出発
とうとう総合評価が100に到達しました。ここまでブックマーク登録していただけるとは正直予想もしていなかったです。本当にありがとうございます!
「明日ヘカルトン出るわ」
カイに向かってそう告げる。カイは怪訝そうな顔で聞き返してきた。
「はい?」
「いや、だから明日ヘカルトン出るんだって。もう金は十分過ぎるほど稼いだしな」
「なんというかまあ……本当にいきなりですね、あなたは」
呆れられたが、俺ってそんなもんだろ?手をひらひらと振って答えた。
「ん、まあな。黙って出ていくよか、なんぼかましだろ?」
「本当にちょっとですがね……どこに行くのですか?」
「いや、決めちゃいない。元々当てのない旅だしな。まさに風の吹くまま気の向くまま、ってやつだ」
「はあ、適当ですね………」
「いいだろ、別に。大体ここにこれ以上いたら、ずっといる羽目になりそうだ」
そう言って、肩をすくめる。その仕草を見て、カイは苦笑する。
「そうですね。この一年で、あなたは随分とみんなに信頼されるようになりましたから。ここで暮らすのも一つの手だと思いますよ?」
「ま、そうだな。けどさ、もっといろんなところを見て回りてえんだよ。それに……」
「それに?」
「なんかむず痒い。どこ行っても注目されるのは、好きじゃねえんだよ」
「なるほど、あなたらしいですね」
そう言って爆笑された。なんかイラつくな。
魔族がここを襲った事件から1年。街はすっかり元の様子を取り戻し、人の出入りも激しくなった。今はもう、あのときの恐怖を覚えているやつなどいないんじゃないだろうか?俺は12になり、背丈もそこそこ伸びた。とは言ってもやはり高い、というほどでもないのだが。そこでカイが真剣な表情になる。
「で?私に伝えたのは理由があるんですよね?」
「ばれたか?」
「どうせめんどくさいから、全員には伝えないんでしょう?」
「そうだな。面倒だ」
また肩をすくめる。今度は苦笑された。
「ひどいですね。あなたのことを慕っている人だっているでしょうに」
「関係ねえよ。もし村の方面に行くやつがいたら、手紙を持って行ってくれるように頼んでくれないか?そこそこ有名な村だから、わかるやつがいると思うんだが」
「手紙、ですか?意外ですね」
本当に意外そうな顔で見られた。失敬な。非難の目でカイを見る。
「育ての親みたいな人なんだよ。約束しちまったし、蔑ろにはできねえだろ」
「そういうところは律儀ですね……わかりました、何という人ですか?」
「ルアン、って人だ」
「ルアン?どこかで聞いたような……?」
「ん?聖属性の使い手だから珍しかったんじゃねえの?」
結構有名っぽいしな、聖属性魔法の使い手って。カイは首をひねっていたが、そういうことだと自分を納得させたようだ。
「そうですか。まあ、そうかもしれないですね。わかりました、その役は引き受けましょう」
「そうか、助かる。じゃあ元気でな」
「もう行くんですか?」
驚いたような顔をするが、俺は頷き背を向ける。
「準備とかもあるしな。今日は忙しいだろうさ」
「……なるほど。では、またどこかで」
「ああ」
そう言って、ギルドを出ようとした。した、のだが……
「待ってくれ!ほんとに行ってしまうのか!?」
「んだよ、アレックス。忙しいっつったろ」
「いや、そんなことは関係ねえ!」
「そうだ!まだおめえに勝ってねえんだよ!」
アレックスの声を皮切りに、どんどんと声が上がる。冒険者どもを適当にあしらってただけなんだが、何故か人気が出てきてしまったらしいのだ。1年前からは考えられない反応である。証拠にあいつらの目を見れば、その中に嫌悪などの感情は混じっていない。むしろ混ざってるのは……
『悲しい、か?』
『だろーねー。ちょっと相手してあげたら?』
『仕方ねえ。これが最後だしな』
そう思い、体の向きを冒険者たちの方へと向ける。
「ま、勝てるもんなら勝ってみろよ」
その声とともに、冒険者たちがかかってきた。さて、何分持つかね?
※ ※ ※
「……レオン様、やり過ぎだよ」
アカネが非難の目で見てくるが、俺はそれを黙殺しておいた。
「あいつらも承知の上だったろ。いいじゃねえか、明日からはいなくなるわけだし」
「本当に出ていくの?」
「まあな」
「いきなり過ぎますよ……まだお別れもしてないのに………」
ニーナは落ち込んだ様子だが、こればかりは仕方ないだろう。早いか、遅いかの違いなのだ。
「いらねえよ、そんなもん」
「むー………」
「なんならここに残ってもいいんだぞ?」
「それは嫌です!」
「そうかい」
帰り道。俺、ニーナ、アカネ、エレナの4人で歩いている。この面子で帰るのも、すっかり当たり前になっちまったな。さっきかかってきたやつらはボコボコにしといた。当たり前っちゃ、当たり前なんだが。そんなことを考えていると、エレナの借りている宿に着いた。
「じゃあ、ここで。師匠、今までありがとう」
「結局、最後まで師匠は直さなかったな」
「当たり前。いつまで経っても師匠は師匠だから」
得意げに言ってくるこいつに、デコピンをくれてやった。
「はいはい、わかりましたよ」
「あ、後一つ」
「なんだ?」
「耳を貸して」
そう言われたので、素直に貸してやる。内緒話でもすんなら、家に入れてからやりゃいいのに。そう思って聞いてると、とんでもないことを言いやがった。
「……おい、本気か?」
「うん。お願い」
「……はあ、わかったよ。お前なら信用できるしな」
「ありがとう」
そう言って、家の中へと戻っていった。とんでもないやつだったな、ほんとに。
「帰るか。俺らも」
「あ、はい!」
「うん」
帰り道は誰も一言も話さなかった。別れる、ってことを実感できてないのかもしれねえな。
無言の中、家に着く。ニーナは部屋に戻って準備をしてくるそうだが、そんなに準備という準備はないだろうに。
「ねえ、レオン様?」
「なんだ?」
「やっぱり、私もついていっちゃダメかな?」
「……駄目だ」
少し詰まったが、首を振った。
「どうして?」
「前にも言ったろ。お前を連れてく、ってことは困ってるやつがいたら行く先々でそいつらも助けなきゃいけねえ。そんなのは無理なんだよ」
「……そっか」
「それに……お前だってもう住みにくいわけじゃねえだろ?ここは」
あの事件でこいつの評判もかなり上がった。今じゃ差別するやつなんていないはずだ。落ち込んだような顔を見て、悪いとは思うのだが。
「うん……そう、だね………」
「ああ」
「それじゃ……元気でね?」
※ ※ ※
「もう出発ですか………」
「ああ。忘れものとかはないか?」
「ないですよ!私をなんだと思ってるんですか!?」
「手のかかる妹?」
「うー、否定できないのが悔しいです………」
「ま、なんかあれば何とかしてやるさ」
腰にポーチを提げて、門へと向かう。荷物はこれだけ?と思うだろうが、これはアイテムボックスになっている。ファンタジーにありがちなあれである。だから、見た目よりもずっと多くのものを収納できるし、実際に入れている。
「師匠!」
「だから師匠って呼ぶなって……ん?」
違和感を感じて後ろを振り返ると、そこにはやたら多くの人がいた。勿論、アレックス含めた弟子たちもだ。
「……どういうことだ?」
「驚きましたか?」
「ああ、そりゃあな。お前の仕業かよ、カイ」
「見送りの一つもないと寂しいでしょうから。声をかけたらこうなりました」
「……お前も驚いてんの?」
「ええ。こんなに集まるとまでは思っていませんでした………」
カイの引きつった笑みを見て、ああ、こいつも苦労してんなと思った。いつの間にか株が上がっていたらしい。無頓着だったから気付かなかったよ……集まったやつらを見て、そう思う。
「師匠……今まで、ありがとうございました!」
「「「「「ありがとうございました!」」」」」
うわ、すげえ音量。近所迷惑……なわけでもないのか。結構な音量に顔をしかめる。
「最後までうるせえな………」
「ちょっと!?レオン君、何を言ってるんですか!」
「うるせえもんはうるせえしなあ……当たり前じゃあるだろ」
「せっかく見送りに来てくれたんだからそれはないですよ!」
「ま、もう行くわ」
なるべく、感情を抑えてそう言う。背を向けて、馬車へと乗り込んだ。
「レオン君!?」
「せいぜい次会うときにゃもっとましになっとけよ?」
「え?」
一度だけ振り返って、そう言い残した。それが精一杯の礼。真っ正面から礼を言うのは、なんか気恥ずかしいしな。
「……!はい!」
アレックスの返事で伝わったことがわかる。わかったようで何より。さて、行くかね。馬車が揺れて、動き始めたことがわかる。
(そういや、あん中にはアカネいなかったな。やっぱり、か……)
次話で2章は終わりです。……結構長かったなあ。




