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無印の呪い  作者: J佐助
国立王都研究所編
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第2章13節:遺跡への調査

「遺跡……ですか?」


「はい。この大陸の中央部にマイスト遺跡という魔族が遺したとされる遺跡が残っています。地下にその遺跡が広がっていると言われていますが、住んでいる魔物が強力であることと、遺跡の構造が複雑化していることから発掘が進んでいないのです。遺跡の至るところに魔族語が記されており、それが遺跡を進む上での鍵ではないかと言われているのですが、なんせ魔物のせいでゆっくり魔族語を解いている暇がない状況でして。」


「なるほど。私が行けば魔族語を解くための時間をとらずに遺跡を進むための鍵を得れるということですね。」


「そういうことです。それに、リツが貴方の護衛についたことで、貴方が行くところには彼を同行させることができる許可を得ています。今までなかなかリツを自由に動かせなかったのですが、護衛の名目で遺跡の魔物を彼に任せれば攻略の難易度もかなり下がるかと。」


ソウマさんはそう言い、リツにちらりと目を向けた。

リツさんはあまり気が進まないのか、顎に手を当てながら眉間に皺を寄せている。


「魔物を相手することは構わないが、アーリアが危険に晒されることに納得がいかない。研究所の外に出れば、敵襲がある可能性も高まる。敵は魔物だけじゃないかもしれない。」


「そんなに心配であるのならば魔物と敵を貴方が相手すれば良いのでは。無論場所が場所だけに調査団は戦闘ができる人員を身内から集めますが。」


「アーリアは元々印効果部の被験者としてここに来たんだ。世界史部のためじゃない。」


ソウマさんをリツさんがきつく睨みつける。

研究所から離れるとなれば、確かに私を狙っている者に攻撃するチャンスを与えてしまうことになる。

けれども、私としては行きたい気持ちが強い。

日本語という言語を使ってきた種族を知り合いという気持ちと、何だか行かなければいけないような、そんな不思議な気持ちになるのだ。


「残念ながらアーリアの待遇は研究所が判断します。そして私はその研究所の副所長であり、決定権は私に強くあります。アーリアは世界史部の研究員としても取り扱う方向性で話を進める予定です。被験者兼研究員となれば、リスクのある人体実験は避けると約束しますが、いかがでしょうか。」


私としては悪い話ではない。リスクのある人体実験を避けることができるのは喜ばしいことだ。

ただ、懸念点として、いくら副所長であっても、王家が私の体の構造の解明のために人体実験の実行を強く求めた場合、背くことなどできない。


「私がリスクのある人体実験の対象から外れることは王家としては問題ないのでしょうか。」


「今後の王家の方針は正直言うと知りません。ただ、秘められた史実の解明は王家が求めていることでもあります。魔族の生態が分かれば本当に絶滅したのかの真相にも迫れますし、百年戦争前は今は失われた戦闘技術があったそうですよ。王家にとって有益そうな話ですよねぇ。」


ソウマさんはそう言って口角を上げる。


「まぁ……私が言いたいこととしては、王家を心配するのであれば、結果を出せばいいのでは、ということです。貴方が研究員になることの利点をいくらでも私は王家に説明しましょう。ただ、私が夢物語を語っているのではないこと…つまりは、貴方がどれだけ国に有益となるか証明すれば、貴方を失う可能性のある判断は王家はしないはずです。」


ここは前世と変わることはないだろう。

自分が必要だと相手に思わせるためには、結果を出す必要がある。論より証拠。

危険なのは分かっているけれど、魔物はともかく、いつまでも敵を警戒して自分の行動が狭められるのは納得がいかない。

自分で道を切り開くためにも、バッカス達に誘拐された後も鍛錬を続けてきたのだ。


「分かりました。私は遺跡への調査に参加したいと思いますが、リツさんは大丈夫でしょうか?」


眉間に皺を寄せたままであるリツさん。

彼としては、私が危険に晒される状況に納得がいかないのだろう。

リツさんの協力がなければ成しえないことなので、私の判断だけで無理に進めるようなことは避けたかった。

こちらに一瞬目を向けたリツさんと目が合ったかと思えば、彼が軽く息をつく。


「ソウマが無理やり行かせるなら噛みつくつもりだったけど、アーリアが望むのであれば俺は協力するよ。でも、遺跡では俺の言う通りに行動してほしい。それは約束して。」


「はい。約束します。」


身勝手な願いだったけれども、許してもらえたことで安堵する。


「話は決まりましたね。では、私はその準備を進めておきましょう。私の方でも適切な人員を選んでおきます。もしリツが編成してほしい人間がいれば後程私に教えてください。」


そう言うとソウマさんがその場を去った。

それを見て、リツさんが私に顔を近づける。

急に迫ってきた顔に驚いて身を引くが、手を掴まれ引き寄せられる。


「もし途中で行きたくないと気が変わったらいつでも俺に言って。俺が掛け合えば無くせる話だから。」


「わ、わかりました。」


耳に微かな振動が伝わり、少しくすぐったかった。

でも、護衛の仕事故の言動であったとしても私を身を思っての言葉に嬉しかった。




マイスト遺跡に向かう話が出てからすぐに準備が進められ、2週間後である今日、出発することになった。

マイスト遺跡の調査団は20人で編成され、遺跡最深部までの調査が予定されている。

私とリツさんの他にも、護衛役が10人、他は調査役で編成されているが、一応編成メンバー全員はそれなりに戦闘経験がある人間だった。


リツさんは全身タイトな黒い服に、鼻から首元までを覆う衣類を身に着け、剣が収まった鞘を腰から提げていた。

目立つことをさけるためにも、極力肌や顔を隠した姿を見て、私が外出するとなるとここまで完全防備をする必要があるのかと申し訳ない気持ちが湧いてくる。


「リツさん、私が遺跡に行くと言ったばっかりに、ご迷惑をおかけしてしまうことになり、申し訳ございません。」


「気にする必要はないよ。俺の仕事だし。」


そう言いながらリツさんは、足回りに小さいナイフを何本か仕舞う。

さらに腰に提げている鞘とは反対の位置に革袋を提げた。

その革袋に見覚えがあった。

たしか、私が攫われた時に薬を仕舞っていたものだったはず。

私とリツさんの以前の繋がりのようなものを見つけた気がして、嬉しくなった。


「どうした?」


リツさんが私の視線に気づいて尋ねてくる。


「いえ、その革袋、以前も持ってたなと思いまして。」


革袋を指さすと、リツさんが納得したような顔をした。


「そうだな。覚えていたんだな。」


6年前の記憶を少しだけ共有できて、胸の内が温かくなる。

些細なことなのに、一々喜ぶ自分に呆れてしまうけれども、抑えられないからしょうがない。


「リツ卿、準備が整いました。いつでも出発できます。」


「分かった。あと数刻で出よう。」


調査団のメンバーの一人がリツさんに報告する。

一応、デメリットの効果を受けることなくテレポートを使えるリツさんが調査団を運ぶ予定だ。

ただ、テレポートの能力も万能なわけではなく、行き先がイメージできない場所であったりすると、移動することができない。

そのため、あくまで遺跡の前までの移動とはなるけれども、遺跡は人の足で10日以上かかる場所にある。

それでも、そこまで一気に行けることは、調査団の負担がかなり軽減される。

この世界に来て17年経っているわけだけれども、改めて印の凄さを思い知る。

それに、10日以上かかる場所に20人を一度に運べるなんて聞いたことのない凄技だ。

それだけリツさんの印が大きく力を持っているということになる。


「アーリア、行こう。あと、何度もしつこいようだけど、俺の言う通りに動くこと、そして、離れないこと。身の危険を感じたらすぐに俺に報告して。」


「わかりました。」


私の返事を聞くと、安心したように頭を撫でてくれた。

この2週間でその警告を受けなかった日はないくらい、繰り返し言われていることだった。

私のお母さんかと思うほどの心配のしようだ。

一応何かあった時のために、私自身にも魔力をありたけ補充しておいた。魔封石も数個ほどストックがある。

実家にいた時から使っていた剣を私も提げて調査団に加わる。

とにかく今は私にできることを精一杯やって、結果を出すことに集中しよう。

気を引き締めて、リツさんの後に続いた。


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