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元死神は異世界を旅行中  作者: 佐藤優馬
第3章 学園道中編
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エルフの村

 「……わかりました。ここまで上位の精霊様なら、無下に扱うこともできぬでしょう」


 悔し気に顔を歪めながらも、頷いた村長らしきエルフ。こいつは金髪ではあったが、白髪が混ざり始めているし、老人だと思う。それでも、俺よか年はいってるだろうがな。エルフは長命で、500年くらいは余裕で生きるそうだし、もしかすると400後半かもしれん。とんでもないじーさんだな。

 結界の中に入り、初めて見たエルフの村は、素朴な感じだった。別にツリーハウスなわけでもないし、エルフがいなければ普通の村だと勘違いしてしまいそうだ。畑もあるし、村の中には川も流れている。人間の俺らからしても、特別違和感を持つようなことはなかった。その証拠に、ニーナやアカネもあれ?というような顔をしている。


 「ところで、どうすればよいのでしょうか。我らとしてもできること、できないことがありますゆえ」


 じーさんはこちらを見もせずに、馬の精霊に向かって問いを続ける。なんかここまで徹底してると、むしろ感心しちまうな。よくもまあ、こんなことができるもんだ。あ、最初に結界から出てきたおっさんと5人組は同じ部屋にいる。今も、こちらを敵意を持った視線で睨みつけているのだ。手出しをすればどうなるのかわかったのか、何かをしてこようとは思ってないらしいが。


 「あ、それはねー!」

 「シルフィ、お前は黙ってろ。話がややこしくなる」


 こいつに好き勝手喋らせると、どうなるかよくわかった。ここは先に封じておくのが吉だろう。不満そうな顔ではあったが。


 「そんな顔すんなよ。あとで遊んでやっから、今は黙っとけ」

 「え、マジで!何やるの!?」

 「トランプでもやるか。暇つぶしにゃちょうどいいだろし」

 「なるほどなるほど!じゃあ、あとは任せたよ、レオン!」


 相変わらず扱いやすくて、非常に結構。さて、条件を提示させてもらおうか。村長らしきじーさんに体を向けた。


 「まず一つ。嵐が通り過ぎるまで、ここに泊めてもらいたい。それが終わったら、出ていこう。お互いのためにも、そっちの方がいいだろう?」

 「……小僧。まさかただで出れると思っているのか?」


 じーさんが睨んでくる。貫禄があるからなのか、そこそこの威圧感だった。ま、怖くないが。


 「口止め、か?いいだろ、別に。俺らみたいのは例外的だ。普通なら結界で詰みだろうさ。それに、ここのことを正確に伝えるのは難しいだろ?目印となるようなもんはねえしな」


 じーさんが黙る。その通りだとでも思っているのかもしれない。


 「なんなら、俺らが出ていくときに見送ればいい。変な印をつけて帰ってないか、とかな?」

 「……ふむ。そこいらの小僧とは違うようだな。話を続けよ」


 どうやら少しは興味を持ったらしい。今まで馬の精霊の方を向いていたが、俺が真正面に位置するように体勢を変えた。


 「二つ目。俺らが狩りをすることの許可だ。エルフは動物とかは狩らねえんだろ?人間は動物を食わなきゃ死ぬわけだし、それくらいは許してくれ」

 「ほう、なるほどな」

 「三つ目。家は最低限の設備があること。ほぼ野宿と変わらんのは困る。そして、最後に一番の頼み事だ」

 「一番?何を頼もうというのだ?」


 警戒したように身構えるじーさん。そう構えんでも、別に変なことは言わんよ。一度間を置いて、再び口を開く。


 「俺らとは不必要に干渉しないでくれ。それが最善だろうからな」


 そう、それが大事だったのだ。無理に関わろうとしなければ、むこうもわざわざ突っかかっては来ないだろう。それに、余計なトラブルもなくて済む。お互いにとって、メリットがあるのだ。じーさんもどうやら問題ないようで、安堵したように息をついていた。


 「確かに。我らとしても、人間と関わり合いになるなどと迷惑極まりない。それならば、不干渉が一番いいだろう」

 「他の三つも構わないのか?」


 俺が聞くと、じーさんはあごに手を当てて考え込んでいた。大方、変なことをされないかとでも思っているのかもしれない。


 「……条件として、監視役を付けさせてもらおう。それで勘弁してやる」

 「そーかい。なら、俺からも条件がある」

 「なんだと?」

 「あいつらが心休まらないと困るんでな。あいつらの監視をするなら、女にしろ。俺とそこの男は別に男でも構わんが」


 というか、男が嫁入り前のニーナの裸を見るなどということがあれば、俺はそいつを殺して、八つ裂きにし、体は魔獣にでも食わせ、頭はこの村で晒し首にしても、まだ腹の虫が収まらない自信がある。勢い余って、この村滅ぼすかもな。あとニーナを嫁に出すとしても、ただの男は駄目だ。少なくとも人柄がよくて、性格にも問題なく、顔もよくて、尚且つどんなことがあったとしても、こいつを守れるやつじゃなければ許さん。もしもそうじゃないやつが来たら、絶望の味を教えてやる。そこで、ニーナに袖を引っ張られた。


 「ん?どうした?」

 「いえ、その……レオン君がひどいことを考えてるような気がして………」

 

 なんてこった。うっすらとだが、気付かれたらしい。にやり、と笑みを向けてやった。


 「よくわかってるじゃないか」

 「よくわかってるじゃないか、じゃないですよ!何するつもりだったんですか!?」

 「んー、ニーナの裸でも見たら、この村滅ぼそうかと思って」


 真顔で答えてやったら、ニーナが怒りだした。駄目らしい。


 「駄目ですよ、そんなの!ここに住んでる人たちが困るじゃないですか!」

 「それなら、知らねえ男に裸見られてなんとも思わねえのか?俺にはそうは思えないが」

 「そ、それは……そうですけど」


 顔を赤くして、頷くニーナ。うん、こりゃ決定だ。


 「よし、見た瞬間に全員殺すか。シルフィで精霊封じて、バレットで狙撃すればいけるだろ」


 我ながら完璧な作戦だと思う。シルフィはエルフにとって、完全に切り札(ジョーカー)として使えるな。で、狙撃範囲なんかむこうはわからねえんだから、問題ないはずだ。


 『……悪いことは言わん。あの男の条件を呑んでおけ。あれは本当に滅ぼすといえば、滅ぼすぞ』


 馬の精霊がひいているように感じるのは気のせいだろうか?じーさんも顔を青くしている。


 「そ、そうですな。条件は呑むことにしましょう」


 慌ててこくこくと頷いていた。失礼な。別に変なことさえしなきゃ、俺だって何もせんさ。


 「ところで、どこに厄介になればいいんだ?余ってる家なんかねえんだろ?」


 ふと疑問に思ったので、聞いてみる。じーさんは渋い顔で俺を見てきた。


 「決まっておらぬ。お前たちを泊めるやつなど、いるかどうか………」

 「そうか。なら、あいつとかどうだ?」


 指し示すのは、リースだった。どうやらあいつは人間に悪感情を抱いてないみたいだし、ちょうどいいのではないだろうか。じーさんも盲点だったようで、少し考えた後に、頷いた。


 「よかろう。やつの家を使うといい。どうせやつには家族などおらんからな」


 そんな言葉と共に、じーさんとの交渉は終わったのだった。

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