屋根裏部屋
「やっぱりか………」
あまり時間もかけられなかったので、適当に切り上げることにしたのだが……やはり悪い予感は的中し、明日も食糧確保に勤しまなければいけないようだ。ほとほと自分のトラブル体質に呆れ、ため息をつく。
「ま、まあ、全員分の食料が取れただけいいんじゃない?長時間やってたのに、携帯食料を食べなきゃいけなくなったわけでもないし」
とりなすようにシルフィが苦笑する。シルフィはあの世界での携帯食料を食ったことがあるので、あれを進んで食いたくないという気持ちがわかるのだろう。ちなみに、こいつは食った後に気絶していた。初めてのやつには厳しい味なのかもしれない。味は泥水とかヘドロとかのような味だしな。食っていると、味覚が消えていくような感覚に陥るし。さらに、食感も最悪だ。なんかねちょねちょしてる。前世にゃ、これがないと生きていけないってやつもいたが、俺としては普通の食事がしたい。それが例え、簡素な焼いただけの肉だったとしても。
「そうだな。そろそろ帰るか。その前に処理しないとだろうが」
そう言いながらも、すでに解体作業には取り掛かっている。どうやら、エルフの村で動物の血抜きをするといったことは禁止されているらしいのだ。まあ、食うこと自体禁止されてるし、当然といえば当然なのかもしれないが。今回確保できたのは、魔物の肉だった。これなら反発も少ないだろうし、大きい方なので5人分くらいの量はあるだろう。血を抜き、内臓を取り除いていく。そして、肉を骨ごと食べやすいサイズに切り、適当におこしておいた火で焼いておく。この量だと、せいぜいが2食分だろう。明日の昼飯と晩飯、そして出ていくときの朝飯分は、明日確保しなければいけないことになる。面倒なことだ。
一応の保険として、内臓でも食える部分は焼いておく。明日取れなかったとき、口直しくらいにはなるだろう。取れなかった場合の主食は……考えたくもない。すべてを終えたとき、出てきてから3時間が経過していた。火を消して立ち上がり、荷物をまとめる。
「シルフィ、村からの連絡は?何かあったか?」
「うーん、まあ、あるっちゃあるけど………」
歯切れの悪いシルフィ。ニーナに危害があるようなときには、真っ先に報告してくるだろうからそうではないと思うのだが。
「どうした?」
「いや、とんでもなくくだらないことがあってさ。エルフの人が勝手にいちゃもんつけてきたらしいんだけど、精霊たちにぶっ飛ばされたみたいなんだよね。で、飴くれーって」
「ふーん、ちなみにつけた相手は?」
「あの、リースって子。人間泊めてるからだってさ」
そうか。だが、それは俺が関与する問題ではないだろう。というか、関わり合いになると面倒事が起きる気しかしない。ため息をついて、シルフィを肩に乗せた。
「帰るか」
「そだね」
※ ※ ※
「……これはまた、とんでもねえな」
帰って来て、屋根裏部屋へと踏み込んだ最初の一言がそれだった。それくらいには様子が様変わりしていたのだ。
「あ、レオン君。お帰りなさい。どうでしたか?」
真っ先にパタパタと駆け寄ってくるのはニーナだった。が、はたきと箒くらいは置いてから来い。今のニーナの格好はエプロンと三角巾を付け、右手に箒、左手にはたきを持っている状態だ。今までちゃんと掃除をしていたのだろう。ニーナの後ろに目をやれば、こっちも俺の方へ駆け寄ってくるアカネの姿があった。こちらもこちらで似たような格好だ。持っているのが、はたきの代わりにちりとりなだけで。
「あ、レオン様、お帰りー」
「ああ。んー、まあ、結果は微妙だったな」
「それって、あんまりよくなかったんですか?」
「そうだな。今日の夜と、明日の朝の分しかない。よくない部類に入るだろうさ」
疲れたようにやれやれと首を振るが、ニーナとアカネは違う意見のようだった。
「そんなことないですよ!レオン君はすごいんですから!」
「そうだよ。この天気の中じゃ、取ってこれただけでもすごいと思うよ?」
外へと目をやれば、今にも雨が降り出しそうな天気だった。これじゃあ、普通の動物は巣穴に閉じこもるだろう。いるとしても、カエルやカタツムリに違いない。あれは食えないことはないが、ニーナにはあまり食わせたくはないわな………
「にしても、よくここまでできたな。最初に見たときとは大違いだぞ?」
「だよねー、あたしもびっくりしてるよー」
屋根裏部屋はごちゃごちゃしていて、埃だらけだった印象だった。それが今となってはまったく違う様子になっている。荷物は端によけられ、埃だらけだった場所はきれいに水拭きされている。そして何よりスペースがあるので、ハンモックではなくても寝られそうなのだ。布団でも敷けば、3人くらいは普通に寝られそうである。さらに、テンションをあげる要素だったのが………
『天窓付き、か』
『おー、豪華だね!』
表情には出していないが、シルフィと合わせてテンションは上がっていた。やっぱり、こういうのって憧れるよな。ん?子供みたいにはしゃぐなって?はしゃいじゃおらんさ。ただ、感動しているだけだ。男がロマンを捨てたら、そいつは男じゃないと思ってるしな。そんな風に感動していると、ニーナに声を掛けられた。
「あの、レオン君?寝るときはどうしましょうか?寝袋を持ってきますか?」
ああ、そうか。そんな問題もあるな。けど、せっかくちゃんと休めるわけだし、寝袋はない気がする。二人に座るように言い、自分も座った。
「まずだが、どんな配置で寝るかだな。仕切りでも作って、男と女に分けて………」
「「駄目(です)!」」
喋ってる途中に、いきなり割り込まれた。二人とも身を乗り出し、凄まじい剣幕で俺に顔を近づけてくる。
「ほら、仕切りを作るのってめんどくさそうでしょ!?だから、普通になしでいいと思うんだよ!」
「そ、そうですよ!それに、それだとレオン君が除け者にされてるみたいじゃないですか!」
「いや、別にいいんだが………」
実際、アカネの家では同じようなことをしていたし。だが、それでも気に食わないらしい。二人とも首を横に振る。それでも、しばらくは粘ったのだが。
「そ、そんなに嫌なんですか………?」
とうとうニーナが目に涙を溜め始めた。……お前、それは卑怯すぎるだろう。
「はあ、わかったよ。仕切りはなしにしておく」
結局、俺が折れる羽目になったのだった。で、さらに3人で川の字になって寝ることが強引に決定された。なんかこのままだと尻に敷かれそうな気がすんな、ニーナに。




