蛇足録 ハウツー山籠もり
「うわぁ……お兄ちゃん、なんか偉そう……どうしたんです急に? 不安定なのです?」
思惑通りにこちらの意図を察していない愚妹。それでいいんだチクショウ! そして神妙に頷いて口を開く杏子。
「確かにこれはちとウザいな。ハブろうか!」
「おい待て。それは待て!そもそもお前の注文だろうが!
何で朗々と兄妹の仲引き裂こうとしてんの? 何キャラなんだよ? 不安定なのはお前だよ!」
「ハハッ凛吾殿は騒がしいな。今は刻音と話していたんだが……」
「お兄ちゃんちょっとコンビニでAmazonのカードでも買って来て下さい。最寄りでも片道2時間かかるけど」
あれぇ? もうハブ始まっちゃった!?
電波圏外の山奥に絶対不要なAmazonのカードを要求する程おっぱらいたいのか……
お兄ちゃんもう立ち直れないぜ?
「まぁまぁ刻音、熱くなるな。兄上は大事にしないと駄目だぞ」
諌めに入る杏子。……いや、お前のせいだからね。放火犯が消火に参加した所でチャラにはならんよ。
「むぅー……お師匠がそういうならぁ」
渋々といった雰囲気で刻音が了承する。しかし、目はニヤニヤと俺を見ている。
もうやだ、妹が兄のイジリ方を覚えてしまった……一生恨むぞ杏子!
「冗談はともかくだ、凛吾殿? この辺の山で山籠もりを共にした拙者達の絆は感じて貰えただろうか?」
「不本意ながらよく分かったよ。今度はその山籠もりの実態を聞きたいな。具体的には刻音がこんな細くなった訳を」
さっきも思ったが、刻音は本当に細くなった。小太りだった時もそれはそれで可愛かったけど、今や誰もが認める細身の美少女。一ヵ月でとんだ劇的ビフォーアフターだ。匠の技が光ってやがるぜ。
「過酷な日々でしたからね、そりゃあ瘦せるってもんですよ! なんせ最寄りのコンビニまで2時間もかかるんですから」
インドア派の妹が山で生活したんだ。そんな感想にもなるだろう。
「毎日往復4時間を歩くとか壮絶でした」
「通ってたのかよ! しかも毎日通ってたのかよ? 山菜とか取って生活してたんじゃないの!」
「山の幸は大体もう拙者が食べ尽くしてしまっていてな、人里に下りるしかなかった」
……熊かよ
「じゃあお金は? 刻音5000円位しか持たずに家出たよな。杏子に借りてたのか?」
「いえいえ。ちゃんとバイトで稼いでましたよ!」
「バイト!? どこで?」
「コンビニで」
もうコンビニで暮らせよっ!
「忙しくも充実した日々であったよ。夜になったら下山を始め、深夜から朝までコンビニで働き、終われば登山して夜まで寝るというルーティン。ああ素晴らしき日常!」
「典型的な意識低いフリーターじゃねぇか!
何で女子中学生が深夜帯で働けてんだよ?」
「バイトリーダーの拙者が口利きしたら楽勝であったよ!」
誇らしげに胸を張る杏子。……決めた! この死地から無事に帰れたら、俺はそのコンビニをぶっ潰す!
つーか、……お前ら修行とかしろよ……
THE無駄話です。
衝動のままにふざけ倒す三人。
こういう横道が好きか嫌いか教えてもらえるとありがたいです。