第2章20.5節:彼女への想い
毛布に包まり、幸せそうに寝ている彼女の髪を撫でた。
指の間をプラチナブロンドの髪が流れていく。
遺跡の調査でかなり疲れが溜まっていたらしく、部屋に戻りベッドに飛び込んだかと思えばすぐに小さな寝息をたてていた。
俺がいるというのに、警戒はしていないのだろうか。
そう心配すると共に、そこまで心を預けてもらえていることに喜びを抑えきれないでいる。
仕方ないのかもしれない。ずっと何年も前から求めていた彼女が、今こうして目の前にいる。
こうやって触れられること、そして、言葉を重ねられるようになったこと自体が幸せなことなのだ。
その気持ちに満たされながら、彼女と初めて関わった日を思い出す――。
◇
「リツ、お前は観察対象46番を担当することになる。期限は設けられていない。対象者名はアーリア・E・フォーカルド。伯爵家の令嬢だ。印がない上に、魔力もないが、人類の発展の為に将来研究所の被験対象になることが決まっている。ただ明確な理由は分かっていないが彼女を狙う人間がいることからも難易度はA級だ。できるな…?」
最近目元の皺が目立ってきた上官が俺を挑発するかのように口角を上げた。失敗すれば将来は約束しないのだと、暗に言いたいのが分かる。
別に上に登っていくことに魅力は感じない。ただ与えられた仕事をこなして、日々生きていくだけだ。
「問題なくこなします。」
「期待してるぞ、アウェインの悪魔。」
鼻を鳴らして上官が笑ったかと思えば、頭を荒々しく撫でられ、立ち去っていく。
嫌見たらしくいつもそう言ってくる姿が見下されているかのようで、何だか好きにはなれない。
彼のいた場所を一瞥して、仕事の準備に取り掛かる。
上官の机に置かれていた書類を手に取り、一つ一つ見ていく。
今回の仕事は観察対象を秘密裏に護衛すること。
比較的簡単な仕事のように見えるが、A級に仕分けられていることが気になる。
能力と魔力がない無力な5つになる子供を守るのに、どうしてこんなに高い難易度が設定されているのか。
伯爵家だから狙われているのか…?にしてもランクが高すぎる。
こんなド田舎の伯爵家を狙うより、公爵家を狙う方がよっぽど利になるのではないか。
何か公表されていないことがあるのか……同封されていた似顔絵を見ながら考える。
けど、何か書かれていること以上に分かるわけでもなく、書類をまとめた。
後は自分の目で見て確かめるしかないだろう。書類を手に持ち足早に部屋を出る。
「あ、リツ。これは偶然ですねぇ。」
扉を開くとソウマと鉢合わせた。
果たして偶然だろうか……こいつのことだから聞き耳を立てていたとしてもおかしくはない。
子供にしてはよく立ち回るやつで、騎士団の中でも特異な存在として見られていた。
同い年で仲良くなりたいのか分からないが、よくこうして俺の周りにうろついている。
何を考えているのか分からないやつだから関わり合いたくはないのだが……。
「何か用?」
「用って…偶然会えたと言ってるじゃないですか。これから仕事ですか?」
「あぁ。しばらく王都を離れる。」
「なるほど。観察対象の護衛といったところでしょうか…?」
探りを入れてくるやつを一瞥して、その場を去る。
どうしてこんなやつに俺の仕事内容を伝えないといけないのだ。馬鹿馬鹿しい。
「全然話をしてくれませんねぇ。フォーカルド領に行くんでしたら、女に注意することですね。最近顔がない女がうろついているのだとか。」
やっぱり聞き耳をたてていたのか。
振り返ると、ソウマが嬉しそうに笑っているのが見えた。
俺の反応が愉快そうで目を細めて笑っている。
「顔がない女の正体は不明ですが、何人かいるようで装束が統一されているみたいですねぇ。組織が後ろについている可能性がありますね。戦闘力も並みではないそうなので、気を付けることですよ。」
「言われなくても手を抜くようなことはしない。それにやけに詳しいな?お前こそその組織の一部ではないのか?」
琥珀の目を見るが、とくに動揺するような動きはない。
ただ俺の視線を受け止めているだけだ。
体の中に探りを入れるも心拍数が上昇しているわけでも、発汗しているわけでもない。
心を殺せるか、本当に組織内の人間ではないかのどちらか。
「ここだけの話、前任は私の部下だったもので。よく話は聞いているのですよ。まぁ、一度観察対象が山の中で連れ去られたことで解任されて貴方の方に仕事が回ってきたわけですが。」
「よくしゃべるな。そんなやつが騎士団にいることが不安なのだが?」
「貴方が相手だからですよ。同族ですからね。」
特に心拍数に変わりはない。嘘をついているわけでもなさそうだが、警戒しておくに越したことはない。
癪ではあるが、やつは俺と同じ二つ印持ちなのだ。力は底知れない。
何も言わずにその場を立ち去ったが、今度は止められることはなかった。
新しい仕事を任されてから数日後に俺はフォーカルド領にいた。
近くに拠点を立て、基本ほぼ一日中観察対象を護衛する。
幸いなことに、フォーカルド家の屋敷の裏には森があり、身を潜めることに苦労はしなかった。
それに、観察対象は屋敷の裏で鍛錬することが多く、実に護衛がしやすかった。
今日も飽きずに木刀を振るい、自身の家から出している護衛と鍛錬をしている。
貴族の令嬢がここまで鍛錬をするという話を聞いたことがない。
父親からの課題なのか、体もしっかり鍛え、戦うことを念頭においた鍛錬を重ねている。少なくともお遊びではない。
父親が騎士団出身だからかと思ったが、息子に同様の施しをしているわけでもなさそうだった。
印や魔力がないから…なのか?
たしかに印がないと知れば、嫁ぎ先は限られてくるだろう。
自分の子供も印を持たない状態で生まれてくる可能性があるからだ。
それに、印がないことは即ち、人間としての能力が低いと周りに知らしめているようなものだ。
それを補填するために鍛えているのだろうか。
……健気だな、と思った。
俺の周りにいる女性といえば、自分を着飾ることに必死でお互いの足を引っ張り合い、より立場の高い男を捕まえるにはどう迫ればいいかばかりを考えている者ばかりであった。
彼女達がその世界で生きていく中では必要なことであるし、否定するわけではない。
ただ、生き抜くための盾を失っている状態でも自分の殻に籠るわけではなく、切り開こうとする姿は眩しかった。
自分のいる状況に甘んじるわけではなく、幼い頃から立場を理解し、今できることを率先してやっていく…。
これはなかなかできることではないし、俺も騎士団に入団する前は自分の立場に甘んじていたのだ。
神だと崇められ、力を行使することを求められるままにする。自分の意思や考えなど持たずにただ力を振るうだけの傀儡。
俺はその現実から強制的に引き戻されないと愚かさに気づけなかったのに、彼女は俺よりいくつか年下であるのに幼い時に気づき、行動をしている。
自分が情けなく思うと共に、彼女がひどく眩しく見えた。
また、ソウマの言う通り、実際に彼女を狙う人間はいた。
夜に屋敷の周りをうろつく人間を見かけたので、一先ず捕らえて森に引きずり込む。
両足の腱を切り、開けた場所に縄で縛りあげた人間達を放り投げる。
ソウマの言っていた顔のない女はいなかったが、手練れているような男が3人――一人の女の子を狙うのに多すぎやしないか。
「な、何してやがるこのガキがぁ!」
煩わしい……逃げることもできない体であるのにぎゃんぎゃん喚く。
その男の頬を蹴り上げる。少し黙っていてもらいたい。
「こんな夜に伯爵家の屋敷に忍び込もうとして…お前らの目的はなんだ。」
「くそガキに教えることなんざねぇよ!」
頬を蹴られてもなお威勢のいい男に血が沸騰するような怒りを覚えた。
息を吐き、沸騰する血を少しでも落ち着ける。ここで暴れても意味がない。
彼女に危害を与えてしまう恐れがある。
心を押し殺し、やつの隣の男の喉元に刃を向けた。
「そのガキに大の男3人が無様だな。まだ遊び程度だよ、このくらい。吐け。でないと容赦はしない。」
男の喉元に刃を押し付ける。するととろりと赤い液体が流れ出た。
それを見て男が口を結んだかと思えば、口を曲げ、何かを吐き出した。
どろりとした液体が顔にかかる。つまりは、唾を吐かれたのだ。
長く、長く息を吐き、荒れ狂いそうになる血を抑え込む。
うまく制御するのだ、自分を…。自分の印に飲み込まれるな。
大きく息を吸い、目の前の男を見返すと、へらへらと下卑た顔で嗤っていた。
「現実が分かっていないようだな。いいだろう。」
手に持っていた刃を横に勢いよく引き、手の中にいた男を殺した。
そのまま刃を唾を吐いた男の肩に刺し込む。
「あぎゃぁああっ…ぐぅ」
情けない叫びをあげる男の口を押え、再び反対側の肩を刺した。
苦痛に男の顔が歪み、体がぶるりと大きく震える。
「誰の命を受けた?お前らの目的を吐け。吐けば和らげてやろう。」
男の肩に一瞬だけ手をかざし、傷口を少しだけ癒す。
ただ、癒すのは一瞬だけだ。簡単に楽になるようなことはしない。
吐くまでこれを繰り返すだけだ。
「お、俺らは何も知らねぇよ。ただ、伯爵家の令嬢を運び出せば報酬は弾むと言われただけだ。」
肩を刺されたのとは別の男がぺらぺらとしゃべりだした。
自分に危害が及ぶ前に協力することにしたのだろう。
心拍数は恐怖で乱れているのが分かる。発汗量も異常なほどだ。嘘をついているようには見えない。
肩を刺した男をその場に置き、今度はしゃべった男に体を向ける。
「誰に言われたんだ。令嬢はどこに引き渡す予定だった?」
「誰かは知らない。手紙が来ていただけで、読めば燃やすよう指示してあったから証拠も今はない。それに、令嬢を外に運び出した瞬間に引き取りに来るって言うもんだから、特に場所は決めてねぇよ。」
「んな話通じると思うか?」
「本当だってよぉ!!信じてくれよぉ!」
目から鼻から液体を流し、その男は懇願して泣き叫ぶ。
嘘はついていない…それは分かる。
ということは、依頼主は屋敷周辺のどこかにいたはずで、この一連の流れを見ていた可能性がある。
索敵網には何も引っかかっていないが、この男達が囮だった可能性がある。
それならば、今屋敷に本命が向かっているのではないか。
「信じるよ……ありがとな。」
懐に忍ばせていたナイフをその男と、肩を刺した男の喉に投げる。
狙った場所に当たり、血が噴いたのを見て、その場を急いで後にした。
早く屋敷に戻らなければ……索敵に何の反応がないことを気にしながら、風の魔法を全身に纏い、屋敷に向かって速度を上げる。
暗闇の中で目を凝らし、立ち並ぶ木々の間を縫うようにして進む。
あの眩しい少女の光を閉ざしてなるものか。未来を閉ざさせやなど決してしない。
屋敷に到着すると、庭に姿を隠している人影を見つけた。
少し小柄だが…怪しすぎる。本命の人間か。
印を探ると、蛇の印持ちであることがわかった。
背後に忍び込もうと足を踏み出した瞬間、その人影から小さな光が漏れた気がした。
光…というより、これは電撃に少し似ている。
肌が粟立つのを感じ、身を翻すと、自分の立っていた場所が焦げていた。
この一瞬の内に攻撃を受けたのだ。
攻撃を受けた場所を見るに、俺の体を粉砕させる勢いで放ったのだろう。
相手の顔も見ない内からこんな攻撃……俺が来るのを分かっていたに違いない。
その人影に向かって足に隠し持っていたナイフを何本か投げる。
これは陽動で、逃げる先に電撃を浴びせる。
するりとその電撃を躱した相手から、火球をいくつか浴びせられる。
水球を生み出し、火球を無効化しながら、水球の中に電撃を忍ばせ、敵に放った。
忍ばせた電撃は相手の足にあたり、大きく体が傾いたのが分かった。
一気に距離を詰めながら、電撃を何度か当てていく。
「あぁん、もう!」
女性の苛立ったような声がし、大きめの火球を投げつけられる。
それを避け、距離を詰めると、何とも不気味な格好をしている人間であることが分かった。
腰まである白い髪を一つに縛り、顔は何もない真っ白な面を被っていた。
体に密着している黒い装いで、闇夜に紛れて何かをしようとしていることが見て取れる。
こういった装いをする組織を俺は知らないが…体の動かし方からも訓練された人間であることが分かる。
ソウマが言っていた女は、こいつのことか。
指先に力を集め、手から腕にかけての強度を上げる。肩に力を込めて、女の肩を突き刺す。
女の肩に穴が開いたのを見ながら、腰にもう一発内臓を抉るように突き刺す。
「今度の坊やは強いのねぇ。お姉さん、死んじゃいそう。」
「吐け。何のために伯爵令嬢を狙っている。」
「命なんか惜しくないわぁ。」
俺の攻撃を避けようと肩を後方にずらしたのを見て、重心をかけている足を払い、体勢を崩す。
地に干渉して、無防備になった体に生み出した触手を巻き付け、その女の体を拘束する。
この女は時間をかけてゆっくり詰めないといけない。
捕らえて王都の騎士団で洗いざらい情報を吐かせなければ。
そう思った瞬間、女の鼓動が不自然に跳ねたのを感じた。
急いで女の面を外そうとしたが、何らかの力で縫い付けられているのか、力を込めても剥がれない。
女の体が痙攣するのを見て、毒を呷ったのが分かった。女の血液の流れが徐々に遅くなっていくのがわかる。
せっかくの証拠を死なせるか。
女の体に手を当て、どこに毒が集中しているのかを探ったが……随分前から毒を呷っていたのか、もう脳と心臓が侵されていた。
今から解毒しても、もう間に合わないだろう。
「くそっ。」
何で気づけなかったのか…自分の愚かさに反吐が出る。
せっかくの証拠をみすみす死なせてしまった。
彼女を辿れば、一気に他の関係者を引きずり出せたかもしれないのに。
しばらくその女の体を探り、証拠が残されていないか探った後、俺は近くの精霊を使って王都に女の体を回収するよう伝達を飛ばした。
顔のない女からの襲撃後も何度か伯爵令嬢を狙った襲撃があった。
簡単に自害したことからも分かってはいたが、あの女が死んだことで何か影響が出るわけではなかったらしい。
何度か跳ね退けて、何人か王都送りにしたが、未だ王都からは有用な情報はもらえていない。
一つ分かることは、今まで襲撃してきた人間達はただの手駒であること。
誰も大した情報はもっておらず、依頼されたと口を揃えるだけであった。
同じことを繰り返してうまくいくと思っているのか挑発されているのか…それとも、この襲撃は何か別の策を進める中での目くらましなのか。
どっちにしろ伯爵令嬢への脅威を払えていないことが俺を苛立たせた。
敵を追いたい気持ちは山々だが、彼女の護衛を離れるわけにはいかない。
今俺にできることは、彼女に直接迫りくる脅威を払いのけることだけだった。
最近の彼女は魔法が使えるようになった。
細かいことは近くで話を聞いていたわけではないから分からないが、最近関わるようになった錬成屋の跡継ぎと協力して得た結果らしい。
剣術の他にも、魔法を織り交ぜた戦術を生み出そうと試みていた。
見る限り魔法の発動時間が早いが、魔力のコントロールに苦しんでいる様子が見受けられる。
それでも他の人間から魔法の発動方法を教わっているらしく、相変わらず自分の力を高めるためにがんばっているようだった。
着実に力をつけていく彼女を見ながら、眩しく思っていた気持ちが、今は尊敬の念に変化していることに気づく。
毎日どんな日であっても努力することを怠らず、突破口を探し続けた結果が少しずつ出てき始めている。
この年でこれほどの力をつけた彼女なら、嫁がなくてもそれなりに生きていけるのではないか。
実戦練習を終え、休息を取りに後に控える彼女にあの錬成屋の跡継ぎが声をかけていた。
何を話しているのかは分からないが、楽しそうで、彼女が滅多に見せない笑顔を見せた。
その美しさに目を奪われながらも、胸の奥から燃え盛りそうな怒りが沸き上がってきた。
この気持ちは初めてではない。
この間彼女が涙し、跡継ぎが彼女に触れた日からあいつを見るたびに沸き上がってくるものだった。
息を吐き、いつも通り気持ちを落ち着ける。
無性にあの跡継ぎを彼女から遠ざけたくなる気持ちが止まらなくなりそうになる。
彼女は俺を知っているわけでもなく、秘密裏に彼女を護衛しているだけであるのに、この感情は図々しいにも程がある。
彼女が誰と関わろうが自由であるのに。
小刻みに震える拳を抑え、息を吐いて自分を落ち着ける。
あいつが彼女に向ける視線が熱を帯びているようで気に入らない。どうも跡継ぎが気になる。
こんな感情で自分をかき乱されることなんて、今までなかったのに。
この気持ちの対処法が分からず、ただ深呼吸を馬鹿馬鹿しく続けていた。
それから数年して、王都から急な伝達が入った。
それは、護衛の任を解き、別の仕事が待っているため王都への帰還を命ずるものであった。
急で一方的な決定に苛立つ。
まだ彼女を狙う者の正体が分からないでいるのに、このまま場を去ることになるなんて。
何度か抗議の内容を王都に送ったが、受け入れてもらえず、王都への帰還が覆ることはなかった。
あの上官の顔が脳裏にちらつき、苛立ちは収まらない。
後任もすでに決まっており、俺の出る幕はすでになくなっていた。
彼女のことがすごく心配であるのと同時に、当たり前に彼女のことを見れていたのが当たり前でなくなることに自分でも信じられないくらいに落胆していた。
一度観察対象の護衛につき、任を終えても、情報の漏洩を防ぐ観点から数年は関わることを禁じられる。
だから、会うことも数年は叶わない。
王都に帰還することが決まって、初めて俺はどれだけ彼女を想っていたのか思い知った。執着する理由が初めて分かった。
俺は、彼女のことをいつの間に好きになっていたのだ。
護衛をしていた彼女、アーリアを好きになるだなんて…誰かが聞いたら気持ち悪がるような話だろう。
でも、紛れもなく胸の奥底で彼女を想うのを脈々と感じる。
例えこの任を離れようとも、彼女が危険な目に遭えば助けに行こう。
彼女を追う者を探し当て、彼女が怯えることなく過ごせるように力を尽くそう。
一方的かもしれないが、俺がせめてできることを彼女にしたい。
最後に彼女が剣を振るう姿を見て、俺はフォーカルド領を去った。
◇
彼女の元を去ったことまで思い出したところで、アーリアの手が俺の手に触れたのがわかった。
少しだけ迷ったが、その手をとり、握りしめる。
彼女の護衛に再び戻り、こうして言葉を交わせることができるようになったのが夢のようだと思う。
何があってもアーリアを守る。この気持ちに変わりはない。
「ゆっくりお休み。」
彼女の髪を少しだけ撫で、部屋の灯りを消した。
毛布を彼女にかけ、その場を去った。




