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元死神は異世界を旅行中  作者: 佐藤優馬
第2章 大都市騒動編
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くだらない日の1ページ-Ⅰ

番外編を書いてみました。3話くらいで終わるかな?

 「……つまんない」

 「は?」


 いきなり何を言い出すんだろうか、こいつは?俺の肩に乗っかっているシルフィを見て、そう思った。

 学園に向かう途中の3日目。馬車に揺られて、旅をしている最中だ。辺りは夕闇に呑まれつつある。ちょうどいいところに開けた場所があったので、そこで野宿をしようという考えだ。で、今は夜になったから、見張りをしようと思ったわけなんだが。シルフィが俺の前に飛んでくる。


 「だってさー、あたしが見張りしてるとき誰も起きてないわけじゃない?」

 「そうだな」


 その言葉に頷く。俺とシルフィの二人で見張りをやってんだから、当たり前だ。そんな俺の様子を見て、シルフィは不満そうな顔をした。


 「一人は暇なんだよー!誰か話そうよー!」

 「そんなくだらねえこと、ぶちぶち言ってんじゃねえ!」


 文句を言ってきたこいつに、反射的に怒鳴り返していた。何かと思ったら、すごいくだらないことだった。見張りが楽しくてたまるか。こっちとしては呆れしか感じられないくらいだ。手足をじたばたさせているシルフィを見て、本気で殴ってやろうかと思った。


 「んー、でもレオン様。シルフィちゃんの言ってることは考える必要あるかもだよ?」

 「んだよ、アカネ?こいつに同情してんのか?」


 アカネに抗議の視線を送るが、やつはパタパタと手を振った。


 「いや、そうじゃなくて………」

 「そうじゃないの!?」


 シルフィが涙目になる。アカネは申し訳なさそうに手を合わせているが、当たり前だ。そんな理由が通じるか。


 「う、うん……ごめんね?」

 「ううー!ニーナ、二人がいじめてくるよー!」

 「あ、あはは……レオン君、流石にシルフィちゃんが可哀そうですよ?」


 ニーナが俺に向かって困ったように言ってくるが、ここではい、そうですねと言ったらどうなるのかわかっているのか?案の定調子に乗ったこいつは胸を張った。


 「ほらー!ニーナだってそう言ってるじゃん!」

 「ああ、もういちいちうるせえな!あとで聞いてやるから、しばらくニーナと話してろ!」

 「レオン君………」


 ニーナが呆れた様な目で見てくるが、黙殺する。いいんだよ。シルフィだし。


 「んで?なんで考える必要があんだよ?」


 アカネを振り返って問う。アカネは申し訳なさそうな顔をした。


 「だってさ。私たち……一度も見張りをやったことないよね?」

 「ああ、そうだな」


 アカネの言葉に首肯する。別にいいか、と思ってたし。俺は元々前世のことがあるから、見張りは常日頃からやってた。シルフィの場合は、人がやるよりもずっと正確に索敵ができる。何しろ索敵範囲は2kmだ。銃もないこの世界で(俺は例外だが)、これだけの範囲を監視できるなら、ほとんど先制権はこちらが持ってるに等しい。だから、二人でローテーションしながら見張りをしているのだが。アカネはそれが悪いと思っているようなのだ。いい案を思いついた!という顔で、俺に向かって提案してくる。


 「いざっていうときに、見張りくらいはできた方がいいんじゃないかな、って。ほら、もしかしたらニーナちゃんと離れ離れになることがあるかもしれないでしょ?」

 「それは……まあ、そうだが」


 アカネから目を逸らし、考え込む。アカネは意外にちゃんとしているから、別に構わなくはある。それに、そういうことがないとは言い切れない。現実っていうのは大体クソッタレなものだし。ただ、なあ……アカネの後ろに目線を移した。


 「……それをやるのはお前だけなのか?」

 「え?それは………」

 「私もやります!」

 「師匠、私も」

 「だよな………」


 ニーナとエレナが手を挙げた。どちらもやる気満々といった様子だ。こいつらが黙ってるはずもないと思ってたのだ。なんだかんだ言って強情なところがあるし、折れさせるのは大変だろう。むしろ、面倒だから俺が折れる方が多い。アカネも今更ながらそれに気付いたようで、しまったという顔をしていた。


 「だから、やらせようとしなかったのに………」

 「人生諦めが肝心なんだよ、レオン」


 頭を抱えていると、にやけた顔で肩をポンと叩いてくるシルフィ。うぜえ。


 「てめえのせいだろうがあぁぁぁぁ!」


 流石にぶち切れた。


※              ※               ※

 「取り合えず、だ。絶対に俺かシルフィのどっちかと組んでやること。指示があったら必ず従うこと。これが絶対条件だ。いいな?」


 結局根負けした。いつまでもうだうだやってんのがめんどくさいし。何より、睡眠時間が削られる。ため息をついて、やらせることにしたのだ。が、やる前に最低限の決め事を考えておいた。ニーナを含め、全員に厳命する。これだけは譲れないのだ。


 「わかりました!」

 「うん、わかった」

 「大丈夫」

 「で、あとシルフィ」


 シルフィに向き直る。そして、こいつをがっちりとホールドした。


 「んん?な、なにー?」


 流石に嫌な予感がしたらしく、額に汗を流す。


 「くれぐれも無理させるなよ?話に付き合わせた挙句に、次の日ヘロヘロにさせてたら………」

 「させてたら?」

 「お前だけ置いてく」


 俺は真顔だった。その顔から、本気だということがわかったらしい。目に見えて慌て始める。


 「ギャー!ごめんなさい、やらないからやめてー!」

 「し、シルフィちゃん?やらなきゃいいだけなんじゃないかな………?」


 アカネが苦笑しているが、シルフィはすぐに反論した。焦ったような顔で、アカネに食って掛かる。


 「だって目が!目が笑ってないもん!あれはガチで怒ってるやつだって!」

 「が、ガチ………?」


 意味がわからないらしく、アカネは?マークを頭に浮かべていた。


 「わかってんならやんじゃねえ!」

 「はい、ごめんなさい!」

 「なんだろう、これでいいのかな?精霊って………」


 とりあえず、念押しのためにももう一度叱っといた。シルフィは怯えたように、またもや頭を下げるのだった。アカネの呟きが聞こえたような気がしたが、そんなものは関係ないのだった。面倒事は嫌いだしな。


※              ※               ※

 で、実際にやるわけなんだが。順番決めるのでまあ、もめた。馬鹿らしいからそんなら俺が決める、と一喝して黙らせた。順番は俺とニーナがやって、次にシルフィとアカネ。で、明日は俺とエレナ、シルフィとニーナ。って感じにした。ほんと、なんで順番決めるのにも一苦労しなきゃいけないのやら………


 「最初は私とレオン君なんですね!」

 「ああ、そうだな………」


 なんでこいつは嬉しそうなんだか。うきうきとした様子のニーナを見て、内心首を傾げる。俺が逆の立場なら、間違いなく怒ってるところだ。ニーナの様子に呆れる。


 「まずだが。原則として大声は出さないようにしろ。夜行性の魔物だったり、獣だったりは視覚以外で獲物を探すことが多い。でかい声を出したら、気付かれることがある」

 「は……あ、はい」


 早速出しそうになってやがった。大丈夫なのか、ほんとに?慌てた様子で口をふさぐこいつを見て、ジト目になる。


 「あれ?でも、鼻で探すような魔物とかだったらどうするんですか?」

 「それはどうしようもないな」


 においを消すことなんてそうそうできやしないのだから、それは諦めるしかない。せいぜいできることと言えば、泊まる場所で血抜きをしないだの、食い終わったものは放置しないだのだろう。香水なんぞつければ逆効果だし、そもそも原料を知らんのだから創ることもできない。要は会ってしまえば運が悪い、なのだ。そんなことを説明してやる。勿論、香水とか余計なことは話さないが。ニーナは感心したような様子で、ぽつりと呟く。


 「大変なんですね……見張りって」

 「ん、まあな」


 呟いたニーナの方を向くと、ニーナは少し心配そうに俺を見ていた。もう慣れたから大したことはないが、最初は無理して、途中で寝ることの方がほとんどだった。実年齢はそうじゃなくても、この体は子供なのだ。どうやったって眠気は襲ってくる。心配するなとばかりに、頭を撫でてやった。その行為は嫌じゃなかったらしく、ニーナは目を細めた。


 「……レオン君は、その………」

 「なんだ?」

 「いえ、やっぱり何でもないです」

 「そうか」


 何かを隠そうとしている笑顔でそう言った。俺に隠し事は通じないんだが……まあいいか。何を話そうとしたのかは知らないが、聞きたいことなら勝手に聞いてくるだろう。こいつはそういうやつだし。


 「ええと、あれ……?何を、話そうとしてたんですっけ………?」


 隣を見れば、もう瞼がくっつきそうな様子のニーナがいた。早いなとは思うが、普段よりも遅い時間な上にこれが初めてなのだ。仕方ないと言えば仕方ないだろう。苦笑しながら、その様子を見守った。


 「おやすみ、ニーナ」

 「ふぁい、おやすみです………」


 時間をそれほど置かずにすーすー、という寝息が聞こえてくる。体重はこちらに預け、安心しきったような表情だ。まあ、俺の肩に頭を乗っけているとも言う。ニーナに創り出してやった毛布を掛けてやる。頭を軽くなでると、少しくすぐったそうな反応を見せたが、起きることはなかった。


 (さてと、ちゃんとやりますかね………)


 明日も何事もなく一日が終わりますように。隣で寝ているニーナを起こさないように気を付けながら、そう思った。

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