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元死神は異世界を旅行中  作者: 佐藤優馬
第3章 学園道中編
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完全憑依(フル・トランス)

 『シルフィ。一つだけ聞いておきたいことがある』

 『な、何?てか、やばいよ!傷を治さないと!』

 『そんな暇はねえ。流石にあいつらもその間ずっと突っ立ってるほど、間抜けじゃねえだろう』


 視線で示すのは、警戒度を上げたらしい魔族たち。治療はあいつらを殺してからでなければ、不可能と言ってもいいだろう。


 『で、でも………』

 『そんなことよりだ。精霊魔法には決まった形はあるのか?』

 『決まった形って?』

 『要はこういう魔法しか使えない、みたいなのだ。俺が勝手に弄くれるのか、と言い換えてもいい』

 

 シルフィは少し考え込んだが、すぐに答えた。


 『普通は無理。でも、レオンならいけるかもしれない。この世界の常識に縛られていないから』

 『そうか。それだけ聞ければ十分だ』


 ホッと一息つき、目の前の魔族に向き直る。血はいまだに止まらないし、雨に打たれているせいでとても寒い。それでも守りたいものがあって、この程度の傷で諦めるわけにはいかなかった。


 『……シルフィ。何かあったら、止めてくれ。いざとなったら、殺すことになってもだ』

 『え、それって………』

 『頼んだ』


 俺は駆け出し、目を閉じる。意識を心の奥底へと持っていく。まるで、暗い夜に海の中へと潜っていく。そんなイメージだ。上下左右も、進んでいる方向が正しいかもわからない闇の中。俺はぽつりと呟いた。


 「完全憑依(フル・トランス)


 そして、俺は意識を失った。


※               ※               ※

 「ああ?目を閉じて突っ込んでくるたあ、随分な余裕じゃねえか!」


 剣を持った個体が、剣を振り上げて迫る。まずはあの剣をどうにかするのが先決だろう。

 下にあったものを蹴り上げる。ソレを掴み、剣の方へ投げつける。魔族はその行動に戸惑ったのか、まともにソレとぶつかった。


 「お、お前、正気か!?」


 投げつけたソレは魔族が殺したエルフの死体だった。まだ生きているのなら躊躇するのかもしれないが、これはもう死んでいる。別にどう使おうと構わないだろう。体勢を崩した魔族に近づく。懐に潜られた魔族はあまりにも近い距離にあるため、剣を振るうことができなかった。その隙を見逃さず、手首を手刀で打つ。魔族は痛みと反射により、剣を取り落とした。


 「てめえ!」


 空中に浮いた剣を取ろうとしたが、取ることはできなかった。その前に金的を行っていたからだ。この魔族にも金的は効いたようで、その場で蹲った。その間に、剣の破壊へと移る。


 「『弾丸(バレット)』」


 精霊魔法を唱え、剣を攻撃する。ただ、この一撃で壊すことはできず、剣は原型を残している。


 「『弾丸(バレット)』、『弾丸(バレット)』、『弾丸(バレット)』」


 魔法で連射を行う。それと同時に、ピースメーカーでも発砲しておいた。剣は最初は耐えていたものの、物量には勝てなかったようだ。だんだんとひびが入っていき、ついには壊れた。まるで、ガラスのように。


 「お、俺のレーヴァテインが………」


 気の抜けている上級魔族には銃弾を叩きこんだ。リロードは生成魔法による、シリンダー交換だ。死んだかどうかの確認はせず、次の目標へと銃を向ける。次の目標は、一直線に突っ込んできた魔族。ちょうど盾があるので、魔族へと蹴りつける。盾にされた上級魔族はボールのように吹っ飛び、突っ込んできた魔族とぶつかる。何か言う前に発砲し、殺しておいた。


 「『弾丸(バレット)(ツェーン)』」


 その後は面倒だったので、まだ性行為を続けていた魔族に魔法を撃ちこむ。頭がはじけ飛び、エルフの女たちに血が飛び散る。悲鳴を上げてはいたが、そんなものに気を払いはしなかった。悲鳴に振り向いた魔族たちの脳天に、銃弾を叩きこんでいく。続けざまに5発。これで、魔族は半分以下になった。


 「『小銃(ライフル)』」


 続けて、ちょうど並んでいた魔族の頭を撃ち抜く。またもや血が噴き出た。そこで危機感を覚え始めたのか、魔族たちが一斉に向かってきた。魔法を撃ち、爪で引き裂こうとし、そこいらにあった剣で切り捨てようとしてくる。けれど、俺の周りには盾となるものがたくさんある。向かってくる3体にエルフの死体を投げつけ、爪を伸ばしてきたものには隣にいた魔族を蹴りつけて盾とする。同族を手にかけた魔族は戸惑ったが、その少しの躊躇を見逃すはずもなく、発砲する。エルフの死体に剣や爪を突き立てた魔族にも、ピースメーカーで命を奪っていく。ついでに、同じ魔族に傷つけられた魔族にも落ちていた剣を拾い、突き立てておいた。

 魔法を撃ってきた魔族には、『弾丸(バレット)』を撃ち、殺していく。気付けば、残っていたのは1体の魔族しかいなかった。それも、どうやら下級のようだ。ブルブルと震え、腰を抜かしている。ピースメーカーをリロードし、そいつに向けて………


 「う、動くな!」

 

 下級魔族が唐突に叫ぶ。そいつの手には、今しがた犯されていたのであろうエルフの女がいた。その女に爪を突き付け、人質にしている。下種な笑いを顔に張り付けたそいつは、俺に向かって再び叫んでくる。


 「いいか!動くなよ?ここまでのことをしてくれたんだ、相応の報いを………」

 「『小銃(ライフル)』」


 言葉を待つことなく、魔法を撃っていた。狙いは寸分違わずに………


 「……え?」


 エルフの胸と魔族の胸に吸い込まれていった。どさりと倒れる。どちらの瞳孔も開いている、確実に死んだのだろう。


 「シルフィ。敵はまだいるか?」

 「う、ううん……もう、いないよ?」


 俺が振り返ったときに、びくりと肩を震わせたシルフィ。が、すぐに首を横に振り、俺の懸念を否定した。


 「そうか」


 やるべきことを完遂させた。それを自覚した瞬間、意識をふっと失った。


 「レオン君!」

 

 今、叫んでいるのは誰だ……?今、近づいてきているのは………?

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