実力確認
「……っつーことで教えることになったわけだが」
あの後、赤髪男に教えてやることを伝えた。で、ギルドであの4人と落ち合ったわけなんだが。まず最初に、やらなければいけないことがあった。いくらなんでも、これだけはやっておかなければならない。
「……ということで、最初にやっとかなくちゃいけねえことがある。教えるのはそれからだ」
「そういえばなんで教えてくれる気になったの?」
槍を持った女が聞いてくる。めんどくさかった俺は魔法使い女の方を指で指して、はぐらかしておいた。
「……それはその魔法使い女に聞け。ある意味教える気になったのはそいつのおかげでもあるしな」
「そうなの?エレナちゃん、どうやってその気に………?」
「……要はこの人は、利益と損害を秤にかけて行動している。それなら私たちに教えれば、利益を得られるという状況を作れば教えてくれる」
魔法使い女は若干得意げに説明している。とは言っても表情は変わってないし、雰囲気から感じただけだけどな。
「そ、そうだったの………?ちなみに何をしたの?」
「ギルドの書庫に入るための許可証を渡した。これで教えてもらえるはず」
「で、そのやっておくべきことってのは?大事なことなんだろ?」
「ああ、非常に大事なことだ」
4人に加え、一緒に来ていたニーナもゴクリと音を鳴らす。俺は息を吸い込み―――――
「………寝かせろ」
そう言ったのだった。
その後?勿論、文句を言われたさ。ま、寝たけど。
※ ※ ※
「まあ、気を取り直せ」
「それをアンタが言う!?」
「仕方ねえだろ。そこのそいつのせいでここんところほとんど寝れてねえんだ」
あくびをしながら、そう返す。やりたいこともできなかったしな。面倒事が進んでなけりゃいいんだが………
「ところで何を始めるの?」
「まずはお前らの実力確認からだな。前の依頼の様子を見るにそこまで大したもんでもないだろうけど」
「いちいち苛立たせるような言い方するわね、アンタ………」
槍女が表情を歪めている。が、俺だって気持ちは一緒だ。
「安心しろ。俺も苛立ってる」
「レオン君、どこにも安心する要素がないです……ちゃんと手加減してくださいね?」
ニーナが心配そうに言ってくるが、そんな必要はないのだ。
「わかってんよ。こいつら相手に本気出すのもめんどくさい」
「何というか……本当にいつも通りですね………」
ニーナに呆れた目線を送られるが、仕方ないだろ?協力すると決めはしたが、やはり面倒なものは面倒なんだからさ。
「とりあえず、適当にかかって来い。一撃でも攻撃を当てられたらお前らの勝ち、一撃も与えられず戦闘不能されたら俺の勝ちってことで」
「なるほど、わかった」
「あー、後お前ら全員でかかって来い。いちいちばらばらに相手してくのは面倒だし」
そう言うと、4人とも苦い顔をした。
「……それはいくらなんでも舐め過ぎじゃないの?」
「やりゃあわかんだろ。いいからとっととしろ。アカネ、審判頼む」
「う、うん………」
4人がそれぞれ武器を構える。とは言っても、うち3人は刃引きしてあるものだ。ギルドから貸してもらったらしい。まあ、俺には貸してもらえないのだろうが。で、魔法使い女は杖を構える。一応、使っていいのは非殺傷系のものだけ、としている。殺傷系のものを入れても、何とかなる気もするがな。
「……?武器は構えないの?」
「必要ねえよ。これで十分だ」
そう言って、拳を握り持ち上げておく。こいつら相手に、銃が必要だとも思えないしな。
「馬鹿にして……後悔しても知らないんだからね!」
盾女が吠えちゃいるが……確かこういうの何っつったっけ?
(ああ。弱い犬ほどよく吠える、か。よく言ったものだな)
「ああ、そうだな………」
たぶん後悔するのお前らだろうけど……ハンデ貰うべきだったとか。内心呆れながら、自然体になる。
「それじゃあ……始め!」
その声を合図に模擬戦が始まった。
※ ※ ※
「んで、息巻いてた割にはこの様か」
俺の眼下には倒れた4人の姿が。模擬戦自体はそんなにかかるわけでもなく、5分程度で終わってしまった。
「なんでこうなるのよ……アンタ、武器持ってないじゃない!」
「だから何だってんだよ……むしろ武器持ってない方が強いやついるとか思わねえのか、お前は?」
今は槍女を取り押さえてる。力は入れてないから、少しは楽である。まあ、めんどいが。
まあ、武器持ってない方が強い代表例といえば〇語の主人公とか。好きだったなあ……刀〇。全部読んだんだよな。個人的にはやはり最終巻で城に単身乗り込むところとか好きだった。後、主人公の最終奥義。あ、そういや同じ作者のもう一つのシリーズ全部読み切ってなかったなあ……しくった。化〇語は読んだんだけど、その後はまだだったんだ。面白かったから全部読んでおきたいところじゃあったんだが………
「レオン君?なんか思いつめた様な顔してますけど大丈夫なんですか?」
「時間がないのがいけなかったんだ……あの本意外と厚めだし………」
「レオン君?」
ハッ!やべえやべえ。懐かしさで意識が飛んでた。ニーナの声で意識を元に戻す。こいつらとっとと教えないと、帰ってやらなきゃいけないことできねえ。
「あ、あのー、レオン様?その子大丈夫?」
「ん?大丈夫って何が………」
アカネの視線の方を見ると…………
「あ……やべ」
あんまりじたばたしてるものだったから、無意識下で締め落としてしまったらしい。なんか槍女がぐったりしてる。
「ふぁ、ファナさん!?ちょっとレオン君!?手加減するって言ってたじゃないですか!」
「ああ、うん……ボーっとしてた………」
「ボーっとしてたらこうするんですか!?」
「状況によったらな……とりあえず死んじゃいないと思うから………」
ニーナの視線が痛い。完全に俺が悪いからなすりつけることも………ゲフンゲフン。
こうして問題だらけの教育が始まったのだった。




