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元死神は異世界を旅行中  作者: 佐藤優馬
第2章 大都市騒動編
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戦線崩壊

 「にしても、本当にこれで何とかなっちまうなんてなあ……あの人の頭ん中、一遍覗いてみたいもんだぜ………」

 「あんた、本当に興味あんの?」

 「うんにゃ?全然だわ」

 「なら言わなくてもいいじゃない」

 「あれ?何?俺嫉妬されてる?」

 「寝言は寝て言いなさい」

 「ひでえ!?」

 「おいおい、気を抜くな。いくら師匠の策がここまではまったからと言って、油断していいわけじゃないだろう。それに話によると、これはまだ第一段階らしいしな」

 「アレックスのいうことが正しい。気を抜きすぎ」

 「へーい。集中しますよっと」


 今日もロスティーはふざけているらしい。ロスティーとファナを見ながらそう思った。まあ、いつものことだからいいけど。変にガチガチで、失敗するよりはましだ。

 師匠は凄い人だ。私たちだけだったら、今この瞬間生きていることはできなかったと思う。それを師匠に言うと、恐らく『そうかあ?普通だろ?つーか、師匠はやめろ。気持ち悪い』と返してきそうだが。その光景を容易く想像できて、少しだけ微笑む。


 「にしても、銃にこんな使い方があるなんて……よく思いついたものよね」

 「ああ、単発だからこそ使いにくいと思っていたんだがな……」


 ファナとアレックスがそんな会話を交わしているが、私だってそう思う。私たちは今、急造された柵の内側から銃を使って魔物の群れを迎え撃っている。向こうは全く攻撃できないのに対し、私たちの方は攻撃が面白いように当たっていく。その原理は師匠がこう説明してくれた。


※               ※               ※

 「まず、お前らには柵を作ってもらう」

 「柵だあ?ふざけてんのか!そんなもんで魔物の群れを抑えられるとでも思ってんのか!」


 賛同の声があちこちで上がる。静かにしてほしい。師匠が話しているのに。そう思っていると、師匠は苦笑した。


 「抑える必要はねえよ。要はそれが(かなめ)だと思わせることが大事なんだからな」

 「どういうことだ?」

 

 偵察に付いてきた人がそう問いかける。名前は忘れた。


 「んー、そうだな。今回は銃を使って戦いを進めようと思ってる。とりあえず、全員分の銃は確保しておいてやるから柵作ってくれ。話はそれからだ」


 そう言われて、皆作業に取り掛かる。嫌そうではあったけど、ギルドマスターからの指示だし仕方ないと思ってやってるらしい。さほど時間はかからずに終わる。それはお粗末なものだったから。


 「おー、できたな。これでいいや」


 出来上がったのはどう見てもお粗末としか言えない柵。これじゃあゴブリンでさえも止められそうもないのだけれど……どんな考えがあるのだろう?うんうんと頷く師匠を見て、そう思った。


 「今お前らの頭の中には、これで大丈夫なのか?って疑問が渦巻いてんだろう。だが、さっきも言った通り、これは攻撃を防ぐもんじゃない。だから、ある程度はお粗末な外見でいいのさ。向こうがこれで守れる、と誤解してくれた方が都合がいいしな」

 「つまり張りぼてのようなものだと?」

 「そんなとこ。で、銃を使って進めていくって言ったが……この銃が使えないのはなんでだと思う?」

 「それは……持ち歩くのが不便だし、一発しか使えないし………」

 「命中もしにくいしな……」


 師匠の問いかけに対して、出るのは否定的な意見ばかり。師匠には悪いけれど、私だってそう思う。それなら、魔法を使った方がよっぽど効率がいいはず。師匠はそんな意見に肩をすくめてみせた。


 「ま、そういうだろうと思ってた。普通はそんな認識だろうからな。恐らく、向こうだってそれを見ればそう思うだろうさ」

 「なら、何故銃を使う?」

 「簡単なことだ。この銃は個人よりも集団で使う方が効果があんのさ」


※               ※               ※

 私たちがやっているのはそこまで複雑なことじゃない。まずは横一列に並ぶ。それに続き、横一列の集団が3列できるようにする。そして1列目の人が銃を撃ったら、後ろの列と交代する。後ろの列の人は銃弾を込めて、火をつけるということをしている。そのため、次に銃が撃たれるまでの間隔が非常に少ない。命中しにくい、といった弱点も横一列に並び、一斉射撃をすることで広い範囲を攻撃できる。これなら命中精度が低いところであまり関係ない。持ち歩きの問題にしたって、これが終われば使わないのだから頭を悩ませない。そして何より消耗が少ない。無理に接近戦をしないから、こちらのけが人はいない。また、魔法主体で戦う人も魔力の消耗がないのだ。


 「お、おい……俺ら戦えてねえか?」

 「あんなにいた魔物が……生き残れるのか、俺たち?」

 「目の前のことに集中しろ!本番はここからだぞ!」


 その言葉とともに、射撃の嵐から抜け出してきたオークがいた。普通ならここで慌てるのだろう。私たちを守っているのは柵だけ。………そう思うから。


 「ピギッ!?」


 そのオークは柵を壊そうと手を伸ばし……視界から消えた。


※               ※               ※

 「なるほど、理解はできた。だが、抜けてくる個体がいたらどうする?いないとは限らないだろう?」

 「それもそうだ。というか、普通に抜けてくるだろうさ」

 「ならどうする?」

 「そこでもう一仕事だ。柵の前に穴を掘る」

 「穴を掘ることで近寄れないようにする、と?」

 「いや、落とし穴にする。落ちたやつには洗礼(、、)をしてやるさ」


※               ※               ※

 「落ちたぞ!今だ!やれ!」

 「「「おう!」」」


 体格のいい人たちが樽を持ち出し、落ちた穴に中に入っているものを流し込む。樽の中に入っているもの。それはお酒なのだそうだ。師匠の話によるとお酒で人が酔うのはアルコール、という成分があるからだそうだ。その成分が高ければ高いほど、人を酔わせる力が強くなるそうなのだ。そしてこのアルコールはよく燃える。もしアルコール度数が高いものに火を付ければ……


 「火を付けろー!」


 その号令とともに火を投げ入れる。恐らく、あの穴の中にいるオークは死んでしまうだろう。そしてこれはもう一つの作用も引き起こす。それは……


 「よし、撃ち方始め!」


 右往左往している魔物たちは、また銃弾に撃ち抜かれる。あの落とし穴には混乱させる効果もあった。そのままでいれば銃弾に貫かれて死ぬ。かと言って進んできたとしても、落とし穴にはまり、もがいてるところを焼き殺される。結果、魔物たちは混乱状態に陥ることになる。


 (師匠は大したことない、って言うけど……普通はこんなこと誰も思いつかない)


 門を開けておくのだって考えの一つだと言っていた。もし門を開けずに立て籠もった場合、魔物たちは壁や門を壊そうと躍起になるだろう。強度がどこも同じなら一気に倒壊し、大量の魔物がなだれ込んでくる。そうなったら私たちに勝ち目などない。

 けれど、門が開いていればわざわざ壊す手間もないのだから、そちらから入ろうとするだろう。特に相手が功を挙げようと焦っていればいるほどに、門から入ることにこだわるはずだ。結果、魔物は門のある部分にだけ気を付ければいい。ということになる。


 「こうも面白いように策にはまってくれると安心するな」

 「そうね。こっちの士気も高いし、このままなら……」


 そんな風に気が緩んでいたからなのだろう。遂にそれ(、、)が現れてしまった。私たちに絶望を与える象徴。空を見上げると、黒い点が現れる。それはだんだんと大きくなっていき、その輪郭があらわになる。


 「ま、魔族だあぁぁぁぁぁ!」

 「逃げろおぉぉぉぉ!」


 その影を見て、みんなが銃を捨て、我先にと逃げだす。必死に街の奥へ、奥へと。


 「待って!今逃げ出せば戦線が!」


 ファナがそう言うが、聞く耳を持つ人などいない。その様子を見て魔物たちは歓喜し、こちらに攻め込んでくる。せっかくここまで倒したのに……


 「ファナ、行こう。もうここは駄目だから」

 「うん、わかってるけど……本当に大丈夫なの?」

 「大丈夫。師匠を信じて」

 「……ああ、一気に納得できたわ」


 私たちも逃げ始める。たった4人であの群れに勝つことなどできない。今ならそれが痛いほどにわかるから。


 (でも、師匠なら何とかしてくれる。それは間違いない)


 私たちを助けてくれたあの日のことを思い出しながら、そう思った。


※               ※               ※

 私は魔法の才能があった。二つの適正属性を持つだけじゃなく、魔力だってもともと多い方だった。でもとある理由(、、、、、)で家を飛び出し、冒険者となった。それまで自分の思い通りになってたし、これからもそうなると思っていたから。冒険者になってからも、思い通りに物事を進めることができた。それが誇らしくもあったし、当たり前のことだとも思っていた。


 ゴブリン退治に誘われたのはそんなときだった。面倒だとは思ったけれど、自分の魔法の威力を知りたかったし、見せつけてもやりたかった。そういった理由で引き受けたのだった。

 初めてニーナを見たときには、むかつく印象しかしなかった。自信はなさげだし、いつも一緒にいる師匠に隠れるようにしている。はっきり言って目障りだった。師匠だって偉そうだし、わけがわからないから嫌いだった。でも……


 「あ、ああ、ああぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 ゴブリンに矢を放たれて怪我をしたとき、痛くて何も考えられなくなった。はっきりとわかったのは自分がいかに甘い考えだったのかということだった。痛みと恐怖で涙を流していると、不意に体が軽くなる。ぼんやりと意識が残った状態で聞こえたのはあの人の声だった。

 私たちを見捨てる。そう言っているはずなのに、どこか苦しそうな雰囲気を持ったその人の声に耳を傾ける。結局助ける、ということになってからのその人の声は、どこか吹っ切れたように弾んでいた気がする。


 (師匠は優しい人。なんだかんだ言っても、結局見捨てられないんだから)


 アレックスのときだってそうだった。知らないと無視してもいいのに、無視せず気を払い続けていた。そして私たちを教えるときだって、厳しくはあっても、怪我をしないように気を付けて教えている。武器を使わないのはそういった理由もある気がする。勿論実力差があり過ぎる、というのもあるのだろうけど。

 私たちを助けてくれたことがきっかけで気になり始めて、そして、接するたびにその気持ちは大きくなっていった。きっと私は師匠のことを……

 

 (だから、ニーナには負けない。アカネにも)


 そんなことを考えながら、必死に足を動かすのだった。

久々に次の日までに投稿できた気がする……

にしても、2章長い……と思っている方。もうそろそろクライマックスなので、付き合っていただけると幸いです。

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