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震える脚を殴りつけて

 失踪の夜から一ヶ月、妹は今でも行方不明のままだ。

 死に物狂い探した。捜索願も出した。しかし見つからなかった。

 古風なあいつのことだ。きっと山籠もりでもしているのだろうと楽観的に考えてもみるが、それでもやはり心配に思う気持ちが治まることは決してなかった。


 だから俺は今日[此処]に来てしまったのだ。

 ド田舎の山奥、人里離れた自衛隊の演習場。生きていたら刻音は必ず此処へ来るから。

 今日剣聖を選定するこの場所へ。


 仮想現実とも剣術とも似合わない無骨な門構えを見ると、本当にこんなところで? なんて不安になってしまう。しかし周囲には続々と只者じゃない気配を纏った人達が集まりだしてきた。

 気配なんて言ってみたが、要はプレッシャーだ。同じ場にいるだけで息苦しくなり委縮してしまう、そんな雰囲気を纏った者達。剣術家かはともかく、卓越した力を持つ猛者が此処に集まっている事は疑うべくもなかった。


 金属製の重そうな門が軋む音と共に小さく開いた頃には、山中は人で溢れていた。狭い中でごった返しているにも関わらず人混みは実に静かで、耳を澄ましても寝息の様な深い呼吸音と、鳥の囀りが聞こえてくるのみだ。門が開いてもそれは変わらずで、気付けば列に流されていた程だ。


 そんな和の境地に心洗われるのも束の間、列整理の自衛官の姿を捉えると我に返り、列から外れて声をかける。


「すいません。こちらに遠藤刻音っていう子が来ませんでしたか? 中学生で小太りの女の子なんですが……」


 問われた彼は無表情のままに首を傾げる。


「はて? 私は見かけておりませんね。しかしこれだけの大人数です。此処にいるかもしれないし、何処にもいないかもしれない」


 問答の様な発言に何かしらの悪意を感じ、苛立ちのままに問いただす。


「あの子の事何か知ってるのか?」


「知りませんよ。貴殿の妹君の事なぞ」


 睨み付けるこちらの視線を受けても、意に介さない様子で真っ直ぐこちらを見つめ返してくる漆黒の瞳。それをひどく不気味に思って、彼の元から逃げるように離れる。しかしふと気付き、急いで振り返る。

 それでももう彼の姿を見つけることは出来なかった。何故か[俺と刻音の関係]を知っていたあの不気味な自衛官は一瞬で姿を消したのだ。

 家族会議の末、此処に赴く担当が俺に決まった時の親父の言葉を思い出す。

「自衛隊主催で大々的に募集をかけておきながら、調べたところメディアの介入を一切許さない構えだ。その上、開催場所は大概の事は揉み消せそうな秘境と来たもんだ。この大会……きな臭いぞ」



 その後必死で探し回ったが、妹はおろか件の自衛官すら見付けられないまま、人々は門の奥に消え、ついにその門も閉ざされようと軋みをあげる。


 冷や汗が滲む。妹を見付けられないままに帰る訳にはいかない。それは彼女がもういないことを認めてしまう事ような気がするから。

 でも……この門の先は戦場だ。実際の殺し合いではなくても、あんな猛者達と敵対する事になることを想像したら脚が震えて止まらないのだ。

 それでも……だからこそ!


 自らの脚を思いきり殴りつけて、門へと進む。

 そんな恐ろしい戦場に妹がいるかもしれないのならば、それこそ俺が守らないと!

 閉まる直前の門に全力で駆け込む。


 通り抜けた刹那、轟音をあげて閉じた門。

 乱れた息を整えながらそれを眺め、もう引き返さないと悟る。

 そして意を決し、脇に控える自衛官に告げる。


「遠藤凛吾(りんご) 17歳、この大会に参加する」

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