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ヒロインの親友はヒロインにはなれない

作者: 冬里 尊

ヒロインの親友ポジションの女の子が恋愛するの好きなんです。

もだもだする女の子可愛い。

これはそう、ありふれた話だ。


可愛い女の子がいました。そして、不誠実な男がいました。可愛い女の子は不誠実な男のことが大好きで、二人は付き合っていました。

でも、不誠実な男は不誠実だから、他の女を常に引き連れています。可愛い女の子は悲しんでいました。


そして、悲しむ可愛い女の子を、俺が幸せにすると優しい男が出てきました。


そんな漫画なんかでありふれた話。それが今私の周りで起こっていることだ。私のポジションは可愛い女の子の親友。…………そして、優しい男のことが好きな女の子。そんなありふれた存在だ。



「あ……」


「優花、どうしたの」


だるい高校の授業を聞き流し、訪れた昼休み。私の親友である優花ーー花園優花(はなぞのゆうか)と一緒にお弁当を食べていると、ふと窓際に目をやった優花が声をあげる。

どうしたの、と聞いてみたものの、事情は大体わかっている。優花の目線の先を見やると、予想通りギャルっぽい女の子達を引き連れた男がいた。

荒宮亮(あらみやりょう)、それが奴の名だ。 見た目はまぁイケメンと言っていいだろう。私としてはちょっと不良っぽくてノーサンキューだが。


「まーた女引き連れてんのかぁ、あいつ」


「亮君、格好いいもん……」


チラリと優花を見やると、沈んだ表情をしている。そして、もそもそとお弁当を食べるのを再開した。

一応彼氏なんだから、もっと抗議すればいいのに。


そう、優花と荒宮は付き合っている。

きっかけは、繁華街で優花が柄の悪い輩に絡まれているところを、荒宮が助けたことだ。学校で荒宮を見つけた優花がお礼を言って、そこから二人の交流が始まった。

まぁそれからなんやかんや、優花がプレゼントを渡してみたり、荒宮と対立してる奴に拐われたり、波乱万丈色々とあり、二人は付き合うことになったのだ。私も微力ながらアシストした。

そして、彼氏彼女の関係になって、少女漫画ならハッピーエンドだろう。だが、ここは現実、二人の物語はまだまだ続く。


まぁ、簡単に言ってしまえば荒宮は遊び人だったのだ。

優花と付き合う前から、女性関係が派手な野郎ではあった。だが、私の目から見て奴は優花に本気で惚れてるように見えた。なので付き合うことになった時は祝福したし、私もハッピーエンドだと思った。

ところがどっこい、蓋を開けてみれば優花と付き合ってるというのに、奴の女性関係は派手なままだ。度々違う女を連れ歩いている荒宮と、それを見るたびに傷つく優花。元々大人しく優しい性格の優花は奴に抗議もろくにしない。出来ない。嫌われたら、と思うと恐いらしい。私が抗議してやろうとしても止められた。

奴が何を思って浮気してやがるのかは全くわからないが、優花は付き合ってからあまり幸せそうじゃない。


まぁ、だからこそそんな優花を心配する男が出てきてもおかしくないわけで。


「花園さん、狭霧さん、一緒に食べていいかな?」


「あ、葛西君。私はいいけど、結香は?」


「べつにいいよー」


どきん、と心臓が跳ねる。声の主に目を向けずに許可を出した私に相手は特に違和感を感じなかったようだ。まぁ、奴が見てるのは優花だけなんだから当然といえば当然か。こちらは苗字の狭霧を呼ばれただけでドキドキしてるというのに。

ちなみに私の名前は狭霧結香(さぎり ゆか)という。優花とは名前が似てるという縁で仲良くなった。

購買のパンを机に置く葛西ーー葛西和馬(かさいかずま)をチラリと見る。優しげなイケメン、と言っていいだろう。荒宮とどっこいどっこいといった感じだ。

私としては葛西の方が圧倒的に格好いいと思うけど。


「花園さんのお弁当、今日も美味しそうだね」


「そうかなぁ? えへへ、ありがとう。結構手抜きなんだけどね」


「優花は料理上手だもんねー。いい嫁さんになるぞぉ」


「もー、結香ちゃんたら」


照れたように笑う優花は文句なしに可愛い。お弁当も手作りしているという女子力の高さも私には真似できない。

優花を眩しそうに見ている葛西をたまに会話に入れつつ、和やかに昼休みを過ごす。最近日常になった光景だ。葛西が優花しか見てないのも、いつも通り。


昼休み終了のチャイムの音に、そっと息をつく。

葛西と会話が盛り上がっていた優花が慌ててお弁当を片付けるのを見守る。葛西の表情には、目を向けないように気をつけて。


「お昼休みあっという間だねー。昼からの授業も頑張ろうね」


「数学じゃん、やだなぁ。寝ちゃいそうだわ」


「結香ちゃん……数学の阿倍先生に目をつけられてるんだから気をつけてね」


「そうだよ狭霧さん、見つかったらまた怒られると思うよ?」


「はーい、気を付けまーす」


葛西に目を向けず、適当にひらひら手を振る。ため息が聞こえてきたが、無視する。優花はくすくすと笑っている。ほんと可愛い子だ。そりゃあ、モテるよね。


午後の授業も問題なく終わり(数学の時間はちょっと居眠りしたけども、バレなかったから問題なし)、放課後になる。

優花は基本的に荒宮の野郎と帰るので、嬉しそうにそわそわしながら帰り支度をする優花を複雑な感情で見守る。

扱いがひどいように見えるけど、優花はやっぱり荒宮の事が大好きなのだ。荒宮も帰りだけは絶対に他の女を寄せ付けない。それもあって優花は荒宮の事を信じているらしい。まったく、なんなんだあいつ。一回どついてやろうか。


「じゃあね、結香ちゃん。また明日!」


「はいはい、気を付けて帰るんだよー」


「はーい」


パタパタと教室から出ていく優花を見送る。そして、窓から校門の方を見ると、優花を待ってるらしき荒宮がいた。基本的に荒宮は優花の事をそこで待っているので、教室から優花と合流する荒宮を見てから帰るのが、私の日課だ。


あ、昼に荒宮と一緒に居た女の子が寄ってきた。荒宮は露骨に不機嫌な顔で対応してる。帰りは優花以外相手にしないのに、あの女の子チャレンジャーだなー、とぼんやり見守る。

お、腕を掴んだ女の子を乱暴に振り払った。睨み付けてなんか言ってる。おぉ、女の子逃げたー。


「…………なに見てるの?」


「ひゃっ!?」


急に後ろから声をかけられて、びっくりして変な声が出た。いつの間にか荒宮達に集中していたようだ。

横に並んで外を見た葛西が、あぁ、と納得したような声を出した。私の醜態に無反応なのは、ありがたいのか悲しいのか。


「びっくりしたー……。寿命縮んだらどうしてくれんのよ?」


「それは悪かったね。ごめんごめん」


「心こもってなーい」


ドクドクと早いリズムを刻む鼓動を誤魔化すように葛西に声をかけると、適当な返事がかえってきた。

ちらりと葛西を見ると、食い入るように荒宮を見ている。睨み付けるような視線に、こいつほんと私には取り繕わないなー、とぼんやり思った。


「荒宮ね、帰りだけは絶対に優花としか帰らないの」


「…………ふーん」


「優花もね、それがあるから荒宮がどんなに他の女の子といたって、信じられるんだって」


それを言った時の優花を思い出す。少し影のある微笑みは今にも消えそうな儚さがあって、とても綺麗だった。平気そうには見えなかったけど、ああ見えて頑固なところがある優花は言っても聞かない。だから、私達外野に出来ることは、きっとない。


「それはつまり、僕に花園さんを諦めろと言いたいの?」


「…………そういうわけじゃないよ。けど、優花はきっと葛西には振り向かない」


校門に目をやると、優花が荒宮と合流したところだった。優花の嬉しそうな笑顔と、荒宮の穏やかな顔はどう見ても両思いのそれで、付け入る隙なんて見当たらないように見える。


「……葛西も、優花のことは諦めた方がいいと思うよ?」


「……………………けど、あいつは浮気してる」


圧し殺したような声だった。いつもの優しそうな、穏やかな声とは全然違う声に思わず葛西の方を向く。

苦々しい、と言いたげな顔だった。眉間にしわを寄せ、荒宮を睨みながらも眉は力なく垂れ下がる。苦しそうで、思わず葛西、と呼びかけると、こちらを向いた。その途端、悲しげな表情になり、胸が苦しくなる。


「花園さんは、あいつが他の女といるのを見る度、傷付いてる。あいつはそれを知ってるはずだ。なのに、浮気をやめようとはしない」


「……うん」


「花園さんが幸せそうなら僕だって諦めたさ。でも、僕には幸せそうに見えないよ」


それも一理ある。荒宮と二人きりの優花はこの上もなく幸せそうだが、それ以外もずっと幸せそうというと嘘になる。きっと、ずっと傷付いてるのを隠してるだけだって、私でもわかる。


「……それでも、きっと私達に出来ることなんてないと思うよ」


「…………狭霧さんはいつもそうだね。一歩置いて、傍観者っていう顔をしてる」


葛西が私を睨む。私のスタンスが気に入らないみたいなのは、以前から何となくわかっていた。

でもしょうがないじゃないか、主人公達に脇役がなにを出来るというのだ。それに、私から荒宮に何か言うのは優花に止められてるし、葛西と優花をくっつける手助けなんか、出来るはずない。こんな雁字搦めでどう動けというんだ。


「花園さんを親友っていうなら、花園さんに幸せになってほしくないの?」


「……なってほしいに決まってる」


「なら、何かしたらどう? 僕からは、狭霧さんは動けない言い訳をしてずっと立ち止まってるようにしか見えないよ」


「………………」


葛西の一言が、胸に突き刺さる。ぐしゃり、と顔が歪むのがわかった。

葛西は私の顔を見て、はっと気付いたように目を見張り、顔を背けた。


「……ごめん、頭に血がのぼって言い過ぎた。………………先に帰るね」


「………………うん、ばいばい」


葛西が立ち去った後、机に顔を伏せる。冷たい机の感触が頭を冷やしてくれるかなと期待していたけど、無理そうだった。


私はどうしたらいいんだろう。優花を幸せにしたいなら、葛西とくっつけるように応援するのが早いのかもしれない。優しく可愛い優花と穏やかな葛西はお似合いのカップルだ。きっと、二人は幸せに過ごすだろう。

でも、優花が好きなのは荒宮だ。それを曲げて優花に無理矢理葛西をオススメしたところで、実るかはわからない。でも優花のことを他の男が好きだということを優花や荒宮に伝えるのは、現状を変える一手になる可能性は高い。私が動けば、何かが変わる可能性はある。


「………………ぅー」


でも、私は動けない。だって、動いたら結果葛西と優花が付き合うことになってしまったら、どうしたらいいの?


私は、葛西の事が好きなのに


結局、私は我が身可愛さに動けないでいるだけだ。優花の幸せを願いながら、自分の幸せを優先してる。優花のついででもいい、好きな人と一緒にお昼を食べれて、会話出来る現状を、手放したくないだけだ。だから動くのを恐れてる。動かないでいる。葛西の言ってることは全部当たってて、だからこそ心に刺さっているのだ。


「…………優花なら」


優しいあの子なら、私と同じ状況になっても、きっと動く。そして、より良い未来に変えていく。そういう力を持っている。大切な親友や、好きな人が傷付いてるのを知りながら立ち止まってる私とは全然違う。




だからきっと、私はヒロインにはなれないのだ。

葛西は結香が応援してても、きっとあて馬で終わっちゃうんだろうなぁ。でもそこに結香はつけこめないんだろうなぁ。

その場合はきっと優花が一生懸命応援してくれます。

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― 新着の感想 ―
こういう葛西みたいなタイプって当て馬にしてあげないと人が弱っている隙に付け込んでくる詐欺師みたいな方法で告るタイプのクズになりかねないからお前は当て馬になった方が幸せやぞ
優花の友人ではなく結香を見てくれる男の子が結香と共に荒宮に喝を入れ、荒宮が優花に向き直り、結香は共に動いてくれた男の子の方を見るようになる ってのは一例だけど、こんな感じで優しいだけじゃない動ける男の…
振られるのが怖くて自分は動けないくせに結香を一方的に責める葛西が嫌い。
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