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元死神は異世界を旅行中  作者: 佐藤優馬
第2章 大都市騒動編
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それぞれの思惑

(ヴィルナ)

 「ヴィルナ様!お帰りなさいませ!」

 「あの、どうなるのでしょう?」

 「まあまあ。そんなに焦らないの。まずは全員を集めてきなさい?」

 「「「はい!」」」

 

 そう言って、それぞれ部下を集めに行く。3分もしない内に、全員を集められるのは優秀な証ね。あの脳筋とは大違い。あの男はむさいだけで、何の価値もない。


 「みんな集まったかしら?」

 「そのようです!」

 「そう、いい子たちね。これから3日後のことについて話すわ。よく聞きなさい」


 そう言うやいなや、すぐに静かになる。その様子に満足しながら、口を開く。


 「3日後の作戦では、私たちは後衛を務めるわ。街に攻め込むのは向こう、イドニアの部隊の方ね」


 流石にこの言葉にはざわめき出す。それはそうだ。あいつらは人間を殺して楽しむものが多い。この子たちも、あの男の職員が殺されるのを黙っていられないのだろう。私だってあの子を――――黒髪の子供は生かして捕らえたい。でも………


 「落ち着きなさい。何も何の考えもなしに、承諾したわけじゃないわ。まず、イドニアにはあの職員を見つけたら、生かして捕らえるように言ってあるの。あの黒髪の子もね」

 

 ホッとした雰囲気が感じられる。まあ、そうよね。ただ、理由はそれだけじゃない。


 「けど、それだけじゃないわ。何となくだけど、嫌な予感がしたのよね。もしかしたらイドニアは負けるかもしれないわ」

 「ええっ!?」

 「そんなことがあるんですか!?」


 部下たちが一斉に驚く。


 「覚えてる?私が引け、と言ったときのこと」

 「は、はい」

 「確かに覚えていますが………」

 「あのときね、イドニアは簡単にやられていたじゃない?少なくとも身体能力では。スキルを使えばどうかはわからないけど……どうもスキルを使ってないような気がするのよね、あの子」

 「ま、まさかあれは、ただの身体能力だけで戦っていたというのですか!?」


 側近の子が驚いているけど、私だって驚いている。魔族でもないのに、魔族と対等に戦える人間なんて聞いたこともない。それも、身体能力だけで。


 「まあ、推測にすぎないけれど……その可能性が高いと思っているわ。だから、さっきの条件は保険。本音としてはあの子のお手並み拝見、ってところね。それに、あのお方(、、、、)も元々そんなに乗り気じゃなかったことだし」


 その言葉を聞き、納得の声があちらこちらで上がる。理解の早い子たちで助かったわ。


 (さてと、レオンちゃんだったかしら?あなたの腕……見せてちょうだいね?)


 ふと、とある魔法の使用される気配がする。これは………


 (ま、まさか!)


※               ※               ※

(イドニア)

 「クソ!何なのだ、あの人間は!」


 上級魔族である俺がこうまでやり込められるとは……どんな卑怯な手を使ったのだ!?苛立ち混じりに吐き捨てる。


 「イドニア様、そこまでにしましょう。イドニア様が本気を出されればあのような人間はすぐに殺せることでしょう」

 「当たり前だ!あの女は生かして捕らえろと言っていたが……このままでは腹の虫がおさまらん!抵抗が激しかったことにして殺すとしよう」


 口に出して、満足する。そうだ、それがいい。あの生意気な人間には現実というものを教えてやらなければいけない。いずれ俺は魔族も含め、すべての頂点に立つ選ばれた魔族なのだ。そのためにも邪魔者はすべて殺す。誰であろうとだ。


 「それにしても、幸運でしたね!あの魔族が後衛をやるとは」


 部下が嬉しそうにそう告げる。そう、今回やつは後衛をやると言い出したのだ。部下に頷き、俺の考えを述べてやった。


 「フン、大方情でも移しているのだろうさ。甘い考えを持っているようだからな」

 「なるほど!気付けませんでした!流石はイドニア様です!」

 「そうだろう、そうだろう。さあ、3日後に向けて支度を整えるのだ。我らが覇道のためにな」

 「はっ!」


 そう指示を出し、これから始まるであろう俺の快進撃に頬を緩ませた。


※               ※               ※

(カイ)

 (レオンは大丈夫なのでしょうか………?)


 黒髪の少年を思い出し、そう思った。先程は様子がおかしかった。そこにいるのに、目を離せば消えてしまいそうな。そんな儚いような感じがしていたのだ。


 (……少し前まではこんなにも親密になるとは思いませんでしたね)


 作業をしながら、苦笑する。レオンと友になったきっかけは、ごく単純なことだった。両親が死んでしまった自分には家族は残された妹だけ。私が妹を守るのだと仕事に励んだものだった。

 そんなとき、あまりに無理をし過ぎていたのだろう。体調を崩し、寝込んでしまったときがあった。妹は自分のために薬草を取ってくると言い(金銭的余裕はなかったからだ)、街の外へと出かけていった。そのときの自分はそこまで離れなければ都市外でも大丈夫だろう、と考えていた。だが………


 「ほ、本当なのですか!?それは!?」

 「あ、ああ……だから止めはしたんだが、強引に行ってしまってな………」


 少し休めば治る程度だったので、しばらく休めば楽になった。妹を出迎えるために門へとたどり着き、門番と話して知ったのだ。今都市外は決して安全ではない、と。


 (強引にでも止めておくべきだった……どうする?今からギルドに行っても間に合うのか?それに誰がいるか………)


 後悔と自責の念が心を占める。両親が病死しているからこそ、自分もそうなるかもしれないと心配していたのだろう。両親を襲った病魔を恨めしく思う。もはや自分で探しに行くしかないか、と覚悟したとき………


 「あん?お前、ギルドの職員の一人じゃねえか。こんなところで何してんだ?」


 振り向くとそこにいたのは、今ギルド内で話題に上がっている子供だった。


 「悪魔憑き………!?何故ここに!?」

 「何故って……依頼を受けに行くからに決まってんだろ。大体、その言葉は俺が言うべきだろ。なんでサボってんだよ?」

 「体調を崩していたんですよ………」


 焦りで思考が上手くまとまらない。こうして会話してるうちにも、妹に危険が迫っているかもしれない。自分にはどうすることもできないのが歯痒かった。そこで一つの考えが思いつく。


 「まあいいや。そこどいてくれ。街の外出るんだから」

 「……待ってください」

 「ああ?今度は何だ?」


 悪魔憑きを呼び止め、一度深呼吸をする。本来ならあり得ないと一蹴すべきであるが、背に腹は代えられない。この手しかない。躊躇などせずに、頭を下げた。


 「妹を救ってくれませんか?」

 「はあ?」


 手短に説明し、その上でもう一度頭を下げる。


 「どうか、どうかお願いします。唯一残された家族なんです」


 これで駄目ならもう………そんな考えをよぎらせながら待っていると、悪魔憑きが口を開いた。


 「……報酬は?」

 「……はい?」


 顔を上げると、悪魔憑きはめんどくさそうにしながらこちらを見ていた。


 「お前が俺を動かすに足る利益をくれるなら、別に構いやしないさ。それとも、無償で働かせる気か?なら断るぞ」

 「い、いえ、そういうことでは……私の所有する全財産で………」

 「それだと、お前のファンに俺が刺されんだろうが」


 ふぁん、というのが何かはわからなかったが、嫌そうな顔つきから気に入らないということはわかった。


 「な、なら何を………」

 「……そうだな。ちょうどいいや。これから俺がギルド寄ったときに必ず換金するようにしろ。後はちゃんと報酬を払うとかな」


 その提案に目を見開く。思っていたものよりも、随分と軽いものだったからだ。


 「え?そんなことでいいのですか?」

 「そんなこともやらないから、困ってるんだろうが。で、返事は?」

 「そ、それくらいなら………」

 「そうか、じゃあ依頼は成立だな」


 そう言って、都市の外へと駆けていった。これでよかったのだろうか?不安になる。自分がしたことは悪魔との契約だったのではないか?そう思いさえした。

 そして1時間が過ぎ………


 「こいつでいいのか?」

 「うわーん!お兄ちゃん!」

 「ミラ!本当に、どれだけ心配したと………」


 見ると、どこも怪我はしていない。よかった、本当によかった………


 「結局こうなったか……だるかった………」

 

 そちらを見ると、返り血なのだろうか?それで真っ赤に染まっていた。まるで悪魔のようだ。そう、感じたのだが………


 「感動の再会は家でやれ。さっさと家帰って寝たいし」


 あくびを一つして、だるそうに歩く。

 ……悪魔?なんだろうか?妹と二人で顔を見合わせ、何を恐れていたのだろうと苦笑したのだった。


 そんなことがあり、最近では世間話や冗談をいう仲になった。話しているうちに気付いたのだが、レオンはどこを恐れる必要があるのだろうか?というほどに、覇気のない子供だった。いつも疲れたように動き、効率重視で、面倒事を心底嫌っている。面倒そうでないのはニーナ、という子の面倒を見ているときくらいだ。あの二人を見ていると、見事にちぐはぐなのがわかる。レオンはニーナのことを妹のように思っているのに対し、ニーナの方はレオンを異性として意識している。ニーナを影ながら応援してはいるが、レオンに全く気付く様子はない。鈍感なのだろうか?

 話は逸れたが、このまま放っておいてもいいのだろうか?そう思ってしまうほどに、憔悴していたような気がする。


 (何か元気づけられるようなことはないでしょうか……?面倒ではないようなことだとなかなか………)


 そのとき、閉まっていた扉が開く。レオンが出てきたのだろう。


 「……今どういう状況だ?」

 

 出てきてすぐにそれか。面倒事は嫌いなはずなのに、と意外に思いつつも問いに答える。


 「ギルドマスターから住民の避難についての話があったところですが………」

 「すぐにやめろ。恐らくそれは無駄になる」

 「え?いや、ですが………」

 「推測になるが、相手はもう都市外の包囲にかかっているだろう。逃げようとしたところで殺されるのがオチだ」

 「な、ならどうすれば………」


 それが本当なら大変なことだ。このまま死を待つだけなのだろうか?レオンの推測は外れたためしがない。情報収集能力がかなり優れているためだ。が、レオンは首を横に振った。


 「籠城戦に持ち込む。正確には城じゃないが……何とかなりはするだろう」

 「ですが、それならあの魔族は………?」

 「ああ、あの魔族か?」


 そう言って、レオンはこちらを向き、好戦的な笑いを浮かべると………


 「あいつらは俺が殺す(、、)

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