表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無印の呪い  作者: J佐助
開拓編
10/59

第1章8節:秘密を一つ

シーア様の部屋の外で待ち受けていた使用人達も、部屋の外を出た私たちの後についてくる。


「彼女を元に場所に帰すよー。準備して―。」


「かしこまりました。」


シーア様のゆったりとした口調の指示に、後ろについていた使用人の何人かがばらける。

スムーズで卒ない動きは、一種の芸術性を感じる。

どうやら、私を元に場所に戻すために、数名で風の魔法を発動する準備をしているようであった。


楽しそうに魔統文字がくるくる辺りを回っている。

私にかける魔法だと理解しているのか、人懐っこい性格を持つ文字が私に体を擦り付けていた。まるで甘えているようだ。

文字だから、体……と言うのも何だか間違ってる気がするが。

指先で魔統文字を撫でると、照れたように回転した。


「彼らと仲良くなれそうだね。」


シーア様が楽しそうに笑う。


「シーア様、私の目で魔統文字が見えるのですか?」


「僕を誰だと思ってるの?体の部品が変わろうとも、僕本来の力は衰えはしないよ。僕は自分の力が衰えるような行動は、決してしない。」


私の周りに浮いている魔統文字を摘まみ、シーア様は悪戯っぽく笑いながら放り投げてしまった。

やはり、精霊王は底が知れない。


「さぁ、もう君を帰す準備ができたようだ。」


私がここに到着した際にいた場所……つまりは、シーア様との初対面で嘔吐していた場所まで連れられていた。

もちろんその後は跡形もなく――――心の中で片づけてくれた人に礼をする。

使用人数人が円を作るように配置され、それぞれが手を上に掲げている。

彼らの周りを魔統文字がふわふわと浮き、一つの文字列が出来上がり始めていた。

ざっと読んだところ何かの幻術を解くような魔法と、風の威力を強化する魔法が発動されようとしているように見受けられた。

早く魔統文字を正確に把握して、自分でも文字列が組めるようになりたい。

そう思うとうずうずした。


「さぁ、アーリア、あの円の中の中央に立てば、君は家族の元に帰れる。今度は荒っぽくしないから安心してね。」


落下に近い状態でここに連れてこられたことを思い出す。それだけで胃がきゅうと締め付けられた。

あんな思いは二度とごめんだ。

繋がれた手が離れたので、私は一歩シーア様から距離をとる。


「シーア様、ここまで心を配っていただき、ありがとうございました。」


ドレスの裾をつかみ、足を曲げ、王族用の一礼をシーア様にする。心からの感謝を込めた。

シーア様は、底が知れない怖い一面のある王様だけれども、こんな私のような子供にも気を配る優しい方だった。

シーア様は目を点にしたような顔で驚いていたが、すぐにまたあの妖しい笑みを浮かべた。


「お礼を言われるようなことをしたのかなぁ。やっぱり君は甘い気がするよ。」


さぁ、行ってと言いながら、シーア様が手を目の前で払うと、私の体が掬いあげられるように浮いた。

そのまま使用人達の作った円の中心までふわふわと浮いていく。


「さようなら、フォーカルドの姫君。強く生きるんだよ。」


遠くでシーア様が手を振ったのを合図に、私の体は浮上していく。

落下してきた時とは比べ物にならないくらいの緩やかな速度で、私は上に上がっていったのだ。





私が父親たちの元に戻った時には、それは大きな騒ぎになっていたらしい。

ジンジャー氏と話を進めていた途中で、ふと父親が気が付いたらしい。娘はどこだ、と……。

そこから護衛、そしてジンジャー氏が次々と私の存在を思い出し始め、そこからは大捜索だ。

鉱石場の隅々まで捜索が行われたが、私が一切見つからず、立ち入り禁止区域に立ち入ったのではと話が上がり始めていた。

精霊王と話を通さないといけなくなったかと思われたところで、護衛のヤーコンが立ち入り禁止区域の境界線の前で倒れている私を発見した。


シーア様と別れた後、目の交換で体力を知らずに消耗していたのか、私は意識を失っていた。

急遽医者が呼ばれ、鉱石場の休憩室まで運び込まれたが、一向に目を覚まさないため、父の鳥の印(トリのイン)の力で家に戻ったのであった。


家に戻って数日後に目を覚ましたのだけれども、目覚めた私を見て、家族一同が驚愕する。

そこから医者を再び呼び、原因が分からず大慌てするという状況になる。

まぁ……それもそうだろう。娘が目を覚ますと、その目が赤いのだ。私が逆の立場でも驚く。


家族の慌てようを見てシーア様と目の交換をしたことを話すべきかと一瞬迷ったが、話さないことにした。

精霊王であるシーア様は、私が誕生の祝福を受けていたと言っていた。

そして、その祝福を受けた体の一部(私の目玉)がほしいとも……。


この誕生の祝福の効果がどれほど良いものかは、正確には分からない。

ただ、精霊王という立場の精霊が欲しがったのだ。

きっと他の属性の精霊、もしくは精霊王クラスがこの体を求める可能性が高かった。

それに、人間がこの体を欲しないとは限らない。

シーア様は自身で察知されたようだから、私から隠してもあまり意味をなさないのかもしれない……。

でも、考えなしにぺらぺら話す内容でもないと思った。どこで誰が聞いているかも分からないのだから。


体に異常は感じないことは話し、また適当な嘘で穴をつかれることも防ぐために、行方不明となっている間の記憶は一応ないことにしている。

それ以外のことに関しては、黙っていることにした。

ただ、心の奥がすごく痛むのを感じた。

父親の真っ青な顔に、母親の泣きそうな声、そして兄の気遣うような仕草を見ていると、黙っていることが本当に心苦しい。


前世では、ほぼ感じることのなかった愛情を、ここではひしひしと感じる。

いくら不可抗力とはいえ、私の行動で家族にここまで心配をかけてしまった……それが前世でも感じたことのない胸の痛みを生み出した。

もう少し考えて自分の行動を決める必要があると、すごく反省した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ