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元死神は異世界を旅行中  作者: 佐藤優馬
第2章 大都市騒動編
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くだらない日の1ページ-Ⅱ

 「師匠。見張りは何をすればいいの?」

 「そりゃ、周囲の警戒だろうよ……むしろ、それ以外に何があるんだ?」

 「……秘密の話?」

 「阿呆か。もっと緊張感持てよ………」


 呑気なエレナの言葉に頭を抱えたくなる。次の日、エレナと見張りをすることになった。いや、なっていたからいいんだが……まずいことに、こいつには絶望的なまでにセンスがなかった。何というか……大雑把すぎるのだ。だから細かな変化に気付かず、一度魔物が襲い掛かってきたのに驚いていた。天を仰ぎながら、ボーっとした様子のエレナを注意した。


 「お前なあ……その大雑把なところをどうにかしろ。そうでもしないと、いろいろと不便だぞ」

 「いろいろ?そんなにある?」

 「具体的に一つ挙げれば、魔力の無駄使い」


 そう指摘すると、エレナの目の色が急に変わる。


 「どうにかできるように頑張ってみる」

 「おー、せいぜい頑張れ」


 こいつには魔法のことを出すのが一番だ。そういえば、大体のいうことは聞くし。……師匠禁止は聞かなかったけどさ。何かを決心したような顔つきのこいつを見て、そんなことを考える。


 (にしても、ニーナのやつよか長く起きてるな………)


 必死に周りを探っている様子のエレナを見て、そう思った。ニーナは開始早々にダウンしかけたっつーのに。何が違うんかね?少し考えたが、めんどくさくなってやめた。


 (まあ、別にいいか)


 頭を振って、そんな考えを追い出す。俺にゃ関係のない話だろう。というか、人の事情にあんまり関わりたくない。面倒だし。関わろうとしたら、絶対に厄介事を押し付けられるに違いない。そんなのはごめん被るのだ。それから、ニーナのことを考え始める。


 (大体、ニーナ一人でも手に余るしなあ………)


 あいつは優しいし、他人のことを思いやれる。それに、勇気もあるようだ。それはあいつのいいところなのだろう。けれど、これがどす黒い世界に。いやそこまでではなくても、けして平和とは言い切れないところに放り込まれたら評価は一変する。優しさと思いやりは甘さになるし、今のあいつの実力なら勇気は無謀となるだろう。で、聖属性魔法という希少価値に加え、世間知らず。これだけ揃っていて、心配にならない方がおかしいだろう。俺が過保護なだけなのかもしれないが。


 話は戻るが、今の状況だとニーナに加えて、エレナの面倒も見てるようなものだ。アカネも怪しいところだろう。エレナもニーナより多少はましだが、それでも世間知らずな方だ。少なくとも、ああ、こいつ冒険者向いてねえだろうな………と思うくらいには。今の中で誰かとタッグを組め、と言われたら迷わずシルフィを選ぶだろう。もしくはアカネ。正直、エレナとは一番組みたくない。大雑把、世間知らず、挙句に魔法以外のことに対しては注意力散漫。この三拍子そろっていて組みたがるやつは少ないだろう。俺は余裕がないから、組みたくないわな。

 俺がシルフィを挙げたのは意外と思うやつがいるかもしれないが……実はこいつ、一番信用できる。普段の言動からは馬鹿としか思えんが、スペックは高いし、いざことを構えることになれば油断することもない。別に必要な殺しに対しては否定的でもないしな………普段が残念過ぎるだけなのだ。

 ぼけーっとそんなことを考えていると、エレナから声を掛けられる。


 「師匠?何か考え事?」


 エレナが首を傾げて聞いてくる。これだけ見れば、素直にかわいいと思えるんだが。


 「いや、どうして俺の周りには残念な女ばっかり集まってくるんだろうと思ってな………」


 しみじみと呟く。それもあるんだよな……昔から一緒に行動するなら女に囲まれてがいい!と思ってたわけだが。いや、ムサい男どもに囲まれて旅するよりはずっといいのだが。でもな……女に囲まれるのってもっとこう、胸が高鳴るようなもののはずじゃん?中身ジジイだけど。そんな俺にポンと手を打ち、すっとんきょんな答えを返してきた。


 「残念?アカネのこと?それとも、ニーナ?」

 「お前もだよ、馬鹿たれ」


 純粋にそう思ってたらしいエレナの額を指ではじく。弾かれた場所を抑えて、若干涙目になりながら問いかけてくる。


 「どうして?あの二人と同じに扱われるのは納得がいかない」

 「納得いけよ………」


 ニーナは脳みそお花畑、アカネはショタコンムッツリ、エレナはませた魔法オタクロリ。付け加えるなら、シルフィはただただ鬱陶しい。とまあ、まったくもって恋など起こるはずもないような面子なのである。と、そこで交代する時間になったのに気付く。立ち上がって、テントの方へと向かった。


 「はあ、もうそろそろ交代の時間だ。シルフィたち起こして寝るぞ」

 「待って。訂正を求める」

 「はいはい、わかったからとっとと寝るぞ」


 諦めが悪いのかしつこく食い下がってくるエレナを適当にいなしながら、早くどこかの街につかねえかなと切実に願うのだった。


※               ※               ※

 「今日は私だね」

 「嬉しそうだな、お前………」

 

 アカネが嬉しそうにそう言ってくる。またもや見張り。ローテーション順で行けば、今日はアカネと組む番なのだ。こいつがまあ張り切っている。理由は丸わかりなのだが。呆れた目でこいつを見る。


 「どうせ俺と一緒にやるからとかそんなだろ?」

 「え、えへへ、やっぱりわかっちゃう?」


 照れ笑いをしてくるが、それで誤魔化せるとは思うなよ?


 「もう早くも疲れた気がするわ………」


 ため息をつく。もうひたすらにめんどくさいのだ。いちいち警戒するのもめんどくさい。正直、バイクでとっとと次の街に行きたい気分。あれなら時間はかなり短縮できるだろうに。そんな俺を見て、アカネは不気味な笑みで(悪いことを考えているような、とも言う)、提案してきた。


 「疲れてるの?じゃ、じゃあマッサージとかしてあげようか?」

 「断る。どさくさに紛れて変なところに触る気だろ、お前」

 「そ、そんなことは……ないよ?」


 目線をあらぬ方へやって答える。それがもはや答えのようなものだ。てか、この世界にもマッサージなんて言葉があったんだな。……トイレはねえのに。本日二度目のため息がこぼれた。


 「むー、なんでレオン様って私をそこまで拒絶するの?そんなに私、魅力ないかなあ………?」


 どうやらあまりにも拒否するから落ち込んだらしい。その場に蹲ってしまった。こちらからしたら何言ってんだ、こいつ?という気になる。そんなこいつを見て、ため息をついてから答えてやる。


 「……別にお前に魅力がねえわけじゃねえよ」

 「ほんと?」


 アカネが俺を見上げてくる。なんだか捨てられた子犬のような目だ。そんなことを考えながら、言葉を選んでいく。


 「ほんとだよ。つーか、むしろ男の俺から言わせりゃ、お前に欲情しないやつはなかなかいないんじゃねえか?」


 そりゃあ、ヘカルトンでは忌み子として嫌われてはいた。だが、別に魅力的でないわけではない。顔立ちは10人に問えば少なくとも7人からは美人だと言われるくらいには整っていうだろう。黒髪がそれに合っていないわけでもなければ、体型がひどいわけでもない。というか、何を食べればこうなるのか?というくらいには男の理想とする体型だ。一昔前くらいの言葉でいえば、ボン、キュッ、ボンって感じ?そう言うと、アカネはさらに不思議そうにこちらを見てくる。


 「そうなの?じゃあなんで………?」

 「ショタコンとムッツリが大きな問題」


 即答しておいた。むしろそれさえなければ、大きくなってからこっちから願いたいくらいなんだよ。見た目がかなりいいからこそ、尚更そう思う。自分の目の前にあるたき火に木を投げ込んだ。


 「そ、そうなんだ………」

 「ま、もう一つ理由はあるがな………」


 ぽつりと呟き、空を仰ぐ。今日はなかなかに星が綺麗だ。むこうでは、都会の光に浸食されつつあったが。そんなくだらない考えを頭から追い出し、思考を元に戻す。逆にアカネの欠点にさえ目をつぶれば、こいつは女としてはかなり上位に食い込むだろう。前々世ではオネショタなんてジャンルもあったし、そのジャンルが無理ということはなかった。別に、本気で生理的に無理と思ってるわけじゃないのだ。……ただ、倫理的にやばいかもと思うだけで。

 他に変なことは……ない、とは言い切れないが。少なくとも普通の女の子はオークを殴り殺したりはしない。それも置いといて。


 「お前の気持ちが変わらなきゃ、もう少し大きくなってから付き合ってもいいくらいではある。けどな、今そういうことをしてみろ」

 「どうなるの?」

 「どう見たって犯罪だろう、絵面的に……それに、万が一子供でもできたらどうすんだよ」


 軽く思いをはせるが、間違いない。日本なら確実に法律に引っかかってる。それに、自慢じゃないが俺はここまで童貞なのだ。実際の避妊具なんて見たこともない。それっぽいものしか創れないだろうな………そんな感じのことを伝えた。勿論、前世とかそういうことは伏せて。


 「別に私は構わないんだけど………」


 頬を赤らめながらそう言ってくる。まあな。お前ならそう言うだろうけどさ。


 「じゃあ聞くが。お前、腹の中に俺の子供がいるっていう状態で、こいつらと仲良くやっていける自信あるの?」


 テントを親指で指す。その中では、眠っているであろうニーナとエレナがいる。


 「うっ……それは………ない、かな」

 「だろ?」


 俺でもそう思う。男一人に女三人。そのうち一人はその男の子供を妊娠中。とかもはや崩壊まっしぐらのパーティだろ。アカネに視線を戻して、話を締めくくった。


 「そういうことだ。だから手は出さない、わかったな?」

 「うん……わかった」


 普通に納得したような表情のアカネを見て、明日からは多少は落ち着けばいいんだが。そう思った。

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