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元死神は異世界を旅行中  作者: 佐藤優馬
第2章 大都市騒動編
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終息

 「なんだ、お前は……?」

 「な、なんでこんなやつがここにいるわけ………?」


 俺とあの上級魔族の攻撃を止めたのはたった一人の女の子だった。大体10歳くらいではないだろうか?銀色の髪が風になびいている。華奢な体格で思わず守りたくなるくらいだろう。顔だちも非常に可愛らしい。だが、だ。


 「れ、レオン君?その子がどうかしたんですか?」

 「……ニーナ」

 「は、はい?どうしたんですか?」

 「今すぐここから逃げろ。こいつはやばい」

 「えっ!?」


 少女から目を離さずに、そう告げた。外見だけ見れば、ただの可愛らしい幼女だろう。さして気にも留めないくらいに違いない。けれど、何故か目の前のこいつからは危険を感じる。こいつはやばい、すぐに逃げろ。全身の細胞がそう警鐘を鳴らしているのだ。


 『シルフィ。こいつはどんだけやばい?』

 『……滅茶苦茶やばい。女の上級魔族いたでしょ?あれより遥かにやばいやつだよ』

 『おいおい、勘弁してくれよ………』


 こいつの声からして、本当にやばいのがわかる。なんだって、こう不幸ってのは俺ばっかに降りかかってくんだ。幻想を殺すもんを持っている人の気持ちがわかるってもんだ。冷や汗が背中を流れ落ちる。


 「ほう、妾の実力に気付くか。そして精霊との契約。なかなか面白い子供じゃのう。ヴィルナの報告は正しかったわけじゃな」

 「……実年齢はともかく、てめえも見た目は子供じゃねえか」


 そう皮肉を返すくらいしかできそうにない。それほどまでに余裕がないのだ。皮肉を返すだけ、まだ余裕があるとも言えるが。


 「ふむ?何故そう思う?」

 「……ただのガキがこんなに力を持っているとは思えない。舌足らずなわけでもねえ。あとは勘だ」

 「面白いのう。実に面白い。のう、ヴィルナ?」

 「はい、そうですわね」


 さらには、あの女魔族まで来ている。即発砲できる体勢になる。


 「お主が気にいるのもわかるところじゃ。そこの主。名を何といったかの?」

 「……レオンだが」

 「そうかそうか。レオンと申すのか。どうじゃ?妾のものにならんかの?」

 「は……?」


 言葉に詰まる。こいつもか?つーか、ヴィルナってあの女の方の上級魔族だったのかよ。少し考えたが、即座に首を振った。


 「断る」

 「それがお主の答えか?この街程度、妾の手にかかれば一瞬で消せるぞ?」

 「だろうな。それが嘘じゃないってのもわかるさ。けどな、俺がお前のものになったから、街を見逃すのか?」


 それが疑問だった。案の定だが、こう返してくる。


 「それはどうじゃろうなあ?気分次第かの?」

 「その可能性があるからなしだ。それにそもそもだが……あんたはそんなこと望んじゃいねえだろ?」

 「どういうことかの?」


 少女は首を傾げているが、俺としては確信があった。


 「あんたは興味があるから、俺に目を付けたんじゃねえのか?なら、簡単に従ったら興味を失うだろうよ」

 「……本当に面白い子供じゃのう」


 やつの目の色が変わった。今まではちょっとした興味だったようだが、あれは本気で俺を狙ってる。………なんか貞操の危機を感じる。


 「大体、お前は何なんだ?他の魔族とは明らかに違うだろ」

 「そうじゃのう、お主は面白いからそれくらいには答えてやろう。妾は魔王じゃよ」

 「……魔王は死んだはずだろ?勇者が倒したかなんかで」


 そう思ったが、違うらしい。少女は首を振り、その言葉を否定した。


 「まあの。あやつは好戦的だったらしいからのう」


 ん?つまり……その言葉を元に推測を立てる。


 「……魔王は上級魔族よりも上。複数人いる、ってことか?」

 「そういうことじゃ。頭の回転もいいようじゃな。一つ補足すれば、誰でも魔王は名乗れはするぞ?」

 「力のねえやつは勝手に死んでいく、か?正しくは周りに殺される、かもしれねえが」

 「そうじゃの。その認識で間違いないの」

 「お前は人間をそこまで殺したがってるわけじゃねえのか?」


 ふと、そう思った。少女はなぜか笑った。俺と言葉を交わすのが面白い、というように。


 「何故そう思う?」

 「そうなら、そっちの上級魔族みたいに話聞こうともしねえだろ」

 

 そう言って、男の方の上級魔族を指さす。マナーが悪いが、まああいつなら構わんだろ。推測は当たっていたようで、少女は頷く。


 「それもまた当たり、じゃ。妾はもとから、そこまでこの侵攻に乗り気ではなかったしのう」

 「そうかよ。ならとっとと帰ってくれ。これじゃ大したことはできねえだろ?」

 「そうかの?妾がいればどうとでもなるぞ?」

 「……俺がついていけば帰るか?」


 そう提案してみる。もしかすると、これならいけるかもしれない。やつは俺に興味があるみたいだしな。少女は考え込むような仕草をした。


 「そうじゃのう、それは……」

 「れ、レオン君!そんなの駄目です!」

 「そ、そうだよ!そんなの絶対に駄目!」

 「師匠、そんなの許さない」


 ……あいつらは何言ってんだ?俺はこめかみを抑えて、なんか言ってやろうと口を開き………


 「やめとくかの。今回はこれで帰ってやろう」

 「ああ?いいのかよ?」

 「どうせお主は隙あらば、寝首でもかこうとしてくるじゃろう?なら、連れ帰っても意味がないじゃろうて」

 

 チッ、ばれたか。飛びついてくるかと思ったが、そこまで馬鹿じゃないらしい。あらかさまに舌打ちをしておく。


 「まあ、また会えることを祈っておるよ。そのときまで死んでくれるなよ?」

 「……こっちは二度と会いたかねえよ」


 最後の最後まで皮肉を返しておいた。それが今俺にできる精一杯の仕返しだった。

 やつが指を鳴らすと、黒い穴のようなものが現れた。たぶん門みたいなものなのだろう。


 「ほれ、帰るぞ。収穫はあったしの」


 こちらを見てそう言う。収穫って俺かよ?それでいいのか?


 「……次に会ったときもこうなるとは思うなよ」


 そう吐き捨てて、男の魔族が黒い穴の向こう側へと消えていく。知るかそんなこと。


 「じゃあね、レオンちゃん?また会いましょう?」

 「二度と会うか、ボケ」


 そう悪態をついて、女魔族が消えるのを見送る。その後も魔族が次々と消えていく。残ったのはあの魔王だけだった。


 「気が向いたら妾のところに来るとよい。妾の名を呼べば来れるぞ?」

 「向かねえよ、何言ってんだ」

 「つれないのう。そんな様子では女から嫌われるぞ?」

 「知るか」

 「まあ、よい。じゃあの」


 そう言って、やつは背を向け……


 「なっ……!?」


 一瞬で俺の目の前に移動してきた。銃を構えようとするも、この距離では間に合わない。


 「油断せずともこうなることとてある。気を付けるのじゃな」


 そう言って、その唇を押し付けてきた。軽くではあったが、間違えることのない感触。レオンとしての人生どころか、転生する前にも経験したことのない出来事に戸惑ってしまう。そのままやつは俺の耳へと口を近づけ……


 「妾の名はトーラじゃ。お主がどうなるか……見物じゃのう、同族となりうるものよ?」

 「………?おい、それはどういう…………」

 「知りたくば妾を訪ねるがよい。ではさらばじゃ」


 そして黒い穴の向こうへと消えていった。最後まで無茶苦茶なやつだったな……


 (にしても、同属となりうる……?どういう意味だ?)


 あいつ、絶対に狙ってやってるだろ。あいつを訪ねるしかなくなったのだから。ため息を一つつく。


 (まあ、今は……あっちだな)


 俺が後ろを振り返ると、そこには………


 「ちょっとレオン君!なんであの子とキスしてたんですか!」

 「そうだよ!ずるいよ!私にもして!」

 「アカネ、黙って。うっとうしい」


 当面の危機は去ったことだし、あいつらの誤解を解いとかねえと、面倒なことになりそうだ。一難去ってまた一難、その言葉が頭をかすめ、ため息をつきながらニーナたちのもとに向かうのだった。

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