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元死神は異世界を旅行中  作者: 佐藤優馬
第2章 大都市騒動編
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過去

いつの間にか総合評価が70を超えていてびっくりです。ほとんど趣味で書いてるのに……ブックマーク登録していただいた方、評価していただいた方。本当にありがとうございます!これからもレオンのドタバタ劇を暖かく見守ってくださると幸いです。

 「クソ……どうすりゃいいんだ!3日後に魔族が攻めてくるだと!?おまけに上級!?打つ手がねえぞ!」

 「そ、そんな……ギルドマスターでもどうにもならないんですか!?」

 「当たり前だ!騎士団1個中隊でやっと中級魔族が倒せるんだ!上級ともなりゃ、どれだけの戦力が必要か……それもそれが複数体!騎士団を呼びに行く時間もない!最悪の状況だ!」

 「しかし、ギルドマスター。住民を逃がす時間ができたのは不幸中の幸いでは?あのままでは魔族の襲撃に気付くこともできなかったのですから」

 「……まあ、確かに一理ある。明日から逃げる準備をするように呼びかけるぞ。間に合うかどうかはわからんが………やれるだけのことはする。よし、取り掛かるぞ!」

 「「「「「「はい!」」」」」」

 「レオン、感謝します。あなたがいなければ……レオン?」


 そんな会話がどこか遠くで聞こえるような気がする。未だに俺はその場に立ち尽くしていた。


 「レオン?どうかしたのですか?」

 「……ああ、カイか」


 今やっと存在に気付いた。ゆるゆるとそちらに目線を移す。


 「ああ、ではありませんよ?どこかおかしいのですか?」

 「いや、そうじゃない……悪いが、しばらく一人にしてくれ………」

 「は、はい………」


 カイが出ていき、その場は俺一人になった。真っ暗な先の見えない闇の中。俺はその場に座り込んでしまった。自分が本当にここにいていいのか。不安になってしまったから。


 (わかってたことなんだ……そんなことは)


 前世で殺した人の数はそれこそ両の指だけでは足りない所ではない。覚えておける数を優に超えている。いざやり直せる機会を与えられたところで、やはり血に塗れた世界から抜け出せないでいる。考え方は非常にドライである上、どこかが壊れているかのようだ。もがけばもがくほど、あざ笑われるかのように追いつかれる。まるで前世からは、人殺しであることからは逃げられない。そう言われているようで。気付かないうちに、膝の中に頭を収めていた。悩みを捨てきれていないからだ。


 (俺は一体……どうするべきなんだ?)


 「随分と暗い表情してるねー。どうしたのさー?」

 「……シルフィか。今は静かにしていてくれないか?」


 耳元でシルフィが話しかけてくる。だが、俺は顔も上げずに、そう返事をしていた。そうでもないと、こいつに当たってしまいそうだった。そんなのダサいったらありゃしない。これで黙り込むか、と思ったが、こいつの返答はある意味予想通りだった。


 「んー、やだ」

 「なんでだよ?」

 「なんかこのまま放っておくと消えちゃいそうだから」

 「消える?ああ、そりゃいいかもな」


 自嘲するかのように笑う。こんなことなら、転生なんかしたくなかった。こんなに悩むことも、苦しむことも、辛いこともなかっただろうから。


 「じゃあ、あの子たちはどうすんのさー?」

 「……誰かが何とかしてくれるだろ」

 「あの子たちにとって、その誰かはあんたなんじゃないの?」

 「だが、俺じゃなくてもできることだ」

 「……何があったらそんなに暗くなれるんだか?ちょっと話してみてよ」

 「……なんでそこまで構うんだよ?お前だって俺じゃなくてもいいだろ」


 段々とイライラして、怒鳴り声を上げそうになる。なんとか抑え込んだ俺の目の前に、シルフィが滑り込んでくる。どうやら足の間から入ってきたようだ。


 「話してくれたら、教えてあげてもいいよー?」

 「話せばいなくなるのか?」

 「話し次第かも」

 

 シルフィは俺に背中を向けてそう言った。こいつなりに気を遣っているのだろう。別に構いやしないのに。こいつだって、前世のことを話せば俺の前から消えるだろう。それでいい。俺は消えてしまいたいのだから。そう思い、ぽつりぽつりと話し出した。

 自分は転生した人間であること。この世界へは二度目の転生であること。前の世界では戦争をしていたこと。そこでは人を殺さなければ自分が死ぬこと。生きるために何千、何万人と殺したこと。だから、平和なこの世界ではどこか違和感を感じること。溜まっていた苛立ちと無力感を吐き出すかのように話した。


 「……だから俺はこの世界にとっちゃ異物なのさ。いない方がよかった、そんな人間だ」


 そう締めくくった。何を話してるんだという呆れも交じらせながら。すると、シルフィはうんうんと頷きながら、俺を見上げてきた。


 「……ふーん。なるほどー。やっぱり、あたしが感じたのは間違いじゃなかったのかー」

 「何がだよ?」

 「いや、さ。今自分のこと、異物って言ったじゃん?それ、あたしもなんだよねー」

 「は?お前が?」

 「あー、信じてないでしょー?……話してくれたからあたしも話そうかな」


 そう言って、シルフィの過去が語られたのだった。


※               ※               ※

 あたしが生まれたのってそんなに昔のことじゃないんだ。今から5年とか10年とかそれくらい前のことだから。え?全然違う?いいじゃん、細かいことなんだし。話戻すとね、あたし、結構周りから浮いてたんだ。そんな性格なら仕方ないだろう?失礼な!周りだって、面白そうなことには興味津々だったよ!って、それはいいの!

 ええと、どこまで行ったっけ?あ、そうそう、生まれたときのことだった!みんなと同じように生まれたのはいいんだけどさ、一つ違うことがあったんだよね。それは強制的にみんなを従える能力があったこと。風の精霊だけならまだ納得できたのかもしれないけど、他の属性の精霊だって従えちゃうから大変だったよ。興味津々だからさ、命令しまくりだったんだよね。でもね?そんなことばかりしてくる精霊と一緒にいたい精霊なんかいないわけで。


 あたしは一人ぼっちになっちゃった。上位の精霊だったら、命令も拒否できるらしいけど。それでも、わざわざ一緒にいてくれるような暇な精霊なんかいないからずっと一人。たまにいてくれる精霊もいたけど、しばらくしたらどっかに行っちゃうしさ。

 寂しいのを紛らわせるには知らないことを知るのが一番だろう、ってそう思った。いろんなところを周ったよ。でも、やっぱり誤魔化してるだけで寂しいのは変わらなかった。

 そんなときにあんたに会ったんだ。どこかあたしに似てる気がしてさ。この人間も寂しいんじゃないか?周りと違うから悩んでるんじゃないか?そう思ったんだよね。

 話しかけてくれたときは嬉しかったなー。まさか話せるなんて思わなかったからさ。それからはずっと楽しかった。一人じゃないって思えたから。だからかな?どうにかしたい、って思っちゃうんだよね。


※               ※               ※

 「まあ、こんな所かな?あたしがあんたに構う理由」

 

 話を聞き終わって思った。なるほど。わかったよ。つまりこいつは………


 「馬鹿なんだな」

 「なんでそうなったの!?」

 「だってそうだろ?ただの押し付けじゃねえか、お前がやってることは」

 「ううー……せっかく元気出すように頑張ったのにさ………」


 シルフィが床に手をついた。俺はその姿に苦笑して、落ち込んでいるその背に言葉を投げかける。


 「……ただ。誰かを救うのはそういった身勝手さなのかもな」

 「え?」

 「せいぜい、ここにいる意味が見つけられないのなら。同じ境遇の仲間といるとするか」


 手をわなわなと揺らし、だんだんと顔に喜色が浮かぶ。


 「ってことは………」

 「これからもよろしく頼むぞ、シルフィ?」

 「………!うん、よろしく!」


 再び立ち上がり、歩き出す。纏わりついていた闇が晴れた。そんな気がした。あ、でもその前に。一度、シルフィを振り返った。


 「……そういや、面倒事は押し付けてくんなよ?」

 「そういうこと言う!?」

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