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元死神は異世界を旅行中  作者: 佐藤優馬
第2章 大都市騒動編
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壊滅

 (さてと、ニーナは出かけたか)


 ニーナが依頼を受けると言って出てからすぐ。身支度を始める。遅れて見失っても困る。とっととしないとな。荷物をまとめていると、アカネがリビングの方からこっちに向かってきた。


 「あの、レオン様?ちょっといいかな?」

 「あん?なんだよ?」


 アカネが声を掛けてくる。支度をしながら、返事くらいはしてやる。下らんことなら無視してやろう。そんなことを考えながら、装備の最終チェックを終える。


 「その、今日暇かなって。ニーナちゃんは出かけてるみたいだし、私と依頼を受けたり買い物したりしない?」

 「暇じゃない、断る」

 「そ、そんなあ……ちょっとくらいは考えてみても「無理だ」早すぎない!?」

 「急いでるんだよ。そんなことなら、俺はもう行くぞ」


 準備もできた。さっさと行かないと、どこに行ったかわからなくなる。はぐれたが最後、どうしようもなくなるから最悪だ。荷物をもって、出かけようとする。


 「じゃ、じゃあ、せめて付いてくぐらいはいい!?その、一人は……嫌だから………」

 「……チッ。都市外に出る準備はできてんのか?」

 「え、あ、その、バッグ持って来ればもう出れるけど………」

 「なら、とっとと持って来い」

 「は、はい!」


 ここで見捨てない辺り、本当にお人好しだよな……まあ、思い切り急かした上に、移動は走りだったけどさ。


※               ※               ※

 「……あの、レオン様?」

 「声を出すなとは言わんが、大きな声だけは出すなよ?出したら、お前だけ置いていくからな」

 「う、うん、それはわかったんだけど……これって………」


 アカネが複雑な顔で俺を見てくる。……こいつが言いたいこともわからなくはない。傍から見れば俺はストーカーだろう。立派な犯罪者である。前世で人殺してるし、何を今さらとも思うのだけれど。アカネの視線を無視しつつ、ニーナの後を追う理由を話す。


 「仕方ねえだろ。今都市外は危険なんだ。ニーナに何かあったらどうすんだよ」

 「……レオン様はニーナちゃんのこと、好きなの?」


 いきなりの発言に、アカネを見返してしまった。すぐにニーナの方へと戻したが。


 「どういう意味だ?」

 「その、異性として好きなのかなって」

 「ねえよ。どちらかというと妹みたいな感じだ」

 「そ、そうなんだ。よかったあ………」

 「ショタコンが………」


 明らかに安堵している様子のアカネを見て、呆れる。こいつの思考回路、どうにかしてくれよ。美人だからこそ、尚更残念さが目立つんだよ。


 「ん、動いたな。って、待て!何の準備もなく行くつもりか!?」


 驚きのあまり、大声を上げそうになった。危ない危ない。それにしたって………


 (やっぱ、付いてきて正解だったな。あれにニーナは任せられん)


 胸のうちでは悪態をつきながら、ニーナたちを追い始めた。音もなく移動し、一定の距離を保つ。アカネは音を立てちゃいるが、及第点ではあるだろう。ニーナたちを見失わず、尚且つ向こうに気付かれない距離。意外とこれは難しいものだ。視覚強化しているからこそ、普通なら見失うような距離でも見えているが。


 「レオン様、大丈夫?見失っちゃったけど………」

 「見えてるから問題ない。むしろ、これくらいあった方が気付かれずに済む。道を外れれば、距離は詰めるがな」


 心配そうなアカネに、そちらを向かず即答してやった。


 「隠れるところが多くなるから?」

 「それもあるが、危険になるからだ。あの様子だと知らないようだしな」

 「知らないって……何を?」

 「……自分の街なら少しは興味を持て。今外はゴブリンが大量発生してるんだ。下手に出れば袋叩きだぞ?」

 「そ、そうだったの!?」

 

 アカネが初めて知った、というような顔で驚いている。呑気すぎるだろう。こいつも向こうのあいつらも。この街の冒険者には危機感がないんだろうか?道を外れたので、速度を上げて距離を詰めていく。

 そんなことを思いつつ追いかけていくと、とうとう何も考えずにゴブリンを追いかけ始めるところを見てしまった。怒る気も失せ、呆れ一色になる。


 (駄目だ、この街は……金を少し稼いだらすぐに出ていこう。このままじゃ確実に滅ぶ)


 ゴブリンに囲まれたニーナたちを見て、当初の考えを修正するのだった。


※               ※               ※

 「え……レオン君!?どうしてここに!?」

 「悪いがこいつらを信用できなかったし、つけてきた。帰るぞ、依頼は失敗だ」


 ニーナを立たせ、そのまま帰ろうとする。が、ニーナはその場にとどまって、他のやつらを振り返った。


 「ま、待ってください!皆さんはどうするんですか!?」

 「見捨てる」

 「そ、そんな……ひどいですよ、そんなの!どうにかならないんですか!?」


 必死に俺に問い詰めてくるこいつの肩を掴む。そして、ため息をついてこう答えた。


 「そりゃできなくはない。でも、めんどい。それにこの後、更にゴブリンに会わないとも限らないだろ」

 「でも……それでも仲良くしてくれたんです………見捨てたくないんです…………」


 ……はあ。俺は本当にどうかしているらしい。正気じゃないな。帰ったら、医者に診てもらう方がいいかもしれない。この世界にいるかどうかは甚だ疑問ではあるが。ニーナを見ながら、そう思った。小声で俺の肩に止まっているシルフィに声を掛けた。そして、手持ちの武器を確認していく。


 「……シルフィ。起きろ。あそこにいるやつら全員吹き飛ばせるか?」

 「……んー?なになにー?面白いことー?」

 「戦いだよ。クソッタレなことにな」


 吐き捨てるような口調でそう言った。


 「おおー!それは興味ある!で、どこ吹き飛ばすの?」

 「あそこの3人に群がってるやつら全部。いけるか?」


 親指で適当に指し示す。とは言っても、この場でヤバそうな人間はたったの三人しかいないので、言うだけでもよかったかもしれないが。


 「任せなさい!いっぱいいるねー!これ全部と戦うの?」

 「そうみたいだ……面倒なことにな」

 「じゃ、観戦するためにがんばろっかなー。そりゃー!」


 人に群がっていたゴブリンたちが吹き飛ぶ。そう、あの洞窟ででかいゴブリンを吹き飛ばしたのはこいつだった。にしても意外と使えそうだな、これ。吹き飛んだゴブリンたちから、なんとかといった様子で避難してくる三人組を横目に、次の指示を与えた。


 「しばらく、ゴブリンを近づかせないでくれ」

 「りょーかーい!何するのー?」


 下を目線を下げて、いまだに苦しんでいる女を見た。ざっと見たところ、原因は肩に刺さった矢だろう。


 「こいつをどうにかしないとな。どうせあらかた毒かなんかだろうが………」

 「あ、あんた、どうしてここに………」

 「お前たちは黙ってろ。割く時間が無駄だ。本来助けたくなかったんだから、邪魔だけはするな」

 「な……何よ、それ!」


 槍を持った女が話しかけてきたが、無視して魔法使いなのであろう女の診断をする。毒が矢についているのかまでは判断している時間はない。急ぐとしよう。


 「ちょ、ちょっとレオン君!?何やってるんですか!?」


 傷口に顔を近づけて、血を吸いだす。口の中に含んだ血はそこら辺に吐き捨てておく。途中でニーナが騒いでいたが、黙って続ける。仕方ねえだろ、毒消しは持ってないんだよ。


 「助かるかどうかはわからん。一応、魔法で傷は塞いでおいた方がいいとは思うがな」

 「え……あ、はい」


 ニーナに顔を向けると、戸惑ったような顔をしていた。だが、そのことを気にしている暇はない。木の上に向かって呼びかけた。


 「アカネ、降りてこい」

 「あ、うん。その、レオン様ってああいう女の子が………」

 「下らねえことを言うな。毒消しがないから仕方なく、だ。あいつのことなんざ、なんとも思ってない」

 「そ、そっか。いや、それはそれでひどいような気もするけど……いきなり肩にキスするから気があるのかと………」


 ……どんだけマニアックなんだ、俺は。つうか、この世界にキスって言葉あるんだな。トイレとかカタカナ語少ないからないのかと思ってたぞ。アカネに呆れた視線を向けながら、ため息をつく。そして、指示をしておいた。


 「とりあえず、お前はここでこいつら守ってろ。それだけでいい」

 「え、私も戦えるけど……」


 こいつも戸惑っているが、構わずに続ける。


 「いても邪魔なだけだ。連携もできやしないだろう。なら、俺一人の方がいい。それに……」

 「それに?」

 「こいつが心配だ。馬鹿なことし出かさないか」


 ニーナを指して、そう言った。悲鳴を上げちゃあいたが、前科があるから仕方ねえだろ。


 「ひどいです!?」

 「こいつのこと頼むわ」

 「は、はい!」


 邪魔だ、と言ったときの落ち込んだ顔から一転し、喜色満面になる。大方、頼られて嬉しいとかそんなところだろう。変なやつ。そして、ようやくシルフィの方へと向き直った。


 「さてと、待たせたな。始めるか」

 「ひどいよー、忘れられてるかと思ったんだからねー?」

 「そう言うな。ま、血生臭くなるだろうが」

 「全然問題ないよー」

 「そうか」


 シルフィと軽く会話をして、髪を掻き目を閉じる。再び目を開いたとき、虐殺劇が始まった。


※               ※               ※

 イラついていたのだろう、風がやんだ瞬間に突っ込んでくるやつが2体。服の袖から出したメスで迎撃、死んだのを確認した。同時にピースメーカーを引き抜き、連射。6体の命を奪う。何が起こったのかわかっていないやつらに近づき、首の骨を蹴って折る。着地し、その場で回転。近くにいたやつを殴り倒す。金属をグローブ内に仕込んであるため、なかなか大きな音が鳴った。気付いた1体が走ってくるが、こいつはウェルロッドで迎撃。絶命させる。抜き手で1体の喉笛を貫き、蹴り飛ばす。飛んだ方向には2体のゴブリンが存在し、体勢を崩す。一息つけるようになったので、シリンダーを交換し再び発砲。新たに6体が死ぬ。

 ここでようやく、俺が普通ではない事に気付いたらしい。一斉に襲い掛かろうとしてくる。面倒だ。力の差がわかったのなら、逃げてくれればいいのに。向かってくるやつは投げ、蹴り、殴りで強引に体勢を崩す。その合間にシリンダー交換をし、発砲を繰り返す。この時点で、もはや作業化していた。気付けば残っているのは………


 「ああ、お前か」


 一昨日にも遭遇したでかいゴブリン。そいつ以外に立っているものは、否生きている魔物は存在しなかった。無感動な瞳でそいつを見返す。


 「とっとと逃げてくれないか?面倒だからさ」

 「グルオォォォォォォォォォ!」


 手をシッシッと振ったんだが、逆効果だったようだ。激情したらしいそいつは、向かってくる。


 「うるさい」


 メスを心臓に、銃弾を装填したウェルロッドで頭を撃ち抜き、殺した。あれだけいたゴブリンは全滅したのだった。

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