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無印の呪い  作者: J佐助
国立王都研究所編
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第2章18節:破壊の魔女

光を抜ける途中、体の中がぐにゃりと何かにかき乱されるような妙な感覚があった。

だけどもそれも一瞬のことで、気が付くと……元の場所に戻っていた。

調査メンバーと必死に書かれていた文を読み解き、そして分類していた場所――闇の魔法が発動した場所だった。

皆逃げ切れたのか、この場には私とリツさん、そしてシーア様しかいない。

赤い光が漏れ出ていたり、闇の魔法が発動したりしておらず、まるでここでは何もなかったかのよう…一つのことを除いては。

奥の方に下へと続く階段があった。


「いつの間に。」


「魔物の気配も感じないな。さっきの地竜を殺したことで何か仕掛けが動いたのか。」


階段に近づくと冷たい風が頬にあたる。

私が近づいたことで階段の中にふわりと光が浮かび上がり、階段内を照らした。

下にいくことを誘うかのような優しい光が灯っている。


「遺跡を一度出たらどう遺跡内が変化するか分かりませんので、このまま進みませんか。もし危険だったり、進むのに時間を要しそうでしたら引き返しましょう。守られている私が言うべきことじゃないかもしれないですけど…どうでしょうか。」


私は振り返ってリツさんにお願いする。

遺跡の構造がどうなっているのか詳しく知らないし、このまま一旦遺跡を出ることもできるかもしれないけれども、この階段は何か意図があって隠されていたような気がする。

一度遺跡を出たら、進んだことがリセットされてしまうような気がした。

私達をどこかに転移させることができる魔法が仕掛けられていたのだ。元に戻すことぐらい訳ないかと思う。

だから、今あるこの状況を活かしたかったけれども、私は自分で遺跡を自由に進めるほど力があるわけではない。

リツさんは顎に手を当て、少しだけ考えたような仕草を見せたけれども、私に視線を戻す。


「俺としては問題はない。ただ、俺が先頭で真ん中はアーリア、後ろはシーアの並びでいく。これは守ってほしい。」


「ありがとうございます。すみません。」


リツさんは、横を通りすぎる際に私の頭を一撫でした。


「礼を言うほどのことじゃない。ほら、行こう。」


「さりげなーく俺をこき使い、そしてアーリアを触るという技だね、これは。まったく。」


リツさんに続いてシーア様が呆れたように息を吐いた。

そこまで嫌がっているように見えないのは気のせいだろうか…。

とにかく、リツさんが了承してくれたことに安堵しつつ、お願いしておきながら申し訳なさも感じる。

リツさんが許してくれた分、足手まといにならないように動かなければ。

急いでリツさんの後ろにつき、それを確認したリツさんが階段を下りる。

リツさんの進みにあわせて、道を示すかのように奥にさらに光が灯る。


「アーリア、見える?あっちこっちに魔法が張り巡らされているねぇ。」


「えぇ。読めるのもありますが、読めないのもありますね。これが先ほどシーア様が仰っていた光、もしくは闇の属性魔法でしょうか。」


「だねぇ。今の時代光と闇の属性なんて滅多にお目にかかれないからたっぷり見ておいたほうがいいかもねぇ。」


シーア様の言うように階段を下りた先には天井から地面まで魔統文字がいたるところに浮いていた。

索敵魔法と絡ませて、人が侵入したら光が発動するような魔法、この階段を消していた名残からだろうか姿を消す際に使用する魔法もあるし、読めない魔統文字も多くある。

ここの階段にいくつも魔法がかけられている。

今のところ危害を与えるようなものはないけれども…この先に何かあるということなのだろう。


「リツ、この遺跡云々終わったらアーリアに闇の魔法について教わったらどう?多分この子、この遺跡出るまでには習得してるよ。」


「そ、そんなこと…!初めて見る文字ばかりでとても習得など。」


慌てて否定するが後ろから楽しそうに息を漏らす声が聞こえた。

恐らく読めない文字が光か闇の魔統文字だと認識できるけれども、習得とは程遠い。

シーア様は何を見てそう感じられたのだろうか…。


「僕が君と初めて会った時にちょっと魔統文字について教えただけなのに、今では使いこなしているように見えるよ。魔法を発動する時も正確だし、きっと魔統文字を頭の中で想像しながら魔法を使っているんだなって思うよ。無意識かどうかは分からないけど、自分の枝の使い方を正確に理解している。」


「シーアの言う通りだ。アーリアが魔法を発動する時の空気の流れというか、そういったものにブレを感じない。ソウマのような的確さを感じる。」


「お二人共過大評価しすぎです。自分の魔法が暴走しないようにすごく気を遣っているのに。」


魔統文字を考えながら魔法を発動するのは暴走しやすいからであって…。

決して正確に理解しているわけであるからではないと思う。

きっと魔統文字を考えずに瞬時に結果をイメージして発動できることが本当に的確に魔法を発動できる人なんだと思う。

それに、リツさんに教えるだなんて…恐れ多すぎる。むしろ、私が教わることが多そうなくらいなのに。


「過大評価をしているつもりはないが…。ただ、光と闇の属性魔法は気になる。発動できるのであれば何かあった時のために習得したい。」


「覚えられるように力を尽くします…。」


「無理はしなくていい。できれば、の話だから。」


魔統文字を仮に覚えられたとしても、発動できるのだろうか。イメージもどう掴めばいいんだろうか…。

4つの属性魔法は実生活にお手本があったのもあって理解できたものなのに、今遺跡内をぱっと見ただけでできるかどうか。

ただ、リツさんが危険な目にあってまで私の調査に付き合ってくれているのだから、リツさんのためにできる限り力を尽くすのが私が少しでも返せる恩だと思う。

できるだけ覚えられるようにがんばろう…。

周りに気を付けつつも、魔統文字も目に焼き付けるように見ていく。


「奥から光が漏れている。別の部屋にまた繋がりそうだ。」


「はぁ。これで終わりだといいんだけどねぇ。」


前に目を向けると、リツさんの言う通り淡い光が漏れていた。


「魔物の気配とかもないけど、気は引き締めて。」


「はい。」


私も浮いている魔統文字に目を走らせる。

特に私たちが動くことで危害を与えるような魔法は、私の知っている文字の中にはない。

階段も終わり、リツさんが身を潜めながらそっとその光に近づく。私も息を殺してその後を追う。

索敵の魔法も相変わらず発動させているけれども、こちらにも一切反応は感じない。

そっと光の元にリツさんが顔を覗かせた。


「これは…。」


リツさんの少し驚いたような声。

不思議に思う私の手がそっと握られた。リツさんの手だった。

想定していなかった行動に心臓が痛いくらい飛び跳ねる。


「大丈夫そう。来て、アーリア。」


そう言ってリツさんが私の手を優しく引いてくれる。

私も恐る恐るリツさんに手を引かれて部屋の中に入る。


そこは小さな部屋だった。

人が数十人は入れるかどうかというくらいの部屋。

私達が今入ってきたところ以外に道はなく、この部屋で行き止まりのようだった。

その部屋には何も置かれていなかったけれども、壁には何か記されていた。

壁いっぱいの白い日本語――いや、魔族語が……。


「アーリア、読めそう?」


「はい。読めます…すべて。」


先程の十二支の話とは一切関係ない内容が並んでいた。


『破壊の魔女の始まり』


それは、そう始まっていた。




『破壊の魔女の始まり

昔、十二の呪いを一身に受け、破壊を尽くす魔女有り。

魔女に考えはなく、意思もなく、思いもなく、破壊だけを胸に秘め、枯れた地をさらに燃やす。

国を選ばず、人を選ばず、種族を選ばず、目の前にあるものをただ破壊しつくす。

それだけが彼女の生きがいのように、ただ破壊だけを求めて進む。

国同士の争いを止め、魔女に立ち向かうも皆破れ、手を付けられず、ただ絶望のみが世界を覆う。


そこにイリテメイドとイシャカ、手を取り魔女に立ち向かう。

一人は責のため、もう一人は愛のため、魔女に向かう。

呪いの元と原因の元、魔女に立ち向かい首を討ち取る。

残ったのは疲弊した大地と無のみ。

一人は呪いの調整のため、一人は世界の統一のため、道分かれる。

破壊の魔女死した後に、真の平穏訪れる。呪いのみ人間に受け継がれるだけである。』

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