《死神》誕生
それから何年経っただろう。髭が生えていたから20歳くらいか。師匠とは別々に行動するようになった。ただただ、一緒にいたくなかった。だが、今さら何でも屋を辞めることはできなかった。その頃には、もう4桁を超える数の人を殺していた。転生する前はうるさいくらいに笑い上戸だなと家族から言われていた俺は、笑顔という概念すら忘れていた。もう心が死んでいたのだ。依頼主たちは《カラス》を超える腕を持った俺をこう呼んだ。《死神》と。
30歳くらいになったとき、師匠が唐突に死んだ。仕事に失敗したらしい。まあ、もう老人だったので仕方がないと言ったら仕方がないが。師匠が死んでも特に何も思わなかった。いや、もう何の感情も残っていなかった。ただ、命を助けられたのは事実なので、墓は作った。とは言っても、死体は帰ってこなかった。師匠の話によると、何でも屋は代々死体が帰って来ることはないのだとか。師匠の先代は火事によって遺体が焼失したそうだ。超高温で焼かれたため、骨すら残らなかったとか。師匠の死因だが、敵もろとも自爆したそうだった。高性能な爆弾を使ったから、これもまた何も残らなかった。墓は師匠が残したものを穴に埋めておいた。墓石に何を書き込もうか悩んだが、
「何でも屋《カラス》ここに眠る」
とだけ書いた。
そして、俺も老人になった。60くらいだったと思う。俺の殺した人数は数えるのも阿呆らしい数に上った。でも、6桁はいってた気がする。相も変わらず、依頼達成率は100%だった。師匠からは何でも屋を継ぐやつを探せと言われたが、何でも屋は俺の代で辞めるつもりだった。それだけは決して超えてはいけない一線だと思っていた。
そんな中、一つの依頼が舞い込んできた。とある人物を殺せという依頼。護衛もかなりいるようで、正直ジジイが受ける依頼じゃないだろと思ったが受けた。
護衛たちを奇襲で皆殺しにし、ターゲットもあっさり殺せた。もう帰るかと油断した時だった。不意に爆発音がし、俺は爆風に巻き込まれた。一瞬気を失ったがすぐに意識は回復する。ここで気絶しているようなら、今まで生きてこれていない。だが、手遅れだった。下半身は千切れ、外に出れても力尽きて死ぬだろう。そういえば、おかしいと思っていた。ターゲットはなぜか椅子に縛られ、建物の脱出口から一番遠いところにいた。おそらく、俺の力を恐れたやつらがこの作戦を立てたのだろう。気付かなかった俺が間抜けだったようだ。少し前までだったら気付いてただろうに………
(いや、違うか)
そう、本当は違った。依頼を受けたときから妙に胸騒ぎがした。あのとき、依頼を受けなくてもよかった。本能的にはこの陰謀を悟っていたのだろう。金は十分持ってたし、今すぐ食糧を欲しているということもなかった。受けなくてもいい依頼だったのだ。だが受けたということは、誰かに止めて欲しかったと無意識のうちに思っていたのかもしれない。自分ではもう止められなかったから。そして、俺は二度目の死を受け入れた。
※ ※ ※
男性に運ばれ、俺は森を出ることができた。彼は大きな建物の中に入っていく。そこには、多くの子供たちがいた。子供たちは口々にしゃべってきたが、連れてきた男は困った顔をしていた。そりゃ、聖徳太子じゃないんだから全部聞き取れるわきゃない。まあ様子から察するにここは孤児院で、連れてきてくれた男はここの院長なのだろう。たぶんその院長であろう人が
「fknxmpn。csdkqomws」
という。うん、相変わらず何言ってるかわからん。当面の目標は会話が理解できるようになることのようだ。まずはそこからだな。