魔族の正体
このところ間が空いてる期間が長かったような気がするので、今日はもう一つ。
「んじゃ、これで」
「わかりました」
最低限の会話。やはり少しは変わったとはいえ、ギルドの職員で俺と仲良くしようなどと考えるやつはいないようだ。そっけない態度で、許可証を俺に返してくる。
「にしても珍しいな、エルフの職員なんて」
「何年も前からいるそう。サラっていうらしい」
「ふーん?」
見ていると、他のギルドの職員ともあまり話そうとはしていない。ああいう性格なんだろうか?金髪碧眼で、胸はそこまでないが、かなりの美人だった。いや、俺が今まであった中で一番の美人かもしれない。それくらいに非の打ち所がないような美貌なのだ。
「昔から綺麗ではあるらしいけれど。あまり人と関わろうとしない上に、男たちに人気だから女の職員からは嫌われている」
「聞きたくなかったよ、そんな情報……」
エレナの話を聞いて、げんなりする。そんなにぎすぎすしてんのか、ここは。あの様子だと、女の冒険者からも嫌われてそうだな。隣を見ると、エレナが何故か不安そうな雰囲気で俺を見ていた。
「ああいうのが好み?」
「いや、別に。ああいう取っ付きにくそうなのとは何話せばいいのかわかんねえし」
「そう」
心なしか、声が弾んでいたような気がする。気のせいか?そう思って、そのサラとやらに視線を戻す。なんか男の職員たちもデレデレしてるな……いいのか、あれ?
「あれで仕事とか大丈夫なのかね………?」
「駄目。ほとんどカイさんが肩代わりしているらしい。だから女性に人気」
「へー、そんな理由もあんのね。お前はどうなの?」
思ったことを口にすると、エレナは首を横に振った。
「別に好きなわけじゃない。それに……」
「それに?」
「あの人と付き合ったら、命の危険が伴う気がする」
一瞬だが、体をブルリと震わせた。だろうな。たぶん、ファンとかに後ろからブスッと刺されるタイプだろう。そりゃ勘弁したくもなるだろうさ。エレナの意見に全面的に賛成だ。
「この後はどうするの?」
「昼食って、後は軽く依頼でも受けてくるか。簡単なやつ」
「手伝っても構わない?」
俺を見上げてお願いしてくる。断る理由もなかったので、軽く頷いてはおいた。
「まあいいが……退屈なやつになるぞ?」
「構わない」
「あっそ。なら、寄ってくところあるから」
ギルドを出て、ニーナたちを探し始めた。さてと、あいつらどこにいんのかね?昼食がてら探してくるか。
※ ※ ※
「……んで?どうしてこうなった?」
「「レオン(君・様)のせいだと思う(思いますよ)」」
二人が声を揃えて、返事してきた。満場一致で俺のせいか。エレナも俺のせいだと言うように見てくる。おかしいだろ。とは言っても、外に出る度何かトラブルに会ってる気がするからなあ……
依頼を受けたまではよかったんだ。近くに生えている薬草となる植物を摘んでくればいい、という簡単なものだったんだから。が、採ってる途中で魔物に遭遇。しかも複数。結果、戦う羽目になったわけで……周りには大量の死体が転がっている。魔法で焼かれたもの、頭が陥没してるもの、銃で撃ち抜かれたもの。てか、アカネ。いつも思うんだが、殴って頭を陥没させるってどうなんだ?俺もできるが、女がやると絵面的にちょっとなあ………そこで二人に向き直り、思っていたことを口にした。
「つーか、なんでお前らまでついてきてるわけ?」
「エレナさんと二人きりは駄目だからです!」
うん。意味がわからん。出かけることをこいつらに伝えたら、こいつらもついてくることになったのだ。呆れた顔でニーナを見る。
「そ、そうだよ!男の子と女の子を二人っきりにしちゃいけないんだよ!危ないから!」
アカネの言葉には頭を抱えたくなった。お前はただ俺の貞操を心配してるだけだろ。性欲も未発達なのに、なんでそんなことが起きると思ってるんだよ。やっぱりこいつはショタコンか……ため息をついて、踵を返す。
「はあ、とっとと帰るぞ。血も落としたいしな」
「わかった」
「はーい」
「わかりました」
三人そろって頷く。こういうときは素直に聞くのになあ……たまに俺の言うこと、全く聞かなくなるのはどうにかならないもんかねえ?先頭を歩いていると、今日も今日とてハイテンションなシルフィが話しかけてきた。
「今日も大活躍だったねー、あたしは満足だよー」
「……そりゃ、お前はそうだろうな」
声を潜めながらそう言う。ほんとにこいつはもう……面倒な存在なことこの上ない。
「あ!あれあれ!黙祷くらいしといた方がいいんじゃない?」
「……ああ?何にだよ?」
シルフィに髪を引っ張られそちらを向くと、そこにあったのはここに来たときに調査した洞窟の近く。そのときに作った墓の代わりだった。そういやこいつもあのとき手伝ったんだっけか。本当にだるかったなあ………
(あれ?あのとき?)
そこで何かが引っ掛かる気がした。この1ヶ月近くどこかモヤモヤしていた。何かを忘れている気がして。何かを見落としている気がして。それを思い出せずに、そのモヤモヤは大きくなるばかりだった。
(思い出せ……何を忘れている?何がおかしいと思った?何が変だと感じたんだ?)
「レオン君?どうしたんですか?あの大きな石がどうかしたんですか?」
ニーナが俺を見上げてくる。
(おかしいと感じたのはあの墓を見たとき。ならあのときを思い出していけば………)
「まるで誰かを供養しているかみたい」
「供養?」
「そう。ある地域ではこうして死者を埋めた後、石を上に建ててそれに祈るらしい。なんでも死者の魂が安らかに旅立てるようにだとか」
エレナがニーナに説明しているようだ。というか、よく知っていたな。素直に感心する。
「そうなんですか?エレナさんは物知りなんですね」
「別に。本が好きなだけ」
その瞬間。あることに思い立った。
(そうだ……何故忘れていた?そんなにも、長い時間が経っていたのか?)
それなら確かに辻褄が合う。エレナとシルフィを順番に見ていった。
「エレナ、助かった……それにシルフィも」
「………?どういうこと?」
「なになにー?あたし感謝されるようなことしたっけ?」
どちらも感謝されたことに疑問符を浮かべていた。だが、そんなことはどうでもよかった。シルフィを掴み、自分の方へと引き寄せた。
「シルフィ。一つだけ聞いていいか?」
「何をさー?」
「それはな………」
※ ※ ※
夜。ギルドは閉まり、人気はない。この部屋を除けば。
「……何の用ですか?こんな時間に呼びつけて」
「そう邪険になるなよ……とは言えないな。単刀直入に言おう。お前が魔族なんだろ?」
「何を言ってるんですか?何の根拠があってそんなことを?」
「根拠ならあるさ。いろいろとな。とは言っても偶然が重ならなきゃ、わかりもしなかったんだが」
そう言って、一拍置いてその言葉を紡ぎ出す。
「もう一度言おう。あんたが魔族なんだろ?サラ」




