バトルラッシュ
「にしても、嫌な予感ってのはよく当たるもんだよな」
「……何を意味のわからないことを言っている?」
静かにぼやく。まさか、ヘカルトンに来る前に思っていたバトルラッシュが現実になるとはなあ……嫌な方の予感だけは当たるんだから、やってられないと思うよ。しかも、他人にフラグを建てられるとか………どこの某5三つさんだよ?あまり覚えちゃいないけど。ちなみに変身音が好きだった。
と、まあ回想するのは置いといてだ。目の前の魔族たちに意識を戻す。足音が増えていたのは1や2だけではなかった。俺の周りには魔族が十数体ほどいて、しかもそれを倒せたとしても周りにいるのは魔物の群れ。バトルラッシュからは逃げられない、ということだ。
『どーする?あれ使う?』
『いや、どこかで監視しているやつがいないとも限らん。あの魔物の群れの中とかな。だからぎりぎりまで伏せておきたい』
『なるほどー、りょーかい!』
『まあ、危なくなったら使うさ。こんなところで死んでやるつもりもねえしな』
『おー、強気だねえ?』
『まあな』
シルフィとの作戦立てはそこで打ち切る。後はニーナたちがどれだけ早く戻ってくれるかだが……そこはニーナがあれを渡した意味に気付くかどうかだな。気付いてほしいものだが。
そんなことを考えながらも、体は勝手に動く。ここんところ戦い続きだったから、嫌でも前世の感覚を取り戻してしまった。それでも、今の俺にはそばにいてくれるやつらがいる。そいつらのためになら戦えるさ。
「……ん?なんだ?」
「どうしたんですか?」
どうやら中級魔族が俺の変化に気付いたようだ。へえ、気付いたのか。ま、俺には関係ないか。いつも通りやるだけだ。考えるのはめんどいし、後は流れに身を任せるだけって感じかね?
《通常形態》から《戦闘形態》になり、向こうの出方を見る……
(と思わせて、っと)
本人からすれば、ほんの少しだったのだろう。その少しの気の緩みを狙い、下級魔族のうちの一体の頭部に向けて発砲。死んだかどうかの確認などはしない。なぜなら……
『うん、生命反応は消えてるよー』
『わかった、引き続き頼む』
『りょーかーい!』
シルフィとの会話を打ち切る。シルフィがいれば、いちいち確認する必要もないからだ。生命力(本人が言うにはそうらしい。人ではないから『本人』という表現には語弊があるのかもしれないが)のあるなしで判別することが可能なシルフィの前では、死んだふりも意味をなさないのである。某ハンティングゲームに登場する、死んだふりが得意なモンスターも涙目の能力である。ちなみに、俺はやったことがない。2じゃない、3から始めたからな。あ、勿論携帯ゲーム機のやつだ。Gにはトラウマが……グラb、おっと、これ以上は規制がかかりそうだ。
戸惑っている魔族たちを気にもせず、殺したそいつを投げつける。狙うのはリーダー格のやつではなく、取り囲んでいる下級魔族。混乱していたそいつは直撃し尻餅をついた。その開いた包囲網の隙間を潜り抜け、包囲網から脱出する。ついでに尻餅をついていたそいつも駆け抜けた際にナイフを投げつけておいた。
『うん、また一つ消えた。死んじゃったんだねー』
『……あれに苦戦するのがいまいちよくわからん』
『それってレオンがレオンだからじゃない?』
『それの意味もわからん』
『ま、レオンが強すぎるんだよー』
『俺からしちゃあ、弱すぎて大丈夫なのかと思ってるがな……っと、来たか』
我に返ったらしいリーダー格が魔法を撃ってくる。つーか、魔法使えんだな。ちなみに水だった。火だったら木々に引火するし、その点じゃよかったのかもな。
「何をやっている!むざむざ逃がすな!やつを殺すのだ!」
「は、はッ!」
『遅いけどな』
『だろーねー』
もともとフル装備したときの手榴弾(あの筋肉ダルマと戦ったときに残ったやつ。結局使わなかったのだ)を取り出し、振り返りつつそれを投げつける。
『シルフィ、あれ』
『オッケー、任せて!』
……オッケーか、こいつも俺に毒されてきたなあ。しみじみと思いながら、強風で俺の身が守られたことを確認し、また逃走に戻る。
『反応は?』
『今のでやられたのが3体。追ってきているのは6体。うち弱ってるのが2体。あとはちょっと傷ついてるくらい。中級も生きてるよー』
『元からあれでやれるとは思ってないさ。あれは殺傷力が高いけど、それはとある条件下でだしな』
『そーなの?』
『そうなんだよ』
よくわかっていないらしいシルフィに、軽く説明してやった。
手榴弾には一般的にいくつかの種類に分けられる。よく聞かれるスタングレネードを始め、用途に従い使い分けるのが普通なのである。今俺が使ったものは破片手榴弾。爆発すると爆風や破片を巻き散らかし、数メートルから数十メートルの範囲内にいる人間を殺傷する。簡単に言えば爆発したときの破片で攻撃することを主体としているのだ。これは言い換えると、破片で傷つかないものに対しては大して効果はない。もしも肌が硬い相手がいた場合、ダメージは与えられないはず。わかりやすく言えばこういうことだ。割れたガラスが降ってくれば人間には凶器になるが、自動車などに降ったところでせいぜい傷がつく程度だろう。破片手榴弾も同じで、あくまで対人兵器なのだ。
あれを投げたのはただ多少は敵が減ればいいな、程度に考えていただけでそこまで期待などしちゃいない。完全に足止め目的だった。だから何体かやられたやつらがいるのに驚いてもいる。
(ほんとになんで苦戦すんのかね……?)
木々の上を、時には枝から降り地面を、そして草むらの間を。魔力強化にものを言わせ、相手を翻弄し続ける。罠も織り交ぜながらの逃走に魔族は1体、また1体と数を減らしていった。そして残ったのは……
『中級のあの1体か』
『そーだね、後は全滅しちゃったみたい』
『弱いな』
『だから、そー言えるのはレオンだけだって……あ、来るよ!』
その言葉とともに、街の方から強烈な光が放たれた。どうやらとっとと逃げてくれたらしい。ニーナにかけて正解だったか。流石6年も一緒にいただけはある。
『さてと、俺らも戻るか』
『うん。でも大丈夫なの?』
『魔族のことか?大丈夫だろ』
『へー、どうして?』
『上官を無視して手柄を挙げるようなやつは殺されそうだからな』
『あー、納得。そんなことしそうだったよねー』
『そゆこと。だから逃げても問題ねえさ』
と、話してる間にも街に向かって走っている。当たり前だ、止まってたら追いつかれるし、気付かれるかもしれんし。
『っと、着いたな。恐ろしい効果だ……』
『でしょー?』
『ま、有効に活用させてもらうさ』
魔力強化に加え、とあるもののせいで1分ほどでヘカルトンまで着いてしまった。恐ろしい速度だな。時速60kmくらい出てたんじゃねえのか?俺が帰ってきたのを確認して、ニーナがホッとしたような顔をする。
「レオン君!よかった、どこか怪我とかありませんか!?」
「ん?ニーナか。別にそんなヘマやらかしちゃいねえよ」
「よかったです……じゃあ、これで………」
「解決、とはいかなそうだな」
「え?」
門の方に目をやると最後に残った魔族、あの中級魔族が追ってきていたのだった。
「た、大変です!門を閉めないと!」
「しつこい男は嫌われるそうだぞ?実際どうかは知らんけど」
ニーナの声を無視して、魔族の方へと駆ける。怒りで我を忘れていたのだろう。あまりにもまっすぐに突っ込んでくるものだから、一本背負いを決めて頭に銃を突きつける、という動作まできれいにできてしまった。
「じゃあな。来世では俺に会わないようにしろよ?」
そんな自虐ネタとともに、引き金を引いた。こうして、散々な偵察は一人の死人も出さずに終わったのだった。魔族側には出ることになったけど。




