休息
「うーむ………」
「どうかしたのですか、マスター?」
魔族が襲撃してきた日を無事に乗り切り、一週間。冒険者たちは相も変わらず、依頼を受けるためにギルドに寄っている。今は襲撃の際に壊れた建物の修復を手伝う、といった依頼が多い。また、本当に安全になったのか?ということを知るために探索の依頼も多いし、護衛の依頼だって多い。そんなときに悩んでいるこの人を見かけたものだから、つい声をかけてしまった。
筋骨隆々で、年による衰えを全く感じさせない。これで40だろうか?と思うこともあるのだが、髪の毛の薄さがそれを証明している。まあ、本人は気にしているようだから、口にはしないが。
「いや、あのレオンってやつがいただろ?」
「ええ。それが何か?」
「あいつに何か報酬が欲しいか、聞いてみたんだよ。今回の件での一番の功労者だろ、あいつは」
「そうですね、恐らく彼がいなければ、この街は滅んでいたかもしれません」
ギルドマスターの言葉に頷く。恐ろしい事件だった。魔族が人間に化けたり、ましてやスキルを持っていることなど誰も知らなかった。そして、襲来したという魔王。レオンがいなければ冗談抜きでこの街は滅び、この街の住人は全員死んでいただろう。この件をもとに、魔族に対してもっと知るべきではないかという意見も出ている。私もちょっとした資料を作り、資料室に置いたくらいだ。
「あいつ、なんて答えたと思う?」
「さあ……?何だったのですか?」
首をひねる。まあ、彼のことだから、そんな大したものではないと思うのだが。絶対に俺をたたえてくれ、とか言わないだろう。ギルドマスターは呆れながらこう言った。
「……ここにいる間の食費を俺らギルドが持ってくれ、だと。後は指名依頼はしばらくやめてくれだそうだ」
「え?それだけですか?」
「それだけなんだよ。食事も高いとこに行くかと思えばそうでもねえ。普段何してんのか昨日見に行きゃあ、寝てるときた。何なんだろうな、あいつは?」
「そうですね、たぶんですが……」
めんどくさがりやなのだろう。恐らくその条件を出してきたのは、だらだらと過ごしたいからに決まっている。ある意味欲がないとも言えるのだが。彼を思い出して、少し笑ってしまった。
(さてはて、今はどこで何をしていることやら?)
※ ※ ※
「……師匠。これは?」
「これは、って見りゃわかるだろ。釣り竿だ。てか、いい加減師匠はやめろ」
「無理」
「……早い切り返しをどうも。ここ最近は動き回ってたわけだし。いいだろ、別に。趣味に走ったってよ」
「……意外。師匠なら訓練とかしていそうなのに」
「俺は別に、好き好んで戦ってるわけじゃねえしなあ。戦わねえときは基本だれてたいんだよ」
「釣りねえ……楽しいの、これ?」
「じっとできないお前にゃ暇だろうな」
「ええー!?じゃ、他のにしよーよー!」
「やだ」
「早いよ!ちょっとは考えようよ!」
「ニーナやんの?」
「あ、はい!今日こそは何か釣りますからね!」
「無視!?あたしは無視なの!?」
「あ、レオン様?私も貰っていい?」
「別に構わねえけど……できんの、お前?」
「まあ、自給自足っぽくなってたからねえ……素人よりはまし程度かな?」
「ふーん?ま、ほいこれ」
「え?今どこから出したの?」
「いいだろ、別に。細かいことは気にすんなよ」
「細かくないよ!?大事だよ!?」
「あー、はいはい。シルフィ、アカネなら構ってくれるみたいだぞ?」
「え、ほんと!じゃあ話そ話そ!」
「え、ちょっと、レオン様!?私にシルフィちゃん押し付けたの!?」
「師匠。釣りってどうするの?」
「ん?お前そんなことも知らねえのか?」
「ちょっ!?レオン様!?私は無視なの!?」
「ほらほらー!同じ無視された者同士、仲良くしようよー?」
「そうですよ?無視されてるみたいですし、シルフィちゃんとお話してみたらどうですか?」
「ニーナちゃんひどくない!?でもほら!レオン様がエレナちゃんにばっかり構ってるじゃん!」
「はっ!そうです!駄目ですよ!」
「そうだよ、レオン様!」
「ねー、あたしにも構ってよー!」
「……なんでこんなにかまってちゃんがいっぱいいるんだよ?めんどくせえ………」
「ひどいです!レオン君がちゃんと対応しないからじゃないですか!」
「そうだよ!ちゃんと反応してくれれば私だって普通にしてるよ!」
「そーだそーだー!」
「……なんで休みのはずなのにこんな疲れるんだろうな」
※ ※ ※
「魚かー、なんだろねこれ?食べれるのかなー?」
「一応商品に出てたし、食べれるか確認もしといたから食えんだろ」
「え?聞いてたんですか?でも………」
「ああ、まともに話聞くのかってことか?なんかギルドマスターが話通したらしくて、普通に聞いてくれたが」
「え、そうなの!?」
「そうだぞ?今なら普通に、お前の話も聞いてくれるんじゃねえの?」
「そっか。頑張った甲斐はあったのかな?」
「知るか、んなもん」
「でもさー、あの人どちらかっていうと趣味合ったから話聞いてくれたっぽくない?」
「そだな。あそこまで話が通じるとは思ってもなかった」
「え……私大丈夫かな?」
「大丈夫だろ。そんだけ釣ってたし。上手かったじゃねえか」
「いやあ、それだけ釣ったレオン様に言われてもねえ……よくニーナちゃんが落ち込んでないな、って思うよ」
「私は前より釣れましたから!それにこれから上手くなればいいんです!上手になるためには、レオン君に教えてもらうことが一番ですし!」
「ニーナ。動機が不純」
「そ、そんなことはないですよ?」
「目が泳いでる。私も師匠に教えてもらうけど」
「エレナさんだって動機が不純じゃないですか!」
「すぐに喧嘩するなあ、こいつら。もう少し仲良くできねえのか?」
「レオンって鈍感なとこあるよねー」
「あんだと?」
「だって事実だし!戦闘マシーンよかいいじゃん!」
「それ言ってたらぶっ飛ばしてた」
「うわ、ひどい!?」
「賑やかになったね」
「ほんとにな」




