死のビジョン
(結構な無茶苦茶をやらかした感はあるが、まあここまでは平和かね?)
左右にがっしりと抱き着いているニーナとアカネに、呆れながら思考を続ける。考えるのは、今までのこととこれからのことだ。
さっきまでは風呂に入り(ドラム缶を創って)、飯にしたうえ、布団を敷いておき(アカネがいない間に創った)、シルフィと約束していたトランプをやっていた。トランプは途中からニーナ、アカネ、エレナにリースも参加してきたため、ババ抜きやら大富豪やらをやることになった。結果?エレナがまあ、強い強い。表情が読めないからこそ、尚更厄介だったらしい。エレナの勝率が4割、アカネとシルフィが2割、リースが1割じゃないだろうか?俺?接待モードだったからほとんど勝ってない。ちなみに、ニーナはそれでもなかなか勝てなかった。表情が読みやすいのだから、仕方ないっちゃ仕方ないのかもしれないのだが……とりあえず、ババ抜きの際は俺が最後まで残り、ジョーカーを引いてやることにした。やたら嬉しそうだったのが印象的だったよ。
そして、今は布団の中で横になっているわけだ。布団は一応3つ用意したはずなのだが、それをぴったりとくっつけ、俺を真ん中にして寝ているのだ。ご丁寧に、俺の方に近寄って。というか、もうひっついている。二人とも、俺を抱き枕にしているようなものだ。年頃の女がこんな事するなよ……俺じゃなかったら襲われてるだろうに。それとも、俺だからこうしてるのだろうか?それはそれで癪だな。いっそのこと、実際に襲えば危機感でも持つのだろうかと思ったが、それはニーナに怒られ、アカネには悦ばれることになりそうなのでやめておく。
はあ、とため息をつき、自分の体を見下ろせば、普段とは違う変化が見て取れる。男なら当然の生理現象が。
(そりゃまあ、そうなるか………)
自分のあれが反応しているのだ。ある意味、この肉体が正常でほっとしているところもある。そして、性欲が肉体に依存していることも、初めて知ったと言ってもいいだろう。精神に依存していなくて、本当に安心している。もし精神に依存していれば、この世界でもまた童貞のままだったろうし。
で、考えていたことなのだが。ここまでの道中に見た、あの光景のことだった。あの光景はこの村に来て確信する。確実に、このエルフの村で起こることだ。そして、嵐が来たときに起こることであろうことだ、とも。偶然という可能性も考えなくはなかった。だが、先ほど村を散歩してわかってしまったのだ。あの光景は必ず起こるであろうことだと。偶然の言葉で片付けるには、それくらい出来過ぎていたのだ。
そう判断した理由は3つある。まず、見た光景とは若干異なるものの、同じような場所がこの村にあったこと。何らかの方法で壊されれば、同じ状況は作れるだろうと判断している。次に、タイミングが良すぎるくらいに嵐が接近していること。あの光景では嵐が吹き荒れていた。考えられる可能性だろう。そして最後に。よくよく思い出せば、あの光景の中には倒れていたエルフがいた。当然血みどろの。ここまで揃えば、もう間違いない。この村で、あの魔族たちが襲ってくるのだろう。そして、俺はその戦闘中に怪我をするのだろうと。……いや、この際誤魔化しても仕方がない。このままでは、俺は確実に。
(死ぬ、か………)
そうなれば、あの魔族にニーナが何をされるか、想像するのに難くはない。まずろくな目に合いやしないだろう。
(どうする?どうすればあの事態を回避できるんだ………?)
俺の問いに答えてくれるものなど、一人としていなかった。
※ ※ ※
(さてと、出かけるか)
シルフィを連れて、ニーナに声を掛け、家を出る。そして飴を配り、精霊たちに護衛を頼んだのちに結界の外へと出た。空模様は今にも雨が降り出しそうな様子だった。風の流れてくる方を見れば、あまり遠くないところまで嵐が来ている。これは食糧確保のために長くはかけられないだろう。せいぜい使える時間は1時間程度といったところか。
「こりゃあ、あれを食うことも考えに入れとかねえとな………」
「えー、マジで?嫌なんだけど………」
「ぶつくさ言うな。あれしかねえんだから。口直しに飴くらいは出してやるよ」
「それならいいけどさー」
二人で話しながら歩く。あのことを話すべきなのか、悩みながら。
「……え?なに、これ………」
「シルフィ?」
いきなり深刻そうな顔をして止まったシルフィを見て、どうかしたのかと思った。こいつがこんな顔をするのは、本当にヤバいときだからだ。そう、あのトーラのときのように。
「レオン。焦らずに聞いてね?」
「ああ、なんだ?」
シルフィは一度そこで言葉を区切り、深呼吸をした。
「龍がいる。あと、魔族も」
※ ※ ※
龍。それはおとぎ話や、ファンタジーにはありがちな、伝説上の生物のことだ。勿論、魔法が存在するこの世界にも龍は存在する。主に災厄として。
前々世の知識では、龍は温厚なものもいれば、動物のような本能で暴れまわるようなものもいた。だが、この世界では9割9分後者だった。温厚で、知識を兼ね備えた龍など、存在しないというのが主流だったのだ。ゆえに、龍が接近している=大災害が向かっていると同意義なのだ。そして、今。その災害がこの近くにいるというのだ。
「……シルフィ。勝てそうか?」
誰に、という言葉は付けない。勝たなければならないものは明確だったからだ。俺の言葉に、シルフィは深刻そうな表情をしている。その表情だけで、すべてを悟った。
「厳しい、か」
「レオンには悪いけど……勝てるかどうかは保証できないよ」
「そうか」
申し訳なさそうではあったが、責めはしない。むしろ、正確に分析をしてくれて助かったと思っている。油断はしていないと思うのだが、それでも格下相手なら余裕を持って戦おうとするだろう。その余裕がたった一瞬だったとしても、強者との戦いでは命とりなのだ。走りながら、シルフィと会話を続ける。体力は温存したいため、念話へと切り替えた。
『ちなみにどっちの方がヤバいんだ?』
『魔族。龍の方は、魔族に殺されかけてる。もう助からないと思うよ』
それは驚いた。龍の話が出てきたのだから、龍とも戦うのかと思ったのだが。しかし、魔族に殺されたというのなら納得はできる。龍はほぼ最強の種族と言っても過言ではない。それを殺したというのだから、危険度は相当なものだろう。頭の中で情報を整理していく。
『そろそろ着くよ。準備は大丈夫?』
『ああ、問題ない』
龍と魔族がいる場所に着いた。そこで俺たちが見たのは………




