壊滅の危機
「それじゃ、まず自分たちができることについて話していこうか。まずは俺から。俺はアレックス。見ての通り、剣を主体に戦っている。適正属性は風なんだが……恥ずかしいことに、魔力の伸びがいまいちでね。剣士になったわけなんだ」
私に話しかけてきてくれた、赤い髪の男の人が口を開きます。赤髪の剣士さんはアレックスさんというらしいです。寝癖を直していないのか髪がぼさぼさで、無邪気っぽい表情が印象的でした。体格もいい方だと思います。特別力があるわけじゃあないみたいで、細身の剣と皮でできた鎧を着込んでいました。
「次は私かな。私はファナ。よく使うのがこの槍と盾。早い話が、敵の引き付け役ってところ」
ファナさんは大人びた人で、色っぽいです。胸も大きいし、少し青みがかった緑色の髪は、短めに切られてます。レオン君が来ていなくてよかったです……アレックスさんともう一人の男の人はデレデレですし。きっと来ていたらあの二人みたいになっていたと思います。ファナさんは金属の鎧を着ていましたが、要所要所に金属がついている重そうじゃない鎧でした。もしかしたら、私もあんな鎧を着た方がいいんでしょうか?帰ったら、レオン君に聞いてみましょう。槍と盾ですが、どちらも取り回しがしやすいようなものでした。防御よりも速さに重きを置いているんだと思います。
「私の適正属性は水。ちょっとは使えるけど、あまり当てにはならないかもね。そこは覚えておいて」
「じゃ、俺の番ということで。俺はロスティ-。よく使うのは弓だな。適正属性は土で、魔法もそこそこ使える。後はダガーなんかも使えるし、罠とかの解除もできる。ただいま彼女募集中だぜ」
ロスティーさんは何というか……こう、軽薄な感じがします。雰囲気も態度も。先生と同じ茶髪ですが、先生よりも少し色が薄い気がします。体格はいまいちですけど、身長は高いです。私の頭がちょうどロスティーさんのおへその位置ですから。印象についてはちょっと悪いかな、って思いましたが、ファナさんと私、後もう一人の女の人にもウインクしてきたのでそうでもないかな、と感じます。この人に至っては鎧をつけていませんでした。大丈夫かな、とも思いましたが、服の下に着込んでるのかもしれません。あんまり聞きすぎない方がよさそうですね。なんだかそれで絡まれてしまうかもしれませんし。
「……エレナ。魔法主体で戦ってる。適正属性は火と土」
エレナさんはちょっと怖そうな人でした。不機嫌そうな顔をしてますし、声もなんだか投げやりでしたし。でも、こっちも綺麗な人でした。髪の毛の色が白っぽいですけど、淡く色がついているような気がします。レオン君に聞いたらわかるかもしれません。年は私と同じくらいでしょうか?顔が少し子供っぽいのでそう感じます。エレナさんはファナさんとはまた違った魅力があるんだと思います。やっぱりレオン君はここに連れてきちゃいけないかもしれません。ゆったりとしたローブを着ていて、自分の身長よりも大きな杖を手にしていました。
「ええっと……ニーナ、です。攻撃することはできないですけど、怪我をしたら治せます。適性魔法は聖属性です。よ、よろしくお願いします!」
よかった。つっかえながらだけど、ちゃんと自己紹介できました。胸を撫で下ろしていると、エレナさんに睨まれてしまいました。ど、どうしてでしょう………?戸惑っていると、ファナさんが話しかけてきてくれました。
「よろしくね、ニーナちゃん。で、これからどうするの?」
「あまり遠くに行くと危険だろうから、近場でやろうと思っている。10体討伐すれば依頼達成だから簡単だろうしな」
「そうだな、それがいい。あんまり遠くに行って汗まみれになるのも嫌だしな。まあ、女と一緒に一泊できる、っていうのはアリだけどさ」
「馬鹿言わないの。早速行きましょうか」
「おい、それは俺が言うべき言葉だぞ!」
アレックスさんの慌てた様子に、皆で笑います。簡単な依頼だと思っていたんです、このときまでは。
※ ※ ※
ヘカルトンから出て、数分ほど歩きます。門番さんに聞くと、ゴブリンは大量発生しているらしく、探せばすぐに見つかるだろうとのことでした。でも実際は………
「……全然いないんだけど」
「あれ?おかしいな……狩りつくされちゃったのか?しまったなあ………」
「もう少し奥まで行ってみる?もしかしたらいるかもしれないし」
「そうだな。これだけ人数がいるんだ。大丈夫だろう。ゴブリンは強くはないしな!」
そうして奥へ、奥へと入っていきます。だけど、なんででしょう?なぜか奥に進むほど、不安になってきました。
(こんなとき……レオン君ならなんて言うんでしょう?)
不安なときは、いつもレオン君がいてくれました。だから大丈夫でしたけど、今はいません。この不安はそのためなんでしょうか?不安を拭い去るように、首を振って自分にこう言い聞かせます。
(駄目です!ここでまた頼りにしたらいつまでも変わることができません!頑張らないと!)
と、そこで前方の草むらがガサゴソと揺れます。そこから出てきたのは孤児院にいたときにも見た魔物。ゴブリンでした。一体しかいないらしく、そのまま逃げ始めます。
「あ、逃げたぞあいつ!追わなきゃ!」
その声に促され、更に奥へと進み、そして―――――――――
「な……なんだこれ………」
開けた場所に出ました。そこまではよかったんです。そう、無数のゴブリンたちに囲まれていることを除けば。
「おい、逃げ道が塞がれたぞ!それにこの数………」
「き、聞いてないぞ!こんなにいるなんて!」
「……嘘でしょ?」
皆が慌てています。私も信じられませんでした。どうしてこんなに………
「グルオォォォォォォォ!」
そして現れる、一際大きなゴブリン。周りのゴブリンよりも強そうです。そのゴブリンを見たとき、アレックスさんが悲鳴のような声を上げました。
「あ、あれって……ゴブリンジェネラル!?どうしてこんなところに!?」
「俺だって知らねえよ!簡単な依頼のはずだったのに!」
どうしよう?どうすればいいんだろう!?冷静になれない私たちに、静かな声が掛かりました。隣を見ると、エレナさんが言葉を発したようです。
「……道を作って逃げればいいでしょ。馬鹿らしい」
そう言うや否や、エレナさんが詠唱を始めます。こんな状況でも冷静だなんて……凄いです。
「あ、え……!?」
そう感心してると、エレナさんの肩に何かが刺さりました。飛んできた方を見ると、そこには矢を放ったのだろうゴブリンがいます。
「あ、ああ、ああぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
エレナさんが痛みにのたうち回ります。私はどうしたらいいのかわからず、皆に意見を聞こうとしました。でも、振り向いたそこには………
「離して!離しなさいよ!」
「や、やめろ……来るな!」
「た、助けてくれ!誰か誰か!」
ゴブリンの群れに取り押さえられているファナさん、囲まれているアレックスさん、逃げようとして滅多打ちにされているロスティーさんがいました。誰も、助けてくれるはずがありません。むしろ、助けが必要なのは彼らです。そして、私も。
「こ、来ないでください!」
ゴブリンたちがにやけたような顔で近づいてきます。半狂乱になって、銃を持って撃ちました。ゴブリンに当たりはしましたが、それで怒った彼らが襲い掛かってきます。
ここに来てやっとわかりました。レオン君が渋っていたのは、仲間外れにされたからじゃありませんでした。自分がいなければ、どうしようもないからです。それに気付かなかった私は本当に馬鹿でした。大きな思い違いをしていた私は、目の前が真っ暗になったような感覚になりました。
(ごめんなさい、レオン君………)
私に向かって手を伸ばしてくるゴブリンたち。怖くて目を閉じます。それで何かが変わるわけでもないのに。殺されてしまうんでしょうか?
1秒、2秒、3秒………時間が過ぎていきます。
(……あれ?)
いつまで経っても、何も起きません。そこにいるはずなのに、どうしたんでしょう?
恐る恐る、目を開きます。目の前にいたのは………
「……レオン君?」
「よ。無事か?」
(まあ、結局こうなるんだよな……)




