疑惑
「……で、それを信じろと?」
その言葉とともに、ギルドマスターが俺を睨みつける。睨みつけているのは、何もギルドマスターだけじゃない。カイを除いたすべての職員も、だ。まあ、いきなり信じてもらっても困惑するだけだがな。ギルドマスターの顔を真っ向から見返す。
「信じられないなら明日の朝にでも都市外の様子を調べさせて来いよ。それでわかんだろうさ」
「俺はな。お前が魔族と繋がってんじゃないかと思ってんだ。本当なら、拘束されててもおかしくねえんだぞ」
視線が一気に強くなる。どうやらこの街で最強、という噂も間違いではないらしい。軽く感心していると、隣でカイが焦っていた。
「なっ……それは!?」
「別に疑うのをやめろ、っつってるわけじゃない。ただ、邪魔をするなと言いたいだけだ。失敗したのなら、お前が考えているだろう怒りの矛先にでもなってやんよ」
その言葉を聞いて、ギルドマスターは驚いたような表情をする。
「……お前、本当に子供か?」
「一応な。後、生きたいと思ってるやつを貸してくれ。どうでもいいと思ってるやつはどうでもいいが」
「相変わらずズバズバと言いますね、あなたは……」
「一つ聞いておきてえことがある」
ギルドマスターが何やら聞きたそうなので、聞いてやることにする。あごをしゃくって、続きを促す。
「なんだ?」
「お前の考えてることで行けば、死人は出ねえのか?」
「ギルドマスター!?」
「相手は悪魔憑きなんですよ!?」
周りの職員たちが驚きの声を上げる。正直ビビり過ぎだろ、とも思ったが。
「てめえらは黙ってろ!住人を守るのが俺らの使命だろうが!少しでも可能性があるのなら、俺は悪魔とだって契約してやる!」
「ぶっ……」
ギルドマスターが声を上げると、何かが吹き出すような音がした。その音に反応して振り返ると、必死に笑いをこらえているカイの姿があった。
「カイ、お前なんで笑ってんだ?」
「い、いえすみません……ですが、あなたが悪魔というのは…………」
くつくつと肩を震わせている。自分で言って自分で笑ってるよ、こいつ……何が面白いんだか?
「別に珍しくもないだろ?悪魔の中には『怠惰』を司るやつもいたはずだしな」
確かベルフェゴール、とかだったか?うろ覚えだから正しいかどうかわからんけど。必死に記憶を手繰ると、カイは今度こそ堪えきれなくなったようで、大きく噴き出した。
「怠惰……に、似合い過ぎる………」
それだけ言ってもう堪えきれなくなったのか、大笑いし始めた。緊張感ねえなあ、こいつ。
ひとしきり笑って落ち着いたのか、カイはやっと口を開く。
「とりあえずギルドマスター。そこまで覚悟は要らないと思いますよ?たぶん、報酬としてほしいのは命とかではないでしょうから」
「命?なんで殺さなきゃいけねえんだよ。めんどくせえ」
「ほら。この通り面倒事が嫌いなんで」
カイの言葉を一蹴する。くだらんことに時間を割いてる暇はねえ。話を続けるか。ギルドマスターの方に向き直る。
「話戻すぞ。被害のことだが、出ないとは言えん。とある前提の上で成り立っているからな」
「前提、だと?」
「ああ。まず第一に、飛ぶことができる魔物が多すぎないこと。流石に、上から入ってくるやつは全滅させるのに時間がかかる。せめて100以下に抑えて欲しいところだな」
指を一本立てる。まあ、そもそもそんなだったら、逃げてもすぐに追いつかれるかもしれないけど。流石にどうしようもない。そう考えていると、ギルドマスターは変な顔をした。
「ん?」
「次に、上級魔族があの2体だけであること。もしくはいたとしても、男の方と同レベルであることが条件だ。女の方と同じやつがごろごろいたら流石に勝てん」
二本目の指を立てる。魔族が複数体いたしな……いないとは限らない。男の方だったら、隙を突けばどうにでもなるが。今度はギルドマスターが硬直した。どうしたんだ?そんなことを思いながら、無視して続ける。
「んん?」
「そしてこれが最も重要だが、これから人の出入りを行わないこと。かつ住民を混乱状態にせず、どこかで守らせること。また変身系スキルで紛れ込まれたら厄介だ。それに、住民がパニック状態に陥れば、死人が出るのは回避しようもない」
三つ目の指を立てた。敵に気を付けつつ、味方も警戒しなきゃいけないとかどんなハードモードだ。周りが全部敵のバトルロワイヤルかよ?その状況を想像して、渋い顔をしていると、声が掛かった。
「……よし、待て。一回待て」
「なんだ?」
「そもそも魔族があんなにいる事が問題なんじゃないのか?」
「あの程度なら軽くあしらえる。女の方は注意深そうだし、どうだかわからんが……だとしても男の方さえ倒せば問題なさそうだしな」
そう答える。もう一度思い返すが、まったく問題ない。ギルドマスターは呆気にとられたような顔をしている。勿論、他の職員たちもだ。
「そ、その根拠は?」
「男の方はパワー馬鹿だ。力技でどうこうしよう、ってタイプだろう。なら搦め手を使えば勝てるし、全力でアレならさほど強くもない」
「つ、強くない!?」
もはやこぼれ落ちそうなくらいに目を見開いているギルドマスターを横目に、脳内でやつと手合わせをしてみた。スキルを使われればどうかわからんが、やはり身体能力だけなら勝てる。そう判断できた。
「女の方はわからんが……あの男の方を嫌っている感じだった。だから、同時に攻めてきたりはしないはず。それに最悪、俺を差し出しゃ何とかなる可能性だってある」
「……もうお前のことがよくわからん」
「別に知ってもらいたいとも思わん。で、どうするんだ?」
ギルドマスターは黙り込み、目を閉じる。どうすればいいのか考えているのだろう。そこまで考える必要もないと思うけどな。難しいことを言ってるつもりはねえし。
「明朝、都市外の様子を確認する。それで決める」
「それがあんたの答えか?」
「ああ。もしてめえのことが正しいのなら、その考えに乗ってやる。間違っていれば俺の考えでいく。それで異論はねえな?」
その答えに満足する。ちゃんと確認して行うのなら、別に反対する理由もないのだ。軽々しく行動される方がよっぽど怖いしな。ギルドマスターには頷いておく。
「構わん。もし間違っていたら、意味のないことだしな」
「よし、今から言うやつに緊急依頼を伝えてこい!拒否権はないこともな!」
「「「「「はい!」」」」」
指示が出始める。職員たちがてきぱきと動くさまを見て、無能なわけじゃないとわかった。助かったよ。怖いのは敵が強いというときよりも、味方が無能であったときだからな。と、そこでギルドマスターが再び俺を見てきた。
「それとだ。明朝の作戦には、お前も参加してもらう。いいな?」
「別に構わんが、何故だ?」
「精霊がいるんだろう?なら役に立つかもしれん。それに魔族に遭遇したことも考えて、だ」
「なるほど。わかった、その依頼、確かに引き受けた」
軽く頷き、その依頼を承諾する。もともと、敵情視察のために都市外を調べようとしてたんだ。ちょうどいい。すべては明日の朝に決まる、か。
※ ※ ※
「……なんだ、この面子」
いや、集合場所に時間通りに到着したまでいいんだ。それはいい。けどな……
「なんでお前らいんの?」
「だ、だって心配ですし!」
「私は普通に依頼で来てるんだけど……」
ニーナ、アカネまで来ていた。アカネの方は理由があるみたいだが、ニーナお前……
「……まあ、お前らはいいさ。けどさ、なんでお前までいんの?」
「私も依頼を受けた」
そこには、街にいるはずのエレナがいた。前言撤回。やっぱり無能だろ、あいつ。こいつまだまだひよっこだぞ?そう思いつつ、エレナに呆れた視線を向ける。そうしてると……
「今レオン君、エレナさんを変な目で見てませんでしたか!?」
「なんでそうなる?」
いきなりニーナに怒られて、げんなりとする。こっちは睡眠時間が削られてんだ。叫ばれると、耳に響いて困る。
「そ、それは駄目だよ、レオン様!変な目で見るなら私にして!」
「おかしいだろ、どうしてそうなった?あと、さりげなく変なこと言ってんじゃねえ、ショタコンが」
アカネもふざけたことを言い始めたので、ため息がこぼれた。するとそこに、とうとうエレナまで加わり始めた。
「仕方がない。あなたたちに魅力がないのとそれを覆い隠すほどの残念さがあるのが悪い」
「お前も何煽ってんだ……それと否定しろよ、そんな目で見てないだろ」
「緊張感がないな、お前たち。何もないとしても不用心にすぎないか?」
新しい声が聞こえたので、そちらを見る。話に加わってくる変なやつ。こいつも依頼を受けたやつなんだろうか?無駄に顔がいいのが、何かムカつくが。そいつの格好をよく見た。軽装で立ち振る舞いを見ても、なかなか強そうではある。腰に細身の剣を下げているところを見ると、それがやつのメインとしている武器なんだろう。線は細くはあるが、華奢なわけではない。筋肉のつくところには、ちゃんとついている。そういや、確かこいつも女に人気だったよな。どうしてこうも、俺の周りにはモテるやつが集まってくるんだか。ただ、一つ笑えるとこがあるとすれば。
(髪がピンクだ……)
正しくはブロンドとでもいうのだろうが、まごうことなきピンクである。全然似合ってないのにモテているところが謎ではある。まあ、興味ないからいいのだけど。後、熱烈にそいつにアプローチしてるやつ。そのピンク髪が迷惑してるっぽいぞ。離れてやれよ。その光景にイラついてる、ってことは否定できないのだが。
「これで全員か?」
「ああ、そうだろう。その子が依頼を受けたのかはわからないが……」
「こいつはおまけだよ」
「ひどいです!?」
ニーナがショックを受けているが、だって事実だし。まあ、目の届かないとこにいるよかいいが。ピンク髪はニーナを心配そうに見た。
「その子は帰すべきではないのか?」
「大丈夫だろ。俺がなんとかすればいいし、魔族相手なら役に立つし」
「何故だ?」
「聖属性魔法を使えるんだよ」
「なるほど、わかった。ところでだが」
何か伝えたそうなので、聞いてやることにする。聞く態度はぞんざいだったけどさ。
「あん?なんだよ?」
「俺はお前のことを信用していない。お前の話も存在もな」
敵意を込めた視線で睨んでくる。まあ、予想はしていたことだったので、言葉に詰まることもなく応える。
「俺が魔族と繋がってて、住民を逃がさないようにしてるってか?」
「そんなのおかしいです!無茶苦茶ですよ!」
「別に疑うなとは言わないさ」
「レオン君!?」
ニーナは驚いているが、攻撃してこないだけかわいいものだろう。目でニーナを制しつつ、ピンク髪に向き合った。
「だが、報告は正しくしろ。お前の報告が間違っているだけで住民が全滅、ってこともあり得る」
「……その点については心配するな。私情を挟むつもりはない」
「ならいい」
「そんなことはないだろうから、意味はないだろうがな。魔族と会うこともないだろう」
ピンク髪は鼻を鳴らすが、俺としては顔が青くなった。……おい、やめろよ。フラグ建てないでくれ。もしかすると、いやもしかしなくてもだけど………会うことになるかもしれないだろうが。




