文句なしに銀級だ。

 本当は金級でもおかしくないくらいだが、規則だからな。

 お前ほどの実力ならばすぐに金級に昇格できるだろう」


「ユート、凄いニャ!

 キーラの勘は正しかったニャ!」


邪魔にならない様に少し離れたところで見ていたキーラが駆け寄ってきて嬉しそうに抱き着いて来た。



ギルドの受付カウンターに戻ると、程なく受付嬢イルマから俺の名前が記載された銀色のプレートを手渡された。


「こちらが冒険者のギルドタグになります。

 銀級以上のギルドタグは魔法の品になりますので、くれぐれも失くしませんように」


「ああ、わかった。

 気を付けるとしよう」


〝銀級の冒険者〟というのは、特別な依頼でなければ、ほぼ全ての依頼を請けることが出来るランクらしい。

という事は、つまり冒険者として一人前という事か。


ちなみに、買取だけなら一番低いランクでも問題無いそうで、キーラの様にとりあえずギルドに所属しているだけ、というメンバーも多い様だな。


「キーラ、冒険者登録も終わったし、何か試しに依頼を請けてみるか?」


「ニャン。

 キーラは狩りの依頼が良いニャ」


「よし、わかった。

 じゃあ、この〝フォレストブラックウルフの間引き依頼〟を請けるとしよう」

 

「わかったニャ。

 この森ならキーラが案内出来るニャ」

 

「それは心強いな」



こうして俺達は初の依頼として、フォレストブラックウルフの間引き依頼と、ついでという事で薬草採集の依頼も請けることにした。



一先ず一人前の冒険者として登録です。

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