事実
「こんなもんか」
《戦闘形態》を解除する。とりあえずやることは終わったし、また来ればまた来たでそんときに考えればいいし。数えていないけど、結局何体殺したんだろうな………
「すごいすごい!あんなにいたゴブリンが全滅しちゃった!やっぱりあたしが見込んだだけはあるね!」
「なんでお前に見込まれなきゃいけねえんだよ……はあ、だるかった………」
はしゃいだ様子のシルフィに、適当に返しておく。髪を掻きながら、武器の回収のことを考えたが、場所が場所なだけに断念した。帰って風呂にでも入りたいんだが、ないんだよな……ドラム缶でも創って、風呂入ろうかな………
「レオン様?誰と話してるの?」
「……あ」
アカネが不思議そうに俺を見てくる。そういや忘れてた。こいつらにシルフィは見えてねえんだった。どう誤魔化す?
「レオン君、ありがとうございます!おかげで、皆無事に………」
丁度いいタイミングで、ニーナが近づいてくる。ああ。そんなやつらもいたなあ、そういえば。会ったら説教してやろうと思ってたけど、またでいいや。疲れた。手を振って、その先の言葉を遮った。
「いいから、帰るぞ。このままじゃまたやる羽目になるからな。いつまでも戦えるのはゲームの中だけだし」
「げーむ?」
「どうでもいいから早く帰る。そっちは自分で帰るように言えよ」
「で、でも……エレナさんはまだ………」
魔法使いらしい女を振り返り、もう一度俺を見た。……流石に、意識が戻るまではまだ時間がいりそうだ。
「……あいつらは?」
「多分、もうへとへとなんじゃないかな?」
「……めんどくせえ」
本当にだるい。ニーナだけ無理矢理にでも引きずって帰った方がよかったんじゃないか、これ?疲れたように、ため息をつくのだった。
※ ※ ※
「……ここは………?」
魔法使いの女が目を開く。その様子に、ニーナは目に見えて喜んだ。
「よかった………!気が付いたんですね!冒険者ギルドの中ですよ」
「……どうして?ゴブリンたちは?」
「レオン君が助けてくれたんです!」
「正確には助けることを余儀なくされた、だ。なんでこんなことしなくちゃいけねえんだ………」
間違えられたら堪らないので、そう修正しておく。ニーナがそんな俺の様子に、咎めるような視線を送ってきた。
「でも、助けてくれたじゃないですか!」
「あのまま放置しようものならお前は残ろうとしただろ。だから仕方なく、だ」
「さっきから思うんだけど、助けてくれたことは礼をするよ。でも、それはないんじゃない?いくらなんでも腹が立ってくるし」
「そうですよ。そんなに怒らなくても……」
助けたやつらがそう抗議してくる。ほー、そうかい。俺が悪者かい。俺が悪いのかい。流石にイラつき、指を突き付けた。
「だったら、言わせてもらうけどな。なんで俺がお前らの尻拭いをしなくちゃいけないわけ?なんで俺が面倒事押し付けられなくちゃいけないわけ?なんで助けてもらって当然みたいな感じになってるわけ?」
「え……いや、だってそれは………」
連続で続ける俺の言葉に、何も返せなくなったらしい。たじたじといった様子になった。
「そもそも、俺は登録した日数だけで見れば、お前らより後輩なわけ。それなのに、助けてもらって恥ずかしくないの?悔しくならないの?そこからしておかしい」
「そ、それは………」
数名が俯く。今更気付いたようだ。それだけでは済まさず、さらに続けた。
「加えて言うなら、俺はお前らより年下。まだ11歳。助けて当然とか、頭おかしいとしか思えん」
「そ、そうだったの!?」
なんか若干一名驚いてるが、それは無視するとして。何も言えなくなったやつらにさらに畳みかける。
「さらにだけど、今回はお前たちが気を付けていさえすれば防げた事故だろ。何も考えずに追うとか完全に阿呆の所業だし」
「だ、だが、いなかったんだから仕方ないだろう!?依頼を達成できないじゃないか!」
赤髪の男がやっと返してきたが、そんなことは関係ない。
「依頼は自分の命よりも大切なのか?自分の実力がわかっていない、最悪の想定もできない、準備はしない、挙句の果てにはパニック状態に陥って指示すらできていない。これのどこに阿呆だということを否定する要素がある?」
「うっ………」
俺の言葉に何も言えなくなり、黙り込んでしまった。そして、ここでニーナにも釘をさしておく。
「後は、だ。これはニーナにも言えることだがな。さも助けてもらって当然、みたいに言うんじゃねえ。お前らが依頼を達成するのに命がけなら、こっちが助けるのも命がけなんだよ。お前らは依頼を達成すれば金がもらえても、こっちは何の利益もないしな。金は入らない、装備は消耗する、命は懸けさせられる、体力だって消費する。なのに、文句ひとつ言うな?お前らは何様だ、いい加減にしろ」
「「「「「…………」」」」」
俺から発せられる正論の数々に、無言となり、沈黙が場を支配した。ああ、イラつく。何がイラつくって、こいつらじゃなくてトラブルに否応がなく巻き込まれる、俺の体質のことだ。そこで、見かねたらしいアカネが仲裁に入ってきた。
「れ、レオン様?もうそこら辺にしてあげたら?これで懲りただろうし………」
「クソ、なんだってこんな目に合わなきゃいけねえんだ……早く出ていきたい………」
「そ、そこまで言わなくても………」
苦笑しながらそう言ったが、苛立ちは終わらない。いくらなんでも不幸が多すぎた。俺も感情が爆発したのかもしれない。
「お前も出てった方がいいぞ。どうせこの様子じゃ、この街滅ぶし」
「だから……って、ええっ!?どうして!?」
こいつはさっきから驚きすぎだろ。まあ、世話にはなってるから種明かしはしておく。
「……緊張感が欠片もねえな、本当に。異常なまでのゴブリンの数、入ってくる人数、でもって強力な個体の出現。これだけ揃って、何もないと思ってる時点で駄目なんだよ」
「……どういうこと?」
そこで反応したのは魔法使いの女。どうでもいいんだがな。こいつ相手に答えなくてもいい気がする。この都市がどうなろうと、俺の知ったことではないし。だが、好きなだけ吐き出したおかげで、少しは冷静になれた。
(それでも、それだとあの世界を引きずっているみたいだな………)
前世のことが脳裏によぎる。何も変わってないまま。何も変われないまま。そんな気がする。それはなんだか癪だ。そりゃ、ニーナを守る。そこだけは変わっているのかもしれない。でも、それだけじゃ足りない気もするんだよな……俺があの世界を嫌い過ぎてるのもあるのかもしれないけど。そんな俺の思考を引き上げたのは、別のやつの言葉だった。
「あたしも知りたい!なんでそう思うの?」
シルフィが手を挙げて聞いてくる。こいつもかよ……まあ、さっき頑張ってたからいいか。よっぽど向こうに教えるよりはいい。ため息を一つついて、魔物たちの増えた要因を口にした。
「恐らくだが……この街の近くに魔族が来てる。少なくとも中級以上がな」
作者の都合で2月上旬まで投稿が止まります。申し訳ありません。気長に待っていただけると幸いです。




