鑑定
「……ここは………」
目を覚ますと、見慣れない天井であった。否、その表現は間違っているかもしれない。少しの間とはいえ、ここに寝泊まりしていたのは事実なのだから。どうやら、記憶が混濁しているようだ。体を起こそうとすると、胸の辺りに痛みを感じる。見下ろして確認すれば、ぐるぐると包帯が巻かれていた。
(そうか、助かったんだな……俺は)
前世の頃から無駄に強かった悪運は、この世界でも遺憾なく発揮しているようだ。……いろいろと複雑な気分になるな。痛みに顔をしかめつつ、周りを見渡す。やはり、リースの家の屋根裏部屋だ。ここで治療をされていたのだろう、枕の横には包帯と水を入れた桶、それにタオルが置かれていた。そして、俺の隣にはニーナが横になっていた。目元は泣きはらした後なのか、真っ赤になっている。大方俺の看病をしつつ、疲れが出て眠ってしまったといったところか。
「あ、レオン!起きたんだ!」
いつものようなうるさいくらいの高い声。そちらへ目を向けると、やはりシルフィがいた。その後ろを見て、げんなりとしてしまった。
「おい、シルフィ。そいつら誰だ?」
「そいつら?」
「お前の後ろで、ふよふよ浮いてるやつらだよ。お前みたいなのがいれば、球体っぽいやつもいるし……うじゃうじゃいて、目が痛くなるだろうが」
そう、シルフィの後ろにはぞろぞろと何かがいたのだ。しかも、大量に。小人のようなやつもいれば、丸く発光しているやつもいる。ざっと数えるだけでも、100は超えているだろう。よくよく見れば、俺の体にもひっついていた。ため息をついていると、シルフィから声を掛けられた。
「ええ、ちょっと待って!この子たち、見えてるの!?」
「ああ?見えてるに決まってんだろ。どっから拾って来たんだ?」
どうせ魔物か何かなんだろうが、自分に懐くようだから連れ帰ってきたのだろう。迷惑な話だ。今も俺の上でポンポンと跳ねているし。怪我人なんだから、少しはじっとしていてほしいんだが。
「レオン、この子たち、精霊だよ?しかも、下級の」
「……おいおい、冗談はやめろよ。精霊が俺に見えるわけ………」
そう言って、笑い飛ばそうとする。いや、したのだが……急に目の前に板状の何かが現れた。それには、こんなことが書かれていたのだ。
生命の精霊
生命力を司る精霊。この精霊と契約した者は生命力を上げたり、奪ったりする魔法を使用することができる。基本的には恥ずかしがり屋なのだが、気に入った者には姿を見せ、いろいろと協力してくれる。また、戦うことを嫌っており、無理矢理に戦うことを強制し続けると、契約を解除される可能性もある。ごくまれに、気に入った者と生殖を行い、子供を産むこともある。
「……待て。いろいろと待て」
頭が混乱しているのだろうか。俺の目の前にいる少女の小人が精霊?そして、生命を司っている?というか、なんだこれ?この板何なの?いや、わかってはいるんだが、認めたくない。顔を片手で覆って、天を仰ぐ。オーマイゴットとでも言いたい気分だった。
「シルフィ。一つ聞くが、こいつらは生命の精霊であってるのか?」
指さしたのは、俺の体に乗っている精霊たち。俺の言葉にシルフィは目を見開き、こくりと頷いた。
「そだよ。レオン、かなり生命力が弱ってたから。その子たちに頼んで、生命力を上げてもらってたの」
「そうか……やっぱりか………」
俺の呟きに、どうしたの-?と声が聞こえてくる。声の発信源は間違いなく、生命の精霊たちだろう。シルフィの声じゃなかったし。どうやら、声まで聞こえるようになってしまったらしい。流石に頭を抱えた。
シルフィを見つめる。すると、先ほどと同じように板状の何かが現れた。
シルフィ(風の精霊王)
【所持スキル】《契約》、《精霊支配》、《暴風操作》
【称号】《精霊王》、《風の女王》、《元死神の相棒》
元々精霊王の卵であったが、レオンと契約、名付けをしてもらったために、精霊王となってしまった精霊。好奇心旺盛で、面倒事にも首を突っ込んで行くが、契約者を自ら危険にさらすようなことはしない。上級の精霊を支配することも可能で、本気を出せば小国一つ程度は滅ぼすこともできる。契約者のことを非常に気に入っており、繁殖期になれば生殖を行うだろうと思われる。また、契約者をいたずらに傷つけるようなことがあれば、破滅をもたらす。
(……これは俺にツッコミを求めているのか?)
そもそも、何故さっきから生殖だの繁殖だの出てくるのだろう。俺の童貞歴の問題なのか?そうなのか?それに、どうして小国滅ぼすような力を持ってるんだ。契約者の俺は歩く核兵器か。もう呆れて、怒る気力すら起きない。やるせなさはため息という形で口からこぼれていく。
後ろのやつらも見ていったが、これも問題なく板状のあれが現れた。これはもう確定と言ってもいいだろう。
「シルフィ。驚かずに聞けよ?」
「うん、何さー?」
「俺、スキルに《鑑定》持ってるらしい」
「な、なんだってー!?」
いや、まあそうなると思ってたが。素で驚いているシルフィを見ながら、ぼんやりと考える。
《鑑定》スキルは便利なスキルではあるが、それ故に問題があるものなのだ。聖属性魔法までとはいかないが、必要とされているスキルではある。貴族には引っ張りだこだし、冒険者ギルドでも重宝されている。さらに、冒険者たちにも受けがいいだろう。それだけ安全性が確保されるスキルなのだから。だからこそ、周りに狙われやすい。強引に自分たちのものにしようとするやつもいれば、奴隷にされることもあるらしい。この国では奴隷制はないが、隣の帝国では普通に存在する。つまりこの国で攫われて、隣の国で奴隷として働かされる、ということもありうるのだ。
(めんどくせえ………)
ため息をついて、どうしたもんかと思考する。すると、もぞもぞと隣が動く。ニーナが起きたらしいのだ。
「よう、やっと起きたか?」
「……あ、はい。おはようございます」
ぺこりと頭を下げる。どうやら、まだ寝ぼけているのかもしれない。
「ニーナ。一つ話がある」
首を傾げて、俺を見上げてくるニーナに向けて……
「……!」
「この大馬鹿が。自分が何をしたのか、ちゃんとわかってるのか?」
拳骨を食らわせていた。その衝撃で完全に目が覚めたらしく、俺のことを涙目で見ている。
「お前が全員助けようと欲張らなければ、助けられたやつもいたはずだ。今回の死者の数から見て、お前の行動は看過できん」
決して声を荒げてはいない。けれど、俺の怒気を感じたのだろう。ニーナは目に大粒の涙を溜めていった。そして……
「あ、ちょっと!レオン、流石に………」
「シルフィ。ニーナのことを追いかけてやってくれ。今のあいつには、そばにいるやつが必要だろうからな………」
「う、うん………」
シルフィが階段から降りていくのを見ながら、再び体を横にするのだった。




