第2章16節:可動
私の知っている十二支の話通りの内容で記されている文は2つ以上存在しなかった。
けれども、『鼠が死んだ』『鳥が空を飛ぶ』とか十二支の話にない内容は、動物の名前を変えるだけで似たような文がいくつかある。
文が書かれている場所は、すべて読み解いたはずだから、これに誤りはないと思う。
似たような文がいくつかある内容は、目くらましというか…ダミーなのだろうか。
つまりは、2つ以上存在しない文に何かあるのだろうか…そう思った私は、その文がある場所に目印をつけるよう調査メンバーに頼んだ。
「それで、目印をつけたわけですが…私にはこれが何を指し示しているのかさっぱり分かりませんね。」
オクタリス氏が頭を掻きながら、疲れを残した顔で困ったように笑った。
その顔に、胸が痛む。
3日ほどこうして文の読み解きに熱中しており、その間やってきた魔物達を護衛メンバーが払い続けている。
時折脅威に晒されながらしんどい作業をしているのだ。
できる限り早く突破口を作らなければ…。
胸の奥に湧き出る焦りを押さえつけ、目印に目を向けた。
見た限り大きな円を描くように目印が外側に配置され、その円の中に所々目印がある状況だ。
この場所に何かあるのは確かなんだろうけれども…どう読み取ればいいのだろうか。
円の中の目印を見て、その目印がお互いに近いのが気になる。
繋げていけば、何か分かるものがあったりするのだろうか。
いや、繋げてみたら、何かわかるような気がする――何かに似ている気がする。
「この目印を私の言うように線で繋げてもらってもいいでしょうか?何か分かる気がするのです。」
「分かりました。」
調査メンバーと協力しながら、点と点を線で結んだ……すると何だか見覚えのあるような文字列が出てきた。
円の中に文字列……まるで魔法陣のようだと感じる。そして、その文字は若干魔統文字に似ていた。
魔統文字でこういった感じの文字は見たことはないのだけれども……何といえばいいのだろうか。
丸みを帯びている感じとか、癖とかが魔統文字っぽいというか。
でも、何を示しているのかは分からない。どの属性の魔法が使用されるのかの内容が入っていない。
魔法を発動する時は必ず属性を示す文字の並びがある。
例えば、結界や存在を消す魔法は風属性、幻を見せる魔法は水属性の文字が入っている。
これは魔法なのだろうか……疑問に思って文字に触れると、その文字が微かに赤く光った気がした。
見間違いかと思い、目を凝らすと、突如目の奥を刺すような赤い光が文字から溢れ出た。
「アーリア!!」
後ろで私を呼ぶ声がし、腕を引かれる。
顔をあげると、顔を顰めたリツさんがいた。
「これは何。」
「分かりません。急に反応し出して…。」
リツさんは私を抱え、後ろに飛びながら、その光から距離をとる。
天井からぽろぽろと砂や小石が落ちていることで、遺跡が微かに揺れていることに気が付いた。
それぞれのメンバーも武器を手に取り、辺りを警戒している。
「何が起こるか分からない。一度この遺跡から脱出しよう。」
リツさんは私を抱えなおし、両手を本を広げるかのように開く。
周りに白い光がぽつぽつと現れ、テレポートをしようとしているのだと気づく。
だが、リツさんの周りにあったテレポートの光が赤く色を変えた。
まるで、文字から出た赤い光に侵食されたかのよう。
「これはっ。」
リツさんは手を崩し、テレポートの発動を止めたものの、周りに漂う赤い光はなくならない。
むしろ、強い光を放ち、今にもテレポートが発動しそうだった。
「何かに俺の力が干渉されている。鳥の印の効果は使えないと考えた方がいい。皆、外に向かって脱出して。護衛、調査メンバーを守るように陣形を組め。」
リツさんが声を張り上げ他のメンバーの統率をとり、私を抱えたまま走り出す。
文字に目を向けると、先ほど以上に眩い赤い光を放ち、爆発しそうな動きを見せていた。
何かを発動させてしまったのだろうか。
でも、方向性は間違っていなかったと思うのだけれども……どうしてこんな反応が。
赤い光の周りを漂うように、魔統文字と思われる黒い文字がぽつぽつと現れて浮かんでいた。
やはり見たことがないけれども、魔統文字の癖がある文字だった。
私が知っている魔統文字は、もしかしたらほんの一部なのかもしれない。
そう考えを巡らせている内に光は強く強く光り出す。
風が唸るほどの速さで駆けるリツさんの足でも逃げ切れないような速さで光が広がっていく。
赤い光が視界を覆い、目が開けていられなくて、瞑ってしまう。
リツさんが私を胸元に引き寄せ、体全体で私を包むように守ってくれることを感じた。
「絶対守るから、俺にしっかり捕まって。」
そう声が耳に届いた後に、轟音が辺りに響き渡り、体が浮いたような気がした。
目を再び開こうとしても、じりじりと焼けたような感覚がし、うまく瞼を開けることができない。
何も見えない、浮遊感だけが世界で、お腹の底から侵食するような恐怖に襲われる。
何が起こっているというの。
手を伸ばし、触れたリツさんの体に言われたように捕まった。
私の背にリツさんの手が伸び、引き寄せてくれたのを感じる。
荒く波打つリツさんの心臓が痛いほど耳に響く。
「アーリア!!」
「リツさんっ!!」
そのまま真下に落ちるような感覚があり、刈り取られるような強引さで意識が途切れた。




