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第2話 顧問を獲得せよ


「というわけで、部活動設立の申請書です。ここに記名いただけますか」

「仕事早いな……あれ? すでに記名されてる4人は誰?」

「1番上は私です。他の3人は入部いただくことになった新入生の方々です」


 入学式の次の日、私はさっそくお昼休みを使って白木さんに集合をかけた。集合場所は例の校舎裏。

 部活動を本格的に始動するためだ。


 申し遅れたが、私の名前は張間令子(はりまれいこ)という。転生してくる前、現代日本の会社員として生きていた頃と同じ名前だ。

 ゲーム『青春スクール』には主人公のデフォルト名というものがない。そしてクラス名簿を確認したところ、ばっちり私の本名が記載されていた。私は本名で乙女ゲームをプレイするという屈辱を味合わされるところだったらしい。

 危なかった。


「あんた張間令子っていうんだ……令子って呼んでいい?」

「どうぞお好きに。では記名をお願いします」

「はいはい、白木鷲人っと……」

「白木さんの下のお名前は力強いですね」

「白木さんってよそよそしいから鷲人でいーよ」

「分かりました、鷲人さん」


 よし、これで青葉高校の部活動設立の規則、「5人以上の部員と1人以上の顧問を必要とする」の前半を満たすことができた。


「で、後の3人誰? 令子の友達?」

「私に友達はおりません」

「え…………なんかごめんね?」


 この乙女ゲーム世界に友達はいない、という意味だったけれど、何か勘違いさせてしまったらしい。まぁいい。


「本日クラスで委員決めがありましたでしょう。クラスメイトはどなたもクラス委員に立候補したくないご様子でしたので、私が立候補するという条件で、1人も立候補が出なければ教師から声をかけられそうな3人に記名いただきました」

「裏取引?」

「正当な契約です」


 青葉高校には入部数の上限がなく、本人が望む限りいくらでも兼部することができる。つまり彼らにデメリットはゼロだ。

 ちなみにこの規則は部活動を推奨しているというわけではなく、高校の部活動方面へのやる気のなさから規則が定められていないだけのように感じる。部活動関連の校則が他に比べて少ないのもそのせいだろう。


 青葉高校はどちらかといえば学問を推奨しているのだ。偏差値は中の上といったところだけれど。


「幽霊部員じゃん。それでも設立できるの?」

「はい。校則に実質活動日や参加実績などの項目はありませんでしたので、幽霊部員でも問題ありません」

「ふーん、ガバガバだなぁ」

「では鷲人さんが部長、私が副部長と会計を兼任ということでよろしいですか?」

「俺は良いけど……」

「流石に、役職は参加している部員がやらなくては齟齬(そご)が生じますからね」


 よし、粗方埋まった。部活動名は『自分探し部』、活動理念は「真に打ち込める事柄を探求し部員の個性や能力を伸ばすと同時に探求活動を通じて何事にも一生懸命取り組む姿勢を育む」……とか、こんなところだろうか。


「あとは顧問ですね」

「1番難しいんじゃない? こんな怪しげな部活の顧問になりたい奴なんていないでしょ」

「いえ、既に1人お声がけさせていただいて、お昼休みにアポを取っております」

「仕事早っ」

「では参りましょう」


 私はスカートの砂を払い、立ち上がった。



✳︎



「というわけで、こちらが我々の顧問になっても良いとおっしゃってくださっている、保険医の嶋田笑(しまだえみ)先生です

「はーい、君たちの怪しげな部活の顧問になっても良いと言っている嶋田先生でーす」


 向かった先は保健室。そして私たちを迎えてくれたのは、白衣の眩しい微笑み美人、嶋田先生だ。

 もう何年か青葉高校にいる常勤の先生らしいけれど、どう見ても二十代前半にしか見えない年齢不詳の女性である。白衣を脱げば女子大生でも通じそう。


「今まで若さを理由に余計な業務は逃れてたんだけどねー、そろそろそうも行かなくなって来てたのよん。そんなに仕事がないけど働いてるように見えそうな丁度いい顧問とかやりたかったの!」

「はい。そういう意味では我が部は最適かと」

「それに、一年生で入学初日から部活の新設とか面白そうだし! 先生面白いこととか大好きだからさー」

「と、こんな感じの方なので部の方針ともぶつかることがないかと思います。いかがでしょうか部長」

「なるほど、良い仕事だ」


 という訳でさっそく顧問欄に捺印してもらう。


「では嶋田先生、こちらに捺印を」

「はいはーい……あ」

「?」


 嶋田先生がわざとらしく印鑑を手で弄び、猫のように笑う。


「顧問になるにあたってー、ちょーっと条件があるんだけど、いい?」

「はい、私に対応できることでしたら、何なりと」

「じゃあ遠慮なくお願いしちゃうね」


 そう言ってドサドサと紙束を取り出す。A4サイズ、厚さ聖書レベル。それが2つ。

 ザッと目を通すと、何かの注文書とそのレシートのようだ。


「これね、物品購入申請書とその購入履歴なの。保険医は石鹸とかトイレットペーパーとかの物品を購入する役割もあるんだけど、昨年度に申請した分と購入分が微妙に合わなくてねー。でもこれ保健委員の子達も記入してるから、正直どこで間違えたか分かんないの。今先生ちょ〜困ってるんだー」

「なるほど、この申請書と購入履歴とを照らし合わせて合わない部分を洗い出せと」

「そういうこと、張間さんは話が早くて助かるなー」


 先生はニコニコと笑う。初めからこのつもりだったのだろう。そうならそうと言っておいてくれればいいのに。


「えー、めんどくさいよ。そのくらい自分でやればいいじゃん」

「君には分かんないかも知れないけどねー、大人になると小さい文字を読むのとか疲れるの! ていうか君ねぇ、若いもんがめんどくさいとか言うんじゃありません」

「あんただってめんどくさいから俺らに押し付けようとしてんでしょ?」

「私は大人だからいいのです」

「めんどくせっ」


 鷲人さんが私の方を振り返る。


「ねぇ令子、どうする? 別にこいつじゃなくてもいいんじゃない? 俺が別の教師探してもいいよ?」

「まぁ白木くんなら簡単かもねー」

「なぜ鷲人さんだと簡単なのですか?」

「え、知らないの?」


 鷲人さんが意外そうな顔をした。私が何を知らないと言うのだろう。


「張間さんって意外と抜けてんのね。白木って言ったら白木財閥がこの辺では有名ですよ? 今の代表がこの高校の卒業生で、多額の寄付をしてくれてるって話ですし」

「ざ、財閥!?」

「そ。だから校長と理事長とは面識あるよ。頼めば教師1人くらい斡旋してくれると思う」

「まぁ……」


 スケールがでかい。でもそうか、そんな設定だったか。確かにラスボスのあの所業が見逃されていたのは、そのくらいの背景がないと不自然かもしれない。


「それはありがたいお話ですが、その必要はないでしょう」

「そう?」

「この申請書に全て目を通せば嶋田先生が顧問になってくださるのですよね? なら問題はありません」

「いやあるでしょ。これ何時間かかんの。俺やだよ、何時間も紙とにらめっこするの。指カッサカサになるじゃん」

「はい。ですから、問題はありませんと申し上げています」


 私は机の上に転がっていた赤ペンを借り、先ほど目を通した時に気づいた記入ミスに赤を入れた。


「もう終わりましたから」

「……えっ? 流石に適当にやられちゃうと、先生困っちゃうんだけどー……ってあれ? 確かに間違ってる……!」

「単純な書き間違いかと思います。それが3点ありましたので直しておきました。これで計算は合います」

「ちょっと待ってねー……、ほんとだ……」


 嶋田先生が電卓を叩いてから驚愕の表情を見せた。


「張間さんって何者?」

「プロの裏方ですので」


 前世の人生全てを費やして裏方に徹してきた地味女をお舐めでない。地味な仕事なら大得意だ。


「プロの裏方!? なにそれ、玲子って面白いな」


 鷲人さんはバカ受けだった。そんなに面白いことは言ってないと思うのだけど。


「と言うわけで嶋田先生、ささ、捺印を」

「……んー、もう昼休みも終わりますし、続きは放課後ということでどうですか?」

「捺印は今済みますが……」


 確かに時間はもうギリギリだけれど、判を押すくらいの時間はあるはずだ。


「まぁまぁ、別にバックレようってんじゃありませんから。放課後になったらまた保健室へ来てください。さぁさぁ授業へ行った行った」

「……分かりました。放課後また伺います」


 そうして私たちは保健室を追い出された。


「あいつ、顧問やる気ないんじゃない?」

「どうでしょう……」





 という訳で放課後。私たちは再び保健室の前に集まっていた。


「今度こそ判を頂きます。渋る先方を頷かせるのだって私の仕事です」

「玲子は前世で敏腕秘書だったりしたの?」

「ぜ、ぜぜぜ前世っ!? 前世などありません! あるはずがありません! 鷲人さんは仏教徒なのですか!?」

「ただの冗談だけど……なんで過剰反応? そういう宗派の人?」

「この話はやめましょう」

「そうだね、宗教の話はデリケートだから」


 乙女ゲーム転生の話かと思って過剰に驚いてしまったあげく、ごまかそうとしたら何やら勘違いされてしまった。まぁいいけど。

 とりつくろうのが下手なのも私の欠点の一つだ。


 するとガラリと保健室のドアが開いて、白衣を脱いだ島田先生が顔を出した。


「おや二人とも、もう集まってたんですか。じゃあ行きますよ」

「行くってどこへ……」

「あ、忘れてました。はいハンコ」


 ポン、と部活動設立申請書に判が押される。


「さぁさぁ急いだ急いだ。こっちですよー」

「一体どこ行くの?」

「着いてからのお楽しみです」


 嶋田先生の後に続いて歩くと、校舎を抜け、教職員用の駐車場に出た。


「はい乗って乗って」


 白い乗用車に嶋田先生は乗り込む。私たちも乗せてもらう。

 到着したのは学校から歩いて10分ほどの所にあるラーメン屋『あおい』だった。


「嶋田先生、どういうおつもりなんです?」

「ここはとんこつが美味しいんですよ」


 店に入りお品書きを見ながらそういう先生。なるほど。

 私たちは全員とんこつを注文した。


「んー、おいひい!」

「大変味わい深いです」

「あっつ! でもうまい!」


 全員で音を立てながら勢いよくラーメンを完食した。


「はふー……」


 食べ終わって全員で一息つく。冷たい水がとても美味しい。


「で、なんで先生は俺らをラーメン屋に連れてきたの?」

「だって、昨日張間さんから聞きましたけど、白木くんは青春っぽいことがしたいんですよね?」

「まぁ……」

「学校帰りに顧問とラーメン屋なんて、青春じゃありません?」

「なるほど、先生の深いお考え、感銘を受けました」

「受けなくていいよ。じゃーそう言や良かったじゃん。俺車ん中でどこに拉致られんのかと思ってたよ」

「サプライズの方が楽しいでしょう?」

「はた迷惑な教師……」


 鷲人さんはため息をつく。


「私は楽しかったです。鷲人さんは楽しくありませんでしたか?」

「んー……普通?」

「そうですか」


 そういいながらも鷲人さんの表情は柔らかい。なかなか好感触と見て良いだろう。


「嶋田先生、今日はありがとうございました」

「いえいえー、これからよろしくねん」

「はい、こちらこそよろしくお願い申し上げます」

「よろしく先生」


 お会計に立とうとすると、嶋田先生が私を手で制した。


「今日は私のおごりです」

「なんと!」

「太っ腹!」

「ちょっと、女性に太っ腹はやめてください。白木くんの分だけ払いませんよ?」

「度量が狭いなぁ」


 嶋田先生を顧問に迎え、いよいよ『自分探し部』の設立が目前に迫って来ていた。



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