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元死神は異世界を旅行中  作者: 佐藤優馬
第3章 学園道中編
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旅立ち

 「荷物は全部あるか?まあ、なくてもなんとかなりはするが」


 気の抜けるようなセリフを発する。それでも一応言っておくのは、どこぞの誰かが忘れ物を頻繁にするからだった。しかも、二人。


 「だ、大丈夫ですよ?たぶん………」

 「問題ない」

 「だといいんだがな………」


 はあ、とため息をつく。こういうときはいつもしているのだから、困ったものである。そして、俺が後でもう一度探すという羽目になるのだ。


 (一応、確認しとくか)


 再びリースの家の中に入ると、驚くような光景があった。


 「……シルフィ。精霊って、ほんとにいろんなのがいるんだな」

 「そだよー。あ、飴だって」

 「聞こえてる。ほらよ」


 とりあえず、30ほど渡しておく。目の前にいた小人たちは、キャッキャと喜びながら口に放り込んでいった。鑑定をしてみると、なんと建物の精霊と出てたのだ。そして、わざわざ忘れ物をまとめておいてくれたそうである。便利過ぎる。正直、ついてきてほしいくらいだ。


 「えーと、ニーナの櫛に、エレナの……なんだこりゃ?まあ、いいや。持ってくか。んで、これは……おい、あいつ寝袋忘れてんぞ。大丈夫なのか?」


 手早く回収し、辺りを見渡す。ざっと確認した限りでは、もう何も残っていなかった。そう、何も(、、)


 「まさかとは思うが、これって………」

 「そのまさかかもね。外にいるよ」


 同情するような顔でシルフィが肩を叩いてきた。ああ、もう。本当に。


 「ふざけんなあぁぁぁぁぁ!」


※               ※               ※

 「……やっぱりか」


 外に出れば、旅支度を整えていたリースが当然のように馬車に乗り込んでいた。家のものが軒並み消えてる時点で、おかしいと思ったのだ。となると、考えられたのが。


 「ボクも一緒に連れてって?」

 「お、ま、え、は、事前に相談するって言葉を知らねえのか!」

 「いだだだ、痛い痛い!頭が馬鹿になっちゃうよ!」

 「今でも十分に残念だろうが!」


 俺たちの旅に同行する、ということだった。ちゃっかり座っていたので、流石にキレて、アイアンクローを食らわせていた。ミチミチ鳴ってるし、かなり痛いだろうな。見兼ねたらしいニーナに止められた。


 「れ、レオン君。連れて行ってあげましょうよ?ほら、人がいるところまででいいって言ってましたし」

 「こいつの頭は能天気か!どうせ人間の街に着いたところで、売り飛ばされるのがオチだわ!」


 精霊がいたところで、人間の数には勝てないだろう。捕まって、どこかに連れてかれる未来が容易に想像できる。やっと離されたリースは小首を傾げて、俺にお願いしてくる。


 「お願いだよー、連れてって?ボクを好きにしてもいいからさ」


 さらに上目遣いになり、甘えるような声を出してきた。かなりの美少女だし、普通は落ちるのかもしれない。現に、ニーナやエレナが敵意むき出しだし。でもな………


 「そういうのは要らねえんだっつってんだろうが!」


 再びアイアンクローを食らわせるのだった。


※               ※               ※

 結局ニーナの説得(?)によって、リースの同行は許可することとなった。ただし、人一倍働かせる気ではあるが。精霊魔法を使えるのだから、これくらいは当然だろう。


 「ったく、本当に面倒なことになったな」

 「まあまあ、悪気はないみたいですし」

 「あったら、とっくの昔に叩きだしてた」


 俺の言葉に苦笑するニーナ。今は馬車の中に二人しかいない。いや、シルフィもいるし、精霊共がうじゃうじゃと群がってはいるが。こいつには見えないようにしているので、傍から見れば二人だろう。それもそのはず、アカネとエレナに頼み、二人になれるようにしてもらったのだ。大事な話があるから、と。


 「ニーナ。話がある」

 「あ、はい。なんでしょう?」


 俺が真面目な顔をしていることに、気付いたらしい。崩した体勢から正座に変えた。いや、そこまではしなくていいんだが。


 「あの村でのことだ。お前にはちゃんと罰を受けてもらう」

 「……はい」


 恐らく覚悟していたのだろう。ニーナも真剣な顔つきになった。とはいえ、大層な罰ではないのだけれど。


 「これからはきちんと状況を見極めてから、発言をすること。安易な発言は言質を取られる。絶対にやめろ。そして、俺に助けを求めるときは必ずやれるかどうかを確認すること。これがお前に課す罰だ」

 「え?ええ!?」


 真剣な顔つきから一転して、驚いた顔になった。うーむ、なかなかのリアクションだ。感心していると、ニーナの方から声を掛けてきた。


 「それ、罰じゃないですよ!ただの注意じゃないですか!」

 「そんなことはないぞー」

 「あらぬ方向に目を向けて言うことじゃないですよ!」


 ガックンガックンと揺さぶってくるが、別にこいつはそこまで悪くはないと思ってる。重い罰を与えなくてもいいだろう。そう考えての判断だった。


 「まあ、冗談はさておき」

 「冗談だったんですか!?」

 「無茶はするな。その上で、優しさを忘れないでくれ」


 ニーナが黙り込む。俺の表情から、何かを感じ取ったらしい。

 そう、本当にしてほしかったのはこっちだった。こいつは目を離せば、すぐに無茶をしようとする。それが心配でならないのだ。無茶した結果、命を落とすこととてあり得る。そんなことにはなってほしくないのだ。俺の我が儘ではあるが。

 そしてもう一つ。優しさというものを失えば、どうなってしまうのか。それを俺は身に染みてわかっている。こいつには、そんなやつにはなってほしくなかった。


 「……やっぱり、罰じゃない気がします。でも、わかりました。そのことは忘れないようにしますね」

 「ああ」


 ニーナの答えにほんの少しだけ笑った。今はそれでもいい。いつか俺の言葉がわかるときが来たら、俺がどうしてこんなことを言ったのか、それがわかるさ。そう思ったのだった。

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