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無印の呪い  作者: J佐助
開拓編
7/59

第1章5節:風の精霊王、シーア

「精霊王……。」


以外な相手の登場に、私はただ驚いていた。

それに――――私はさっきまで涙を流しながら嘔吐していた。王様の前で。

その事実に気づき、顔が一気に熱を帯びたことを感じる。


「精霊王様、無礼をお許しください。あの……先ほどの姿をお見せするつもりではなく!」


「無礼って……アーリアは悪くないよ。それに人間の体質を考慮せずに無理やりここに連れてきたのは僕でもあるわけだから。君たち、片づけてあげて。そして、アーリアは僕と共に。」


王の背後に控えていた者が、指示にあわせて動く。

そしてわななわと震えている私の体に手を回し、軽々と抱え上げた。


「精霊王様……!私、自分で歩けますし、抱えていただくわけには……!」


「僕がこうしたいからしてるの。君に会えてすごい嬉しいんだよ?それに、シーアって呼んでよ。堅苦しいでしょ?」


男性、しかも目上の相手にこんな風に抱え上げられるのは初めてで……しかも、自分の嘔吐物まで片づけてもらって、恥ずかしすぎて消えてしまいそうだった。

そんな私にちらっと目を向け、王様は楽しそうに笑っていた。

より恥ずかしくなり、さらに顔が熱を帯びたのを感じる。


ただ、不思議だった。

なぜ精霊王であるシーア様が私の名前を知り、会いたがっていたのか。

フォーカルド家の人間に会いたかったのか……でも、それだと子供の私ではなく、父親でもよかったわけで。

私自身に特別な力があるわけでもないのに、どうして私に会いたがっているのかがわからなかった。思い当たるところがない。

彼に連れられ、深い緑に輝く部屋に入る。目を向けると、部屋のあちこちに宝石のアルメニドが使用されているようで、上品で美しかった。


その部屋に置かれているソファーにそっと降ろされる。


「二人きりにして。必要だったから呼ぶから。」


「かしこまりました。」


私たちについていた、使用人と思われる者、数名が頭を下げ、急いで外へ出る。

見た目は完全に人間であるが、彼らもやはり違うのかもしれない。

戸が閉められたのを確認し、王様は私に向き直り笑いかけ、隣に腰かけた。

王様と一緒に腰掛けるわけにもいかず、私は急いで立ち上がった。


「どうしたのさ。」


「精霊王様と一緒に座らせていただくわけにはいきません。私は伯爵家の人間でございますから・・・あまりにも身分に差があります。」


「そんなの気にしていないし、僕が隣に座りたいと思ったから座ったの。そうやって避けられると逆にかなり不満。それに……シーアでしょ?もっと気楽にして。」


後ろから何らかの力で体を押され、つまずくようにソファーに倒れこむ。

腕と腰をひかれ、強制的に隣に座らされた。

ひかれた腕からも、王様……シーア様が怒っているのが伝わった。

大変高貴な方ではあるが、本当に思ったことを伝えているのであって、それに従うのが正しい。


「申し訳ございません……シーア様。」


「分かればいい。」


嬉しそうにシーア様は目を細める。私が体の力を抜いたことに気づきそっと私の手に触れてきた。


「さぁて、早速ではあるけれども、君の噂は僕の精霊たちから聞いているよ?誕生の祝福を受けているそうだねぇ。」


「誕生の祝福……ですか?」


どういうことだろう……誕生の祝福との言葉は、書物でも見かけたことはなく、人の話にも聞いたことはない。


「人間には察知できない類のものだろうね。誕生の祝福っていうのは、誕生する瞬間に、何者から祝福を受けていると授かるものなんだ。もちろん人の祝福程度では、そんなもの授からない。人ならざる者が君が誕生する瞬間に祝福したのだろうねぇ。」


人ならざる者――――もしかすると、転生前にやり取りをしたあの魔女だろうか。

あの時に何かされたのかもしれないけれど、全く心当たりがない。

何か細工を仕掛けていたのなら、教えてほしいところだけれども……素直に教えただろうか、彼女は。

あの妖しい笑みで楽しそうにしている姿が脳裏に浮かぶ。


ふと魔女のことを考えている私の手を、シーア様が額に当てた。

冷たい感触が手の甲に広がり、恥ずかしさが再来した。

スキンシップが多い方なのだろうか……このペースなら心が持たない。


「んー……でも変だねぇ。祝福を受けているはずなんだけど……噂通り、人間特有の(イン)もないし、魔力も一切ないね。器は、滅多に見ない大きさだし、枝もかなりしっかりしている――――君、魔力が備わっていれば歴史に名を遺す魔術師になれたんじゃないかな。」


精霊は、人間と違って(イン)を持たない。けれども魔力はもちろんあるし、人間とは異なる不思議な力を有する。

きっと今の行為は、私の体の中を何らかの方法で探っていたのだろう。

名を遺す魔術師――――そんな大層なものになりたいとは思っていなかったが、人と比べてかなり劣っている体だと感じていた故に驚いた。

ただ、気になるワードがあった。


「器と枝。それは何でしょうか。」


「器は、その人間が持てる魔力を決めるものかな。体から生み出された魔力を受け止め、保有するものなんだ。君は例外ではあるけど、器が大きいほど、大きい魔力が持てる。枝は、持っている魔力を操る力だ。器が大きくても、その魔力が正しく操れないんじゃ、意味がない。枝が脆ければ、単純な魔法しか使えないけれど、しっかりしていれば、高度な魔法が使えてくる。人間は、お互いの魔力を測ることができるけれども、器と枝を認識すること自体は無理だろうから。」


なるほど……私は本来大きな魔力を持て、魔力をわりと自在に操る力はあるけれども、肝心な魔力がない宝の持ち腐れ状態。

転生の際に、あの魔女が魔力を入れ忘れた説がある気がするが……生まれてしまった今責めてもどうしようもないのだろう。

ただ、残念すぎる。


「本当に興味深いよ。祝福を受けた人間は、その影響で何らかの授かりものをうけているはずなのに、一切それが見当たらないよ。祝福をしたそいつが何をしようとしてたんだが、全然分からない。本当に気になるなぁ。」


楽しそうに笑いながら、シーア様は私の腕に触れる。

触れたところが淡い緑に光っていることからも、まだ私の体を探っているのだろう。

すごく気になるのだけれども、自分の体について知りたい部分ではあったため、そこはじっと耐える。


でも、シーア様は、私の体を調べるために呼んだのだろうか。……それは違うと思う。

ある程度は私の体のことを知っていたように見受けられるし、きっと別の何かがある。

私がここに連れてこられて、こうして二人きりにされていることは、これから何かがあるのだろう。


「シーア様、先ほど私を連れてきたと仰っていましたが、何か理由があるのですか?私、何でもない一人間ですから、ただ不思議で……。」


私がそう問いかけると、楽しそうに目を揺らして、シーア様が私と目を合わせる。


「ふふふ……流されてくれないねぇ。理由はあるよ。その目、めちゃくちゃ綺麗だよね。」


シーア様が、私の目に触れ、まるで愛しい者に触れるかのように撫でてくる。

ただ……よく分からない怖さを覚え、悪寒がはしった。

危険を感じて、ソファーから降り、シーア様と距離をとる。

先ほどの優しく楽しそうなシーア様はそこにおらず、貪欲そうな、獣のように目を光らせている姿があった。


「フォーカルド家の者は、一人残らず見てきたけれども、君ほど空のように青く、目が澄んだ子は見たことがないよ。しかも、君自身が誕生の祝福を受けている。……誕生の祝福を受けている、君の青くて綺麗な目玉がほしい。」


そう言って、シーア様は大きな笑みを顔に貼り付けた。


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