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第十三話 おっさん軍師、狩人飯を食う。

キーラに連れられて昼飯です。





俺達は腹が減ったこともあり、少し早めの昼飯にしようと商業ギルドを出てキーラお勧めの料理屋へと向かった。


キーラに連れられて歩いていくと、街の外縁部の下町っぽい雰囲気を漂わせた一角へとたどり着いた。


「ユート、この辺りは獣人が多く住んでるところニャ」


「キーラの母親もこの辺りに住んでたのか?」


キーラは首を振る。


「冒険者は別ニャ。

 冒険者は一財産作って引退する迄、宿屋暮らしが多いニャ。

 家を買ったり借りたりすると住人としての義務が発生するからニャ」


「そうなのか。

 まあ、そうかもしれないな。

 ここで家を買ったり借りたりして住んでいるなら、ここの領地の住人って事になるか」


「そういう事ニャ。

 この辺りは建物を安く借りられるから、あまり金を掛けずに店を出せるのニャ」


そう言われて周囲を見渡すと、小さな看板が上がってる店らしき建物が幾つも目に入る。


「この辺りの店は、店先に品物を並べないんだな」


「そういう店は、もう少し奥に行けばあるニャ。

 この辺は薬屋や細工師の店とかそういう店が多いから、店先には品物を並べないニャ」


「職人の店とかは、職人ギルドの方にあるんじゃないのか?」


「この辺りは外から来た人が店を出しているのニャ。

 賃料は安いし、街の商業区みたいに紹介状とか無くても店を出せるのニャ。

 あそこの薬屋はエルフの店だし、そこの細工屋はノームの店ニャ」


おお、街中では気が付かなかったが、やっぱりこの世界にもエルフやノームが居るのか。

俺は思わずエルフの美女や愛らしいノームの女性を思い浮かべた。


勿論、どちらもエターナルファンタジーで見た3D映像なのだが…。


思わず薬屋と細工屋に立ち寄りたい、という誘惑に駆られたが、キーラが居るしな。

それに何より、美味そうな匂いがこの辺りに迄漂って来ているのだ。


更に奥へと進むとキーラの言うとおり、店先に毛皮などの色々な素材や、食材、雑貨などが所狭しと並んでいる光景が目に飛び込んで来た。


まるで前世の子供の頃に見た、大人になった頃にはもう無くなってしまっていた、古い商店街の街並みの様だ。


俺の子供の頃はショッピングモールみたいな物は無くて、商店街の店先にこうやっていろんな品物を並べて売っていたな。そんな光景を、まさか異世界で再び見ることになるとは。


そんな事を考えていると、肉を焼いているような香ばしくて美味しそうな匂いがますます強まって来た。


「この匂いだと、今日はジャイアントボアかニャー。

 ユート、もう少しニャ」

 

ジャイアントボアというと猪か!

これは高まる。


「さっきからこの美味そうな匂いのせいで、俺の腹の虫が鳴きっぱなしだ」


それを聞いてキーラが破顔する。


「ニャハハ、キーラもお腹ペッコペッコニャ!」


そういうと俺の手を引いて走り出す。

まさに、猫まっしぐらとはこの事か。


キーラに連れられて匂いのもとへとやって来ると、そこには大きな天幕が張ってあった。

天幕の中には屋台が幾つも並んでいて、まるでフードコートみたいだな。


そしてそこに来ている客を見ると、確かに所謂亜人種があちこちに居た。

そこにいるずんぐりむっくりした髭づらの奴は如何にもドワーフだし、あっちの犬っぽいのは犬人だろうか?

勿論、普通に人族も沢山居る。



「ユート、こっちニャ」


俺がキョロキョロしているとキーラが更にグイッと俺の手を引く。


そして、大きな焚火の上でデカい肉の塊を幾つも焼いている店の前へとたどり着いた。


大きな肉の塊が、ジュウジュウと肉汁を滴らせながら焼かれているその姿を見て、俺は思わず生唾を飲み込む。


これは期待できそうだ!


奥のテーブルで肉を切り分けていたキーラと同じ猫系獣人の女性が、キーラを見つけて声を掛けて来た。



「キーラ、よく来た!

 お、今日は男連れか」

 

「アデラ!

 この人は、キーラのダーリンのユートニャ!」


「ユートだ。キーラとは知り合ったばかりだが、良くしてもらってる」


アデラが俺のそば迄やって来てジーっと俺を見詰めていたが、次の瞬間ニッとほほ笑んだ。


「ユート、よく来た!

 丁度、ジャイアントボアの肉が焼けたところだ、腹いっぱい食べてくれ」


俺にそばの丸テーブルを指し示すと、アデラは奥へと戻って行った。


「ユート、こっち座るニャー」


「お、おう」


俺はキーラに言われるままに、その丸テーブルの椅子に腰を下ろした。


「ちょっと待っているニャー」


そういうと、キーラはアデラの所へと向かう。


見ているとアデラから大皿を受け取ると、そこへ今切り分けたばかりの肉を盛り付けて貰っていた。


キーラがこちらに戻って来ると、肉の盛られた大皿をテーブルの真ん中に置いた。


大皿に盛りつけられた肉は野性味あふれていて、一目で唾が溢れてくる。


キーラ曰く、味付けはハーブと岩塩を振りかけただけだそうで、それをただ焚火で焼いただけの、これぞ肉料理と言わんばかりの料理だ。


再びキーラがアデラの所へ行くと今度はお椀を受け取り、戻って来ると肉の大皿の側にそのお椀を置いた。


お椀には何かを細かく刻んで和えた様な、緑色のペーストっぽい物が入っていて、どうやらこれが肉のソースらしい。


「ユート、ここで出す料理がキーラがキャンプで食べている料理に近いニャ」


そういう事か。俺がキーラの普段食べている物に興味を持ったから、気を利かせてそれに近い料理が食べられるお店へと俺を連れて来てくれたのだ。


「これがキーラ達が普段食べている料理か。美味そうだな」


「今日は当たりの日だから特に美味しいニャー」


「当りの日?」


「ジャイアントボアは美味しいけど、なかなか獲れないニャ」


「滅多に居ないの?」


「ジャイアントボアは森の奥の方に居てあまり浅い所には出てこないニャよ。

 それに皮が頑丈だから、矢が中々刺さらなくて獲るのに一苦労ニャ」

 

「なるほどな。

 ちなみに、ジャイアントボアはどの位の大きさなんだ?」


「あれが頭ニャ」


キーラが店の奥の方を指さすと、そこにジャイアントボアの頭が鎮座していた。


デカいな…。

あれだと体高だけで二メートルを超えそうだし、体重は五百キロはありそうだ…。


俺はウインドウにジャイアントボアの情報を表示してみる。


映し出された映像は筋骨隆々のデカい猪だった。

体重は五百キロどころか、大きな物になると一トンを超えることもある、とのコメントが。

地球にはこんなデカい猪は居ないぞ。


俺がジャイアントボアのデカい頭に見入っているとキーラが声を掛けてくる。


「ユート、好みでこのソースを肉に付けて食べるニャ」


「お、おう。

 それは何のソース?」


「これはハーブとか香味野菜を刻んでオイルと酢で和えた物ニャ」


「わかった、じゃあ頂くか」


「ニャ」


カテトラリーは二又のフォーク、所謂ミートフォーク的な物か。


一口大という程では無いが、突き刺して食べるのに丁度いい大きさに切り分けられた肉の一つにフォークを突き刺すと、まずは一かぶりしてみる。


ガブっと齧ると、ジュワーっと口から零れそうになるほどの肉汁が、肉から溢れ出る。


味付けの岩塩とハーブが、肉の旨味をさらに引き出す。


良い肉は、シンプルな味付けでも美味い。本当に美味い肉に合うのはやはり塩なのだ。


野生の猪肉というと臭みがあると言われているが、しっかり血抜きがされてあればそこまでの臭みは無いそうだ。で、この世界のこの猪肉はしっかり血抜きがされている様で、ハーブだけで充分肉の臭みが抑えられていて、噛み締めるたびに濃厚な肉の旨味を味わうことが出来る。


「美味いな」


「美味しいニャー」


二人して歓喜の声をあげると、奥から声が掛けられた。


「まだまだたんとあるよ!」


前世の俺であればこれほどのボリュームの肉、一皿を二人で分け合ったとしても到底食べきれなかっただろう。しかし、今の俺ならばもっと食べられそうな気がするぞ。


一切れ目をそのままで美味しく頂くと、もう次の一切れに手を出す。


今度はソースを掛けて頂こう。


お椀に添えられた木匙でソースをひと掬いすると肉に振りかける。


ビネガーのツンとした匂いが鼻に付く。さて、肉の為のこのソース、その力の程は?


ソースを掛けた部分にガブリとかぶりつく。


うはっ、これは美味い。

癖になる味とはこの事だな。


緑色のソースはもっと青臭いかバジル的な味を想像していたが、いい意味で裏切られた。


このソースの主役はガーリックか。それにパセリ?、後はオレガノと玉ねぎか?、兎に角色々な香味野菜がたっぷりと刻み込まれている様だ。


それをオイルとビネガーで馴染ませていて、本当にうまい。


このソースは実に肉に合うな。


「このソースは抜群に美味いな」


「ニャーニャー、このソースは絶品なのニャ」


ソースのお陰で食欲がさらに増し、気が付けば大皿に盛られていた肉が無くなっていた。


まだお代わりが有るというが、流石に良い感じの腹具合になった。


「そうだ、何か飲み物をくれないか」


「あっ。すまないね。

 キーラがあんまり良い男を連れてくるから、すっかり忘れてたよ」

 

そういうと、アデラが酒の入った陶器の瓶を持ってくる。


そして木製のコップを三つ持って来ると、瓶から果実酒らしいお酒を注ぎ込んでテーブルに置き、アデラも席に着いた。


「お客は大丈夫なのか?」


「もう一番混んでる時間は終わったよ。

 今からは、焼いた肉を包んで配達してもらうのさ」

 

そういわれて他の屋台に目をやると、普通に客の居る店もあれば、もう店じまいをしている店もあった。


「それぞれの店で客層が違うから、店じまいが早い店もあれば遅めの店もあるのさ」


「なるほどな。

 じゃあ、アデラは一息、と言ったところか?」

 

「そういう事。

 それにキーラが認めた相手を良く見たいじゃないか」


そういうとアデラは、あははと笑いながら酒を呷った。


「キーラのダーリンは凄い人ニャー」


「だろうね。

 そばにいるだけで、強者の雰囲気がビンビン伝わって来るさね」


キーラといい獣人の女というのはこういうものなのか。

前世ではそれ程もてた事の無い俺だが、言い寄られるのも悪い気はしないな。


「キーラ、アデラとは親しいのか?」


「アデラは同じ部族の従姉妹ニャ」


「というと、キーラの母親の兄弟の娘?」


「アデラはキーラの母親の姉の娘ニャ。年はキーラより七歳くらい上だけどニャ」


という事は、アデラは二十五歳か。もう少し年上の様な雰囲気なんだが。

言われてみればアデラとキーラは、何処となく雰囲気が似てるな。



「キーラとユートはこの後どうするんだい?」


「食べ終わったら、キーラはダーリンと冒険者ギルドへ行くニャ」


「ユートは冒険者なのかい?」


「ユートは他の国からきた騎士様らしいニャ。

 これからこの国の冒険者ギルドに入るのニャ」


「へぇ、騎士様ね。

 言われてみれば、仕立ての良い服を着てるじゃないか」


「国を失った放浪の騎士なんてそんなにいいもんじゃないさ」


「それは大変だったね。

 キーラは良い子だから大事にしてやっておくれよ」


「ああ、そのつもりだ」


「ニャー、ダーリン!」


キーラが嬉しそうに俺に抱き着いて来た。


「じゃあ腹も膨れたし、そろそろ行くか。

 お代は幾らだ?」


「いいよ。

 キーラの良い人なんだから、お金は取れないよ」


「そうか、ならお代の代わりにこれを取ってくれ」


そういうと、俺は無限収納から調理用ナイフを取り出してアデラに手渡す。

勿論、俺が作った調理用ナイフだ。


アデラが奥で使っている調理用ナイフが随分くたびれて見えたから丁度いいだろう。


ナイフを受け取ったアデラが、鞘からナイフを抜いてみる。


「…こんな良い物を貰ってもいいのかい?」


「俺は鍛冶もやってるからな、自分で作った品だから気にしなくていい」


アデラは俺とナイフを交互に見詰めていたが、どうもピンと来ないような表情を浮かべながらナイフを鞘に納めた。


「じゃあ、遠慮なく貰っとくよ。ありがとうよ」


「ああ、ご馳走さん。

 美味かった」


「アデラ、美味しかったニャー」


「またおいで」



アデラの店を後にすると、俺は再びキーラに案内されて冒険者ギルドへと向かった。

冒険者ギルドはここからそれ程離れてない場所にあるらしい。


「そう言えば、キーラ。

 アデラの話し方がキーラとは違ったが、そう言う物なのか?」


「アデラは街暮らしが長いから街の話し方に馴染んでるニャ」


「そうなのか。もしかしてキーラの話し方は訛ってるのか?」


「そうニャー、キーラはあまり街には居ないし、街の人ともあまり話さないからニャ」


「そうだったのか」


どういう原理かわからないが、翻訳機能がその訛りを如何にも猫人っぽい話し方に翻訳してるという訳か…。

なんとも芸が細かいが、そう言えばエターナルファンタジーでも猫人はキーラみたいな話し方をしていたな。

ロールプレイで猫言葉で話す奴とか居たっけか。


「ユートはキーラの話し方が嫌なのニャ?」


「そんな事無いぞ。可愛い話し方だと思うぞ」


「ニャー!」


キーラが嬉しそうに抱き着いてくる。

猫人はスキンシップが旺盛だというが、キーラは俺に抱き着くのが好きだな。

勿論、こんな可愛い猫娘に抱き着かれて嬉しくない男なんて居ないぞ。



お昼ご飯は野性味溢れる肉料理でした。


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