第十話 おっさん軍師、朝チュンする。
キーラとしっぽり過ごした翌朝です。
翌朝、ふっと目を覚ますと知らない天井だった。
驚いて身体を起こし辺りを見回すと、直ぐ隣で女が寝息を立てて居るのが目に入って、急速に昨日の記憶が甦って来る。
そうか、昨日はキーラと寝たんだった。
状況を把握すると焦っていた気持ちは急速にクールダウンされ、ふうっと溜息をつくと再び仰向けに寝転がった。
そして、タブレットを開くとそこに見慣れた調子で今の時間がデジタル表示されている。
社畜のサガというか、異世界に転生してからも大体同じ時間に目が覚めるな。
俺は思わず苦笑いすると、昨晩の出来事を思い出した。
女を抱いたのは大学時代以来じゃないだろうか。
あの頃は普通に大学に通い、たまにコンピューター関係の割の良いバイトを挟みながら、趣味のゲームを存分に楽しんでいたっけか。
所謂趣味友が多かったが、普通の友達も居てイベントに行ったりもしていたし、ネットゲームで知り合った彼女と付き合ったりしていたな。
彼女と付き合っていたのは一年くらいの間だったが、ゲーム内では良く一緒に遊んでいたけど、多分普通のカップルの様な付き合い方はしてなかったと思う。
彼女と一緒にすることと言えば、一緒に飯を食う以外はアレとゲームばかりで、外でデートとかしたことも無かったな。
結局、彼女が別のネットゲームに移った辺りから疎遠になって、いつの間にかフェイドアウトして終わっていた。
その後、就職してからは仕事仕事で友達付き合いも絶え、女の知り合いと言えば仕事関連ばかりで、当たり前だが色気のある話など皆無だったさ。
俺の前の人生ってほんとゲームと仕事だけだったんだな。
天井を眺めながら俺がそんな事を考えていると、キーラが目を覚ましたのかもぞもぞし始めた。
当然だが、二人ともマッパだ。一応、目を覚ました時には二人共毛布を被っていたが、無意識に被ったのだろうか。
そのくらい、昨日の夜は激しかった。
そもそもキーラがもろ肉食系というか積極的で、正直俺は殆どマグロだったんじゃなかろうか。
キーラ曰く、火が付けば底抜けの体力と性欲というのが獣人という種族らしい。
恐らく、それはあくまでキーラの話で多分個人差はあると思うんだが…。
それは兎も角、キーラにとっても俺にとっても想定外だったのは、俺のこの身体もまた底抜けの絶倫だったという事だ。
前世の、大学時代の若さがあり気力と体力が絶頂期だった頃ですら、ここ迄絶倫では無かった筈。
俺はいつ意識を手放したのか覚えていないが、覚えている限り最後の方は眠気との戦いで、文字通り俺からすべて搾り取る勢いで頑張るキーラの体力が尽きて果ててしまった頃には、俺もほとんど気絶する様に寝てしまっていたのかもしれない。
獣人であるキーラと寝てみて思ったのは、キーラの身体は全身がビロードの様な薄い体毛に覆われているのだが、なんといってもその手触り肌触りが素晴らしい。身体がよく手入れされて居るからなのだろうが、いつまでも撫でて居たくなるほどの手触りの良さだ。
恐らくこの辺りも個体差みたいなのがありそうな気がする。
念願の尻尾も触らせてもらったが、これもモフモフしていて癖になりそうだった。
尻尾はデリケートな部分なので誰にでも気軽に触らせる部分ではないそうで、獣人が尻尾を触らせるのは自分が気を許した相手のみ、という事らしい。
つまりは尻尾を触らせてくれたという事は、キーラにとって俺はそういう相手という事なのだろうが、出会ったばかりの相手にそんなに直ぐに気を許してしまって大丈夫なんだろうか…。
しかし、尻尾は別として身体を撫でられるのは好きみたいで、獣人の女にとってそれは愛情表現の一つでもあるのだとかピロートークで聞かせてくれたな。
昨晩の疲れが残っているのか、もぞもぞとしながらも起きてこないキーラの身体を撫でてみると、やはり手触りが素晴らしいな。
なんだか今更だが猫好きの人の気持ちがわかる気がするぞ。
撫で心地の良さを堪能する様に手の赴くままに撫でていると、くすぐったいのか時たま身体がビクっと反応する。我慢しているのかそれとも眠すぎるのかそれ以上の反応はないのだが。
撫でられるキーラの反応が面白くて悪戯心がむくむくと沸いて来てわざとお腹とか首筋とか触られるとくすぐったそうなところに指をはわせると、身体の反応が激しくなっていき、堪らなくなったのか声をあげて体を起こした。
「フニャー!
寝れないのニャ!」
プンプンという様子で怒ってくる。
「キーラ、そろそろ起きる時間だ」
「昨日の夜はあれだけ激しかったのに、なんでユートはそんなに元気なのニャ」
「さあ、なんでだろうな。
身体はすこぶる快調だぞ」
実際、前世では慢性的に疲れが残り続け、朝起きるたびに身体が重かったが、今は嘘の様に身体がスッキリしていて、しかも軽いのだ。
「ニャー、ズルいニャー」
確かに、昨日の快活な様子からは想像もつかないくらい今のキーラはぐったりした感じだな。
「そんな事言われてもな」
「ふみゅー。
今何時ニャ?」
「そろそろギルドが開く時間だ。
宿の朝食の時間もあと少しで終わるぞ」
「フギャー。
折角宿に泊まったんだから、朝ごはんは食べたいニャ!」
「なら、準備して朝飯に行くか」
そういうと、俺はベッドから起き出して服を着始める。
ところが、キーラがベッドから降りようと脚を降ろして立とうとしたところで、力が入らなかったのか、ベッドに尻もちをついた。
「フギャッ!
ニャー、脚に力が入らないニャー」
やり過ぎて足腰が立たなくなるってやつなのか?
あの話はネタか何かだと思っていたんだが、実際に起きる事なんだな。
とはいえ、キーラをこのまま置いていくわけにはいかない。
手早く服を着ると、無限収納から体力と気力が両方回復するポーションを取り出す。
レイドなどで重宝するアイテムなのだが、こういうのにも効くのかな。
「キーラ、これ飲んでみるか。
体力と気力回復に効果がある薬なんだが」
キーラは綺麗な瓶に入った僅かに輝く黄色い液体に目を奪われる。
「ニャニャ、凄い綺麗ニャ!
そんな高そうなものキーラにくれるのニャ?」
無限工房で作ったアイテムだから元手は掛かってないのだが、それは言わないでおこう。
「キーラをここに置いていくわけにはいかないからな」
そう言って差し出すと、キーラは嬉しそうに受け取る。
早速と瓶の蓋を開けてみると、まずは匂いを嗅いでみるらしい。
「なんだか甘い匂いがするニャ」
そう言って、少し手に垂らして舐めてみる。
「ニャニャ、なんニャこれ。
凄い甘いニャ!
少し舐めただけでも身体がポカポカしてくるニャ!」
そういうと安心したのか美味しそうに飲んでしまった。
ゲームでは何度となく飲んだこのポーションだが、現実世界で実物を見るのは初めてだ。
しかし何となく、前世で散々お世話になったエネルギー系ドリンクの様な匂いが漂っているのは気のせいか?
キーラは全部飲み干すと、しばらく目を閉じて余韻に浸る。
そして、ややして再び目を開くと空き瓶に丁寧に蓋をして仕舞いこんだ。
空き瓶は再利用が効くし、返してもらっても困るしな。
「甘くて美味しかったニャ!
身体から疲れが吹っ飛んだ気がするニャ!」
甘い飲み物を飲んでテンションが高くなったキーラは、ベッドから元気よく立ち上がる。
今度はよろめく事無く普通に立つことが出来た。
どうやら、効果があった様だ。
「この薬、凄いニャ。
嘘みたいに疲れが取れたニャ。
流石ダーリンニャー」
そういうと、俺にしな垂れてくる。
今、ダーリンって言ってなかったか?
「キーラはユートの子が出来るまでついていく事に決めたニャ!
ダーリンこれからよろしくニャ」
「え?
昨日初めて会ったばかりなのに?」
「獣人の女は鼻が効くニャ。
女の勘がユートについていっとけば間違いないと言ってるニャ!」
宮仕えのリッケルトにそう世話になる訳にも行かないし、この世界の住人の同行者は俺にとっては願ったりではあるか…。
「うーん。
わかった、俺もこの国に来たばかりで不案内だから、この辺をよく知って居る人が一緒に居るのは心強いからな」
「決まりニャ!
じゃあ早速、朝ごはん食べに行くニャー。
キーラお腹ペコペコニャ」
「そうだな。
急いだ方が良さそうだ。
キーラも早く身支度を済ませろ」
「わかったニャ」
女の身支度というと時間が掛かりそうだが、キーラはそんな事も無く、脱ぎ捨てていた毛皮の服をパッパッと着て顔から頭全体を撫でたらそれで終わりだった。
時間的にギリギリだったが、何とか無事に俺達は宿の朝食にありつけたのだった。
おっさん軍師はキーラを同行者にしました。