妹の頼み
久しぶりの新作です。
長いタイトルはロマンですね個人的に。
良かったらリアクション下さいな(*'ω'*)
剣聖
事典から紐解くに、それは剣の達人、特に大きな流派の開祖を呼ぶ時の敬称だと言う。
あえて言葉にするまでもなくその呼称は剣士においてこの上ない名誉になる。
意識の高いシェフがミシュランの星を求める様に、馬鹿なガキが射的で最上段のゲーム機を狙うように、腕に覚えのある剣士は剣聖と呼ばれたいものなのだ。
「しかし現代日本において、誇り高きその呼称は失われたに等しい!」
俺の妹の刻音は鼻息荒く熱弁する
「へぇ、それまた何で?」
「死合う場がないからですよ。剣術を競技化した剣道の成長に伴い、流派大半は意味を失くし、新たな流派も目立たない。この国の武士道は真剣で斬り合ってこそなのにっ!」
「いや~新渡戸先生が誇ったのって多分そういうんじゃないと思うぞ」
「あれは逆輸入ですから!あたし的には騎士道扱いなのでーす」
流石にその分類は絶対おかしい。いや、それはともかく
「で? 急に部屋に来て何の話してんだよ」
「日本も捨てたものじゃないって話です」
ニヤリと笑みを見せる刻音。話のベクトルは寧ろ逆を向いてたように思えたが、茶々を入れず黙って続きを促す。
ジャーン! と効果音を口で発音し、刻音はスマホの画面を突き付けてくる。
内容は……剣豪求む! だぁ?
「陸上自衛隊主催の剣術大会ですよ。出場者全員で斬り合いのサバイバルをして勝ち残った一人が剣聖と認められるの」
「は? そんなこと出来るはずが……だってそれ、人が死ぬじゃねぇか」
「フフッ その点は心配ご無用。なんせ仮想現実にフルダイブらしいので」
何だ、ビビった。しかし、自衛隊がその手の技術に明るいとは知らなかったな。
そう一息吐く俺に、刻音はズイッと一歩近づいてくる。
「ところでお兄ちゃん?」
「……なんだよ?」
嫌な予感がした。何を言うか分かったからだ。
後に続くの刻音の頼みを俺は素気無く断り、馬鹿な事言ってないで早く寝ろと部屋を追い出した。
その夜だ。刻音が失踪したのは。
後悔が尽きることはない。俺がもっとやんわりと断っていれば、又は答えを曖昧にしていれば、このような事態は回避出来たかもしれない。
そう、俺が聞いた刻音の最後の言葉は
「お兄ちゃん。あたしと一緒に剣聖を目指して下さい!」