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元死神は異世界を旅行中  作者: 佐藤優馬
第2章 大都市騒動編
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くだらない日の1ページ-Ⅲ

 「……意気込みだけは立派なんだけどな」


 またも、俺の肩に寄りかかって寝ているニーナに目を向ける。少しは起きている時間が伸びはしたが……たかが10分の違いである。まだまだ3時間やらなきゃいけないのだが。とはいえ、そういう俺は苦笑するだけなのだが。


 「レオーン、まだ起きてるー?」

 「なんだシルフィ?起きてんのか?」


 俺の頭の上で寝ているはずだったシルフィから声を掛けられる。俺の後から見張りをやるんだから、まだ寝てりゃあいいのに。ちなみに、シルフィはいつも俺の頭の上で寝ている。なんでも他のところだと潰されそうで怖いからだそうな。それもそうかということで、一応許している。移動するときも俺の肩に止まっているし、今さら構いやしない。


 「あんだよ、急に」

 「いやさー、ちょっと悪かったなーって」


 肩に移動してきて、そう言う。言われた俺はというと、目を瞬かせていた。


 「……熱がある、わけじゃないよな?悪いものでも食ったのか?」


 人差し指でシルフィの額を軽く抑えるも、別に熱いわけでもなかった。俺のその反応に案の定、シルフィは怒り始める。


 「何さ、その反応ー!せっかく人が謝ってるのに!」

 「お前が人じゃないってツッコミはまあ、置いといてやるとして……普段の言動からそう思われないとでも思ってんのか?」


 怒り心頭、って感じで頬を膨らませてるのを横目で確認するが……何しろ普段はああなんだぞ?明日は槍でも降るんじゃないかと思うくらいだ。そう返すと、ばつの悪いような顔をした。


 「まあ、それもそうなんだけどさー………」

 「どうしたんだ、ほんとに。いつもならもっと好き勝手いうじゃねえかよ」

 「……あたしさ。ここんとこの暮らし、気に入ってるんだよね」

 

 珍しくシリアスっぽい感じだ。真面目な顔のこいつを見て、少し感動してしまった。茶化す雰囲気でもなさそうなので、黙ってその先を促してやる。


 「もし……呆れられて、捨てられちゃったらどうしようかなって………そう思ったりしちゃうようになっちゃってさ」

 「そか」


 顔を曇らせて、俯いているこいつを見て気付く。要は勝手なことしたから怒ってるのかも、ってことか。そんなこいつの言葉を聞いた俺の反応はというと。


 「……お前がそんなこと気にするとはな………」

 「ひどくない!?あたしだって落ち込んだりするんだからね!?」


 ギャース!と吠えるように両腕をあげて、抗議してくる。いつもの見てるんだから、仕方ないだろうに。シルフィからたき火の方へと視線をずらす。


 「別に。そんなこと気にすんなよ。あまりにも目に余るときゃ、注意くらいはしてやるさ」

 

 そう言ってやると、なんかポカンといった様子で口を開けている。


 「んだよ、そんなに驚くようなこと言ったか?」

 「いや、だってレオンだよ?口を開けば皮肉が出てくるような感じなんだよ?」

 「よし、わかった。お前とは白黒つけなきゃいけないようだな」

 

 拳を握り、ポキポキと音を鳴らす。シルフィは慌てた感じで返してきた。


 「待って待って待って!悪かったから!」

 「わかりゃいいんだよ」


 いちいち殴るのも面倒なので―――こいつの場合、普通に殴ったつもりでもかなり吹っ飛んでいくのだ。目でも回して見張りを長くやるのも馬鹿らしいし、手加減して殴るのもめんどい――――素直に引っ込めてやる。シルフィはというと、やはり変なものを見るかのような目で見ている。


 「でもさー、あんまり言わなくない?そういうこと」

 「まあな。お前以外にゃ、ニーナくらいしか言わんだろうさ」


 実際、そう言い切れる自信がある。だからこそ、こいつは不審な目で見てくるのだろう。軽く笑って、小指で額を押した。シルフィは押された部分を抑えながら、聞いてくる。


 「んー、じゃあどうして?」

 「これから、馬車馬のように働いてもらうからに決まってんだろ。それくらいには、お前がいることにはメリットがあるんだよ」

 「うええ……働くの前提なのー………?」

 「当たり前だ。普段馬鹿してる分、酷使してやんよ」

 「はーい………」


 明らかに気落ちした感じのシルフィを見て、微笑する。ほんとはそれだけでもないんだがな。


 (ま……似た者同士なんだ、せいぜい仲良くやってやるさ)


 あの街でこいつに助けられたのは記憶に新しい。その恩を忘れるほど、俺もクソ野郎じゃないしな。そのことを口にすれば、こいつが調子に乗るであろうから口には出さないが。ほんの少しだけ口元を緩ませる。


 「あ、なんか来る」

 「なんか?」


 唐突に上がった声に反応し、聞き返す。勿論、いつでも発砲できるよう銃に手をかけている。


 「あ、入った入った。イノシシの魔物。ちょうど真っ正面から来るよ」

 「わかった」


 ニーナを横たえてやり、右手で銃を引き抜く。使うのはウェルロッドの方だ。


 「えーと、あと10秒で来るー」

 「急だな、おい」

 「だって速いんだもん、仕方ないじゃん。あ、5、4、3、2、1」


 ゼロ、の瞬間に撃った。予想してた場所に当たり、絶命したことを確認する。勿論、狙ったのは眉間だ。


 「ほい、っと」


 魔力強化で筋力を上げ、勢いのまま突っ込んできたイノシシを投げ飛ばす。これで終わりだろう。


 「あっさり終わるよねー」

 「だな、急所を突かれりゃ仕方ねえのかもしんないが」


 念話でどれくらいのサイズなのかも確認済みだったから、スムーズにいった。喜ぶことはないけど。軽い感じで会話する。


 「はー、夜食とか食べない?あれ食べれそうだし」

 「お前なあ……食えるらしいけど、どうなんだかね………?」


 正直なことを言えば、俺らはこれくらいできて当然だと思っている。相手は強くもなんともないしな………そんなことを考えながら、倒した魔物に近づく。ギルドで学んだのだが、この魔物食えるらしい。生だと食あたり起こすかもしれないからやめろ、とも言ってたけど。


 「とりあえず焼いて食うか。塩と胡椒あるし」

 「おー」


 二人で試食したのだが、食った後の感想はなかなかいける味だった。


※               ※               ※

 「……何しに来た」


 当番上はエレナの番。が、疲れが出たらしく、今日は流石に眠ってしまっていた。そんな矢先に………


 「そう邪険にするな。妾は別に敵対の意思もないしのう」

 「そーかよ」


 何故か、ヘカルトンで会ったあの魔王がいた。確か、トーラだったっけか?なんでここにいるんだか。極力、予備動作の一つも見逃さないように目をつけておく。


 「暇なので来てやったのだ。嬉しかろう?」

 「いや、まったく」


 はっきり言って、迷惑以外の何物でもない。あらかさまに迷惑そうな顔をする。俺の様子を見て、気分を害したらしい。


 「ひどいのう。悲しくて、ここら一帯をうっかり消し飛ばしてしまいそうじゃ」

 「いいから用件を話せ」


 しくしくと泣く素振りを見て、イライラした。前に散々な目に合ったからな………やはり嘘泣きだったようで、すぐに俺の方に向き直った。


 「ほんとに理由はないの。強いて言うなら、お前に会うためでもある」

 「お前な………」


 そんな態度に流石になんかしてやろうと、立ち上がりかける。が、それは手で制された。


 「ふむ、順調に育っているようじゃな。これは楽しみかもしれんのう」

 「何のことだ」

 「なんでもないさ。ただ、一つだけ言っておいてやろう。どうしようもなくなったら、妾を頼るといい。力を貸してやろうではないか」

 「……なんでそこまでする?」


 そう声を絞り出すと、これにも返事が返ってくる。


 「お気に入りである上に、面白いことになっているからじゃの」

 「ああ、そうかい」


 鬱陶し気に吐き捨て、見張りに集中する。こいつのいうことを気にしていると、調子が狂う。無視してやるのが正解なのだろう。


 「お前の同族たちがどう反応するか……それもそれで興味深いかもしれんのう」


 それからこいつが引き上げるまでの時間、複雑な気分で過ごした。ただ、その言葉は思いの外心に刺さり………同時に、上手く言えないような何かを胸に刻んだのだった。

番外編は終了で、タイトル未定に戻ります。一区切りついたら戻ってきます。

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