報告書1-1
はじまります。
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2x00年07月16日
俺の名は、柊 真・男性
『電子電気災害対策機構』の東京都渋谷区の実行部に所属している。
今は、パソコンの前で報告書を作成している。
俺は、この報告書というやつが大の苦手だ。
しかし、報告書は、作戦指揮を行った部隊長が記述するという大前提があるため部下に押し付けるわけにはいかない。
部隊といっても、部下(後輩)ひとりの最小部隊だ。
したがって俺は、別に偉くもなければ給料が良いわけでもない。
しかし、部隊長には、責任と義務(書類作成)がセットで付いてくるから厄介だ。
「せんぱ~い、書類できました? 今日の引継ぎまでに仕上げてくださいよ~」
お気楽な声を掛けてくるのは、樋本 明音・女性・22歳
「うるさい、お前が書け。 部隊長の命令だ、黙って書け、返事は、了解しました のみ許可する」
「先日代筆がばれて、さらに始末書まで書かされたのに懲りませんね~」
「ばれたのは、お前が報告書の最後に『部隊長の指示により報告書の作成を行いました』と書いたせいだ」
「書類を提出するときに気付かなかったんですか~」
「そんなもん確認するか」
文句を言いつつも書類作成を行う。
俺たちの任務は、書類作成ではなく、電子電気障害の一つである『電脳フィッシュ』を退治することにある。
通信が発達した世の中に突如発生した電子電気障害である『電脳フィッシュ』
こいつらは、電気機器のあるとこに現れる厄介な存在だ。
突如と言ったが、政府が認識する前からいたらしい。
正確な時期は、はっきりしていないが原因不明な通信障害や電気障害が世界中で増え始めた事が始まりだった。
最初こそテロだの製品トラブルと言われていたが、原因が解明できなかった。
製品トラブルにしては、どのような対策をしても発生するときには、製品・メーカー・対応年数を無視して無秩序に発生した。
電脳フィッシュの発見は、ほとんど偶然に発見された。
ある大学の研究室で空気中の電荷を計測する実験中に初の『電脳フィッシュ』が計測された。
空気中を魚の様に泳ぎ回り、電子機器に集まる『電脳フィッシュ』が克明に記録された。
俺も、そのビデオを見たことがあるが、空気中を体?を捻らせて進む姿は確かに魚の様だと思った。
『電脳フィッシュ』が空気中を移動する姿は、流線型の形状をしていた。
人魂と勘違いしている人がいるそうだが、形状と見た目が違う。
人魂は、球形だが『電脳フィッシュ』は、流線型もしくは、涙滴型をしている。
どこかの教授が、「球雷だ! 全て球雷で説明できる!!」と言っているがいまだに正体は解明されていない。
そして、『電脳フィッシュ』は見えない!!
そう、目では確認できないことから発見が遅れたが、それからは急激に調査が進んだ。
電脳フィッシュを構成する主要な成分は、電荷だ。
こいつらが電化製品などに集まってくると過電流でショートしたりする。
電化製品をショートさせるだけでなく、ある程度集まってくると通信障害や電波障害を引き起こす。
何が原因で集まってくるのか?
どこから来るのか?(又は、発生するのか?)
電気が目的と思われる行動をするが、なぜ特定の場所に集まるのかは皆目見当が付かない。
現在社会では、電気などそこら中に溢れている。
手当たり次第に事件が発生するのではなく、何かの切っ掛けで集まったり、電気を吸収して大きくなったりする。
「なにが原因なんだろう」
つい口からこぼれてしまった言葉に、樋本が反応する。
「先輩の筆不精が原因かと・・・もしくはめんどくさがりで~」
「そっちじゃねえよ」
電脳フィッシュの行動基準も分からないが構造も解明されていない。
なぜ空気放電してしまわないのか?
目や嗅覚など外界を判断する器官はあるのか?
そして、本能や知性はあるのか?
「コミュニケーションは成立しないが・・・」
「ちゃんと話をしてあげてますけど~」
つまらない仕事をしているせいか、つい独り言のように考えがこぼれてしまう。
一々返事してくる樋本の性格にも問題を感じるが・・・。
電脳フィッシュの研究は一向に進まないが、退治する方法だけは発見された。
こいつらを退治する確実な方法は、強い電荷を加えることだ。
人間らしい強引な方法といえるが、進展があったのは喜ばしいことだ。
奴らが帯電している量の3倍から4倍程度の電圧を急激に与えることで退治することができる。
電脳フィッシュがいきなり電線に噛みついたりしない理由ともいえる。
といっても電脳フィッシュに歯など無い。
内臓もない・・・いや、定番のギャグが頭をよぎるが、頭を振って強引に打ち消す。
「せんぱ~い、私定番のギャグ好きですけど~」
「お前は、エスパーか!?」
なぜか、おかしなギャグを思いつくと樋本は目ざとく反応する。
思考が読まれている?
「今どき、そんな突っ込み入れる人は少ないかと~」
いや、ボケも突っ込みもした覚えはないが・・・。
いかん、書類がいつもでも片付かない。
定時はせまってきている。
先ほどの出動報告書を作成しよう。
出動時刻は、3時間前の14:35
ちょうど、昼食を兼ねた巡回から戻ってきた時間だ。
一般からの通報によって出動が要請された。
電脳フィッシュは、目に見えないが一般人でも存在は認識されている。
テレビで特集されたりニュースにもなっている。
秘密でもなんでもない、最近では日常になりつつある。
よって、一般人からただのショートでも通報を受ける事がある。
もちろん、どんな通報でも必ず出動して、電脳フィッシュか確認するのが俺たちの仕事だ。
電脳フィッシュだった場合は、退治するフェーズに移行する。
出動要請を受けて、待機に入ろうとしていた俺と樋本は直ちに現場へ向かうことになった。
俺たちの他にも3部隊ほど巡回対応中だが、俺たちが一番近く手が空いている状態だったので緊急出動する。
現場の情報を口頭で受け、情報ボードを受け取る。
情報ボードには、紙で印刷された住所や簡易地図と現場状況が挟まれている。
電脳フィッシュは、電子災害を引き起こすので、万一を考慮してタブレット等の電化製品は情報伝達には使用されない。
本部からの指示を受けて俺たちは、地下の駐車場へ向かう。
昔の消防隊員のような滑り棒や、特殊な滑り台は存在しない、期待しないように。
俺たちの制服は、作業服だし、地下の駐車場に置いてある移動用車両も普通のワゴン車だ。
ただし、エンジンはちょっと特殊なディーゼル車が使用されている。
電脳フィッシュ対策として、電子機器をエンジンに使用していない古いタイプのエンジンが搭載されている。
と言っても、現代技術で設計し直してあるので排ガス問題や性能はそれほど悪くない。
現在の管制自動型の車は、電子電気災害対策機構では一切使用されていない。
電脳フィッシュ対策と言えば聞こえがいいが、電脳フィッシュが自動車に問題を起こすことは年に1~2回だから気にするほどの事とも思えない。
しかし、電子電気災害対策機構が電脳フィッシュ災害に遭いましたでは済まされないそうだ。
俺たちの仕事は、消防車や救急車の様に一秒を争う仕事ではないので、街中をサイレンを鳴らして移動したりはしない。
一応、緊急車両として振る舞うこともできるそうだが、それをするには上層部の許可がいるそうだ。
俺も鳴らしたことは一度もない。
現場は、信号込みで30分程度移動した場所に発生していた。
駅へ向かう途中のコンビニのATMだ。
ATMの動作がおかしく故障にしては表示が変で本来表示されない内容が表示されているそうだ。
電化製品は、電脳フィッシュが取り憑いてもすぐには異常を発生しない場合が多い。
比較的分かりやすいのは、ディスプレイの接続されたコンピュータだ。
正常に動作しつつも表示に乱れが発生する。
移動中に樋本が、おバカな質問をしてきたので、報告書に晒しておこう。
「せんぱ~い、前から思っていたんですけど、コンセントを抜いたら駄目なんですか~」
「お前は、講習内容を忘れたのか? 駄目に決まってる アホの子か? 現場でそんな事言ったら蹴るからな」
「そこまで、酷い対応ですか~ 少なくとも機器の損傷は防げると思うのですけど~」
「場合によっては、機器の損傷は防げるかもしれないが、確実に二次災害が多発するけどな」
昔は、コンセントを抜くという方法が行われたが、実は最悪の対応ということが分かってきた。
機材に影響が発生するということは、ある程度の電脳フィッシュが集まっている。
その状態で電気の供給を断つと、集まった電脳フィッシュは、ばらけてその近くの複数の電気機器に取り憑く。
そして、複数同時災害が発生してしまう。
昔は、災害があった周辺での二次災害が多発するから周辺の電気供給を停止するとか大変だったらしい。
移動中は、いつも樋本がおかしなアイデアを出したり変な質問をするので時間が潰れる。
本人は講習内容の再確認のために行っていると断言しているが、それにしてはアホの子質問が多い。
まあ、知っていても知らなくても俺たちの仕事の手順は同じだ。
電脳フィッシュを退治する。
そして、奴らが電脳フィッシュと呼ばれ、俺たちが釣り師と呼ばれる理由がそこには確かにあった。
あ~、そこの君、掲示板などで偽情報で投稿者を集める行為とは全く関係がないので、間違えないように。