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元死神は異世界を旅行中  作者: 佐藤優馬
第2章 大都市騒動編
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偵察

(レオン)

 「な……これは!?」


 ピンク髪はそう言うのが精一杯だったようで、何度も目をこすっては目の前の光景を否定しようとしている。あの女の方もだ。こっちは声も出ないようだな。


 「あまり大きな声は出すなよ?向こうに気付かれる」


 小声で釘をさしておく。俺はある意味予想通りとも言えたので、そこまで驚いちゃいなかった。せいぜいが向こうの動きは速いな、程度でしかない。


 「あ、あんなにたくさん……勝てるの?」

 「あわわわわわ……れ、レオン君……」

 

 こっちの二人もあんまり使い物になりそうもねえや。相手に呑まれてるよ。驚いて、今にもパニック状態になりそうな二人を見てそう思った。


 「勝てる?あなたなら」


 エレナにそう言われた。こいつはあまり驚いても、呑まれてもいないな。ちらりとそちらを見て、もう一度魔族たちの方へと視線を戻した。


 「そうだな。真正面からぶつかりゃ、無理だろう」

 「そうなの?」


 驚いたような顔で見上げてくる。が、俺としてはその感想はいただけなかった。渋い顔でそっちを睨む。


 「お前は俺をなんだと思ってんだ?」

 「異常な戦闘能力を持った人間?」

 「疑問符を付けるんじゃねえよ……いくらなんでも、無理だっての」


 どいつもこいつも、無理言いやがって。俺は超人か何かか?そんなことを思いながら、ため息をついた。


 「真正面からじゃなければ?」

 「そうだな。ゲリラ戦に持ち込めば勝てるだろう。後は状況次第でもな」

 「げりらせん?」

 「数の上では劣っている集団が、優っている集団に勝つためによく使う戦法さ。詳しくは街に戻ってから話す。どうせ今回も使うことになりそうだからな」


 疑問符を浮かべたエレナに向かって、簡単に説明してやる。そう、あまりにも今回は準備する期間が短すぎる。まともな下準備などできやしないだろう。となると、あの街の地形をどれだけ活かせるかにかかっている。上手くいけばいいんだがな……

 

 「くっ……まさかお前の話が正しかったなんて………」

 「正しい、ってわかっただけでも十分だろ?とっとと街に戻るぞ」

 「わかった……」


 ピンク髪が悔しそうな顔をしながら、歩き始める。現実をちゃんと見てるあたり、まあまともな方なのだろう。ここで騒ぎ出しでもすれば、面倒なことになるところだった。


 (……まあ、そう簡単にはへし折れないか)


 ため息を一つこぼし、後ろを振り返る。こうやってため息ばかりついてるから幸せ、ってものが逃げていくのかもしれないけれど。俺が足を止めたのに気づいたらしく、ニーナが俺を振り返る。


 「レオン君?どうしたんですか?」

 「ニーナ、俺の手と足にエンチャントしてくれないか?」

 「え?どうしてですか?」

 「時間稼ぐためだよ。いいから早く」

 「は、はい……」


 戸惑いながらも言われた通りに、聖属性の光をエンチャントしてくれた。これで少しは楽になるだろう。ピンク髪を呼び止める。


 「おい、そこのピンク髪」

 「……俺のことか?」

 「他に誰がいんだよ?いいか、合図したら全速力で都市内まで戻れ。いいな?」

 「何故俺が命令されなければ……!」


 喚いてくるが、ここは譲れん。厳しい声で叱責する。


 「いいから言う通りにしろ。死にたいのか?それとも、お前が代わってくれるのか?俺としては楽できるからいいんだが」

 「それはどういう……?」


 怪訝そうな顔をするが、いつまでも問答をしている暇はない。ニーナたち三人の方へと、体を向ける。


 「ニーナ、アカネ、エレナ。お前らもだ。なるべく早く逃げてくれよ?」

 「ええと、あのいったいどういう……?」

 「ニーナ、ヘカルトンまで戻ったらすぐにこれを打ち上げろ。じゃないと、流石に死ぬしな。使い方はわかるだろ?」


 そう言って、あるものを手渡す。


 「え?あ、はい、わかりますけど……」

 「アカネ、エレナ。こいつのこと頼むわ」


 特にアカネをしっかりと見ながら、言い聞かせた。こいつなら気付いてくれるだろうしな。


 「どういうこと?」

 「レオン様、もしかして一人で何とかしようと……!?」

 「なわけないだろ?それは無理だっての。そうじゃなくてだな……」


 アカネの言葉を否定して、無数の木々の中の一つを注視する。そして……


 「出てこい。もう気付いてんだろ?ばれてる、ってことくらい」

 「……何故気付いた?」


 注視していた木の裏から黒い人影が現れる。見紛うことなきそれは……


 「ま、魔族!?」

 「つけられてたんだよ、ずっとな。油断したところを襲おうと思ってたんだろう」

 「その男のせいでできなかったがな……」


 魔族が憎々し気にそう毒づく。ま、こんな子供が気付いてるんだったらプライドを傷つけられるよな。俺は鼻で笑い、種明かしをしてやった。


 「簡単なからくりだよ、足音が人数分より多かった。それだけのことさ」

 「たったそれだけで気付いたとでもいうのか!?」

 「まあな」


 逆にそれで気付けなければ、俺は前世であの年まで生きちゃいないさ。内心自嘲するように呟いた。


 「ばれたからには仕方がない……ここで死んでもらう!」

 「今だ!行け!」


 そう叫び、やつに殴りかかる。やっぱりフラグはしっかりと建った上に、戦う羽目になった。本当に不幸だよ。


※               ※               ※

(ニーナ)

 「まさかこんなことだったなんて……戻って加勢した方がいいんじゃ!?」

 「馬鹿を言うな!魔族がどれだけの力を持っていると思っている!?やつは情報を持って帰ることを優先させたんだ!それに気付け!」

 「そ、そんな……なら、私だけでも!」

 「お前が行って何になる!?死体が一つ増えるだけだろうが!」

 「でも!」


 アカネさんと知らない男の人が言い争っています。アカネさんはレオン君が心配なんでしょう。男の人の方はレオン君が嫌いなのかもしれないですけど……理屈では正しいんだと思います。


 「ニーナ、どうするの?このままじゃ……」


 エレナさんも、心なしか不安そうな顔をしている気がします。表情をあまり変化させないから、少し驚いてしまいました。それでも止まることなく走り続けます。


 「一刻も早くヘカルトンに戻ります」

 「なっ……!ニーナちゃん、レオン様が心配じゃないの!?」

 「レオン君なら心配ないです。ちゃんと帰って来てくれますよ。ただ……早く帰らないと」

 「どうしてそう思うの?」

 「これを渡してくれたからです」


 見せたのは私の持った銃によく似たもの。信号拳銃というらしいです。これを撃てば信号弾、というものを発射できるそうなんです。


 「それがどうして早く戻らなければいけない理由に?」

 「だって言ってたじゃないですか。街に戻ったらすぐにこれを打ち上げろ、って」

 「……まさか」


 アカネさんも何かに気付いたような顔をします。私は頷いて、みんなに説明します。


 「たぶんですけど、レオン君は今時間稼ぎに徹してると思うんです。そしてこれを打ち上げたとき……」

 「街に向かって逃げ始めることができる、と?」

 「はい。だから急がなきゃいけないんです」

 「そういうことなら、急がないとだね。ニーナちゃん、エレナちゃん。ちょっとごめんね!」


 そう言って、アカネさんは私たちを抱え上げ走り始めます。足に風属性魔法をエンチャントしているアカネさんは、私たちが走るよりもずっと速く駆け抜けていきます。行きは10分くらいかかったのに、帰りはわずか数分で帰ることができました。


 「皆さんいますか!?」

 「はあ……はあ……ああ、こっちは二人ともいる」

 「私たちも大丈夫!」

 「だったら……!」


 皆さんがいるのを確認して、空に向け信号弾を打ち上げます。私が頑張れるのはここまで。後は……


 (無事に帰って来てください……レオン君………)

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